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食品安全マネジメントシステムの基礎

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ここでは、食品安全マネジメントシステム(FSMS)の基礎について概要を解説します。

第1回 1. 食品衛生の一般原則/2. 一般的食品衛生管理の重要

食品安全マネジメントシステムの構築および審査では、基本となる一般的食品衛生管理やHACCP手順の理解が重要となります。今回は、衛生管理の国際基準である「食品衛生の一般原則」について解説します。

1. 食品衛生の一般原則

 HACCP(危害分析重要管理点)と呼ばれる衛生管理手法は、あらかじめ予想される危害(Hazard)を特定し、その危害を防止する管理点(重要管理点)を定めて集中的に衛生管理を行うシステムですが、これだけで食品の安全確保が実現できるものではありません。HACCPシステムの構築には、その前提となる一般的食品衛生管理(Prerequisite Programsと呼ばれます)の仕組みが整備されていて、確実に実施できることが必要となります。この一般的食品衛生管理では、衛生的な設備・機器の使用と保守点検、食品製造に関わる衛生的な作業方法や作業者の衛生管理が対象となります。
 現時点における、一般的食品衛生管理の国際的な基準は、1997年にCODEX委員会(国連のFAO(食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)による合同食品規格委員会)により発行された「食品衛生の一般原則に関する国際規則(Recommended International Code of Practice General Principles of Food Hygiene)」(CAC/RCP 1-1969 Rev.3)です。この国際規則では、食品衛生管理にHACCP手法を適用することを目的として、その適用のための基礎となる衛生管理項目について、管理すべき内容が記述されています。日本の食品衛生法をはじめ、各国の法規制の中には、この「食品衛生の一般原則」に基づいた内容が取り入れられています。以下に、「食品衛生の一般原則」の構成(目次)を記載します。

食品衛生の一般原則 
  1. 目的
  2. 範囲、使用及び定義
  3. 原材料の生産
  4. 施設:設計及び設備
  5. 取扱いの管理
  6. 施設:保守管理及び衛生
  7. 施設:人の衛生
  8. 輸送
  9. 製品の情報及び消費者の意識
  10. 教育・訓練
2.一般的食品衛生管理の重要性

 HACCPシステムそのものには、食品の取り扱い前の手洗い、設備・機器類の日常の清掃などという基本的なこと、守られていて当然のことは含まれていません。また、HACCPシステムの中で重点管理される工程以外の衛生管理については、一般的食品衛生管理の仕組みの中で管理することになります。
 HACCPの基本的な考え方は、重要な危害の発生防止に焦点を絞り、特定の工程での管理を徹底することにあります。しかし、一般的食品衛生管理の実施が不充分であると、安全確保のために多くの管理点が必要となり、HACCP本来の重点管理ができなくなってしまいます。したがって、最初のステップとしては、すべての工程について一般的食品衛生管理の手順を整備して、HACCPにおける重要管理点の数はできるだけ少なくする必要があります。

第2回 3. HACCPシステムとその適用に関する指針

 現在、HACCP実施のための国際的な基準になっているのは、1997年にCODEX委員会により改正発行された「HACCPシステムとその適用に関する指針(HACCP SYSTEM AND GUIDELINES FOR ITS APPLICATION、Annex to CAC/RCP 1-1969,Rev.3)」です。この「HACCPシステムとその適用に関する指針(CODEX:HACCPガイドライン)」は、「食品衛生の一般原則に関する国際規則」の付属書(Annex)として公表されており、食品衛生の一般原則の適用をベースとして使用することが意図されています。その構成(目次)は下記のようになっています。

HACCPシステムとその適用に関する指針
  1. 序文
  2. 定義
  3. HACCPシステムの原則
  4. HACCPシステムの適用の指針
  5. 適用(12手順)
  6. 教育訓練
  7. 付図

