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7)キャリアコンディションの結果
20項目すべてを評価し、合計得点を算出する。満点は100点であり、得点に応じて現在のキャリアコンディションを把握することができる。
・0~20点「霧の中」
キャリア形成の先行きに霧がかかり、視界が不明瞭な状態である。自分のキャリアに対する方向性や目標が定まっておらず、迷いや不安が強い段階にある。今後何をすべきか、どのように行動すべきかが見えていない。自己理解が不十分であるため、方向性を見出すための支援が必要である。
・21~40点「交差点」
キャリア形成において複数の選択肢が見え始め、交差点に立っている状態である。進むべき方向に迷いがあり、慎重な判断が求められる段階にある。今後の可能性を見極めるために、自己分析や情報収集を行い、キャリアの基盤を固めていくことが重要である。
・41~60点「橋を渡る」
目指す方向性が見え始め、次のステップに進もうとしている状態である。これまでに培ったスキルを活かしながら、新たな挑戦に取り組む成長期にある。キャリアの方向性を具体化し、着実に前進していく段階である。
・61~80点「目的地に近づく」
目標とする方向が明確になり、安定して前進している状態である。日々の活動に充実感があり、仕事と私生活のバランスも保たれている。計画的にキャリアを積み重ねながら、さらなる成長と充実を目指している段階である。
・81~100点「頂点に到達」
キャリア形成において高い成果と充実感を得ている状態である。満足度が非常に高く、自己実現が進んでいる。自らの価値観や目標が明確に達成されており、今後はさらなる成長や他者への貢献にも意識が向いている。新たな挑戦にも積極的に取り組める段階である。
診断結果は、現在の仕事やキャリアに対する満足度、将来の方向性の明確さ、仕事と私生活のバランス、キャリアに対する主体性やストレスへの対処といった多面的な情報を示すものである。
これらの結果は、普段意識することの少ない自分自身の本音を可視化し、現状を客観的に理解するための「鏡」として機能する。診断結果を適切に受け止めることで、自身が直面している課題を整理し、キャリア改善に向けた具体的な一歩を踏み出すことが可能となる。
8)個人も組織も成長のチャンスとなる
診断結果から浮き彫りになる課題は、個人にとって成長のチャンスである。さらに、その結果を基に具体的なアクションプランを立てることは、キャリア形成において欠かせないステップである。例えば、キャリアの方向性が不明確であるという課題を抱えている場合には、短期・中期・長期のゴールを設定し、それを達成するための具体的なステップを計画することが有効である。
一方で、この診断結果は個人だけでなく、組織全体にも重要な示唆を与えるものである。社員の多くが「キャリア形成における自由度の欠如」や「仕事と生活のバランスの課題」を感じている場合、組織はその背景を分析し、適切な改善策を講じる必要がある。
この診断結果を受け止める際に重要なのは、結果を行動につなげることである。診断そのものは現状を理解するためのツールにすぎず、最終的な目的は、それを基に具体的な行動を起こすことにある。個人としては、自身のキャリアに責任を持ち、主体的に改善に取り組む姿勢が求められる。組織としても、社員一人ひとりの声を反映した施策を講じ、働きやすい環境を整備していくことが重要である。
3.キャリア開拓の理論
1)キャリア開拓を支える理論的枠組み
キャリア開拓とは、個人が自身の価値観や目標に基づいて能動的にキャリアを形成し、職業人生を発展させていくプロセスを指すものである。
現代の労働市場においては、終身雇用や組織主導のキャリア開発は相対的に縮小し、代わって自らキャリアを形成していく自律的キャリアの重要性が高まっている。このような状況下においては、一人ひとりがキャリア理論を理解し、それを実践に結び付けることが、キャリア開発において不可欠である。
近年のキャリア開発理論の新たな潮流として注目されているニュー・キャリア・スタディーズを基盤とし、プロティアン・キャリア理論、キャリア構築理論、バウンダリーレス・キャリア理論、キャリアアンカー、万華鏡キャリア理論、キャリアレジリエンスなどの知見を踏まえながら、本章ではキャリア開拓の意義について解説していく。
2)ニュー・キャリア・スタディーズ
ニュー・キャリア・スタディーズは、従来型のキャリア論が抱えてきた限界を乗り越える形で発展してきた概念である。従来のキャリア理論は、個人がキャリアを組織に委ね、ポジションや役割は組織が決定することを前提としていた。また、成功の基準についても組織の評価が重視され、個人は組織内での垂直的な昇進や昇格を目指すことが望ましいとされてきた。その際の成功モデルは、一つの職務を継続的に担う単線的キャリアであった。
