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知のフロンティアの開拓 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■知のフロンティアを開拓し価値創造の源泉となる研究力の強化

研究者の内在的な動機に基づく研究が、人類の知識の領域を開拓し、その積み重ねが人類の繁栄を支えてきた。人材の育成や研究インフラの整備、多様な研究に挑戦できる文化を実現し、「知」を育む研究環境を整備するために行っている政府の施策を報告する。

(多様で卓越した研究を生み出す環境の再構築)
知のフロンティアを開拓する多様で卓越した研究成果を生み出すため、研究者が一人ひとりに内在する多様性に富む問題意識に基づき、その能力をいかんなく発揮し、課題解決へのあくなき挑戦を続けられる環境の実現を目指している。

①博士後期課程学生の処遇向上とキャリアパスの拡大
文部科学省では、優秀で志のある博士後期課程学生が研究に専念するための経済的支援及び博士人材が産業界等を含め幅広く活躍するためのキャリアパス整備を一体として行う実力と意欲のある大学を支援するため、令和3年度より「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」を開始したほか、科学技術振興機構を中心に、新たに「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」にも取り組んでいる。また、日本学術振興会は、我が国の学術研究の将来を担う優秀な博士後期課程の学生に対して研究奨励金を支給する「特別研究員(DC)事業」を実施している。

日本学生支援機構は、意欲と能力があるにもかかわらず、経済的な理由により進学等が困難な学生に対する奨学金事業を実施しており、大学院で無利子奨学金の貸与を受けた者のうち、在学中に特に優れた業績を上げた学生の奨学金について返還免除を行っている。なお、平成30年度入学者より、博士課程の大学院業績優秀者免除制度の拡充を行い、博士後期課程学生の経済的負担を軽減することによって、進学を促進している。これらの事業などにより、「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ(令和2年1月23日総合科学技術・イノベーション会議)」において示された政府目標である約15,000人の博士後期課程学生への経済的支援の実現が見込まれており、今後は第6期基本計画の目標である約22,500人規模の支援を目指していく。

また、博士課程学生の処遇向上に向けて、第6期基本計画や「ポストドクター等の雇用・育成に関するガイドライン」(令和2年12月3日科学技術・学術審議会人材委員会)を踏まえ、競争的研究費制度において、博士課程学生の積極的なリサーチアシスタント(RA)等としての活用と、それに伴うRA経費の適切な対価の支払を促進している。文部科学省は、産業界と大学が連携して大学院教育を行い、博士後期課程において研究力に裏打ちされた実践力を養成する長期・有給のインターンシップをジョブ型研究インターンシップ(先行的・試行的取組)として令和3年度から大学院博士後期課程学生を対象に開始し、多様なキャリアパスの実現に向けて取組を進めている。また、国家公務員における博士号取得者の専門的知識や研究経験を踏まえた待遇改善について、内閣人事局・人事院・内閣府・文部科学省を中心としてヒアリング等を実施し、検討を進めている。

②大学等において若手研究者が活躍できる環境の整備
令和元年6月21日に閣議決定した「統合イノベーション戦略2019」に基づき、研究機関において適切に執行される体制の構築を前提として、研究活動に従事するエフォートに応じ、研究代表者本人の希望により、競争的研究費の直接経費から研究代表者(Pl)への人件費を支出可能とした。これにより、研究機関において、適切な費用負担に基づき、確保した財源により、研究に集中できる環境整備等による研究代表者の研究パフォーマンス向上、若手研究者をはじめとした多様かつ優秀な人材の確保等を通じた機関の研究力強化に資する取組に活用することができ、研究者及び研究機関双方の研究力の向上が期待される。

文部科学省は、雇用財源に外部資金(競争的研究費、共同研究費、寄附金等)を活用することで捻出された学内財源を若手ポスト増設や研究支援体制の整備などに充てる取組や、シニア研究者に対する年俸制やクロスアポイントメント制度の活用、外部資金による任期付き雇用への転換の促進などを通じて、組織全体で若手研究者のポストの確保と、若手の育成・活躍促進を後押しし、持続可能な研究体制を構築する取組の優良事例を盛り込んだ、国立大学法人等人事給与マネジメント改革に関するガイドライン(追補版)を作成し、令和3年12月21日に公表した。

