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11)3S分析でセルフポジションを定める
「あなたらしさとは何ですか」。これは、企業のキャリア研修でよく投げかけられる問いである。
この問いに続くワークでも、多くの場合、アイデンティティに関する内容に多くの時間が割かれる。しかし、ビジネスパーソンにとってのキャリア論は、単に「自分らしさ」を考えるだけでは十分ではない。ビジネスの現場で役立つヒントとなる、身近で具体的、実践的、そして戦略的なものであるべきだと考える。
企業の経営戦略を考える際の代表的なフレームワークに、「3C分析」がある。3Cとは、顧客(Customer)、自社(Company)、競合(Competitor)の頭文字を取ったものである。この3つの視点から市場環境や自社の状況を分析し、課題や成功要因を導き出すことで、中長期的な戦略を立てることができる。
この3C分析の考え方を個人のキャリア形成に応用したものが、著者の提唱する「3S分析」である。
3Sとは、自己(Self)、状況(Setting)、社会(Society)の3つの視点を指す。
この3つの視点から自分自身を分析することで、「自分は何者なのか」「今どこにいるのか」「社会の中でどこに向かおうとしているのか」を明らかにし、自分自身のキャリアにおける現在地、すなわちセルフポジションを定めることができる。
① 自己(Self)
キャリア戦略において最初に大切なのは、自己(Self)を把握することである。
自己とは、日常におけるさまざまな行動や意思決定、考え方、思考の源泉となるものであり、これまで生きてきた歴史そのものでもある。
自己を理解するためには、これまでの経験と現在の仕事を客観的に振り返ることが重要である。これまで働いてきた中で、どのような知識、スキル、人脈、経験、価値観などの「キャリア資本」を蓄積してきたのか。そして、現在の仕事を通じて、どのようなキャリア資本を形成しているのかを考えてみる。
過去から現在までのキャリアを振り返ることで、自分が何を積み重ねてきたのか、そして何を強みにできるのかが見えてくる。
② 状況(Setting)
次に、自分自身が現在置かれている状況(Setting)を捉え直す。
企業経営における3C分析では、顧客や競合などの外部環境を分析する。個人のキャリア戦略においても、自分を取り巻く環境を冷静に分析することが重要である。
例えば、同じ企業や職場で働く人たちの働き方やキャリアを見渡し、「自分には何が足りないのか」「自分にはどのような強みや武器があるのか」を考えてみる。
ここで大切なのは、人と比較して妬んだり、羨んだりすることではない。自分自身の現在地を把握するために、周囲の状況を客観的に分析するのである。
その際のコツは、自分が今置かれている状況をつくり出している「外部環境要因」と「内部環境要因」を、その都度把握することである。
キャリア形成には、その時々における的確な意思決定が欠かせない。経営戦略においても、状況分析を怠れば、市場の変化に対応できず、事業の成長が鈍化する。同じようにキャリア戦略においても、常に自分を取り巻く状況を把握し、「今、自分は何をすべきなのか」を考える習慣を身につけることが大切である。
③ 社会(Society)
最後に、決して軽視できないのが社会(Society)である。
自分自身がこれまで蓄積してきたキャリア資本と、現在置かれている状況を把握したら、それらが社会のトレンドの中でどのように位置付けられているのかを、定期的に確認する必要がある。
「今、社会では何が起きているのか」「これから社会はどう変化していくのか」。こうした問いに対して、自分なりの仮説を持つことが重要である。そのためには、学びを止めず、自分の知識やスキルを常にアップデートしていく必要がある。
社会分析を行うことで、社会の中における自分自身の立ち位置が明確になってくる。単に「会社で働く自分」ではなく、社会の中でどのような役割を担っているのかを捉えられるようになるのである。
そうすると、目の前の業務をただこなすだけではなく、「この仕事は自分のキャリアにとってどのような意味を持つのか」「この仕事を通じて、どのようなキャリア資本を形成できるのか」「その仕事は、社会にどのようなインパクトを与えるのか」と考えられるようになる。
3S分析からセルフポジションを定める
3S分析のポイントは、自己(Self)だけを見て終わらないことにある。
「自己」を理解し、「状況」を把握し、さらに「社会」との関係性を捉える。この3つの視点を行き来することで、自分のキャリアを客観的かつ相対的に捉えることができる。
つまり、3S分析とは、単なる自己分析ではない。
「自分は何を持っているのか(Self)」
「今、どのような環境にいるのか(Setting)」
「社会はどこに向かっているのか(Society)」
この3つを掛け合わせることで、自分自身の現在地を明確にし、これからどの方向に進むべきかを考えるためのキャリア戦略につなげていくのである。
変化の激しい時代だからこそ、定期的に3S分析を行い、自分自身のセルフポジションを確認することが重要となる。
12)セルフビジョンの策定
ビジネスパーソンがキャリア戦略を策定する際、その出発点となるのがセルフビジョンである。
セルフビジョンとは、「これからどのように生きたいのか」「どのような自分になりたいのか」という、自分自身が描く未来像を意味する。
セルフビジョンを描く方法には、大きく二つのアプローチがある。
一つ目は、内的対話アプローチである。これは、これまでの人生や経験を振り返り、自分自身との対話を通して、本当に大切にしたい価値観や使命、ありたい姿を見つめ直す方法である。瞑想やヨガ、マインドフルネスなども、内的対話を深める有効な手法の一つといえる。
