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経済産業省製造産業局が令和6年5月に公表した資料「製造業を巡る現状と課題について今後の政策の方向性」からスライド25ページ「世界におけるCXの潮流:C-suiteの進化」について詳細な解説をします。
1. 図の概要
企業の経営幹部層(C-suite)の構造とその役割が、時代とともにどのように進化してきたかを示しています。特に「CX(Corporate Transformation)」の観点から、経営の複雑化に対応するための幹部層間のコラボレーションの重要性が強調されています。
C-suiteとは、「Chief ○○ Officer」という肩書を持つ最高責任者層の総称で、CEO(最高経営責任者)、CFO(最高財務責任者)、CIO(最高情報責任者)などが含まれます。ここでの「進化」は単に役職数の増加だけでなく、役職間の機能分担や相互連携のあり方の変遷を指します。
2. C-suiteの進化の3つの段階
① C-suite 1.0(1920年代〜)
- 構造:財務志向のCEO+ゼネラルマネージャー
- 特徴:
- 経営幹部は主に財務面に強みを持つCEOと、幅広く事業を統括するゼネラルマネージャーによって構成されていました。
- 当時は産業構造が比較的単純で、組織の階層も浅く、少数の経営幹部で意思決定が可能でした。
- 技術的背景や特定分野の専門知識は、経営層よりも中間管理職や現場に多く求められ、トップ層は総合的な指揮官として振る舞う傾向がありました。
- 課題:
- 経営幹部の肥大化はまだ見られませんが、成長とともに複雑化する企業運営を少人数で管理する限界が見え始めます。
- 技術や機能別の知見を持つ幹部が不足していたため、変化への対応力が弱く、組織の柔軟性に欠ける側面がありました。
② C-suite 2.0(1980年代〜)
- 構造:CEO+機能マネージャー(CFO、CMO、CIOなど)
- 特徴:
- グローバル競争やIT化の進展に伴い、財務、マーケティング、IT、人事など、専門機能を持つ責任者(CXO)が経営幹部に加わります。
- CEOは全体戦略を統括し、機能ごとに責任を持つCXOがそれぞれの分野で意思決定を行う体制が確立。
- 日本企業もこのモデルを採用し、製造、販売、財務、IT、人事などの分業が進展しました。
- 課題:
- 機能分化が進みすぎたことで、部門間の縦割り意識が強まり、部門横断的な一貫性や整合性の確保が難しくなる。
- 相互作用する複雑なシステムにおいて、情報共有や協働の不足が戦略遂行のボトルネックになることも増加。
- 特に日本企業では、各機能の最適化は進む一方で、全体最適や統合的な意思決定が弱まり、変化対応力が限定される傾向が見られました。
③ C-suite 3.0(2014年〜現在)
- 構造:CEOを中心に、複数のCXOが「コラボレーションモデル」で連携
- 特徴:
- 急速に変化する市場環境やテクノロジーの進展に対応するため、C-suiteメンバー同士の横のつながりを強化。
- 図の右側には、CIO(情報)、CFO(財務)、CHRO(人事)、CMO(マーケティング)、CTO(技術)、CSCO(サプライチェーン)、CMfgO(製造)などが示されており、それらが相互に連携しながら企業全体を運営するモデルが描かれています。
- 役割は大きく「コーポレート機能」(財務・人事・ガバナンスなど)と「価値創造機能」(マーケティング・製造・技術・供給網など)に分かれます。
- 意義:
- 部門間の協働を通じて、組織横断的な課題(デジタル化、サステナビリティ、グローバル戦略など)に迅速かつ一貫性のある対応を可能にします。
- 特定領域に閉じた意思決定から脱却し、企業全体の成長と競争力強化を目的とした統合的戦略を推進できます。
3. コラボレーションの重要性
図中でも強調されているように、CXO間のコラボレーションの強度は企業パフォーマンスに大きな影響を与えます。
- EYの調査では、CFOとCHROの協働が活発な企業では、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)が向上し、社員エンゲージメントも高まる傾向があると報告。
- 一方で、Workdayの調査によると、多くの企業でCIO(情報)とCFO(財務)の連携が不十分であり、IT投資の有効活用が難しいという課題も明らかになっています。
4. 日本企業への示唆
- 日本企業の多くはまだC-suite 2.0的な構造に留まっており、部門間連携や全社戦略の一体化に課題があります。
- デジタル化、グローバル展開、ESG経営などの新しい経営課題に対応するには、C-suite 3.0型の協働モデルへの移行が必要。
- 特に、日本では現場への権限委譲とトップマネジメントによる統合的ガバナンスのバランスを取ることが、今後の競争力強化の鍵となります。
(つづく)平林良人