また、研究者の研究環境の整備に向けては、リサーチ・アドミニストレーター(URA)等の研究マネジメント人材の育成・活躍促進も重要であり、大学等におけるURAの更なる充実を図るため、「リサーチ・アドミニストレータ―活動の強化に関する検討会」において、その知識・能力の向上と実務能力の可視化に資するものとして認定制度の導入に向けた論点整理が取りまとめられた(平成30年9月)。この論点整理を踏まえ、令和元年度及び令和2年度に認定制度の導入に向けた調査研究等を実施し、令和3年度には「リサーチ・アドミニストレーター等のマネジメント人材に係る質保証制度の実施」事業において、URAの質保証(認定)制度の運用が開始された。

また、平成25年度より世界水準の優れた研究大学群を増強するため、「研究大学強化促進事業」を実施し、定量的な指標(エビデンス)に基づき採択した22の大学等研究機関に対する研究マネジメント人材(URAを含む。)群の確実な配置や集中的な研究環境改革の支援を通じて、我が国全体の研究力強化を図っている。我が国の研究生産性の向上を図るため国内外の先進事例の知見を取り入れ、世界トップクラスの研究者育成に向けたプログラムを開発し、トップジャーナルへの論文掲載や海外資金の獲得等に向けた支援体制など、研究室単位ではなく組織的な研究者育成システムの構築を目指す「世界で活躍できる研究者戦略育成事業」を令和元年度より実施し、令和3年度においては5機関を支援している。また、優れた若手研究者が産学官の研究機関において、安定かつ自立した研究環境を得て自主的・自立的な研究に専念できるよう研究者及び研究機関に対して支援を行う「卓越研究員事業」を平成28年度より実施している。

令和3年度までに、本事業を通じて創出されたポストにおいて、少なくとも441名(令和4年3月31日現在)の若手研究者が安定かつ自立した研究環境を確保している。その他にも、若手研究者等の流動性を高めつつ安定的な雇用を確保することによって、キャリアアップを図るとともに、キャリアパスの多様化を進める仕組みを構築する大学等を支援する「科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業」を実施し、令和3年度においては10拠点が取組を行っている。科学技術振興機構は、産学官で連携し、研究者や研究支援人材を対象とした求人・求職情報など、当該人材のキャリア開発に資する情報の提供及び活用支援を行うため、「研究人材のキャリア支援ポータルサイト(JREC-INPortal)」を運営している。文部科学省科学技術・学術政策研究所では、平成30年度博士課程修了者に対し、修了から1.5年後の雇用状況、処遇等の追跡調査を実施し、第4次報告書として令和4年1月に公表を行ったほか、博士課程の前段階である修士課程修了予定者に対し、博士課程への進学予定や経済状況、キャリア意識等の調査を実施し、令和2年度修了者分の報告書として令和3年6月に公表した。また、博士人材の活躍状況を把握する情報基盤である博士人材データベース(JGRAD)について、令和3年9月にシステム更新を行い、利用者の利便性を向上させた。

(コラム:研究室・研究グループの活動を可視化する:研究室パネル調査)
文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では、日本の研究力の現状を、論文データ等を用いて分析しています。これらの分析結果は令和元年度の科学技術白書において、日本の研究力が諸外国と比べて相対的に低下傾向にあることを示す際にも用いられていました。白書等を通じて日本の現状に対する共通認識が形成される中、最近では、日本の研究力を向上するための手段・方策に対する示唆についてもNISTEPに求められるようになってきています。このようなニーズに対応するには、研究者数や研究開発費といったインプットと論文数のようなアウトプットの間を結ぶ、研究のプロセスを理解することが重要であるとの問題意識に基づき、NISTEPでは令和2年度より「研究活動把握データベースを用いた研究活動の実態把握(研究室パネル調査)」を実施しています。