二つ目は、キャリア・デッサン・アプローチである。白紙のキャンバスに絵を描くように、これから実現したい人生や働き方を自由に描いていく方法である。このアプローチでは、自分自身の内面だけでなく、人との出会いや社会とのつながり、新たな挑戦など、自分を取り巻く外的な接点を重視する。
この二つのアプローチは、どちらか一方を選ぶものではない。過去を振り返りながら自己理解を深めることと、未来に向けて自由に可能性を描くことを繰り返すことで、セルフビジョンは徐々に明確になっていく。
変化の激しい時代だからこそ、セルフビジョンは一度決めて終わりではない。定期的に見直し、社会や環境の変化、自身の成長に合わせて更新していくことが、自分らしいキャリアを築くための重要なプロセスとなる。
13)思考時間をスケジュールに組み込む
これからの働き方で大切なのは、「作業時間を減らし、思考時間を増やすこと」である。
例えば、クライアントへのプレゼンテーション資料を作成する際、多くの人は資料づくりそのものに時間を費やしがちである。しかし、本来価値を生み出すのは資料を作る作業ではなく、「相手に何を伝え、どのような成果につなげるか」を考える時間である。
「これは作業時間だ」と感じたら、それは仕事の進め方を見直すタイミングである。
作業時間は、必ずしも自分が行う必要はない。他の人に任せたり、AIやデジタルツールなどのテクノロジーで代替したりできる可能性がある。
一方、思考時間は、あなたにしか生み出せない価値を創造する時間である。目の前の課題を深く考え、新しいアイデアを生み出し、意思決定を行う時間は、誰にも代替できない。こうした時間を一つでも多く確保し、成果として形にしていくことが、働く醍醐味である。
「作業時間」から「思考時間」への転換は、制度改革によって実現するものではない。一人ひとりが働き方を見直し、自らの行動を変えることで実現できる。
そのためには、毎日10~15分でもよいので、自分自身と向き合う「思考時間」をスケジュールに組み込んでみよう。
思考時間ワーク
- 今置かれている状況を客観的に分析する。
- これまでの取り組みを振り返り、自己を見つめ直す。
- これから進むべき方向性を描く。
- 実現に向けて、自分のキャリア資本を分析する。
アウトプットには、大きく二つの種類がある。
① 作業アウトプット
作業時間から生み出される成果である。会議録や経費精算書類などは、できるだけ効率化し、工数と時間を最小限に抑えることが望ましい。
② 思考アウトプット
思考時間から生み出される成果である。目の前の課題を深く考え、最適な解決策や新たな施策を創り出すことが目的である。これからの時代は、働く時間の多くを、この思考アウトプットを生み出すために使うべきである。
この考え方に、年齢や職位は関係ない。今日から誰でも始めることができる。
過去の経験そのものを変えることはできない。しかし、その経験の受け止め方は変えられる。過去を振り返り、自分の強みや価値を見つけ出し、現在の状況を客観的に見つめながら、これからのキャリア戦略を描いていくことが重要である。
キャリア戦略は、一度決めたら終わりではない。あくまでも現時点での仮説であり、環境や自分自身の変化に応じて、何度でもアップデートしてよい。
これからのキャリア形成とは、自らの強みやスキルを磨き続け、状況に応じて戦略を更新し続ける、持続的な営みなのである。
3.「稼ぐ」為に必要な意識改革をしよう
1)給料は与えられるものか
コロナ禍以降、「給料が下がった」「収入が減った」という声を耳にする機会が増えた。そのような状況に置かれたとき、選択肢は大きく二つある。
- 支出をできるだけ抑え、厳しい状況を耐え忍ぶ。
- 自ら稼ぐ力を身につけ、新たな突破口を見つける。
二つ目を選ぼうとする人に話を聞くと、「個人で稼ぐ方法が思い浮かばない」という答えが返ってくることが少なくない。
その背景には、「給料は会社から与えられるもの」という前提がある。会社に勤めていれば生活は守られるという考え方が、無意識のうちに身についているのである。
しかし、その考え方から一歩踏み出す必要がある。
人生100年時代を迎えた今、企業の寿命よりも、個人が働き続ける期間の方が長くなる可能性が高い。会社に依存するだけではなく、自ら価値を生み出し、自ら稼ぐ力を育てることが、これからのキャリアには欠かせない。
2)年収と人生設計を整理する
著者のもとに寄せられるキャリア相談の多くは、お金に関する悩みである。
収入や将来の生活設計に不安を抱えると、何から考えればよいのか分からなくなり、問題を整理できなくなることがある。
そのようなときは、次の二つの視点から考えてみるとよい。
- 現在の年収を維持しながら、幸せに暮らせる人生設計を描く。
- 年収を高めるために行動を起こしながら、幸せに暮らせる人生設計を描く。
その際、最初に取り組むべきことは、「自分は何を大切にし、これからどのように生きていきたいのか」を明確にすることである。
もし、年収を増やしながら人生をより豊かにしたいと考えるのであれば、具体的な行動の選択肢が見えてくる。
一つは、現在の会社に勤めながら、副業や兼業によって収入源を増やすことである。
もう一つは、雇用契約上、副業や兼業が認められていない場合には、転職や独立を視野に入れることである。
どの道を選ぶかを決めるのは、自分自身である。
人生設計とは、誰かに与えられるものではなく、自らの価値観に基づいて、一つひとつ描き、形にしていくものである。
本章の前半では、お金や収入に焦点を当て、「年収」と「人生設計」の関係について考える。
後半では、「自分は何をやりたいのか」という視点に移り、自分らしい働き方や生き方を実現するために、どのように考え、どのように行動していけばよいのかを考えていく。
出典:
田中研之輔(著)(2022) 「今すぐ転職を考えていない人のための キャリア戦略」 ディスカヴァー・トゥエンティワン
(以上)
(つづく)吉末直樹
