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競争的研究費改革と新たな研究システムの構築 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■競争的研究費改革と新たな研究システムの構築

(人文・社会科学の振興と総合知の創出)
科研費は、人文学・社会科学から自然科学までの全ての分野にわたり、あらゆる学術研究を対象とする競争的研究費であり、研究の多様性を確保しつつ独創的な研究活動を支援することにより、研究活動の裾野の拡大を図り、持続的な研究の発展と重厚な知的蓄積の形成に資する役割を果たしている。令和2年度より、文部科学省において「人文学・社会科学を軸とした学術知共創プロジェクト」を開始し、未来社会が直面するであろう諸問題(①将来の人口動態を見据えた社会・人間の在り方、②分断社会の超克、③新たな人類社会を形成する価値の創造)の下で、人文・社会科学分野の研究者が中心となって、自然科学分野の研究者はもとより、産業界や市民社会などの多様なステークホルダー(利害関係者)が知見を寄せ合って、研究課題及び研究チームを創り上げていくための環境を構築する取組を進めている。

また、日本学術振興会が実施している「課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業」において、科学技術・学術審議会学術分科会人文学・社会科学特別委員会審議のまとめ等を踏まえ、令和3年度から人文学・社会科学に固有の本質的・根源的な問いを追究する「学術知共創プログラム」による研究の推進を開始した。文部科学省は、客観的根拠(エビデンス)に基づいた合理的なプロセスによる科学技術・イノベーション政策の形成の実現を目指し、「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』推進事業」を実施している。本事業では、科学技術・イノベーション政策を科学的に進めるための研究人材や同政策の形成を支える人材の育成を行う拠点(大学)に対して支援を行うとともに、これらの複数の拠点をネットワークによって結び、我が国全体で体系的な人材育成が可能となる仕組みを構築している。
更にこれらの拠点を中心として、課題設定の段階から行政官と研究者が政策研究・分析を協働して行う研究プロジェクトの実施を進めている。内閣府では、人間や社会の総合的理解と課題解決に貢献する「総合知」に関する基本的な考え方、さらに戦略的な推進方策を検討し、中間取りまとめとして取りまとめた。文部科学省科学技術・学術政策研究所では、総合知に関する意識の変化をモニタリングするため、基本計画と連動して毎年実施しているNISTEP定点調査について、第6期基本計画初年度となる令和3年度から「総合知」に関連する質問を盛り込んだ。

(競争的研究費制度の一体的改革)
競争的研究費制度は、競争的な研究環境を形成し、研究者が多様で独創的な研究に継続的、発展的に取り組む上で基幹的な研究資金制度であり、これまでも予算の確保や制度の改善及び充実に努めてきた(令和3年度当初予算額6,353億円)。「統合イノベーション戦略2019」(令和元年6月21日閣議決定)及び「統合イノベーション戦略2020」(令和2年7月17日閣議決定)に基づき、我が国の研究力強化のため、令和2年度以降順次、研究者の研究時間の確保のため、競争的研究費の直接経費から研究以外の業務の代行に係る経費の支出を可能とすることや、競争的研究費の直接経費から研究代表者への人件費を支出することにより確保された財源を、研究機関において研究力向上のために活用することを可能としている。さらに、博士課程学生の処遇向上に向けて、競争的研究費における博士課程学生の活用に伴うRA経費の適切な対価の支払いを促進している。また、研究者の事務負担を軽減し、研究時間の確保を図る観点から、従来の「競争的資金」に該当する事業とそれ以外の公募型の研究費である各事業を「競争的研究費」として一本化し、統一的なルールの下で各種事務手続きの簡素化・デジタル化・迅速化に係る取組等の改善を図っている。
あわせて競争的研究費における間接経費についても、直接経費に対する割合等を含め「競争的研究費」として扱いを一本化するとともに、間接経費に係る使途報告、証拠書類の簡素化に係る取組を令和4年度より適用することとする。また、各制度では、公正かつ透明で質の高い審査及び評価を行うため、審査員の年齢や性別及び所属等の多様性の確保、利害関係者の排除、審査員の評価システムの整備、審査及び採択の方法や基準の明確化並びに審査結果の開示を行っている。

