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2)教育への純粋な思いを形に
学校改革を推進した大橋学園長は、自身の教育の原点について次のように語っている。
「私の教育の原点は、ボーイスカウトでの活動にあります。大学生の頃、リーダーとして小学生や中学生の勉強を見ていたことがきっかけでした。その中で、多くの子どもたちが『なぜ勉強するのか』という意味を理解しないまま学んでおり、その結果、勉強を好きになれない現実に衝撃を受けました。
社会人を経験した後、『教育を仕事にしたい』という思いから学習塾を起業しました。私が考える学びの本質は、学校の授業を復習することではありません。学ぶ意味を考え、自ら興味や関心を広げていくことです。教科書の内容を終えることがゴールではなく、その先にある世界へ目を向けさせることこそ、本当の学びであると考えています。」
この教育理念は、現在の三田国際学園にも受け継がれている。既存の価値観や従来の教育の枠組みにとらわれることなく、新しい教育の理想を掲げ、その理念に共感する保護者や生徒とともに学校づくりを進めてきた。
学園長は、学校改革に着手した当時を振り返り、次のように述べている。
「子どもたちが生きていく未来は、過去の延長線上にあります。しかし、その未来は、これまでと同じレールの上にはないと考えるようになりました。
21世紀の社会は、誰も経験したことのない、正解が一つではない世界です。社会課題は絶えず変化し、既存の知識だけでは対応できません。だからこそ、自ら課題を発見し、その解決策を考え、行動できる力が求められます。
三田国際学園の卒業生には、クリエイティブな仕事、イノベーティブな仕事、グローバルな仕事、そしてコミュニケーションを軸とした仕事で活躍してほしいと願っています。
未来は、現在とは大きく異なる社会になっているでしょう。しかし、そのような時代になっても、三田国際学園の卒業生は必ず活躍できると信じています。」
学園長の言葉からは、「知識を教える学校」ではなく、「未来を切り拓く力を育む学校」を目指す強い信念が伝わってくる。三田国際学園の学校改革は、変化の激しい社会を主体的に生きる人材を育成したいという、教育への純粋な思いから始まったのである。

3)自分の勇気と行動力で実現できること
高校3年生の生徒に、「自分のキャリアをどのように考えていますか」というテーマでインタビューを実施した。生徒たちは、それぞれが自らの価値観や将来への思いについて、次のように語っている。
ある生徒は、自分らしく生きることを人生の軸として、次のように語った。
「小さい頃から周囲の目を気にするタイプだったので、『自分らしく生きたい』という思いがずっとありました。社会にある固定観念や狭い価値観が、差別や自己嫌悪を生み出しているのではないかと感じています。そうした固定観念を少しでも壊し、多くの人が広い視野で世界を見るきっかけをつくりたいと思っています。振り返ると、『自分らしく生きたい』という思いが、自分の原点なのだと感じています。」
また、別の生徒は、人とのつながりを人生の軸として挙げている。
「私が一番大切にしたいのは、人との関係です。これまでの人生を振り返ると、多くの人に助けられ、多くの人からヒントをもらったことで、さまざまなことに挑戦し、経験を積むことができました。仲間は本当に大切な存在です。だからこそ、人から信頼され、頼られる人になりたいと思っています。そして、自分自身も必要な時には人に頼ることを大切にしたい。この『人とのつながり』だけは、これからも自分の軸として大切にしていきたいです。」
さらに、教師を目指す生徒は、自身の将来像を次のように語った。
「人に何かを伝えることが得意であることと、伝えたいテーマが見つかったことが結び付き、国際問題を扱う教師になりたいと思うようになりました。この学校では先生方から大きな影響を受け、先生方の言葉が今でも心に残っています。自分の言葉が誰かの人生に良い影響を与えられることは、とても素敵なことだと思います。
私は教師になりたいと考えていますが、その前に一度は教員以外の仕事を経験したいと思っています。社会を知り、さまざまな価値観に触れることが、より良い教師になるために必要だと考えているからです。
中等教育は、単に勉強を教える場ではなく、生徒が自分の将来を見つける場所であってほしいと思います。私自身が三田国際学園で夢を見つけるきっかけをもらったように、生徒一人ひとりと向き合い、それぞれの未来を応援できる教師になりたいと考えています。」
これらのインタビューからは、生徒たちが自らの価値観や人生の目的を見つめ、自分自身の言葉で将来を語れるようになっていることがうかがえる。三田国際学園のキャリア教育は、職業選択を支援するだけでなく、自分らしい生き方を主体的に描き、未来を切り拓く勇気と行動力を育む教育として、生徒一人ひとりの成長を支えている。

