AI研究者である北海道大学の川村秀憲教授によって著された『10年後のハローワーク』を拝読いたしました。本レポートでは、同書の内容に基づき、AIの導入によって今後職場環境がどのように変化すると予測されるのか、またその変化にどのように対応すべきかについて考察を行います。
同書は、これからのAIによる仕事の変化について多角的に論じており、皆さんにとって必読の一冊であると考えられます。特に後半で述べられている「10年後に必要とされる人」になるための思考法や行動指針は、今後のキャリア形成を考える上で非常に有益なアドバイスであると感じました。

1.現在の状況について
近年、AIやロボティクス技術の発展に伴い、労働市場における構造的変化が懸念されています。
例えば、オックスフォード大学の研究(2013年)では、アメリカ国内の職業の約47%が今後20年以内に自動化される可能性があると報告されています。日本においても、野村総合研究所とオックスフォード大学の共同研究(2015年)により、国内の職業の約49%がAIやロボットによって代替可能であると推定されています。
さらに、世界経済フォーラム(WEF)の『未来の仕事レポート2023』によれば、2027年までに世界で約8,300万件の雇用が失われる一方で、約6,900万件の新たな雇用が創出されると予測されています。これらのデータからも、「AI=雇用喪失」という単純な図式では語れないことが明らかであり、私たちはより複眼的な視点でAIの影響を捉える必要があります。

2.シンギュラリティとAIの未来
AIの進化について語る際によく登場するのが、「シンギュラリティ(技術的特異点)」という概念です。これはAIが人間の知能を超える転換点を指し、未来学者のレイ・カーツワイル氏は、その到来を2045年と予測しています。さらに、最近ではその時期が2020年代後半に早まる可能性を示唆する意見も出ています。
シンギュラリティの実現は、私たちの生活、労働、さらには倫理観にまで大きな影響を及ぼすと考えられており、その意味で極めて重要な転換期となるでしょう。
一方で、AIが人間の制御を超えて暴走するリスクについても根強い懸念があります。そのため、AIの開発・活用に際しては、その設計・管理を人間の責任のもとで慎重に行う必要があります。
なお、米国の調査会社IDCによると、2021年における世界のAIへの投資額は930億米ドル(約13兆円)にのぼり、2026年には約3,000億米ドル(約40兆円)に達すると予測されています。これらの数字からも、AI技術が今後の社会や経済において中心的な存在となることは間違いないと言えるでしょう。

3. 日本の現状とAIによって変わる仕事の未来
AIの発展により、「人間の仕事が奪われるのではないか」という懸念が広がっています。現在の日本は、AI技術の急速な進化による影響と、少子高齢化という二重の課題に直面しており、今後の労働環境には大きな変化が予想されます。
『10年後のハローワーク』の中で川村秀憲教授は、10年後の社会において「どのような仕事がなくなり、どのような仕事が残るか」について、明確な視点を提示しています。教授は仕事を「意思決定」と「作業」に分類し、そのうち作業の多くはAIに代替されると述べています。すなわち、「自分で何をするかを決める仕事」は残り、「人から言われて行う仕事」はAIに置き換えられていくという考え方です。

◆ 10年後になくなる可能性が高い仕事

  • 事務作業
  • レジ打ちや受付
  • 警備、建設、運転などの肉体労働
  • データ入力や定型業務

これらは共通して「単純作業」や「パターン化が可能な業務」であり、AIが最も得意とする分野に該当します。
さらに川村教授は、AIの進化が高度な知的作業にも大きな影響を与えると指摘しています。たとえば、ホワイトカラー職の省力化はもちろんのこと、医師、弁護士、プログラマーのような、これまで社会的地位が高いとされてきた職業にも変化が及ぶとしています。
これらの職種においては、

  • 情報を整理する
  • 内容を要約する
  • 質問に答える
  • 前例を調べて資料を作成する

といった業務がAIに代替される可能性が高いと予想されます。

◆ 10年後になくなりにくい仕事

  • 営業、コンサルティング
  • 芸術や創造的な活動
  • 介護や児童保育
  • カウンセリング

これらの職業には、人間ならではの感情理解・判断力・柔軟な対応が求められ、現段階のAI技術では完全な代替は困難とされています。
たとえば医師の仕事も、AIによって「診断のプロセス」は大きく変わると考えられています。AIが患者のデータを分析し、診断結果を提示するようになれば、医師の役割はその情報をもとに患者の価値観や希望を聞き取り、治療方針を共に決めていく方向へとシフトします。
若い患者が早期の根治を目指すのか、高齢者が穏やかな治療を望むのかといった選択肢に寄り添い、人間的な対話を通じて最適な対応を行うことが、医師やコンサルタントに求められる重要なスキルとなっていくでしょう。

今後ますますAIの能力が高まっていく中で、私たちが問われるのは「AIにできること」と「人間にしかできないこと」をどう見極め、自分自身の役割をどう再定義するかということです。その意味で、AIと共存しながら未来の働き方をデザインしていく視点は、これからの時代に不可欠であるといえるでしょう。

4. 10年後に必要とされる人になるための思考法
AIの進展によって、働き方や「働くこと」に対する価値観は今後大きく変化していくと予想されます。川村秀憲教授は、『10年後のハローワーク』の中で、これからの時代に必要とされる人材になるための7つの視点を提示しており、その一つひとつが非常に示唆に富んでいます。

