余談2 トヨタ | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.383 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** 余談2 トヨタ ***
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「品質不祥事」についてお話をしています。
You tube「超ISO」の品質不祥事シリーズに沿ってお話をさせてい
ただいておりますが、企業の暗い部分だけでは気が滅入ってしまい
ますので、前向きでチャレンジしたくなるような話を本筋から離れ
てさせて頂こうと思います。50年も前に聴いたトヨタの大野耐一
副社長(故人)の講演録からお話をさせていただきます。

■■ 豊田喜一郎氏の話-バラックでいい  ■■
昭和45年当時、私が諏訪精工舎(セイコーエプソン前身)に
勤務していた頃、当社に講演で来られた大野副社長から聞いた
話をそのままお伝えします。
大野氏は「喜一郎氏は豊田佐吉翁と並ぶ2傑技術屋だ」と言っ
ていました。大野氏はその豊田喜一郎氏が「品質を保つために
いかに良い機械を求めたか、そしてそれらを使いこなすために
いかに努力をはらったか」を次のように話しています。
豊田喜一郎氏が書き残した回顧録からですが、昭和 10 年ころ
の話です。

自動車を作る機械は、それ相当のマシンツールを採用する事に
よって効果を上げますが、それをいかに安くするかという事が
問題です。紡織機の方は種類が多く相当複雑化していますが、
自動車の方は簡単であります。自動車の工作機械は専門的な機
械ではありますが、ファインボーリングマシン、ホーニングマ
シンなどの外国の機械をもってくれば大して間違いはありませ
ん。しかし、外国より進歩したマシンツールを採用しなければ、
外国に負けない優秀で安い自動車は出来ない事は明らかです。

工場建物はバラックでも良いから、機械にはどのくらい金が掛
ってもよいから最高の機械を買入れる事にしました。そうとう
高い機械を何台も買うことになりますが、これは致し方ありま
せん。機械を買う事を躊躇するなら、始めから自動車事業に手
を着けない方がましです。それですから機械にとても金をかけ
ましたので、工場はバラック作りにせざるをえず周りから笑わ
れました。いかに笑われても不要な所に金を使ったら幾ら金が
あっても足りません。少しでも無駄も省いて良い機械を買わな
くてはなりません。機械は余程良く調べて選択しないと、うっ
かり間違った機械を買ってしまう事になります。間違った機械
を買わないように、わざわざ米国まで出張して調べる位の事は
当然の事でした。

■■ どのように使いこなすか  ■■
以下は喜一郎氏の書かれた「トヨタ自動車が今日に至るまで」
(昭和11年9月発表)」からのポイントです。
高級機械を買っても、それを満足に使いこなせるかが次の問題
でした。いかに機械が良くても、「ツール」が悪ければ正確な
ものを大量に安く作れません。そこに大量生産に優れたツール
の設計が必要になり、この設計と製作に3~4年かかりました。
 高価な機械を買ってからおよそ3年間、何100人という人が
一生懸命に働いて、自動車1台も市場に出せなかったので、大
概の株主は自動車が出来るのかどうか心配し始めました。また
自動車を生産することが出来れば、必ず儲かるということなら
ば良いのですが、最初の数年間は損をする事がはっきりしてい
る訳で、本事業は誰にもダメではないかと思わせる状況でした。
こんな事業を向う見ずにやる者は余程アホーな人だと私自身
(喜一郎)も思っていました。私だけでなく、多くの経営者は
大概そう思っていました。余程うぬぼれの強い人間か、または
世人におだてられて向う見ずにやる人間の事業の様に社会には
思われていたのは当然の事です。
しかし、自動車製造事業法が出来て変わりました。当然儲かる
事業を当然な方法でやっていくよりも、誰もあまりやらない事
業をものにしてみるところに人生の面白味があるもので、でき
なくて倒れたら自分の力が足りなかったのだ。潔くよく腹を切
ったらよいではないか。出来るところまでやってみよう。どう
せやるなら世人の一番難しいという大衆自動車を作ってみよう、
という思いからやったのです。

■■ ボデーの制作 ■■
日本で自動車工業が発達しない一つの原因は、ボデーの製作で
した。米国のように多量生産が出来ないのです。日本人は器用
で、手叩きで相当のものを作りますが、大量生産には何として
もプレスでなければなりません。ある人は外国人を雇用したら
と言いますが、それでは米国式をそのまま輸入したことになり、
面白くありません。何とか日本独特の方法を講じる必要があり
ます。
このプレス領域の工業がどの程度まで進んでいるのか、一通り
見ておく必要があると思って、東京地方の工場を見学しました。
その時、偶然にもプレスでフェンダーを押している杉山鉄工所
を見学しました。他にもこのような工場が有るかもしれません
が、とにかくボデーの型を作ってみないかと話をしてみました
ら、そうしたらやってみようという事になって、この領域に思
いも寄らぬ知遇を得ました。
型の製作については始めてなので、色々と製作方法を研究する
必要があります。何と言っても型を作る機械が無いので止むを
得ず手仕上げでやらなくてはなりませんでした。外国では型作
りの機械が有り、型の製作を専門的に引受ける会社があります
が、日本ではそうは行きません。最初は手作りで製作する事に
して、おおよそ1年半の後に機械により型を製作する事が出来
ました。この方面の研究は、今後相当しなくてはならないでし
ょう。
 次に課題になったのは、プレス用薄鈑の良し悪しです。鋼板
薄板の極上物を使用すれば型の製作、プレスも大変楽になりま
す。我国でも金属工学の発展で段々良いものが出来る事と思い
ます。
塗装及内装は、日本にも相当経験を持っている人が居るので心
配する必要はありません。また、組立についても設備と段取り
と熟練工が必要ですが、職工の訓練を含め、むずかしい問題で
はありません。日本人は非常に手先が器用ですから、むしろ外
国車よりも安くて良いものが出来るのも近い将来の事と思いま
す。