4)最初の一言は絶対に否定しない
人生100年時代を迎えた21世紀では、キャリアを組織に委ねるのではなく、自ら主体的にデザインしていく姿勢が重要となっている。同様に、私立学校の選択においても、従来の偏差値や進学実績を重視する価値観だけではなく、子どもの主体性や自由な発想を尊重する教育を求める家庭が増えつつある。
本研究でインタビューを実施した保護者からも、従来の価値観にとらわれることなく、子どもの意思や自主性を尊重する教育方針を大切にしている様子がうかがえた。各家庭で重視している教育方針として、次のような声が聞かれた。
「親が良かれと思ってやっていることが、必ずしも子どもにとって良いとは限りません。中学生には中学生なりに、高校生には高校生なりに考えがありますので、押し付けないようにしています。子どもには『自分はこう思う』という考えをしっかり伝えてほしいと話し、家庭ではお互いの意見を聞き合い、思っていることを話し合うことを大切にしています。」
「学力よりも人間力を育むことを大切にしています。特に発想力を伸ばしてほしいと考えていました。三田国際学園の『発想の自由人』という理念は、家庭の教育方針と一致していたため志望しました。小学校時代に通っていた塾も、知識を詰め込むだけではなく、将来を生き抜くために必要な力を育てることを重視していました。塾選びも、三田国際学園への進学も、現在希望している大学への進路選択も、一貫して『人間力を育てること』を軸としてきました。」
「子どもを信頼することを大切にしています。本人が決め、本人が実行する。そのため、子どもが『これをやりたい』と話してきたときには、『最初の一言は絶対に否定しない』と決めています。まずは子どもの考えを受け止め、頭ごなしに否定することはしません。その上で、詳しく話を聞きながら必要に応じて自分の考えを伝えます。自分で経験し、自分で考え、自分で決めて行動する。その積み重ねが何より大切だと考えています。」
日本の私立学校ではキャリア教育が広く実践されるようになった一方で、高校卒業時の大学合格実績を最終的な成果指標として重視する学校も依然として少なくない。しかし、本来キャリア教育が目指すべきものは、進学実績そのものではなく、自らの人生を主体的に選択し、切り拓いていく力を育むことである。
ダグラス・ホールは、キャリア発達の最終的な目標を「心理的成功」であると述べている。心理的成功とは、社会的な評価や地位ではなく、自らの価値観に基づいて目標を達成し、人生に充実感や達成感を得ることである。また、キャリアは他者との相互作用や経験を通じて形成され、その過程で使命感や自己効力感が育まれ、アイデンティティも変容していくと論じている。
こうした考え方は、インタビューを行った保護者の教育観とも重なる。次の保護者の言葉は、その象徴的な事例である。
「自分の娘ながらすごいと思うところは、『0』から『1』を創り出す力です。何もないところから新しいものを生み出すには、大きなコミットメントと努力、そして強い意思が必要です。そうした力が身に付いたのは、三田国際学園での6年間の教育があったからだと思います。中学1年生で入学してすぐに、一人一台のデバイスを使ったプレゼンテーションづくりが始まり、高校生になる頃には、親から見ても驚くほど分かりやすいプレゼン資料を作成していました。大学受験でも総合型選抜に向けて主体的に資料を作成する姿を見て、この先どのような社会人へと成長していくのか、とても楽しみにしています。」
これらのインタビューから共通して見えてきたのは、保護者が子どもの主体性を尊重し、自ら考え、選択し、行動する力を育むことを重視している点である。特に、「最初の一言は絶対に否定しない」という姿勢は、子どもが安心して自分の考えを表現できる心理的安全性を家庭内に生み出している。また、「0から1を創り出す力」を評価する保護者の言葉からは、結果ではなく挑戦する過程を認め、創造性や主体性を育もうとする教育観がうかがえる。
このような家庭で育まれる主体性は、学校教育で培われる探究的な学びやプレゼンテーション能力とも相互に作用し、子どもが自らの価値観に基づいてキャリアを形成する力へとつながっていく。保護者の教育方針と学校の教育理念が一致したとき、生徒は進学という短期的な成果だけではなく、生涯にわたって自ら学び続け、自らの人生を切り拓く力を獲得していくことが示唆された。