例えば、科研費では、8,000人以上の研究者によるピアレビューにより審査が実施されている。日本学術振興会は、審査委員候補者データベース(令和2年度現在、登録者数約13万6,000人)を活用し、研究機関のバランスや若手研究者、女性研究者の積極的な登用等に配慮しながら、審査委員を選考している。また、応募者本人に対する審査結果の開示については、内容を順次充実してきており、例えば、不採択課題全体の中でのおよその順位や評定要素ごとの平均点等の数値情報のほか、応募者により詳しく評価内容を伝えるために、審査委員が不十分であると評価した評定要素ごとの具体的な項目についても、「科研費電子申請システム」により開示している。競争的研究費をはじめとする公的研究費の不正使用の防止に向けた取組については、「公的研究費の不正使用等の防止に関する取組について(共通的な指針)」(平成18年8月31日総合科学技術会議)や「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」(平成19年2月15日文部科学大臣決定。以下「ガイドライン」という。)等の指針を策定してきた。

また、研究機関における不正防止に向けた体制整備の状況を調査するなどモニタリングを徹底するとともに、必要に応じ、改善に向けた指導・措置を講じることで、適切な管理・監査体制の整備を促してきた。さらに、文部科学省では、令和3年2月にガイドラインを改正し、ガバナンスの強化、啓発活動の実施や不正防止システムの強化を柱として、不正を起こさせない組織風土の形成に向けたより実効性のある取組を強化し、公的研究費の不正使用の防止に取り組んでいる。

■新たな研究システムの構築(オープンサイエンスとデータ駆動型研究等の推進)

昨今、ビッグデータ等の多様なデータ収集や分析等が容易となる中、シミュレーションやAIを活用したデータ駆動型の研究手法が拡大している。このことは、社会全体のデジタル化や世界的なオープンサイエンスの潮流により、研究そのもののデジタルトランスフォーメーション(研究DX)が求められているといえる。さらには、新型コロナウイルス感染症を契機として世界的にも研究DXの進展が加速しており、我が国においても重要なキーワードとなる研究データの管理・利活用促進や研究DXを支えるインフラストラクチャ―の整備を進めるなど、研究DXがもたらす新たな社会の実現に向けた研究システムの構築に取り組んでいる。

(信頼性のある研究データの適切な管理・利活用促進のための環境整備)
様々な研究活動によって創出される研究データは、我が国のみならず世界にとって重要な知的資産といえる。一方で、産業競争力や科学技術・学術上の優位性の確保等の重要な情報を含むものもあることから、国際的な貢献と国益の双方を考慮するためオープン・アンド・クローズ戦略に基づく研究データの管理・利活用を実行することが重要である。これらのことから、我が国のナショナルポリシーとして「公的資金による研究データの管理・利活用に関する基本的な考え方」(令和3年4月27日統合イノベーション推進会議決定)が定められ、分野・機関データベースの構築や研究データを適切かつ効率的につなぐ研究データ基盤の構築等環境整備を進めている。国立情報学研究所(NII)では、イノベーション創出に必要な学術情報を適切に管理・保存し、そして、利用者に提供するための様々なサービスを実施している。研究データの管理・利活用促進に関しては、クラウド上で大学等が共同利用できる研究データの管理・共有・公開・検索を促進するシステム(NII-RDC)の運用を令和3年より開始した。NII-RDCは、研究データを管理する基盤(GakuNin RDM)、クラウド型の機関リポジトリ環境提供サービス(JAIRO Cloud)、そして、研究データをはじめとした学術情報を一元的に検索可能なデータベース(CiNii Research)の3つの基盤によって構成されており、効果的・効率的な研究活動の促進に寄与している。

科学技術振興機構では、オープンサイエンス促進に向けた研究環境整備のための研究成果取扱方針に基づき、研究プロジェクトの成果に基づく全ての研究成果論文を原則としてオープンアクセス化すること及び研究データの取扱いを定めたデータマネジメントプランの作成を促している。また、国内外の科学技術に関する文献、特許、研究者や研究開発活動に関わる基本的な情報を体系的にデータベース化し、相互に関連付けた、誰もが使いやすい公的サービス(J-GLOBAL)と、国内外の科学技術文献に関する書誌・抄録・キーワード等を、日本語で網羅的に検索可能なデータベースとして整備し、さらに、検索集合を分析・可視化できる付加価値を付けた専門家を支援する文献情報サービス(JDreamⅢ)の実施や我が国の研究者情報を一元的に集積し、研究業績情報の管理、大学の研究者総覧の構築を支援する研究者総覧データベース(researchmap)の構築、学協会自らが学術論文の電子ジャーナル発行を行うための共同のシステム環境(J-STAGE)の提供により研究現場における研究環境整備の充実に取り組んでいる。さらに、同機構バイオサイエンスデータベースセンターでは、「ライフサイエンスデータベース統合推進事業」を実施し、文部科学省、厚生労働省、農林水産省及び経済産業省の4省が保有する生命科学系データベースを一元的に参照できる合同ポータルサイトの拡充や日本医療研究開発機構との連携等により、オープンサイエンスの推進に寄与している。

