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11)転職や独立後のキャリア形成
キャリアについて悩んだ末に、転職やフリーランスという道を選択した場合、その後のキャリアをどのように形成していけばよいのだろうか。
会社を辞めた直後は、解放感から気分が晴れることも多い。しかし、しばらくすると「この選択でよかったのだろうか」という不安や後悔を感じるようになることがある。
その理由として、大きく2つ考えられる。
一つは、これまで形成してきたビジネス資本を一時的に活用しにくくなることである。
長年働いてきた職場では、それまでに蓄積してきた経験や知識、人脈などのビジネス資本を活用し、さほど迷うことなく日々の業務を遂行できる。しかし、転職すると、これまで培ってきたビジネス資本が、そのまま新しい環境で通用するとは限らない。
もう一つは、これまで培ってきた社会関係資本の外側に身を置くことになることである。
特にフリーランスとして独立した場合、これまで所属していた組織や職場の人間関係から離れることになる。その結果、これまで当たり前だった人とのつながりがなくなり、孤立感を覚える機会が増えることもある。
では、こうした不安や悩みに、どのように向き合えばよいのだろうか。
① 「過去」ではなく「未来」を見る
キャリア形成において大切なのは、「過去」ではなく「未来」である。
転職や独立後にキャリア相談をする人の多くは、「あの会社を辞めなければよかった」「これまでのキャリアをどう活かせばよいのか」といった過去思考に陥りやすい。
しかし、過去をいくら振り返っても、過去そのものを変えることはできない。
必要なのは、これからの未来を「可視化」し、「具体化」することである。
キャリアの不安を可視化する
| 時間軸 | キャリアの悩み | 悩みの解消法 |
|---|---|---|
| 過去 | ||
| 現在 | ||
| 未来 |
(出典:本書P138)
日頃から「これからどうなりたいのか」「何を実現したいのか」を可視化しておけば、過去にとらわれにくくなる。
「あのとき、別の選択をしていればよかった」と後悔するのではなく、「これまでの経験を、これからどう活かすのか」という未来志向に切り替えることが重要である。
② 転職や独立を「移動」ではなく「キャリア資本の蓄積」と捉える
2つ目は、転職や独立を単なる「キャリア・トランジション(移動)」として捉えるのではなく、「キャリア資本の蓄積」として捉えることである。
転職を「A社からB社へ移ること」、あるいは「A社からフリーランスになること」と考えると、キャリアは「どちらを選ぶか」という「or」の発想になる。
しかし、これまでの経験をすべてキャリア資本として捉えれば、転職や独立は「これまでのキャリアに、新たな経験を加えること」と考えられる。つまり、「or」ではなく「and」の発想が重要になる。
これまでの仕事で得た経験、知識、スキル、人脈、実績は、決して無駄にはならない。
過去の実績は、すべてこれからのキャリアを形成するための「資本」であり、無駄なキャリア資本は一つもないのである。
③ 未来を「運」ではなく「戦略」でつくる
3つ目は、これからの未来を「運」に任せるのではなく、戦略的思考によってつくっていくことである。
「目の前のことを、とにかく一生懸命やる」というだけでは、これからのキャリアを主体的に形成することは難しい。
重要なのは、
- 何をするのか
- 何をしないのか
- 何に時間を使うのか
- どのキャリア資本を伸ばすのか
を明確にすることである。
つまり、「選択」と「集中」を戦略的に行うことが必要になる。
しかし、多くの人にとって、こうした戦略的思考は簡単ではない。特に自分自身のことになると、主観的・感情的な判断になりやすい。
だからこそ、自分のキャリアを一歩引いて見つめ、客観的・論理的に判断する視点を持つことが重要になる。
そこで不可欠となるのが、「セルフブランディング」である。「自分は何ができるのか」「これから何をしていきたいのか」「どのような価値を提供できるのか」を明確にし、SNSなどを活用して社会に発信していく。
自分に価値がないと決めているのは、意外にも自分自身かもしれない。
これまでのキャリアには、必ず他者に提供できる価値がある。これまで積み重ねてきた経験や実績を、立派な「キャリア資本」として捉え直すことが重要である。