5)自分の意志で生きていく
インタビュー調査の最後に、法政大学キャリアデザイン学部のキャリア体験自己推薦入学試験に合格したIさんの事例について考察する。
Iさんは、キャリアという学問分野への関心を深め、将来は他者のキャリア形成を支援したいという明確な目標を持つに至った。その形成過程をたどると、中学3年生で参加した法政大学のオープンキャンパスが重要な契機となっていることが分かる。
Iさんは、複数の大学のオープンキャンパスに参加した中で、法政大学では学生が主体的に運営へ関わり、自らの学びを積極的に追究している姿勢に強く惹かれたという。また、その学生の自主性が三田国際学園の校風と重なり、「主体性を大切にする大学」という印象を抱いたことが、志望動機の原点となったと語っている。
さらに、高校1年次の海外短期留学で受講したキャリア講演は、Iさんの価値観に大きな転機をもたらした。「人生を自分でコントロールする」という言葉に強い感銘を受け、それまで周囲と比較して自信を持てなかった自分を見つめ直す機会となったという。現地大学生との交流を通じて、自分自身の価値観で人生を選択することの重要性を実感し、「自分の魅力は自分で創るもの」という認識へと変化した。その結果、自ら積極的に行動し、これまで躊躇していたことにも挑戦できるようになったと振り返っている。
この経験を通して、Iさんは「自分の意思で、自分のための人生を生きること」を人生の軸として捉えるようになった。そして、多くの人が他者の価値観に流されることなく、自らの価値観に基づいてキャリアを選択できる社会を実現したいという将来像を明確にしている。
その思いは、高校2年次に参加したブライダル企業でのインターンシップによってさらに具体化された。人の人生に寄り添い、幸せを支援する仕事を経験したことで、「他者の幸せが自分自身の喜びにもつながる」という価値観を形成し、将来は人々のキャリア形成を支援する仕事に携わりたいという志向を確立している。
また、法政大学キャリアデザイン学部を志望する過程では、児美川孝一郎教授の『キャリア教育のウソ』や、田中研之輔教授の『プロティアン』を読み、現代社会におけるキャリア形成について主体的に学びを深めている。Iさんは、変化の激しい時代においては、自ら環境に適応しながらキャリアを形成していく姿勢が重要であると考える一方、学校教育において早期に将来像を固定化するようなキャリア教育には疑問を抱いている。将来の選択肢を狭めることは、自分が本当に興味や関心を持つ分野と出会う機会を失わせる可能性があると考えているからである。
Iさんの事例からは、三田国際学園における探究学習、大学との接続、海外留学、インターンシップなど、多様なキャリア教育の機会が相互に作用し、生徒の主体的なキャリア形成を促進していることが読み取れる。また、キャリア教育を通して育まれた主体性が、大学進学だけでなく、将来の社会的役割や人生観の形成にまで発展している点は、本研究の重要な示唆である。

出典:
田中研之輔 (著), 内田雅和(著) (2021) 「プロティアン教育: 三田国際学園のキャリアエスノグラフィー」 株式会社キャリアナレッジ

(つづく)吉末直樹