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③ やりがい変更タイプ:人とのつながりから仕事を生み出す
JT(日本たばこ産業)に28年間勤務したCさんは、医薬品子会社、営業所、商品開発部など、多様な部署で経験を積んだ後、50歳で退職・独立した。転機となったのは、「楽しめる仕事か、収益につながる仕事を選ぶ」「やりたいことはすべて試してみる」という意思決定であった。
独立後は、加熱式たばこ用デバイスと人気ミュージシャンによるデザインコラボプロジェクトや、立ち飲みイベントの開催など、人とのつながりをきっかけとして生まれた仕事に携わっている。また、「ライフシフト・プラットフォーム」を通じて得た仕事にも積極的に取り組んでいる。
Cさんは、「自分の実力以上に、ネットワークが重要である」と語っている。そして、自ら仕事を選択できる働き方に、大きなやりがいを感じているという。
④ あちこちミックスタイプ:自分の「好き」を大切にする
Dさんは、電通にてコーポレートコミュニケーションや広告制作に20年間従事し、幅広いネットワークを構築した。独立後は、人材マッチングやプロジェクトマネジメントに加え、スポーツ選手やアーティストのマネジメント、商品開発、動物保護活動など多岐にわたる活動を展開している。
Dさんは、「頼まれたら断らず関わる」姿勢と人脈の広さが、自身のブランドであると語っている。
⑤ 場所替えタイプ:自然豊かな地域への移住
Eさんは、会社員時代にブランディング、マーケティング、人材育成に携わった後、21年の勤務を経て退職し、静岡県内の人口の少ない町へ移住した。地域の人々と関係性を築きながら、地域活動や教育プロジェクトに関わっている。
Eさんは、都市の仕事・地域の仕事・自身のやりたいことをバランスよく組み合わせる「複業型」の働き方を理想としている。
⑥はみ出しタイプ:コーチングと手相
Fさんは、家電メーカーに入社後、国内外12拠点で人事業務に従事してきた。社内では幹部向けコーチングの導入に携わるとともに、キャリア支援やメンバーとの1on1を実施し、さらに独自に学んだ手相も活用しながら、延べ2,000名との対話を重ねてきた。
その後独立し、法人・個人向けのコーチングやセミナー講師、個人向けオンラインサービスの展開など、活動の幅を広げている。Fさんは、「自分なりの方法で誰かを応援し、喜ばせ、驚かせ、感動を届けたい」という思いを大切にしているのである。
3)ライフプレナーの仲間による実践例
①ミドルシニアとZ世代の協働 「みんなの書店」
現在、全国的に書店数は減少の一途をたどっている。そこで、「未来の書店の主要顧客が現在のZ世代であるならば、未来の書店像を考えるのもZ世代が適任ではないか」という発想のもと、Z世代のメンバー(学生)と「ライフシフト・プラットフォーム」のメンバーがチームを結成し、「2050年の書店を構想する」というテーマで検討を行った。
プロジェクトでは、Z世代が中心となって未来の書店のあり方を構想し、ミドルシニア世代は自身の経験や知見を活かしながら支援する形で協働が進められた。世代を超えた対話と共創を通じて、新たな視点や発想が生み出されていったのである。
約2か月間の構想期間を経て、学生たちは6チームに分かれ、「2050年の書店」をテーマに各社の経営者へ事業プレゼンテーションを実施した。学生たちの提案は、従来の「書籍を販売する場所」という枠を超え、書店事業を「小売からサービスへ大きく転換する」可能性を示唆する内容となった。
ある書店経営者は、「書籍販売とは、出版社が決めた価格 × 部数によって市場規模が決まり、そのシェアを競うビジネスモデルであった。しかし、今回のプレゼンを通じて、そのモデルの限界を改めて認識させられた」と感想を述べている。
また、大手書店からは、本提案をもとに新たな事業化を検討したいとの声も寄せられた。さらに書店経営者からは、「書店がこれまで十分に取り組めていなかった、仕入れ・マーケティング・顧客開拓といった領域への挑戦につながる提案である」として、高い評価を受けている。
6.ミドルシニア社員を躍動させるキャリア施策
1)個人と組織の協働によるキャリア開拓
ミドルシニア社員のキャリア開拓は、単なる転職や昇進にとどまらず、人生そのものを再設計する営みである。これまでに培ってきた経験や専門性を活かし、新たな価値を創出していくことが求められる。そのためには、「個人の視点」と「組織の視点」の双方から捉えることが不可欠である。
個人の視点に立てば、ミドルシニアは「何をしたいのか」「どのように社会に貢献したいのか」を改めて問い直すことになる。自らのキャリアの意味や目的を再確認することが重要である。例えば、「マネジメントスキルを活かし、後進育成に関わりたい」といった具体的な目標を設定することで、充実したキャリア形成につながる。加えて、体力の低下や健康リスクも踏まえ、無理のない働き方を模索する必要がある。テレワークやフリーランスといった柔軟な働き方の導入や、副業・兼業を通じたスキル拡張も有効である。
一方、組織の視点においても、ミドルシニアの活躍は企業の持続的成長に欠かせない。経験豊富な人材の活用は競争力維持の鍵となり、その知識や人脈は新人育成や業務効率化において貴重な資源となる。ミドルシニアが活躍し続けることで、組織全体の活力向上も期待できる。具体的には、年齢に依存しない評価制度への見直しや、キャリアチェンジを支援する制度の導入などが求められる。
結局のところ、ミドルシニアのキャリア開拓は、個人の努力だけでも、組織の支援だけでも実現しない。個人が主体的にキャリアを見直し自己研鑽を継続するとともに、組織がその環境を整備することが重要である。両者が協働することで、ミドルシニア社員のキャリアはより豊かで充実したものとなり、ひいては社会全体の発展にも寄与する。
続いて、「ミドルシニアの新たなキャリアに関する調査」(大企業の人事担当者400名および45~65歳の会社員400名、計800名へのアンケート)の結果を概観する。
①労働に対する報酬 (回答:ミドルシニア層595名)

