品質不祥事 6 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.379 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
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*** 品質不祥事 6 ***
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「品質不祥事」についてお話をしています。
You tube「超ISO」の品質不祥事シリーズに沿ってお話をさせてい
ただいています。前々回から第三者委員会調査報告書についてお話を
していますが、今回はその3からです。

■■ 第三者委員会調査報告書 ■■
私が読んだいくつかの製造業の品質不祥事の「第三者委員会調査報
告書」を紹介します。我々が興味を持つのは、(1)どんなことが起き
たのか、(2)なぜ起きたかの2点です。「第三者委員会調査報告書」
は少ないものでも100ページ、多いものだと1,000ページを超えま
すので、ここでは(2)に焦点を絞って報告書に記載されたままを簡潔
に紹介します。

3.S重機械工業  2019年3月
<原因の究明を行った結果>
(1)製品・サービスに関する要求事項(法令、仕様)の軽視
1) 法令(業法)上の要求事項に対する理解・認識不足
事業部門における業法の理解・認識が不足しており、特定自主検査、
定期検査に関係する法令(道路運送車両法、労働安全衛生法、建築
基準法)の要求事項に対する理解・認識不足によるものであった。
2) 顧客仕様の軽視
顧客仕様から外れていても、「この程度仕様から外れていても製品
性能が出ているから問題ない」、「顧客からクレームを受けていない
ので品質上は問題ない」などと判断して、顧客仕様を軽視して、顧
客仕様から外れている検査データを書き換える不適切行為が見受け
られた。
顧客仕様を顧客との契約事項として守るべきものであるとの意識が
希薄であり、顧客仕様を軽視し、仕様外れのデータを書き換えてい
る事案も一部にあった。
3) 顧客との仕様自体が曖昧・不明確
顧客仕様書と顧客に提出した検査要領書の記載内容に差異があり、
その差異について顧客への確認を怠り、これを放置した結果、顧客
の仕様についての社内の部門間の認識に違いがあるケースがあった。
サービスにおいても、顧客との契約において、点検等の数値基準自
体が顧客と確認されていないことがあった。当該部門において顧客
との仕様自体が曖昧・不明確となっていることが、検査データの書
き換え等の不適切な記載の原因の一つとなっていた。
4) 要求事項(法令、仕様)を軽視した結果の虚偽記載
検査・測定の結果(測定データや故障の状況)を、検査成績書等に
おいて書き換える不適切行為が見られたが、こうした、検査成績書
等に虚偽記載を行い、顧客や行政に提出することについて、当事者
の多くは問題であると認識していなかった。

(2)品質に関わる仕組みの不備 - 不適切な検査等を許す品質
管理プロセスの不備
1) QMSの不備:品質保証部門は、不適合品の最終判断を行う部
門であり、品質保証部門長は出荷停止の強い権限、強い牽制・監視
機能を有しているが、品質保証部門長自らが、書き換えられた検査
データを承認している事案があり、品質保証部門の牽制・監視機能
は働いていないと言える。
2) 品質管理の手順書と実作業の相違等の不備:業務プロセスや業
務手順に関する詳細の社内規程(業務規程、検査要領書、手順書、
業務基準、業務マニュアル等)が整備されていなかったり、手順書
と実作業の相違、手順書等において検査・測定方法が曖昧であるな
どの不備があった。
3) 技術的問題への不十分な取り組み、問題解決の先送り:技術部
門においては、仕様外れや測定値の実績のバラツキなどを技術的に
分析し、仕様に入るように製造方法の改善を行うとか、仕様の見直
しについて顧客と協議するなどを長年にわたって対応していなかっ
た。又、従来の測定器では測定困難な測定項目が出てきていても、
技術的な対応方法の検討は先送りされていた。
4) 自らの工程能力の把握の軽視:自らの工程能力が低いことを把
握しないで、当該製品について顧客と仕様を取り決め、長年にわた
り、仕様外れに対して、技術的な検討に基づく製造方法の改善によ
り工程能力の改善を図ることや、顧客との仕様見直しの協議を行う
ことを怠ってきた。
5) 検査測定システムの不備
今回の不適切な検査の事案においては、以下のとおり検査測定シス
テムの不備が見受けられた。
・検査機器の数量不足
・製品の構造・機構の変更に応じた測定可能な検査機器への更新の
怠り
・測定器具の測定誤差等検査測定システムの精度向上への取り組み
の不足
・手書き、転記による検査記録の作成、保存のガイドラインの不備