そして、次の段階では、新たなビジネス資本を蓄積するための「ビジネストレーニング(ビジトレ)」に取り組む。
現状維持は、必ずしも安全ではない。特に転職や独立など、新しい選択をしたときには、新たな知識やスキルという「武器」を持っていることが大きな安心につながる。
必要なものを他人に任せるのではなく、自ら学び、吸収し、自分の「武器」としていくことが大切である。
転職や独立後に不安や後悔の思考に陥ったときには、次の3点を意識してみる。
- ① 過去ではなく、未来を見る。
- ② 転職や独立を、キャリア資本の「蓄積」として捉える。
- ③ 運に任せるのではなく、戦略的に未来をつくる。
思考は、トレーニングによって変えることができる。
キャリアは、過去の選択だけで決まるものではない。これから何を考え、何を学び、どのように行動するかによって、キャリアはいかようにも変えていくことができるのである。
4.キャリアの行動は日々の行動から
本章では、「自分らしく生きる」ことを実現するためのキャリアナレッジを紹介する。トレーニングを実践することによって、自己生産性を高めることができる。自己生産性とは、キャリアにおける不安や悩みを解消し、自らが望む成果を生み出していくための考え方である。
キャリア形成におけるブレーキ要因を一つひとつ解決しながら、成長に向けたアクセルを踏み込む行動につなげていく。
まずは、自分一人で今日からできることに向き合うことから始めよう。
1)瞑想とメモでセルフパーパスをイメージする
所要時間: 起床時に10分程度
やり方:
– 静かな場所で数分間、気持ちを落ち着ける。
– 3分ほど瞑想し、これからの自分がどうなっていたいのかをイメージする。
– 瞑想の中で浮かんだことを、2分間程度メモに書き出す。
著者自身も、悩むことはさまざまにある。しかし、悩み続けることはない。その理由は、瞑想とメモ書きを思考の整理のために活用しているからである。
悩み続けて目の前の一歩を踏み出せない人は、思考が混乱している状態にあることが多い。瞑想によってこれからの自分と向き合い、メモ書きによって今やるべきことを明確にする。
瞑想は3分ほど行えばよく、場所を問わずどこでもできる。身体をリラックスさせ、深呼吸を繰り返しながら気持ちを落ち着かせる。その際、「この先の未来に、自分はどうなっていたいのか」をイメージする。1カ月後、数カ月後、1年後、3年後、10年後など、時間軸の設定は自由である。
瞑想の際に確認しているのは、「自分のやりたいことをやり抜いていくこと」と、「自分が関わる人や組織の状態をより良くしていくこと」を両立させた人生にしていくことである。これは、筆者自身の「パーパス(存在意義)」を確認していく作業でもある。
瞑想の中で過去の出来事が映像として浮かんできたら、その経験を一つひとつ肯定的に受け止める。過去を否定しても、何かが変わるわけではない。過去の経験を受け入れ、そこから未来に目を向けることが大切である。
次に行うのがメモ書きである。瞑想の中で浮かんだイメージや気づきを言語化し、記録していく。このメモは、その日に起きた出来事を記録する日記ではない。「未来をデザインしていくための現状整理メモ」である。
書くこと自体が思考を整理し、洗練させていく。メモを書くことで、些細なことにとらわれにくくなる。身体は過去と現在の積み重ねによってつくられているが、思考は未来に向けることができる。
書き出す内容は、その都度変わっても構わない。メモ書きを繰り返していると、同じようなことを書いていることに気づくようになる。その内容の重複部分に、自分が大切にしていきたい価値観や人生の軸が浮かび上がってくる。
瞑想とメモ書きを繰り返すことによって、思考が整理され、周囲の情報に惑わされにくくなる。日々の生活では、思うようにいかないことにも直面する。そのようなときこそ、落ち着いて瞑想を行えばよい。
これからのありたい姿をイメージすること自体が、心豊かな時間となる。自分らしく生き、幸せになりたいのであれば、その道筋を一つひとつ具体的な行動に移していくことが大切である。
<天職へのフィッティング>
人生の豊かさを決定づける要因の一つに、「仕事との出会い」がある。自分に合った仕事との出会いによって、経済的にも精神的にも豊かな人生を送ることができる。
しかし、現実には、自分に合った仕事と出会うことは容易ではない。
