品質不祥事 2 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.375 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** 品質不祥事 2 ***
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近年報道が相次ぐ産業界の品質不祥事問題は、日本の産業界が長ら
く大事にしてきた「高品質なもの作り」という強みが失われつつあ
ることを意味します。1980年にはハーバード大学のアズラ・ボー
ゲル教授が「Japan as No、1」という著作を発表し、世界の工業製
品の品質について、日本製品の品質の良さを称えてから40年以上
経ってしまいました。

■■ いま組織に何が起きているのか ■■
You tube「超ISO」の品質不祥事シリーズ1回目では、国際競争力
の現状をお話しした後で「組織に何が起きているのか」と題して、
品質不祥事調査の概要をお話ししています。これは日本品質管理学
会のワ-キング・グループ活動の一環として行ったものです。 
・調査期間 2015年~2021年 
・対象 製造業、建設業、サービス業、行政、大学
この期間で大体100件くらいの品質不祥事が発覚しています。製造
業が圧倒的に多いのですが、建設業、サービス業でも起きています。
サービス業に入れてよいのか迷うところですが、行政でも大学でも
起きています。
中には品質不祥事とは言えない犯罪に近いものまでが起きています。
ここでは、明らかに品質不祥事と思えるもの45事例について話を
進めていきます。品質不祥事とは何かという定義を決めないまま議
論を進めることに異を唱える方がいらっしゃるかもしれませんが、
お許しください。
私は、とりあえず(1)法律、(2)行政からの規制、(3)JISなどの規格、
(4)認定基準、(5)契約、協定、さらに広く(6)社会規範などに違反する
ことが組織の製品・サービス提供において行われること考えていま
す。
もしお時間があれば定義をご提案していただければ幸いです。

■■ 45事例の概要 ■■
45事例の詳細については機会を改めてご説明できると思いますが、
ここでは45事例に特徴的なことをお話ししたいと思います。
1.長い間行われている。
 45事例それぞれの不適切行為の行われてきた期間をしらべると
そのほとんどが複数年以上に渡っています。長い場合は40年、50
年も行ってきたというものまであります。
2.部門全体で行われている。
最初は現場のグループで始めたことが段々と部門全体で行われる
ようになっています。しかし、最初から部門全体で行われたものも
ありますし、規模の小さい組織では最初から組織ぐるみで行われて
います。
3.ある程度続けると止められなくなる。
 不適切な行為を途中で止めようとしても、いままでと整合性が取
れなくなりグループや部門の判断では止められないケースがほとん
どです。
 調査期間で発覚した品質不祥事のほとんどは、内部告発によって
明るみに出ており、組織が自律的に公表した例は多くありません。
4.組織経営、業績にマイナスの影響を与えている。
 品質不祥事を起こした組織の多くが、その後売り上げの減少、利
益の減少、顧客離れなどのより社会的な信用を失っています。
5.多くの仕組みが形骸化している。
 内部通報制度、業務監査制度、ISO内部監査制度、法的規制遵守、
認証制度運用など多くのルールが組織内で有効に活用されていませ
ん。

■■ 品質不祥事の概要 ■■
 45事例の中から時期の古い順に20事例程どんな不祥事が起きた
のかを簡単に記載します。
1.化学メーカー
・汎用樹脂などの検査結果を入力しなくても、規格を満たす数値が
ランダムに表示される不正なシステムを使っていた。
・品質不正は1970年代から始まっていたとみられる。
・社長は「ここまで広がるとは想定していなかった。品質保証への
意識が私を含めた経営陣の間で低かった。反省している」と謝罪し
た。
・発覚当時、不正に関わっていたのは品質検査担当部署を中心に、
グループ全体で数十人にのぼった。
2.行政
・国の28機関で障碍者雇用数を計約3,700人分データ改ざんして
いた。
・40年以上行われていた。
3.鉄鋼
・品質検査データの改ざん、及び捏造を長年にわたり多くの職場で
行っていた。
・対象は7事業部門、12子会社の43の事業に及んでいる。
・40年以上行われていた。
4.自動車
・無資格検査員による完成検査を6工場で行っていた。
・加えて燃費・排ガスデータの改ざんを6工場で行っていた。
・社長会見で「処置完了」と発言した後も2度に渡り現場では同様
な検査が不正検査が継続していた。
・両不正で約130万台のリコールが行われた。
・40年以上行われていた。
5.金属材料
・子会社2社で改ざん指南書による会社ぐるみでの検査データ改ざ
んが行われていた(子会社社長は辞任した)。
・しかし、その後他の子会社3社でも検査データの改ざんが発覚、
さらにその後本社においても改ざんが発覚し、本社社長も辞任した。
・40年以上行われていた。
6.医薬品
・爪水虫などの治療薬に睡眠導入剤成分が混入により200人超に健
康被害が発生した。
・40年以上前から検査データを捏造しており、約8割の製品で虚偽
の製造記録を作成していた。
・立ち入り調査用に虚偽の記録を作成していた。
・薬機法に基づき過去最長となる116日の業務停止命令処分が下さ
れた。