(出典:本書P134)
上記のグラフから、ミドルシニア層の労働に対する価値観が多様であることが読み取れる。金銭的報酬に加え、仕事のやりがい(55%)、仲間からの共感(29.5%)、他者からの感謝(26.5%)といった「感情報酬(ポジティブな感情を報酬として捉えるもの)」を重視する傾向が見られる。
一方で、給与水準(77%)やボーナス(42.5%)など、金銭的報酬も依然として重要視されている。また、社内外からの評判(9.5%)や昇格(9.5%)といったキャリア上の評価に関する項目は、比較的低い割合にとどまっている。
これらの結果から、ミドルシニア層は「感情的満足」と「金銭的報酬」の双方を重視していることがわかる。企業は、やりがいのある業務機会の提供や、共感・協働を促進するチームづくりを通じて、働きがいの向上を図る必要がある。
②感情報酬に対する企業側の検討 (回答:企業人事400名)

(出典:本書P137)
次に、その結果として見えてきた「感情報酬」に対する企業側の意向について検討を行う。
感情報酬とは、社員が仕事を通じて「やりがい」や「感謝」、「承認」といった感情的な満足を得られるようにする報酬の考え方を指す。近年では、金銭的報酬だけでなく、働きがいや心理的充足感を重視する動きが注目されている。
人事担当者400人を対象に、感情報酬を軸とした報酬制度の検討状況を調査したところ、「すでに導入している企業」は11.5%、「検討している企業」は15.8%、「どちらかといえば検討している企業」は14.3%であった。これらを合計すると、41.6%の企業が感情報酬の導入に前向きな姿勢を示していることが分かる。
この結果から、感情報酬を重視する動きは、企業の中で徐々に広がりつつあるといえる。
一方で、「どちらかといえば検討していない企業」は14.8%、「検討していない企業」は43.8%にのぼり、過半数の企業が具体的な導入には至っていない状況も明らかとなった。
この結果は、社員側が重視する感情報酬に対して、企業側の対応がまだ十分ではない現状を示している。
今後は、社員一人ひとりの働きがいを高める制度設計に加え、感謝や承認を日常的に伝え合う組織文化を醸成していくことが重要となる。そのような取り組みを通じて、社員満足度やエンゲージメントの向上を図っていくことが求められる。
③退職後の企業貢献 (回答:ミドルシニア層200名)