「今の仕事は自分に合っているのか」
「他の職種や職場のほうが、もっと楽しく働けるのではないか」
このように、仕事についての悩みは尽きない。
キャリア研究では、近年、「天職(Calling)」という考え方が改めて注目されている。
「Calling」は、もともとキリスト教において、神から与えられた使命を意味する言葉である。今日では、自分が夢中になって取り組むことができ、人生の目的とも合致し、やりがいや生きがいを感じられる仕事を意味する言葉として使われている。
では、天職に出会うには、どのような方法があるのだろうか。私は、主に3つの選択肢があると考えている。
① 今の仕事を「天職」に育てていく
今の仕事に夢中になって取り組み、その過程でやりがいや生きがいを見いだし、自らの「天職」に育てていく方法である。「天職」とは、どこかに存在していて、それを探し当てるものではない。今の仕事への向き合い方を変えながら、自ら「天職」に育てていくものだと考える。
② 副業などを通じて、自分に合った仕事を探す
今の仕事を続けながら、他の分野で自分に合った仕事を探していく方法である。その際、副業は有効な手段となる。本業を経済的・精神的な支柱としながら、副業を通じてさまざまな分野に挑戦する。実際に仕事を経験することで、自分の強みや興味、価値観との適合性を確かめることができる。
③ 転職によって、新たな仕事との可能性を探る
今の仕事では「天職」に出会うことが難しいと判断した場合、他の職種や職場へ転職する方法である。
ただし、転職したからといって、その仕事が自動的に「天職」になるわけではない。転職先に「天職」を期待するのではなく、転職後に、その仕事を自ら「天職」に育てていく姿勢が不可欠である。
では、この3つの選択肢のどれを選ぶのか。
その判断に必要となるのが、「キャリア戦略」である。自分のパーパスや価値観、強み、興味・関心を見つめながら、現在の仕事との適合性を考え、どのようなキャリアを築いていくのかを主体的に選択していく。
天職とは、単に「自分にぴったり合う仕事」を探し出すことではない。自分自身と仕事との関係を見つめ直し、試行錯誤しながら、その仕事を自分にとって意味のあるものへと育てていくプロセスなのである。
2)一日のイメトレをする
キャリアは一日にしてならず。どのような達成や成功にも、そこに至るまでの積み重ねと過程がある。
誰にでも失敗やミスはある。これまでの成果に溺れることなく、失敗にとらわれることもなく、今日という一日をより良く過ごしたい。
どんな一日も朝から始まる。歯を磨きながら洗面台の鏡を見る、その瞬間に意識してほしいことがある。
それは、今日一日をより良く過ごすための「イメージトレーニング」である。
所要時間: 歯を磨きながら5分間
やり方:
①今日一日のおおよそのスケジュールを頭の中に思い浮かべる。
②パフォーマンスを高めたいタイミングを思い浮かべ、一日のリズムを確認する。
③重要な場面を具体的にシミュレーションする。
重要なのは、「一日のワークイメージ」を持つことである。まず、一日のおおよそのスケジュールを頭の中で流していく。
スケジュールを確認したら、次に「パフォーマンスコントロール」をイメージする。一日の中で、どの場面に自分の力をピークに持っていくのかをあらかじめ定めておく。
これは、アスリートが実践しているイメージトレーニングの考え方にも通じる。例えば、重要な会議にピークを持っていきたいのであれば、会議の展開をあらかじめ想定する。
「どのような質問が出るか」「相手からどのような反応があるか」「自分はどのように答えるか」など、いくつかのパターンをイメージする。そして、自分の役割や働きかけ、その場で発する言葉まで具体的に頭の中に浮かべてみる。
何も考えずにぼんやりと歯を磨いている5分間を、イメージトレーニングの時間に変えてみよう。
わずか5分間でも、一日の流れと重要な場面を事前にイメージしておくことで、凡ミスを減らすことができる。また、的確な発言やフィードバックができる可能性も高まり、仕事の質やアウトプットの向上につながる。
朝の5分間を「今日一日をデザインする時間」に変える。それが、日々の小さな行動をキャリアの成果へとつなげていく一歩となる。
出典:
田中研之輔(著)(2022) 「今すぐ転職を考えていない人のための キャリア戦略」 ディスカヴァー・トゥエンティワン
(以上)
(つづく)吉末直樹