 この“CODEX:HACCPガイドライン”は、各国の行政機関または食品関連組織が、HACCPの考え方を採り入れて食品安全管理の仕組みを構築していくための指針であり、法的強制力をもつ仕組みを設けるかどうかも含めて、その採用方法は各国の判断に任されています。我が国の「食品衛生法」における“総合衛生管理製造過程承認制度”も、このCODEX:HACCPガイドラインに基づいて作成されています。このガイドラインは、第三者による認証を目的とした規格ではありませんが、現時点では国際的に最も広く適用されているHACCPの基準となっています。
 CODEX:HACCPガイドラインの“序文”では、文書の構成や目的、適用範囲などが述べられていますが、以下にその概要を記載します。

  • この文書は、“HACCPの原則”と“HACCP適用の一般指針”で構成される。
  • HACCPは、起こりうる危害を評価し、最終製品検査に依存しないで、危害発生を防止する管理方式である。
  • HACCPは、一次生産者から最終消費者まで、すべての過程に適用可能である。
  • 科学的根拠に基づいて実施される。
  • HACCPの成功には、経営者、作業者、各分野の工学的専門家の協力と参加が必要である。
  • HACCPは、ISO9000シリーズのような品質マネジメントシステムと両立できる。

第3回 3. HACCPシステムとその適用に関する指針(つづき)

 CODEXの「HACCPシステムとその適用に関する指針(HACCP SYSTEM AND GUIDELINES FOR ITS APPLICATION、Annex to CAC/RCP 1-1969、Rev.3)」の“5.適用”では、HACCPを実施するために必要な12手順が示されています。この12手順は、HACCPの7原則と、これを実施するために必要な5つの手順が組み合わされた構成になっています。

HACCP適用のための論理的手順
  • 手順1.HACCPチームの編成
  • 手順2.製品の記述
  • 手順3.意図する用途の特定
  • 手順4.フローダイアグラムの作成
  • 手順5.フローダイアグラムの現場確認
  • 手順6.危害分析の実施 [原則1]
  • 手順7.重要管理点(CCP)の決定 [原則2]
  • 手順8.各CCPの管理基準の設定 [原則3]
  • 手順9.各CCPの監視システムの確立 [原則4]
  • 手順10.修正措置手順の確立 [原則5]
  • 手順11.検証手順の確立 [原則6]
  • 手順12.文書・記録の保管体制の確立 [原則7]
(1)「手順1」HACCPチームの編成

準備段階での第一歩は、HACCPチーム(専門家チーム)の編成です。HACCPチームは、食品安全に関係する様々な専門知識と経験をもつ、各分野の専門家で構成されていなければなりません。必要な場合には、組織外部の専門家に参加してもらうことも可能です。製品の企画設計、研究開発、製造加工、設備機器の洗浄保守、衛生品質管理、微生物検査、その他営業部門などの参加も必要になるでしょう。
HACCPチームの役割は、適用範囲の明確化、HACCPプランの開発と確実な実施の管理、システムの検証などですが、この他に、責任者によるHACCPシステム構築への取り組み宣言(組織内への周知徹底)、一般的衛生管理プログラムの作成、従業員に対する衛生管理教育の計画と実施、などが含まれることもあるでしょう。

第4回 3.HACCPシステムとその適用に関する指針(つづき)

(2)「手順2」製品の記述

管理の対象となる“製品(食品)”が、どのようなものであるかを明確にします。製品の名称、種類/分類、原材料、添加物、成分組成、重量/容積、水分活性Aw、pH、殺菌/静菌を含む処理方法(加熱、冷凍、塩蔵など)、包装資材と方法、保存条件、消費期限/賞味期限、配送方法などに関して、必要な情報を一覧表に記述しておきます。製品に関係する規格、基準、安全管理上の基準などもわかるようにしておきます。

注) 水分活性:Aw = (食品の蒸気圧)/(純水の蒸気圧)、Awが1に近いほど微生物が利用できる自由水が多く増殖しやすい。

第5回 3.HACCPシステムとその適用に関する指針(つづき)

(3)「手順3」意図する用途の特定

製品が、そのまま生で食べられるものか、加熱調理されるのか、または、それを原材料として、さらに加工されるものかなどを、あらかじめ明確にしておくことが必要です。また、健康被害を受けやすい特定の消費者に利用される可能性(例えば、乳幼児や高齢者用の食品、福祉施設、病院での給食など)についても考慮しておかなければなりません。これらは、この後の危害分析の実施において、たいへん重要な情報となります。