1)整えられた道よりも、迷路を選ぶ
変化の激しいこれからの社会では、「変化に対応できる人」が生き残る鍵を握るとされています。AIは特にホワイトカラーの業務効率化を進め、「椅子取りゲーム」のように限られた職の取り合いが激しくなるでしょう。
そのような時代においては、整備された道を進むよりも、むしろ「迷路に足を踏み入れる」ことが活路となります。つまり、自ら考え、リスクを取って新しい道を切り開く姿勢が重要です。
たとえば、起業はかつてよりも金銭的・制度的なハードルが下がりつつあります。AIを活用すれば、経験豊富な人材を雇用しなくてもビジネスをスタートできる時代になりつつあります。AIは、起業家にとってのリスク軽減と競争力強化の両面において、大きな支えとなるのです。

2)お金のための労働から距離を置く
AI時代は、誰もが「好きなこと」で生きていける可能性が広がる時代です。同時に、企業における「椅子」は劇的に減少します。かつて10人で行っていた業務を、5人、3人、さらには経営者1人でこなせるようになる未来がすぐそこにあります。
AIの力を使うことで、経営者は労働力への依存を減らし、資本をより効率的に運用できるようになります。結果として、経営者になるハードルは以前よりも大幅に下がり、成功すれば「労働から解放される人生」への道も開かれるのです。

3)「若いころの苦労は買え」と言われても、買わない
これまでの日本社会では、新卒一括採用や年功序列、終身雇用のもとで「若いころの下積み」を経験することが当たり前とされてきました。しかし、AIの普及により、その必要性は大きく薄れつつあります。
アシスタント的な業務はAIが担うようになり、企業は「決断を下せる人」や「即戦力となる人」を重視するようになります。教育コストをかけて育てる時代ではなく、「いま何ができるか」が問われる時代なのです。
今後評価されるのは、「誰も知らないことを学び、誰にもできない価値を生み出せる人材」です。そうした人が、高い報酬で評価されるようになります。

4)将来を憂う前に、「転職のハードル」を下げてみる
AIによって働き方が急速に変わる中、変化に不安を感じる人も少なくありません。しかし、不安にとらわれるよりも、外部からの評価を受ける機会を積極的に持つことが、未来への第一歩となります。
現状に危機感を覚える人や、現在の評価に満足していない人は、転職市場で自身のスキルや価値を客観的に見直すことをお勧めします。その過程で、どんな知識やスキルが求められているのかが明確になり、「何を学ぶべきか」という方向性を見出すことができます。
これはリスキリングやリカレント教育の観点からも、非常に価値のある行動といえるでしょう。

5)ウルトラニッチを狙う
自分の「好きなこと」や「関心のあること」を出発点としながら、ビジネスとして成立する分野を探していくことが重要となります。キーワードは「ウルトラニッチ」、つまり、誰もやっていない領域を見つけ出すことです。
その際、以下のようなマトリクスで自分の立ち位置を考えると良いでしょう:

  • やりたいこと・夢中になれること(自分軸)
  • 市場に存在しているかどうか、ビジネスとして成立するか(外部軸)

AIを活用すれば、スモールビジネスでも一人で顧客を獲得し、十分に収益を得ることが可能になります。まさに、AI時代の働き方や稼ぎ方のヒントがここにあります。

6)流行に身を任せるのは、「自分で考えない人生」の延長である
不安だからといって、ただ流行に乗るだけでは意味がありません。学校で良い成績をとるような従来の優等生型スキルは、AIによって代替されやすい分野です。
大切なのは、「今、自分は何をしたいのか」を軸に据えて学びを構築することです。年齢に関係なく、「どのように生きたいか」「そのために何が必要か」を自ら決定し、自分の中の価値を発見し磨き直していくことが、AI時代における真のリスキリングといえます。

7)「成功する変人」を目指す
AI時代に成功する人物像は、「変人」です。つまり、他人と同じことをするのではなく、自分の信じる道を突き進める人です。
言われた通りの作業をこなして時間を切り売りする働き方は、やがてAIに取って代わられます。そのとき、「時代の犠牲になった」と嘆くか、「好きなことをして生きられる、最高の時代が来た」と捉えるかで、人生は大きく変わります。
AIに任せられる仕事を手放し、人間にしかできない創造的な活動や独自の価値創出に力を注げば、より自由で豊かな人生を送ることができるでしょう。

5.まとめ ― AI時代に求められる人間の価値 ―
AIの進展は、私たちの生活をより豊かで便利なものにする一方で、従来の職業構造や働き方に大きな変化をもたらしています。しかし、「仕事がなくなる」という現象は、決して「人間が不要になる」ということを意味するわけではありません。
むしろ、AIの進化は、私たち人間に対して「何を学ぶべきか」「どのように価値を生み出すのか」といった、本質的な問いに向き合わせるきっかけとなっています。これは単なる技術革新ではなく、人間の役割そのものを見直し、社会のあり方を再構築するような深い「変革」であるといえるでしょう。
現代社会においてAIは、企業の業務効率化を推進し、消費者の利便性向上にも大きく寄与しています。その影響力はますます拡大し続けており、これからの時代における「人間の価値」は、より一層問われることになるでしょう。
このような変化の中で、今後求められるのは、AIには代替できない創造性、柔軟な思考力、そして人間ならではの共感力です。AIと競争するのではなく、AIをパートナーとして捉え、共存しながら自身の価値を高めていく姿勢こそが、これからの社会をたくましく生き抜くための鍵となります。

参考文献:10年後のハローワーク 川村 秀憲 (著)  2024年

(つづく)吉末直樹