余談1 トヨタ | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.382 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** 余談1 トヨタ ***
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「品質不祥事」についてお話をしています。
You tube「超ISO」の品質不祥事シリーズに沿ってお話をさせてい
ただいており、前回まで第三者委員会調査報告書について、なぜそ
んなことが起きるのかについて連載をしてきました。しかし、こん
な話を5回も続けていると、不愉快になり、頭が疲れますので、今
回から2,3回余談をさせて頂こうと思います。

■■ トヨタの話 ■■
急にトヨタのことを思い出しました。多分、品質不祥事の話は組織
内の負の側面ばかりで、日本は早くこんな状況から抜け出さなけれ
ばならないのにと思う感情が私の頭を占め、真逆な話をしたいと思
うようになったのだと思います。
私が諏訪精工舎(セイコーエプソンの前身)へ入社したころ(1970
年頃)、トヨタの大野耐一さん(当時副社長、故人)が講演に諏訪
本社に来られました。そこで、トヨタ自動車が市場に自動車を投入
できるようなるまでの苦労話と工場運営の神髄について直接話を聞
く機会に恵まれました。

トヨタの自動車は幾多の人々の苦心惨澹たる研究と多くの知識の集
合と長い年月に亘る努力と、さらに幾多の失敗から生れ出たもので
す。日本で果して大衆車が生産出来るであろうか、昭和初期には多
くの人々は殆ど不可能であると考えていたそうです。特に自動車分
野に経験のある人々は痛切にそのように考えていたそうです。

昭和8年、豊田喜一郎氏は市場投入の準備が出来たとして、震災10
周年記念日(9月1日)に満を持して、会社として自動車製作に着
手する事を正式に発表しました。多くの人々はいかに無謀であるか
を陰で言っていました。或る人は直接注意をしてくれました。自動
車工業のいかに難事業であるかという事を社員も聞かされました。
しかし、豊田自動織機製作所の力をもってすれば、必ず可能である
と当時の経営者は確信していました。しかし、紡機と違った幾多の
難関があり、容易に実現させる事はむずかしいと思っていましたか
ら、数年は道楽でやって居るのだと言う名目の下で苦労を続けてい
ました。

ところが、当時日本政府は、国産自動車は国力増進のうえでは避け
て通れない産業であるとして、産業振興のため「自動車製造事業法」
を作りました。いよいよ自動車製造に着手すると正式決定してから
の3年間、大野さんが述べたことを当時の記録から綴ってみます。

■■ 金属材料が命 ■■
自動車の製作に当って何が1番大切であるかというと。言うまでも
無く材料です。材料問題を解決せずして自動車の製造にかかる事は、
土台を作らずして家を建てる様なものです。当時、日本でも製鋼業
は相当進歩していましたが、自動車に最も適した材料を専門に作っ
てくれて、共に辛抱してトヨタの思う様な材料を提供してくれると
ころはなかなかありませんでした。材料と共にエンジンの改良も必
要です。エンジンの進歩と共に材料を改良しなくてはなりません。
エンジンの研究には切っても切れぬ材料の製作は、自動車からは余
分な仕事の様にみえますが、トヨタは何としても材料の製作を自分
でしなくてはならない立場にありました。いかにエンジンの製作を
良くしても、適材を適所に使わなかったら寿命も短くなり、値段も
高くなり、性能も悪くなります。

材料の製作が出来なくては自動車の研究も出来ません。そこで、金
属材料工学の第一人者の本多光太郎先生に教えを求め仙台の東北大
学へ行きました。早速先生に尋ねましたところ、「日本の現在の力
で充分出来る」、「外国人を雇う必要はない」と言われたので、大
いに安心して直ちに製鋼所の設立にかかりました。

当社を見学に来られる方から、時々鋳物は何割合格しますかと言う
ご質問を受けますが、鋳物と言うものは普通95%位の合格率がなく
ては営業が成り立ちません。自動車を造ろうというものが鋳物の合
格率を心配される様では、情けないことです。そこで、工場の者を
大いに督励し、鋳物位が出来なければトヨタの恥だと全員で頑張り
ました。しかし、モールディングマシンを使用してシリンダーを
90%以上の合格にするまでには、多くの失敗をしました。

結果からみて、1年余りで成功したのは、それまで多年モールディ
ングマシンを使用していた事と、電気炉を用いて紡機の薄物鋳物を
やっていたお蔭だと思います。それでもシリンダー5~600個はつ
ぶしてしまいました。同じ物を1,000個作ると、大概の職工は手が
馴れて間違いの無い物を作る様になります。しかし、最初の数100
個は手が定まらないので捨てる位の覚悟は必要です。

■■ トップがここまで現場を知っているのか ■■
ここまで、当時の記録を読んで、「副社長がここまで現場を知って
いるのか」と強く感銘します。品質不祥事の報告書で「管理者が現
場に行かない。」という多くの組織の記述を見るにつけ、隔世の感
がします。

ここでお願いです。日本品質管理学会の「品質不正防止TR」原案
が出来上がりました。どなたでも提案できますので、パブリックコ
メントへの応募をお願いします。