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ISO 9004:2018 持続する成功を達成するための指針 その3

 箇条10.4.5では、ベンチマーキングの実践を推奨しています。

  • 1.組織内での活動及びプロセスの内部ベンチマーキング
  • 2.競合他者とのパフォーマンス又はプロセスの競争的ベンチマーキング
  • 3.第3者組織との戦略,運用又はプロセスの比較による,汎用的なベンチマーキング

 ベンチマーキングプロセスを確立する場合,組織は,ベンチマーキングの成功が次のような要因に依存している点を考慮することが望ましいでしょう。

  • 1.トップマネジメントからの支援(組織とそのベンチマーク先との交流を伴うため)
  • 2.ベンチマーキングの利用先
  • 3.便益対コストの見積もり
  • 4.調査対象の特性(パフォーマンス)の理解
  • 5.ギャップを埋めるための教訓の実施

 箇条10.5内部監査は,組織のマネジメントシステムの適合レベルを明確にする効果的なツールについて述べています。内部監査は,複数のマネジメントシステム規格に対する利害関係者,製品,サービス,プロセス又は特定の課題を取り扱うことができます。
内部監査は、力量がありかつ評価の対象となっている活動から独立している人々によって、一貫性のある方法で実施することが望ましいことです。内部監査は,問題,不適合,リスク及び機会を特定し,以前に特定された問題及び不適合の解決に関する進捗状況を監視するための効果的なツールです。内部監査のアウトプットは,次の事項に役立つ情報源を提供します。

  • 1.不適合及びリスクへの対処
  • 2.機会の特定
  • 3.組織内の優れた実践事例の普及
  • 4.プロセス間の相互作用に関する理解の向上

トップマネジメントは,組織全体にわたる是正処置及び改善の機会を必要とするような傾向を特定するために,全ての内部監査の結果をレビューすることが良いとしています。

 箇条10.6自己評価は,組織全体のレベル及び個々のプロセスレベルの両方における,組織のパフォーマンスの強み・弱み及びベストプラクティスを明確にするために利用されます。自己評価は,組織が改善及び/又は革新の優先順位を付け,計画し,実施することの手助けとなります。プロセスが相互依存している場合には,マネジメントシステムの要素を独立して評価しないほうがよいでしょう。組織の使命,ビジョン,価値基準及び文化に対するいろいろな要素間の影響の評価が大切です。

    自己評価の結果は,次の事項を支援します。

  • 1.組織の総合的なパフォーマンスの改善
  • 2.組織の持続的成功の達成及び維持に向けての進展
  • 3.組織のプロセス,製品及びサービス並びに組織構造の革新
  • 4.ベストプラクティスの認知
  • 5.改善のためのさらなる機会の特定

自己評価の結果は,組織及びその今後の方向性についての理解を共有するのに利用するために,組織内の該当する人々に伝達します。自己評価ツールは,このISO 9004規格の附属書Aに記載しています。

 箇条10.7レビューは、パフォーマンス尺度,ベンチマーキング,分析及び評価,内部監査並びに自己評価について述べています。レビューは,その動向を明確にできるようにし,また,組織の方針,戦略及び目標の達成へ向けた進捗状況を評価するために,あらかじめ定められた,定期的な間隔で実施します。レビューは,組織の使命,ビジョン,価値基準及び文化との関連における適応性,柔軟性及び応答性の側面を含め,それまでに実施された改善,学習,革新活動の査定及び評価を取り扱うことができます。

 組織は,その方針,戦略及び目標を適用するニーズを理解するため,レビューを利用することが良いでしょう。また,レビューは,組織の運営管理活動の改善,学習及び革新の機会を明確にするために利用します。レビューによって,証拠に基づく,意思決定及び望ましい結果を達成するための処置の確立を可能となります。