一方で、日本型雇用において広く導入されてきたジョブ・ローテーションは、複数の職務を経験するという点で複線的キャリアの側面を持つものであった。しかし、それはあくまで組織の意向に基づいて行われるものであり、「安定した環境におけるキャリア」と位置づけられるものであった。
しかしながら、組織内に閉じたキャリアは、テクノロジーの進化や個人要因としてのキャリアプラトーの問題に直面している。このような環境の変化の中で注目されるようになったのが、複数の組織や職務を経験しながら、動的にキャリアを移行していく働き方である。
1990年代以降、このような新しいキャリア観はニュー・キャリア・スタディーズとして体系化され、プロティアン・キャリア理論やバウンダリーレス・キャリア理論などが発展してきた。
今後、一つの組織で長期間にわたり同一業務に従事するビジネスパーソンは、さらに減少していくと考えられる。その背景には、主に構造的な要因がある。すなわち、テクノロジカル・イノベーションの急速な進展に伴い、業務内容や組織の形態が大きく変化していることである。AIの進展により代替可能な業務は広範に及び、企業現場では従来オペレーション業務に従事していた人材に余剰時間が生じ、職種転換が求められる状況が生まれている。
また、長年同一業務に従事することで、現状維持のパフォーマンスは発揮できても、生産性や競争力の向上が難しくなり、キャリアプラトーに陥るリスクが高まる。とりわけミドルシニア層におけるキャリアプラトーは、企業にとっても重要な課題である。
こうした状況から脱するためには、社内公募制度、社内インターン、副業・兼業、リスキリングなどに主体的に取り組み、新たな経験を積むことが不可欠である。すなわち、現在のコンフォートゾーンから一歩踏み出し、自らのキャリアを能動的に再構築していく姿勢が求められるのである。
3)キャリア開拓の初めの一歩 プロティアン・キャリア理論
プロティアン・キャリア理論は、1976年に心理学者ダグラス・ホールによって提唱された理論である。本理論は、自己主導的かつ柔軟にキャリアを築くことが求められる現代に適したモデルとされている。
この理論では、個人が自身の価値観や目標を基盤としてキャリアをデザインし、セルフマネジメント、柔軟性、継続的な学習を通じて、変化する環境に適応する能力を高めていくことが重視される。すなわち、個人が自らキャリアの主導権を握り、自己の価値観や目標に従ってキャリアを構築していくという考え方である。
プロティアン・キャリア理論の中核となる要素は、以下の二点である。
・自己主導:個人がキャリアの選択や変化を自ら主体的に行うこと
・価値観の明確化:個人の内面的な価値観や目標に基づいてキャリアを構築すること
本理論においてキャリアとは、単なる「仕事」や「役職」の連続ではなく、個人の成長と自己表現のプロセスであると捉えられる。個人が自己の価値観を満たすために、どのようにキャリアを開拓していくかが重要であり、そこには自分らしさや満足感が不可欠である。
したがって、キャリア開拓においては、単に高い地位や収入を目指すのではなく、自己の価値観や目標に沿った生き方を探求する姿勢が求められるのである。
4)ニュー・キャリア・スタディーズの発展
①キャリア構築理論
マーク・サビカス教授が提唱したのが「キャリア構築理論」である。本理論は、個人が自己のキャリアを物語的に構築していく過程を重視するものである。個人のライフテーマやアイデンティティが、キャリア選択およびその発展にどのような影響を与えるかを探究する点に特徴がある。
また、キャリアカウンセリングにおいては、当事者が自己理解を深め、自らの物語を通じてキャリアの目標や行動を明確化していくことを支援する。さらに、生涯学習を通じてキャリアを継続的に発展させていく重要性も強調している。
②キャリアの適応性と柔軟性
キャリア・アダプタビリティの概念は、キングズバーグ教授によって提唱されたものであり、個人が変化する職業環境に適応し、効果的にキャリアをマネジメントするための能力を指す。
本概念では、柔軟性、回復力、問題解決能力といった要素が重視され、個人がキャリアの中で直面する変化や課題に対処するためのスキルを高めることを目的としている。動的なキャリアを形成していくうえで、キャリア・アダプタビリティは重要なコンピテンシーであるといえる。
③社会的影響と多様性
ニュー・キャリア・スタディーズでは、キャリアが社会的影響を受けるものであることを前提とし、階級、性別、人種、教育などの要因がキャリア発展に与える影響を考慮する。
この視点は、キャリアが個人の意思だけでなく、社会的文脈や制度によっても形づくられるものであることを強調するものである。また、プロティアン・キャリアが関係論的アプローチを基盤としている点も、キャリアが社会的構築物であることを示している。
5)自己の人生物語を育てていくキャリア構築理論