農林水産省は、国内で発行されている農林水産関係学術誌の論文等の書誌データベース(JASI)など、農林水産関係の文献情報や図書資料類の所在情報を構築・提供している。また、研究開発型の独立行政法人、国公立試験研究機関や大学の農林水産分野の研究報告等をデジタル化した全文情報データベース、試験研究機関で実施中の研究課題データベース等を構築・提供している。環境省は、生物多様性情報システム(J-IBIS)において、全国の自然環境及び生物多様性に関する情報の収集・管理・提供をしている。理化学研究所、物質・材料研究機構や防災科学技術研究所は、我が国が強みを活かせるライフサイエンス、マテリアルや防災分野で、膨大・高品質な研究データを利活用しやすい形で集積し、産学官で共有・解析することにより、新たな価値の創出につなげる取組を進めている。日本医療研究開発機構は、「疾病克服に向けたゲノム医療実現化プロジェクト」において、データシェアリングポリシーを示し、研究事業に対して、原則としてデータシェアリングを行うことを義務付けた。日本学術振興会は、オープンアクセスに係る取組について方針を示し、科研費等による論文のオープンアクセス化を進めている。

(研究DXを支えるインフラ整備と高付加価値な研究の加速)
研究DXを推進するため、ネットワーク、データインフラや計算資源について世界最高水準の研究基盤を形成・維持するとともに、時間や距離の制約を超えて、研究を遂行できるよう、遠隔から活用するリモート研究や、実験の自動化等を実現するスマートラボの普及に取り組んでいる。また、最先端のデータ駆動型研究、AI駆動型研究の実施を促進するとともに、これらの新たな研究手法を支える情報科学技術の研究を進めている。

■コラム:科学技術・イノベーション白書検索

文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、これまでに発行された「科学技術・イノベーション白書」(令和2年版までは「科学技術白書」)の全ての内容を対象としたオンラインの検索システムを構築し、ウェブサイトで公開しています。当白書は昭和33(1958)年に初めて発行され、昭和39(1964)年以降、毎年、発行されており、科学技術の動向や政府の科学技術政策に関する主要な情報が蓄積されています。この貴重な情報源を十分に活用できるよう、本システムは、単に各年版の白書のテキストを検索できるだけでなく、複数の年の白書を指定して検索する機能を備えています。

また、当白書では、科学技術の振興に関して政府が各年度に講じた施策をまとめた部分(最近の白書では「第2部」)がありますが、この部分に限定した検索や、図表内の語句に絞った検索も可能です。さらに、指定したキーワードについての完全一致の検索に加えて、類義語も併せて検索する「あいまい検索」が可能となっています。この機能により、検索漏れを低減することができ、また、正確なキーワードが不明な場合でも思いついた類義語から検索することができます。本システムは、いくつかの分析ツールも備えています。「単語出現回数分析」では、指定したキーワードの出現回数が年ごとに棒グラフで表示され、そのキーワードの使用状況の推移を知ることができます。「キーワードマップ」は、対象とするテキストを視覚化して把握するための機能であり、重要度の高いキーワードをマップ(ワードクラウド形式)で表示します。例えば、「○○年版」と指定すると、その年版の白書でどのような語句がよく使われたのかを把握できます。また、あるキーワードを指定して、それに関連性のあるキーワード群をマップとして示すこともできます。その例として、「再生エネルギー」と指定して、2つの年版の白書を比較したマップを下図に示しました。個別技術としては、平成28年版では地熱発電、蓄電池が上位にあり、令和3年版では低炭素化、バイオマスがクローズアップされていることが分かります。

「関連文書時系列分析」は、注目トピックについての記述の変遷を分析するためのツールであり、白書中の特定の項目や節を指定すると、それと関連度の大きい項目や節を自動抽出し、それらの文書の関係を時系列にプロットします。これにより、例えば、ある施策の経年的な進展を調べることができるため、科学技術に関する施策の分析ツールとして活用できます。NISTEPのデータ・情報基盤のウェブページでは、この「科学技術・イノベーション白書検索」に加えて、科学技術に関する基本的な政策文書を対象とした「科学技術基本政策文書検索」も公開しており、そこでも同等の検索・分析機能を利用できます。これらは、政策立案、政策研究や科学史の研究、更には科学技術に関する国民の議論などでの活用が期待されます。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書