 ISO 9004:2018 の概要についての説明の8回目です。
前々回は急遽朝日新聞の記事を取り上げ、9004シリーズが切れてしまい読みづらかったかと思います。

 箇条11「改善、学習及び革新」は、組織の持続的成功に貢献する重要な側面、改善,学習及び革新についてガイドしています。改善,学習及び革新は,製品,サービス,プロセス及びマネジメントシステムへのインプットを生み出し,望ましい結果の達成に貢献します。組織は,外部及び内部の課題から,並びに利害関係者のニーズ及び期待から絶えず変化に晒されており、影響を受けています。改善,学習及び革新は,持続的成功の達成を支援するだけでなく,こうした変化に対応する組織の能力を高めることに貢献することができます。

 箇条11.2改善は,パフォーマンスを向上させる活動についてガイドしています。パフォーマンスは,製品又はサービス,若しくはプロセスにおいて組織が目標とすべき「測定可能な結果」のことをいいます。製品又はサービスのパフォーマンスの改善は,利害関係者のニーズ及び期待を満たし,経済的効率を増進させることで、組織を持続的成功に導きます。プロセスの改善は,有効性及び効率の増加につながり,コスト,時間,エネルギー及び無駄の削減などの便益をもたらし,結果として,利害関係者のニーズ及び期待をより効果的に満たすことに繋がります。改善活動は,地道な継続的改善から組織全体のトップ主導による著しい改善(改革)まで広範囲にわたります。

 組織は,そのパフォーマンスの分析及び評価の結果を利用しながら,その製品又はサービス,プロセス,構造並びにそのマネジメントシステムの改善目標を定めることがまず必要です。改善プロセスは,構造化されたアプローチに従うことが望ましいのですが、この方法論は,全てのプロセスに対して一貫して適用する必要があります。そのためには、次のようなことが,組織文化の一部となることが望まれます。

  • 1.人々が参加し,改善の結果が成功に貢献する動機付け
  • 2.改善を達成するのに必要な資源の提供
  • 3.改善に対する表彰制度
  • 4.改善活動へのトップマネジメントの積極的参加

 箇条11.3学習は、改善・革新の動機づけについて述べています。学習は経験,情報の分析,並びに改善及び革新の結果から多くの情報源を得ることができ、学習と改善及び革新は相互に影響を及ぼしています。組織は,学習によって個人の能力を上げることができますが、さらに個人の能力を統合して、組織の能力を上げることにまでその目的を掲げることが必要です。以下の事によって学習に関する情報を得ることができます。

  • 1.成功事例及び失敗事例
  • 2.様々な外部及び内部の課題
  • 3.利害関係者に関連する情報
  • 4.収集された情報の分析から得られる洞察

 個人の能力を統合して組織の能力にするためには、人々の知識,思考パターン及び行動パターンを組織の価値基準に合致させるように人々を誘導すること、双方の組み合わせを考えることが推奨されます。組織は,明白なもの又は暗示的なもの、組織の内又は外からの知識など、いろいろな観点から知識を層別するとよいでしょう。組織は、知識を資産として運用管理し,維持するために、知識を監視し、新しい知識を獲得するように努めることも必要でしょう。より効果的に知識を共有する学習組織になるためには、次のことを考慮することが望ましいとしています。

  • 1.組織の使命,ビジョン及び価値基準、組織の文化
  • 2.トップマネジメントがリーダーシップを発揮することによって,学習への取り組みを支援すること
  • 3.組織の内外におけるネットワーク作り,人々のつながり及び相互作用
  • 4.学習及び知識の共有のためのシステムの維持
  • 5.人々の改善を支持し表彰すること
  • 6.創造性を認め,組織の異なる人々の多様な意見を尊重すること

 持続的成功への道を運営管理するために,組織能力を高めようとする組織は、知識への迅速なアクセス及び利用を重要視することが必要です。

 箇条11.4革新について説明します。革新は,パフォーマンスの向上を画期的に上げるような活動ですので、製品又はサービス,プロセスの価値を大幅に上げる活動であるべきです。組織の外部及び内部の課題,並びに利害関係者のニーズ及び期待によっては、改善ではなく革新を必要とすることがあります。革新を促進するためには次の事項を行うことが望ましいとしています。