当調査では、自然科学系の大学教員や大学教員が所属する研究室・研究グループの基礎的な情報、大学教員が実施する研究プロジェクトのポートフォリオや具体的な研究プロジェクトの内容等の項目について、令和2年度から令和6年度にかけて継続して収集していく予定です。令和2年度に実施した初年度調査の回答結果の分析を通じて、①職位の上昇によるマネジメント範囲の広がり、②研究室・研究グループの構造の分野間差、③助教の独立性と価値観の状況、④研究実施における学生の重要性、⑤研究プロジェクトの目的・成果の多様性といった点について示唆が得られました。助教が「安定した職」を重視するとの認識を示す割合が高い一方で、「知的好奇心」や「挑戦的研究」については、教授において重視するとの割合が一番高い様子が見えています。

2021年(令和3年)のノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎博士が、研究における好奇心の重要性を指摘されていましたが、それを踏まえるとやや心配なデータといえます。研究室パネル調査からは、助教には任期付きの立場の方が多いこと、助教が研究活動に用いる資金の約半分は上司の獲得した外部資金からまかなわれていることなども明らかになっており、これらの要因が助教の価値観に影響を及ぼしている可能性があります。令和4年度以降は、調査実施に加えて分析を本格化させることにより、研究室パネル調査から得られる知見を、科学技術・学術政策立案のための基礎資料として文部科学省や総合科学技術・イノベーション会議に提供していく予定です。

③女性研究者の活躍
女性研究者の活躍促進女性研究者がその能力を発揮し、活躍できる環境を整えることは、我が国の科学技術・イノベーションの活発化や男女共同参画の推進に寄与するものである。我が国では、女性研究者の登用や活躍支援を進めることにより、女性研究者の割合は年々増加傾向にあるものの、令和3年3月31日現在で17.5%であり、先進諸国と比較すると依然として低い水準にある(第2-2-4図 各国における女性研究者の割合)。

第6期基本計画では、大学の研究者の採用に占める女性の割合に関する成果目標として、2025年までに理学系20%、工学系15%、農学系30%、医学・歯学・薬学系合わせて30%、人文科学系45%、社会科学系30%を目指すとしている。内閣府は、ウェブサイト「理工チャレンジ(リコチャレ)」において、理工系分野での女性の活躍を推進している大学や企業等の取組やイベント、理工系分野で活躍する女性からのメッセージ等を情報提供している。また、令和3年7月にオンラインシンポジウム「進路で人生どう変わる?理系で広がる私の未来2021」を同ウェブサイト上に掲載し、全国の女子中高生とその保護者・教員へ向けて、理工系で活躍する多様なロールモデルからのメッセージを配信した。

文部科学省は、出産・育児等のライフイベントと研究との両立や女性研究者の研究力向上を通じたリーダーの育成を一体的に推進するダイバーシティの実現に向けた大学等の取組を支援するため、「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ」を実施しており、令和3年度においては124機関が取組を行っている。日本学術振興会は、出産・育児により研究を中断した研究者に対して、研究奨励金を支給し、研究復帰を支援する「特別研究員(RPD)事業」を実施している。科学技術振興機構は、科学技術分野で活躍する女性研究者・技術者、女子学生などと女子中高生の交流機会の提供や実験教室、出前授業の実施などを通して女子中高生の理系分野に対する興味・関心を喚起し、理系進路選択を支援する「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」を実施している。産業技術総合研究所は、全国20の大学や研究機関から成る組織(ダイバーシティ・サポート・オフィス)の運営に携わり、参加機関と連携してダイバーシティ推進に関する情報共有や意見交換を行っている。また、大学・企業との連携・協働で女性活躍推進法行動計画を実践し、より広いネットワークの下、相互に研究者等のワーク・ライフ・バランスの実現やキャリア形成を支援し、意識啓発を進めるなどダイバーシティ推進に努めている。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書