是正処置 | 平林良人の『つなげるツボ』

■□■ 平林良人の『つなげるツボ』 Vol.16  ■□■
 
   *** 是正処置 ***

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テクノファ代表取締役の平林です。

ISO9001:2008規格には、8.5.2という箇条に「是正処置」の要求
があります。

今回も宜しくお願いいたします。

■□■ 8.5.2「是正処置」とは ■□■

ISO9001規格を知っている方にはいまさらながらの話ですが、
そうではない方のために「是正処置」とはどんなことをいうのか
簡単に話させていただきます。

日本語で「是正」というと、「間違ったことを直す、修正すること」
を意味するのが普通です。

しかし、ISO9001においては上記の意味は「修正」という言葉で
定義されており、是正処置は「原因を除去すること」を意味します。

ISO9001規格に用いられる用語が、我々が日常使用する用語と
意味が異なることは、この「是正処置」に限らず他にも多く存在
しており、ISO9001を普及させる上での一つの課題であると思い
ます。

しかし、この課題は別の機会に譲るとして今回は「原因を除去
すること」とは、どのようなことをいうのか考えてみたいと思い
ます。

■□■ 原因とはなにか ■□■ 

総ての「事象」には何らかの原因が存在しています。原因とは、
事象を引き起こすもとになった「できごと」のことをいいます。

どうしてそのような結果事象になったのか、それを決めている
原因(できごと)は一つではありません。幾つかのいろいろな
原因が重なり合って一つの事象を起こしていると考えられます。

日常のちょっとした小さなできごと(火種)は、それが見逃さ
れ、適切に処置されずに成長・拡大して遂に好ましくない事象
になります。

原因には、火種原因、見逃し原因、拡大原因などがあり、さらに
原因の連鎖の見方から、直接原因、間接原因、遠因、誘因、
根本原因などと分類されます.

ここで重要なことは、一つの事象を巡る原因にはいろいろなもの
があり、その組み合せ方により結果が変わってくるということです。

さらに、火種原因から起きる事象は小さなものですが、見逃し
原因、拡大原因を経ると段々に大きな事象を起こすことになって
いきます。

1986年に起きた旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所の臨界事故
の原因の数は、その後の調査により100にも及ぶということです。

100の原因のうち1つの原因でも当時除去されていれば、あの
ような大きな事故にはならなかったでしょう。

このように原因にはいろいろなレベルのものがあり、原因の組み
合わせにより起きる事象の大きさは異なるということです。

■□■ 不適合とは ■□■

ISOでは要求事項を満たしていないことを「不適合」と呼びます。
ISOでは不適合が起きればかならず原因となる「できごと」が
あるはずであり、それらを除去することで再発を防止できると
考えています。

しかし、原因となる「できごと」にはいろいろありますから、
それらを網羅的に、しかも根本原因までを明確にし、除去する
ことは簡単ではありません。

そのような背景から、8.5.2「是正処置」では「起きた不適合の
影響の大きさに見合う形での原因除去」でいいといっています。

すなわち、起きた不適合が組織に小さな影響を与えるような
場合は、除去する原因も火種原因のような初期段階のものでよい
でしょう。

逆に起きた不適合が重大な影響を与えるような場合は、根本原因
を探し出しそれを除去することが大切です。

根本原因を把握するには、よく「whyを5回繰返す」ことが
よいといわれます。

■□■ whyを5回繰返す ■□■

「whyを5回繰返す」は、トヨタ生産方式で問題の再発防止を
実行するときに推奨された方法です。

「whyを5回繰返す」例を以下に掲げます。ここでは
施盤の切削効率がここ1~2日落ちた、という事象について
whyを5回繰返えしてみます。

1.刃物に潤滑油が回っていなかった。
なぜ

2.潤滑油ポンプが稼動していなかった。
なぜ

3.フィルターが目づまりしていた。
なぜ

4.フィルターに切紛がつまっていた。
なぜ

5.フィルターを交換していなかった。

上記の例は技術的な事象についてですが、管理的な事象の例を
以下に掲げます。

手順書に決まっていることを実施していなかった。

1.作業者が忘れていた。
なぜ

2.忙しかった。
     なぜ
      ↓
3.前の仕事が遅れていた。 
     なぜ
      ↓
4.一日の仕事量が念頭になかった。
なぜ

5.気持ちが仕事に向いていなかった。

このように技術的な課題はwhyを5回繰返すことで比較的楽に
根本原因に近づくことができるのですが、管理的課題はwhy
を5回繰返しても根本原因に行き着くことが難しいケースが多い
ようです。

■□■ 是正処置では根本原因を取り除く? ■□■

ISO9001:2008規格では、「組織は,再発防止のため,不適合の
原因を除去する処置をとること。是正処置は,発見された不適
合のもつ影響に見合うものであること。」とされています。

上記記述の意味ですが、途中の原因すなわち「事象の起きたプ
ロセスのどこかの原因」に対する処置でも原因を除去したもの
と考えられます。

したがって、組織がとる是正処置は必ずしも根本原因に対して
ばかりではないと考えられます。

しかし、何の原因も除去しないのでは、組織はISO9001に適合し
たシステムを運用できているとはいえません。何らかの原因を
除去することが必要です。