  • 1.革新への固有のニーズを特定する。
  • 2. 組織に革新的思考を奨励する。
  • 3.効果的な革新を可能にするプロセスを確立する。
  • 4.革新的なアイデアを実現する資源を提供する。

 また、革新は次の分野で適用することができます。

  • 1.技術
  • 2.製品又はサービス
  • 3.プロセス(実現のしかたの革新)
  • 4.組織(組織構造、体質、文化における革新)
  • 5.組織のマネジメントシステム(競争優位の革新)
  • 6.事業モデル(顧客価値、変化市況への対応における革新)

 箇条11.4.3はタイミングとリスクについて述べています。リスクを考慮しながらも革新にチャレンジするためには、革新の計画におけるリスク及び機会を評価しなければなりません。組織は,革新によって起こるかもしれない変更を明確にし、その変更を運営管理する場合にどのような影響が組織のどこにありえるのかを配慮し,必要な場合には,(緊急時対応計画を含む)リスクを軽減するための計画を準備することが必要であるとしています。また革新を行うタイミングは重要な事柄であり,その革新の実施タイミングについてのリスク評価も行うべきことでしょう。タイミングは,通常,革新が必要とされる緊急性と,革新の展開のために利用可能な資源とのバランスを考慮して決めることがよいでしょう。

革新は優先順位を付ける必要があり、実施したならば、革新を定期的にレビューすることが必要です。このレビューが組織に新たな学習を経験させることになり、そこから新しい組織の知識が得られることも多いはずです。

 付録の自己評価ツールは,改善及び革新の機会を特定し,優先順位を付け,持続的成功の目標に向けての行動計画を策定するために利用するとよいでしょう。ISO 9004には、組織のパフォーマンス及びマネジメントシステムの成熟度について総合的な見解を得ることができる自己評価ツールが付いています。自己評価のアウトプットは,組織の強み・弱み,関係する改善のためのリスク及び機会,組織の成熟度レベル,及び自己評価が繰り返される場合には,長期にわたる組織の進捗状況を示すものとして活用できます。

 ISO 9004の附属書に記述されている自己評価ツールは,ISO 9004規格に記載されている手引に基づくものであり,改善の枠組みを提供しています。表A.2~A.32は,ISO 9004規格に基づいた5段階の成熟度レベルによる自己評価基準です。表A.1には,パフォーマンス基準が成熟度レベルにどのように関わっているかを表形式で示しています。組織は,特定の基準に照らしてそのパフォーマンスをレビューし,組織の現在の成熟度を特定し,その強み・弱み,並びに関連するリスク及び機会の改善を明確にすることが望ましいとしています。自身より高いレベルとして与えられた基準は,組織が検討すべき課題の理解,高レベルの成熟度に達するうえで必要となる改善を明確にしています。

    A.4には自己評価を実施するための実施手順が掲載されています。

  • 1.自己評価の範囲を決定する。
  • 2.自己評価の責任者を決定する。
  • 3.自己評価をどのように実施するのか,チームによるのか個人によるのかを決定する。
  • 4.組織の個々のプロセスの成熟度レベルを特定する。次の事項によって行うことが望ましい。
    • 組織の現在の状況と表に記載したシナリオとの比較。
    • 組織が既に実施している要素に印を付けること。レベル1から始め,レベル3及び4、5までをチェックする。
    • 現在の成熟度レベルの決定。
  • 5.結果を報告書にまとめる。これは,今後の記録となり,組織内外の情報交換に役立たせることができる。このような報告をグラフにすることは伝達に有用である。
  • 6.組織のプロセスの現在のパフォーマンスを評価し,改善及 び/又は革新すべき領域を特定する。

 組織の成熟度レベルは,要素ごとに異なりことになります。レベルを規定している要素と組織の現状とのギャップのレビューは,トップマネジメントが個々の要素をより高いレベルに向上させるのに必要な改善及び/又は革新活動を計画し,優先順位付けをすることに役立てることができます。自己評価の完了は,この規格の要素に基づいて,改善及び/又は革新のための行動計画の策定につながり,それがトップマネジメントによる計画の策定及びレビューへのインプットとして利用されることが推奨されます。

 以上