トヨタ物語23 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.421 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** トヨタ物語23 ***
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私がトヨタ大野耐一氏の講演を聴いた頃に「でかんしょ節」とい
うものが流布されていました。50年前の大野さんの話にこの
「でかんしょ節」が登場したのは当時としては多くの人がうなず
く話でしたが、今ではすっかり忘れ去られていると思います。
文中この「でかんしょ節」に注を付けました。

■■ 「でかんしょ」生産 ■■
激しい労働争議が終わり、特需景気がやってきた当時の生産現場
には、緊張感がみなぎり、そしてしだいに活気を帯びてきたよう
に思えた。企業にとっては、お客さんの注文ほどうれしいことは
ない。特需のトラックをいかに消化するか、生産現場は懸命であ
った。なにしろ、当時は、粗形材も部品も、何もかも不足の時代
であるから、こちらの欲しいときに、欲しいだけ手にすることが
できない。むろん、部品を供給してくれる協力企業には設備も人
も不足していた。その結果はどうであったか。
シャシー・メーカーであるトヨタ自工としては、たくさんの部品
が、必要なときに、必要なだけ到着してくれないことには、組立
て作業を始めることができない。そのために、いつも月の前半に
は組立てができない。不規則に断続的に集まってくる部品を月末
になって、集中して組立てざるをえなかった。半年を寝て暮らす
「でかんしょ節」ならぬ、「でかんしょ生産」で、これにはほと
ほとまいってしまった。

※でかんしょ節
兵庫県の民謡。兵庫県丹波篠山市やその周辺で歌われてきた盆踊
り唄。「デカンショ」の由来にはいろいろの説がある。篠山地方の
方言「……でござんしょ」、あるいは徹夜で酒を飲み明かすという
意味の「徹今宵(でっこんしょう)」、さらに丹波地方から灘酒造り
に出かける杜氏たちの「出かせぎしょ」などである。
明治時代、第一高等学校の寮にこの唄が広まった。「デカルト、
カント、ショーペンハウエル」の略とされ、哲学の論議に半年明
け暮れるさまをもじったと言われる。

■■ 「平準化」生産 ■■
月に1,000個いる部品だったら、25日稼動して1日に40個ずつ
つくればよい。きょうも明日も40個ずつ、コンスタントにつくっ
て欲しい。しかも40個を1日かかってつくることが大切だ。1日
に働く時間が480分だったら1個12分でつくればよいことになる。
この考え方がその後「平準化生産」へと発展していったのである。
生産の流れをつくり上げ、しかもコンスタントに加工部品の素材
が外部から供給される体制が整うことは、いまにして思っても、
トヨタ生産方式、いや、日本式生産方式の姿ではないかと想像力
をたくましくしていた。
当時としては、すべてが不足の時代であったから、なんとか人手
と機械をふやして、つくりだめしておければと考えたにちがいな
い。月にせいぜい1,000台とか2,000台の生産の時代であるから、
あらゆる工程で1カ月分ぐらいの在庫を持つことも、あまり負担
にならなかったかもしれない。しかし、そのためには、大きな倉
庫を持たなければいけない。さらに生産量がふえていったときに
はどうなるか。たいへんなことだと思った。
それよりも、トヨタ自工の内部からまず始めてみて、「月末追い
込み生産」をいかに平均化、平準化させることができるかを詰め
てみよう。つぎに外部の協力が必要なところには、こちらから積
極的にアプローチして、あちらの要求を聞いた上で、こちらの平
準化生産に協力してもらおう。時と場合によっては、人、物、金
いろいろの面で協力することも話し合った。すべて「でかんしょ
生産」つまり「月末追い込み生産」からの脱却のためであった。