キャリア構築理論は、個人が自己の経験や物語を基にキャリアを形成していくプロセスを重視する理論であり、キャリア開拓における自己理解および自己概念の重要性を説くものである。
本理論では、自己概念やアイデンティティがキャリア開拓において重要な役割を果たすとされ、個人が過去の経験をどのように解釈し、それをどのようにキャリアに活かすかが重要なポイントとなる。
キャリア開拓においては、過去の出来事を単なる経験として捉えるのではなく、それが自己の成長や価値観の形成にどのような影響を与えたのかを理解することが求められる。例えば、ある仕事で挫折した経験があった場合、その経験から何を学び、どのように変化したのかを自己の物語として再解釈することが重要である。
さらに、キャリア構築理論では、キャリア開拓の過程における他者との関係性も重視される。キャリアは個人のみで完結するものではなく、家族、友人、職場の同僚などとの関係性の中で形成され、相互に影響を受けながら発展していくものである。
6)組織を超えて活動するバウンダリーレス・キャリア理論
バウンダリーレス・キャリア理論は、マイケル・アーサー教授により提唱されたものである。本理論は、一つの組織内でキャリアが進行するのではなく、複数の組織や産業を横断してキャリアを形成することを前提としている。
移動性、ネットワーキング、スキルの移転可能性を重視し、グローバルな職場環境におけるキャリアの柔軟性と多様性を反映している点に特徴がある。すなわち、個人が異なる組織や業界での経験を積みながら、キャリアを発展させていくことを志向するものである。
本理論がキャリア開拓に与える影響は、組織の枠を超えたキャリア形成の重要性を示している点にある。従来のように一つの企業や業界にとどまるのではなく、他の組織や分野とのつながりを活かしながら、広範なキャリアパスを模索する姿勢が求められる。
キャリア開拓において境界を越えることは、自らの市場価値を高め、多様なスキルを獲得するための有効な手段であり、自己成長と柔軟なキャリア形成にとって不可欠である。
また、本理論を踏まえたキャリア開拓では、ネットワーキングの重要性が一層高まる。異なる分野や職種の人々との関係を構築し、そのつながりを通じて新たな機会を見出すことが、キャリア形成の鍵となる。
キャリアの可能性を広げるためには、積極的に他者と交流し、自身のスキルや知識を共有しながらネットワークを拡大していくことが重要である。
7)自分の価値を大切にするキャリアアンカー
キャリアアンカーとは、エドガー・シャインが提唱した概念であり、キャリアにおける個人の根本的な価値観や動機を指すものである。キャリアアンカーには、「技術・職能型」「管理型」「企業家的創造型」「奉仕・社会貢献型」などの類型があり、個人が何を最も重視しているかを明らかにするものである。
キャリアアンカーを理解することにより、個人のキャリア開拓における方向性が明確となり、より満足度の高いキャリア選択が可能となる。
キャリア開拓においては、自身の価値観に基づいた意思決定を行うことが重要であり、キャリアアンカーの理解はその基盤となる。例えば、「奉仕・社会貢献型」のキャリアアンカーを持つ人であれば、社会への貢献や他者への支援を重視したキャリアを選択することが望ましいと考えられる。
また、自身のキャリアアンカーを把握することで、キャリアの転換期における意思決定が容易になる。転換期には判断基準が不明確になりやすいが、キャリアアンカーを明確にしておくことで、意思決定の軸が定まり、主体的な選択が可能となる。
8)キャリアを再設計する
キャリア知見を学び続けることの醍醐味は、大きく二つある。
一つ目は、それが極めて実践的な知見であるという点である。キャリア形成期に直面する課題や困難は個別具体的であるものの、同様の悩みを抱える人は少なくない。例えば、若手における「このままでよいのか」という将来への不安や、ベテラン社員が直面する組織依存からくる変化への抵抗感などは、もはや社会的課題といえるものである。
このようなキャリア課題に直面した際には、プロティアン・キャリアの知見を基に中期的なキャリア資本の計画を立て、自らの将来を設計していくことが有効である。また、バウンダリーレス・キャリアの知見を踏まえ、越境活動を通じて組織依存から脱却していくことも重要である。このように、キャリア知見は習得したその日から実践に活かすことができる点に価値がある。
二つ目は、キャリア知見そのものが時代の変化に適応しながら進化し続ける点である。著者が実現したい未来像の一つは、ビジネスパーソン一人ひとりが定期的にキャリア知見をリスキリングする文化の醸成である。それは業界や業種を問わず、すべてのビジネスパーソンにとって、キャリア知見が人生を支える指針となることを意味する。
出典:
田中研之輔 (著), 山口裕二 (著), 野澤友宏 (著) (2025) 「これからのキャリア開拓」 中央経済社
(つづく) 吉末直樹
以上