(出典:本書P139)
調査結果から、ミドルシニア層の多くが現在の勤務先に対して、退職後も貢献したいと考えていることがわかる。具体的には、回答者の51%が「貢献したい」と回答しており(「そう思う」「どちらかといえばそう思う」の合計)、自身の経験やスキルを活かし続けたいという前向きな姿勢がうかがえる。
一方で、「貢献したいと思わない」とする回答も49%にのぼる。この背景には、退職後は自身の生活を優先したいという意向や、現役時代に十分に役割を果たしたという認識があると考えられる。
企業への示唆としては、貢献意欲の高い層に対しては、柔軟な働き方やプロジェクト参画の機会を提供することが重要である。一方、意欲の低い層に対しては、一方的な期待を押し付けるのではなく、個々の意思を尊重しつつ、退職後の生活設計を支援する体制の整備が求められる。ミドルシニア層の価値観は多様であるため、それに応じた柔軟な対応が必要である。
④企業への期待と人事制度の乖離 (回答:企業人事206名)

(出典:本書P141)
この表から、企業の制度とミドルシニア層が求める制度との間に乖離があると認識している企業人事担当者の割合が明らかになる。人事担当者206名のうち、「期待と乖離がある」と回答した割合は合計71.3%に上る。この結果から、多くの企業が現行制度ではミドルシニア層のニーズに十分応えられていないと認識していることがわかる。
その背景には、ミドルシニア層が重視する「感情報酬」に代表される感情的満足や、柔軟な働き方への期待に対して、企業側の対応が追いついていない現状があると考えられる。
この乖離を解消するためには、企業が現行制度を見直し、ミドルシニア層のニーズに対応した具体的な施策を講じることが重要である。例えば、仕事のやりがいや感謝を実感できる仕組みを導入することで、社員の満足度向上が期待できる。また、社員の声を直接収集する機会を設けることで、ニーズを的確に把握し、実効性の高い施策の実現につなげることが可能となる。
⑤退職者との良好な関係 (回答:企業人事400名)

(出典:本書P143)
企業人事担当者に対して「退職者を含む社員と良好な関係を保つためにサポートを充実させたいか」という問いに対して、調査対象者400名の人事担当者に対して約67%が「充実させたい」と回答しています。この結果を踏まえると企業が退職者との関係維持に取り組むことの重要性が浮き彫りになる。例えば、退職者が将来的に再雇用される可能性や、企業の評判に影響を与える可能性を考慮すれば、関係を良好に保つ事が企業にとってメリットになるでしょう。
⑥退職後の活躍を見据えた制度 (回答:企業人事206名)

(出典:本書P145)
上記の表は、社員の退職後の活躍を支援するために企業が導入している制度について調査した結果を示している。
最も多く導入されているのは「再雇用制度」であり、69.9%の企業が採用している。これは、定年退職後も引き続き働きたいと考える社員に対して雇用機会を提供する仕組みであり、高齢化社会における人材活用の観点から広く普及している取り組みである。
次いで多いのは「雇用延長制度」で、48.1%の企業が導入している。これは、定年後もそのまま継続して働くことを可能にし、社員に多様なキャリア選択の機会を提供するものである。
このように、再雇用や雇用延長といった直接的な雇用支援策は広く浸透している一方で、それ以外の支援制度については依然として発展途上にあるといえる。
⑦退職後のキャリア実現に向けた企業制度の活用 (回答:ミドルシニア層243名)