(3)業務品質の管理・監督体制の脆弱さ
1) 品質監査体制の脆弱さ
QMS監査では品質保証書類の不備確認のための生データとの照合
迄は実施していなかったので、今回発覚したような不適切行為を検
出することは困難であった。
2) 業法の管理・監査体制の脆弱さ
今回不適切行為が発覚した各事業部門においては、業法管理の担当
部門や担当者を選定しておらず、事業部門として、当該業法に関す
る遵守事項を認識し、管理体制を構築し、管理することが十分には
出来ていなかった。

(4)サービスに関する品質確保に向けた体制や取り組みの不備
事業部門から独立もしくは機能分担した関係会社においてサービス
業務を遂行する場合、サービス事業においては、提供するサービス
について顧客との仕様の取決めが不明確な場合があり、このことが、
不適切行為の原因の一つともなっていた。

(5)現場任せでバランスを欠いた事業運営・組織運営
1)品質の優先度の低さ
納期やコスト優先、効率優先の対応の結果、製品やサービスの品質
の優先度が低くなっていた。
2)小規模事業・機種等の管理
小規模事業・機種等については、当該事業・機種を担当する一部の
担当者任せとなっており、事業部門のトップや幹部、共通管理部門
等による管理監督や当該部門への支援・指導は行き届いていなかっ
た。
3) 小規模事業・機種等やサービス事業における資源配分
リソースの不足が見られた。員の不足に加えて、教育が不十分、施
設、設備、検査・測定機器等が整備されていない場合があった。
4) 孤立化し閉鎖的な組織風土
組織が縦割り組織となっており、個々の組織は孤立化し、営業・技
術・製造・品質保証等の関係部門の連携した対応や関係部門間のコ
ミュニケーションは不足し、閉鎖的な組織風土となっていた。外に
目が向かず、外部情報を元に自らを振り返ることや、外部や第三者
からのチェック・確認・フィードバックを受けることも少なかった。
5) 上司の管理監督が不十分な事業・組織運営
上司による管理監督が不十分なケースが多く見られた。製造・技術・
品質保証部門間の不適合情報のやりとりが担当者ベースのやりとり
となり、各部門の管理者が関与した不適合品の判断が十分なされて
いない、仕様外れに対してスタッフから上司への相談・問題提起が
あっても管理者が適切に受け止めず本質的な対処にまで至っていな
い、上司が業務の実態を把握しておらず業務のスケジュール管理・
人員配置計画・顧客等に提出の報告書作成について各担当者任せに
している、など現場の担当者任せの業務実態が浮き彫りになった。
各現場の管理者自体が現場の実態を掌握していないために、今回発
覚したような不適切行為の実態が事業部門のトップや幹部に報告さ
れることもなく、事業部門のトップや幹部が今回発覚した不適切行
為を把握することもなかった。
6)属人化、人事の固定化
業務が標準化・マニュアル化されておらず、属人化しており、その
業務の担当者しか当該業務の詳細が分からないようになっていた業
務実態があった。他部門との人事ローテーションが少なく、人事が
固定化し、長期間に亘り、同じ人が同じ業務を担当するようになり、
当該業務に、第三者や他部門によるチェックがかかっていなかった。
これらの属人化、人事の固定化が、不適切行為が長期にわたり発覚
しない主要な要因ともなっていた。

(6)コンプライアンス最優先の経営方針の不徹底
当社グループにおいて、コンプライアンス最優先の経営方針につい
ては、十分には徹底されていない。法令の理解不足に加えて、顧客
仕様を遵守する意識が不足し、品質や性能には問題がないとの認識
の下で、検査データ等の書き換えが常態化していた。又、データの
書き換えそのものが虚偽記載となるが、虚偽記載という認識自体も
薄い場合が多かった。コンプライアンス最優先の経営方針の当社グ
ループの隅々までの徹底を欠く中で、納期やコスト優先、効率優先
で対応してきた結果、今回の不適切な行為を実行・継続してきたも
のと考えられる。