トヨタ物語9 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.395 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** トヨタ物語9 ***
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ここまで品質不祥事について話をしてきましたが、「トヨタ物語」
も今回で9話になります。トヨタ創業期の話と近年の品質不祥事
の話には大きなギャップがありますが、この違いはどこから来る
のか、考えさせられます。下記の記述は1970年頃に私が聞いた
大野耐一氏(当時副社長)の講演記録からです。

■■ 「かんばん」方式 ■■
フォード式の量産システムのポイントは、ロットを大きくして、
計画的に量産することがコスト・ダウンに最大の効果があること
をアメリカの自動車企業は証明し続けてきた。同種の同型の部品
をまとめてつくる、つまりロットを大きくまとめて、プレスの型
を替えないで、なるべくたくさん打ち続けることが、現在もなお
生産現場の常識である。
トヨタ式はその逆をゆく。「ロットはできるだけ小さく、プレス
の型の段取り替えをすみやかに」というのが私どもの生産現場の
合言葉である。なぜこうもフォード式とトヨタ式では違いが出る
のか。なぜ対立的になるのか。たとえば、ロットを大きくして量
をこなし、各所に手持ちの在庫を必要とするフォード式に対して、
トヨタ式はそれら在庫から生ずる恐れのあるつくり過ぎのムダ、
それを管理する人・土地・建物などの負担をゼロにしようという
考え方である。
そのために「ジャスト・イン・タイム」に後工程が前工程へ必要
な部品を引き取りにゆく「かんばん」方式を実践しているわけで
ある。「後工程が引き取った量だけ前工程が生産する」ことを貫
くためには、すべての生産工程が、必要な時に必要な量だけ生産
できるような、人も設備も用意しておかなければならない。

■■ ムダの徹底的な排除 ■■
後工程が時期と量についてバラついた形で引き取ると、前工程は
人と設備に関してバラつきの最大限の能力を準備しておかなけれ
ばならなくなる。原価を引き上げる明らかなムダである。ムダの
徹底的な排除がトヨタ生産方式の本旨であった。そこで生産の
「平準化」を厳格に行ない、バラつきをつぶす。その結果は、ロ
ットを小さくして、同じ物をたくさん流さないようにする。たと
えば、コロナとカリーナをつくる生産ラインでは午前中はコロナ、
午後はカリーナといったように、まとめる、といった流し方はし
ない。常にコロナとカリーナを交互に流すようにする。フォード
式は同じ物はまとめてつくってしまおうという考え方なのに対し
て、トヨタ式は「最終の市場では、お客さんが1人、1人、違っ
た車を1台ずつ買うのであるから、生産の場においても1台、1
台つくる。部品をつくる段階においても、1個、1個つくってい
く。つまり『1個流しの同期化生産』という考え方に徹する」や
り方である。

■■ ロットを小さくする ■■
生産の「平準化」のために、ロットを小さくする」結果として、
「段取り替えをすみやかに」のニーズが当然出てくることになる。
かつて昭和20年代、トヨタ自工の生産現場では、大型プレスの
金型の段取り替えに2~3時間を要した。能率と経済性から考え
て、段取り替えはなるべくしないという習慣が身についてしまっ
ていたので、当初は現場の強い抵抗を受けたものである。
段取り替えとはすなわち能率を下げること、原価を上げる要素で
あったわけだから、作業者が喜んで段取り替えをするはずがなか
ったわけである。しかし、そこは意識を変革してもらわなければ
ならなかった。すみやかな段取り替えは、トヨタ生産方式を実施
するに当たって、絶対の要件である。ロットを小さくして段取り
替えのニーズをつくり出すことによって、作業者は実戦上でトレ
ーニングを積み重ねた。
昭和30年代になって、トヨタ自工内の平準化生産を進める段階
で、段取り替えの時間は1時間を割り込んでいき、15分にもな
った。そして40年代の後半には、わずか3分にまで短縮された
のである。ニーズにもとづく作業者の実地訓練が常識を打ち破っ
た例である。

■■ 平準化への取り組み ■■
GMもフォードも、またヨーロッパの自動車企業も、それぞれ個
性的な生産合理化を行なってきているが、トヨタ生産方式が目ざ
す生産の「平準化」には取り組んでいないようである。大型プレ
スの段取り替え1つとってみても、欧米企業では依然として、か
なり長い時間を費やしている。ニーズがないからであろう。部品
の共通化を目ざすことでは非常に革新的だが、相変わらずロット
を大きくして、計画生産による量産効果を追求し続けているのだ。
フォード式とトヨタ式のいずれが優位を占めるか。いずれも、日
々新たに改善・改革をしているのであるから、早急な結論を出せ
る問題ではないが、私自身は当然、トヨタ式が低成長時代に合致
したつくり方であると確信している。