余談3 トヨタ | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.384 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** 余談3 トヨタ ***
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トヨタの大野耐一副社長(故人)の講演録(1970年)からお話を
させていただいています。「品質不祥事」(You tube「超ISO」)に
ついて話しをしていますと、気が滅入ってきますので、話しを少
し変えさせていただいています。

■■ ジャスト・イン・タイム  ■■
昭和8年に豊田喜一郎氏は国産大衆車開発の方針を打ち出しました
が、そのなかの一項に「生産の方法は米国式の大量生産方式に学ぶ
が、そのまま真似するのでなく研究と創造の精神を生かし、国情に
合った生産方式を考案する
」とあります。これこそ喜一郎氏の「ジ
ャスト・イン・タイム」発想の原点であると思う。

喜一郎氏が新たに取り組んだ自動車の世界は、裾野の広い総合産業
であり、先を行くアメリカの自動車産業とのギャップを埋めるため
に、先ずいかにして基礎技術を習得するか、次にはどのような生産
技術を個別にマスターし、生産の仕組みを作っていくかに進み、そ
の過程で日本式の製造技術、言い換えると生産システムを探求しな
ければなりませんでした。
喜一郎氏は、基礎技術の習得から、生産技術をものにし、次なる生
産システムとして「ジャスト・イン・タイム」方式を頭に描いてい
たのです。「ジャスト・イン・タイム」こそ、トヨタ生産方式の出
発点であり、しかもシステムの骨格を成している事からも、日本の
オリジナリティを追求するトヨタの思想の流れを読み取ってもらえ
ると思います。

■■ フォード・システム ■■
フォード・システムは、1908年から1913年までの5年間に試行錯
誤の末、開発されたと言われています。フォード・システムのデビュ
ーは、これまた量産車のシンボルともいうべきT型フォードの発売
とほぼ時を同じくしています。フォード式生産システムとトヨタ生
産方式のどこが違うかを明らかにするために、まずフォード式生産
システムとは何であるかを具体的にみてみます。

誰がいちばん的確に語っているのだろうか。フォード・システムは
実際には自分たちがやったのだ、と豪語しているチャールス・E・
ソレンセンというフォード社の元社長が、開発の経過を自ら書きと
めています。この人はもともと生産部門のリーダーで、ヘンリー・
フォード1世が倒れ、2代目のエドセルも退いた後を継いで、フォ
ード社の勢いを保ち、現在のヘンリー・フォード2世に橋渡しをし
た重要な人物です。
彼の著書は示唆があふれていて、フォード・システムの開発、着手
の光景が手に取るように分かるので、彼の著作からその部分を引用
してみます。

部品を(組み立てる場所に)運ぶことは、車を組み立てることより
難しい。我々はいわゆる足の速い部品だけを運び上げることにして、
この問題を徐々に解決していった。エンジンや車軸のような大きな
部品は大きいスペースを必要とした。このスペースをとるために、
小さくまとまって扱いやすいものは、構内倉庫に残しておくことに
した。次いで、われわれは倉庫部門と相談し、梱包して印をつけた
1組の部品を一定時間ごとに3階(組立ライン)に運び上げること
にした。
このようにして部品の扱いを簡単化したので、事態は非常にすっき
りしたものとなった。しかし、私はどうもこの方法が気に入らなか
った。このとき、次のようなアイデアがフッと浮かんだのである。
「もしシャシーを移動したら―まず工場の端からシャシー・フレー
ムを動かし始め、これに車軸と車軸を取り付け、次に部品倉庫をシ
ャシーの所へ持ってくる代わりに、車軸と車軸の付いたシャシーを
部品倉庫の中を通過させたら―組立作業は容易で簡単にでき、速度
も速くなるであろう」というのである。私は建物の一方の端に必要
とする部品を置き、シャシーの移動する線に沿って次々に部品があ
るように床の上に部品を並べさせた。車軸と車輪を取り付けるまで
はシャシー・フレームをソリに乗せ、シャシーの前の部分にロ-プ
を結び付けて、これを引っ張って組立作業をした。それから取り付
けた車軸を利用してシャシーを動かし、部品の間を通過させて組立
作業の実験をした。この動く組立ラインの実験をやりながら、一方
では、部品をシャシーに素早く取り付けることができるように部品
の組立作業(ラジェーターにホース類を取り付けることなど)を行
った。これをシャシーに素早く取り付け、更にステアリング・ギア
とスパーク・コイルを取り付けた。『フォード・その栄光と悲劇』
高橋達男訳より)

フォード・システムの流れ作業をつくり上げるための最初の実験風
景です。この流れ作業の基本形は、世界の自動車企業すべてに共通
のものです。ボルボ方式などのように、1人の人間がたとえばエン
ジン全体を組み上げていくやり方もありますが、主流はフォード式
の流れ作業です。ソレンセン氏の描写風景は1910年前後のことで
すが、その基本パターンは当時もいまも変わりはありません。

トヨタ生産方式もフォード・システム同様、流れ作業を基本にして
いますが、その違いは、ソレンセン氏が部品の置き場所の倉庫にあ
れこれ腐心していたのに比べ、トヨタ式では倉庫が不要なのです。
「ジャスト・イン・タイム」では、必要な部品が、必要なときに、
必要な量だけ、最終組立工程の各ライン・サイドに到着します。