(出典:本書P147)
上図は、ミドルシニア層が退職後のキャリアを実現するために、活用したいと考えている企業制度について調査した結果である。
「再雇用制度」は43.3%と最も高く、多くのミドルシニア層が活用を希望している。企業にとっては経験豊富な人材を継続的に活用できるメリットがあり、ミドルシニア層にとっても安心感のある魅力的な選択肢であるといえる。
一方で、その他の制度に対する活用意向は比較的低いことが特徴である。「コンサルティング」(9.0%)、「教育・指導業」(7.5%)、「シニアボランティア業」(5.5%)などは、再雇用制度と比較すると活用したい割合が低いことが分かる。
特に注目すべき点は、「活用したいと思わない」と回答した割合が50.0%と高いことである。これは、ミドルシニア層の半数が、現状の企業制度を活用する意思を持っていない、あるいは自分に適した制度が存在していないと感じていることを示している。
この結果から、企業にはミドルシニア層に対する制度設計の見直しが求められることが分かる。今後は、キャリアの多様性を尊重し、個人の興味・関心や価値観に応じた支援制度を整備していく必要があると考えられる。
また、企業が提供する制度とミドルシニア層のニーズとのギャップを解消するためには、組織全体で世代間の違いを理解し、多様性を受け入れる組織文化を構築することが重要である。具体的には、上下関係を過度に重視しないフラットな職場環境を整備するとともに、従来の価値観に固執するのではなく、新しいアイデアや視点を積極的に受け入れる姿勢が求められる。
2)社員を躍動させる4つのキャリア施策
人的資本経営やキャリアオーナーシップ、キャリア自律といった考え方の広がりに伴い、社員一人ひとりの可能性に投資し、個人が主体的にキャリアを形成していくための制度・評価・施策が、この数年で徐々に整備されてきた。
しかしその一方で、人事担当者は次のような課題に直面している。
・社内公募を実施しても、希望者が集まらない。
・副業制度を導入したものの、社内で浸透していない。
・eラーニングの利用者が一部の社員にとどまり、利用が広がらない。
このように、主体的なキャリア形成を支援する制度は整ってきたものの、社員の行動変容には十分につながっていない現状がある。重要なのは、人事部が社員の行動変容をいかにプロデュースしていくかという点である。
そのカギとなるのが「伝え方」である。社員に情報を一方的に伝達するだけではなく、「情報を伝え、行動を促す」ことが求められる。期待する行動が生まれていないのであれば、社員に寄り添いながら、行動変容に向けて伴走していく姿勢が必要となる。
特に、「全社員向けの人事関連通知」は、組織規模が大きくなるほど、一人ひとりに伝わりにくくなる傾向がある。そのため、単なる情報発信ではなく、社員が自分事として受け止め、行動につなげられるような工夫が求められる。
こうした状況の中で、企業はどのように情報を伝え、社員の行動変容を促しているのか。以下では、その実践事例を紹介する。
① キャリア・ダイアローグ動画の収録と公開
これから目指していきたい取り組みについて、キャリア・ダイアローグを収録し、YouTube上で公開する。
参考事例
・富士通 平松浩樹さん (https://www.youtube.com/watch?v=f-b-3UHyTw8)
・パナソニック コネクト 新家伸弘さん (https://www.youtube.com/watch?v=M4ny3HIpBqE)
・三井情報 蒲原務さん (https://www.youtube.com/watch?v=Ah525Xe2OE)
(出典:本書P151)
② キャリア・セッションの定期的な開催
キャリア・セッションを定期的に開催する。年1回の大型イベント(数日間)と、年3回の小型イベント(半日〜1日)を実施し、年間を通じて継続的な対話と学びの機会を提供する。
キャリア・セッションを開催する狙いは、これまでの働き方が今後どのように変化していくのか、なぜその変化が必要なのか、そして会社として何を期待しているのかを参加者とともに考えることにある。その上で、求められる行動変容についてもインタラクティブに考え、理解を深める場とする。
また、キャリア・ダイアローグや、キャリアについての気づきを促すワークを効果的に組み合わせることで、参加者が当事者意識を持って主体的に参加できるセッションとすることが望ましい。
③ キャリア1on1による伴走支援
キャリア・ダイアローグを視聴し、キャリア・セッションに参加した社員の多くには、「今日から実際に行動してみよう」という意識が醸成される。そこで、自ら行動を起こそうとする社員に対して、どのような制度や機会を活用できるのかを明確に示し、エントリー方法や実施期間などの情報を分かりやすく提示しておくことが重要である。
「何かを始めたいが、何から取り組めばよいかわからない」という状態は避けなければならない。そのため、30分程度のキャリア1on1を設け、社員一人ひとりの状況や思いに寄り添いながら、キャリア選択や行動の第一歩を支援する伴走型のサポートを行う。
④ 行動変容を数値化し、社内で共有する
キャリア・ダイアローグ、キャリア・セッション、キャリア1on1などの取り組みは、定性的なアプローチに偏りやすい傾向がある。そのため、これらの施策がどのような変化や効果をもたらしたのかを、定量的に把握する視点を持つことが重要である。
社内で実施しているエンゲージメント調査や各種定量データがある場合には、キャリアに関する人事施策の実施前後で、どのような変化が生じたのかを継続的に分析していくことが望ましい。
また、こうしたデータは、「人的資本の情報開示」への関心が高まる中で、経営層にとっても有効な資料となる。「人への投資」がどのような変化や成果を生み出しているのかを可視化し、検証する材料として活用できるためである。
これら4つの人事施策によって目指すのは、「社員一人ひとりの人的資本の最大化」である。それは、主体的なキャリア形成に向けた行動変容と、一歩踏み出した後の継続的な取り組みによってこそ実現されるものである。
出典:
田中研之輔 (著), 山口裕二 (著), 野澤友宏 (著) (2025) 「これからのキャリア開拓」 中央経済社
(つづく) 吉末直樹
以上
