品質不祥事 7 | 平林良人の『つなげるツボ』

—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.380 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** 品質不祥事 7 ***
—————————————————————
「品質不祥事」についてお話をしています。
You tube「超ISO」の品質不祥事シリーズに沿ってお話をさせてい
ただいています。前々回から第三者委員会調査報告書についてお話を
していますが、今回はその4からです。

■■ 第三者委員会調査報告書 ■■
私が読んだいくつかの製造業の品質不祥事の「第三者委員会調査
報告書」を紹介します。我々が興味を持つのは、1)どんなことが
起きたのか、2)なぜ起きたかの2点です。「第三者委員会調査報
告書」は少ないものでも100ページ、多いものだと1,000ページ
を超えますので、ここでは2)に焦点を絞って報告書に記載された
ままを簡潔に紹介します。
なお、「第三者委員会調査報告書」の該当部分をそのまま記述し
ているため、文章のつながり、整合、体裁などが統一されていな
いところがありますが、ご容赦ください。

4.N株式会社  2021年2月
<原因の究明を行った結果>
(1)GMP(Good Manufacturing Practice)上の問題
<ア> 手順書
(ア)手順の不明瞭
 各手順書、とりわけOOS管理手順書、逸脱管理手順書が不明
瞭であったことが、不適正な救済措置等の原因の一つと考えら
れる。
(イ)初回試験結果の棄却・再試験等の条件(品質管理基準書・
OOS管理手順書)
 品質管理部門内で、初回試験結果を棄却し再試験、再サンプリ
ングを行い得る条件を明確かつ統一的に認識できていなことが、
不適正な救済措置等の原因の一つと考えられる。
(ウ)逸脱処理における逸脱会議の権限・手順(逸脱管理手順書)
 逸脱会議での検討・判断が手順書に優先するかのような認識
が品質管理部門担当者を含む逸脱会議出席者内でも定着して
しまっていた。
<イ> 試験記録管理
不適正な救済措置は、試験記録のシステム・手順上、初回試験の
不適合結果を再試験等の適合結果によって上書きすることが物理
的に可能であったが故に行われたものである。
<ウ> OOSの状況の適時確認・追跡
安定性試験等におけるOOSの放置につき、安定性試験の結果の
監視・監督が不十分であった。
<エ> GMP組織
 (ア)医薬品製造管理者
現在の医薬品製造管理者は、会社組織上マネージャークラス
であり、品質管理責任者(品質管理部長)や製造管理責任者
(製造管理部長)を適切に管理監督する職責を果たせる職位
にない。
 (イ)逸脱管理責任者・逸脱管理副責任者その他の逸脱管理担当者
職責上、独立性のない(出荷優先の論理で活動する)生産業
務部の担当者が逸脱管理責任者/逸脱管理副責任者に任命さ
れている。
<オ> GMP教育訓練
製造及び品質管理関係者全体におけるGMPに関する理解と規範
意識の不十分さが存在する。
<カ> 品質管理部門・GMP推進部の権限
不適正な救済措置や、安定性試験等の不実施の原因の一つとして、
品質管理部門の発言力が弱かったことが挙げられる。
<キ> 安定性モニタリンググループの監査
 (ア)安定性モニタリング
試験担当者の人員に対して品目数が多過ぎ、製剤に対する安
定性試験等よりも、出荷に必要な試験を行うことが優先され
ていた。
 (イ)安定性試験・安定性モニタリング
品質管理部内において安定性試験及び安定性モニタリングが
計画どおりに実施されていなく、OOS管理手順書に従った処
理を指示するなどの適切な監督が行われていなかった。

(2) GQP上(製造販売業)
<ア>信頼性保証本部によるGMP監査
信頼性保証本部が、GQP取り決め書に基づく富山第一工場に対す
るGMP遵守状況の定期的な監査を一部実施していなかった。
<イ>総括製造販売責任者
総括製造販売責任者が独立性の必要な不適正な救済措置の実施に
おいて主導的な役割を担っていた。

(3)内部監査・監督機能
<ア>GMP監査室による内部監査体制
内部監査室による業務監査で、専門的知識を有するGMP違反の
内部監査に十分に対応できなかった。
<イ>内部通報制度
これまでの内部通報制度では、本件の各問題事象を検出すること
はできなかった。

(4)組織・経営全般
<ア>風土:大きな要因としての風土 1)品質管理業務よりも出荷、
安定供給・欠品回避を優先する風土 2)経営陣等の上層部が打ち出
した方針について、本来その改善のために必要であっても、ネガ
ティブな情報を経営陣に報告ないし進言することを従業員が躊躇
する風潮 3)GMP違反の問題について認識/疑念を持っても、当
事者意識を持たずにこれを問題視しない風潮
<イ>取締役・監査役の責任
 (ア) 品質担当役員が「超品質・安定供給担当」を兼務、品質管
理を犠牲にして安定供給が優先されるインセンティブが生
じていた。
 (イ) B取締役:工場長/生産本部長時代において不適正な救済
措置を主導したB氏が「超品質・安定供給担当」取締役を
務めている。
 (ウ) 薬事担当の監査役:本件各問題事象について、監査役によ
る監査によって発見はなされなかった。
<ウ>役員に対するコンプライアンス研修
取締役に対するコンプライアンス研修が十分でない。
<エ>生産計画・体制
本件各問題事象の原因として関係者のヒアリングにおいて最も多
く指摘された問題点は、富山第一工場における生産体制が、予定
される出荷量に全く追い付いていなかったことにあった。
<オ>製剤設計・検討体制
製造方法や承認規格が製造現場の実態に即したものではなかった。
<カ>関係者に対する処分・責任
2011年頃不適正な救済措置を指示するようになった背景には、
その上司である取締役専務執行役員(当時)からOOSロットにつ
きロットアウトを回避するよう指示を受けることがあった。