「製品の記述」と「意図する用途の特定」については、まとめて一覧表にしておくとわかりやすいでしょう。

第6回 3.HACCPシステムとその適用に関する指針(つづき)

(4)「手順4」フローダイアグラムの作成

危害分析を実施する前に、原材料や添加物、包装資材などの受け入れから、加工、製造、保管、出荷、配送までのすべての作業の流れがわかるフローダイアグラム(工程図)を作成します。主原料の処理に関する工程だけでなく、添加物、容器・包装資材、使用水などについても、それを使用する工程がわかるようにしておきます。このとき、危害防止に関係する“作業パラメータ”(加熱/冷却温度、時間、pH、濃度など)も記載しておくとよいでしょう。フローダイアグラムは、通常HACCPチームが作成します。
また、工場などの施設内における交差汚染の可能性を検討するため、製品や作業者の動きがわかる施設平面図を作成することも必要です。

第7回 3.HACCPシステムとその適用に関する指針(つづき)

(5)「手順5」フローダイアグラムの現場確認

フローダイアグラム(工程図)には、すべてのプロセスや作業が含まれていることが必要です。フローダイアグラムが完成したら、実際の工場/現場作業と相違がないかどうか、一つ一つ検証しなければなりません。机上で検討したものと実際の製造ラインとは異なることがよくあります。このような場合には、フローダイアグラムと製造ラインの見直しが必要となります。これらの作業も、通常はHACCPチームが実施します。

第8回 3.HACCPシステムとその適用に関する指針(つづき)

(6)「手順6」危害分析の実施

いよいよ、HACCPの中心となる“危害分析”の実施です。HACCPチームは、原材料、資材などの受け入れから、加工、製造、保管、配送などの各工程において、“合理的に起こり得ると予想されるすべての「危害要因(ハザード)」”を検討し、危害分析表にまとめていきます。食品に関連する危害は、通常以下のように「生物学的」、「化学的」、「物理的」危害の3つに分類されています。

  • 「生物学的危害」:病原菌、ウイルス、寄生虫など
  • 「化学的危害」:自然毒(毒キノコ、フグ毒、貝毒など)、殺虫剤、合成洗剤、残留農薬・医薬品、 有害な添加物・着色料、アレルギー物質、重金属類、ヒスタミンなど
  • 「物理的危害」:金属片、ガラス片、その他の固形異物

ある工程で、上記のような危害要因の混入、生残、生成、増殖などが予想され、それが次の<1>または<2>に該当する場合には、どこかの工程でこれを管理する必要がありますので、すべて抽出しておかなければなりません。

  • <1>通常の状態で、起こりやすい。
  • <2>消費者が受け入れられない程度の健康被害をもたらす。

次に、これらが「重大な危害」かどうかを検討していきますが、一般には“<1>×<2>の大きさ”によって決定されます。この決定は、食品危害に関する知識や経験、法規制、食中毒に関するデータ、技術文献などの情報を組み合わせて判断することになりますので、危害分析を行うHACCPチームには、食品危害、特に生物学的危害に関する知識をもった専門家が必要になります。

さらに、HACCPチームは、それぞれの危害に適用できる防止方法(管理方法)を検討します。この防止方法には、通常以下の3つの考え方があります。

  • 1)危害要因の混入などを防止する。
  • 2)混入した危害要因を除去する。
  • 3)危害またはその影響を許容レベル以下に減少させる。

実際の「危害分析表」の作成では、「手順4、5」で作成したフローダイアグラム(工程図)にしたがって、工程ごとに予想される3種類の危害を列挙し、その危害の評価、防止方法の特定を行って、重要管理点(「手順7」参照)とするかどうかを判断していきます。

第9回 3.HACCPシステムとその適用に関する指針(つづき)

(7)「手順7」重要管理点の決定

 危害分析を実施したら、重要管理点(Critical Control Point;CCP)となる工程を特定します。CCPは、それ以後の工程では危害を防止することができないため、その危害を確実に管理することが必須となる工程のことです。このため“必須管理点”と呼ばれることもあります。CCPは、あまり多く設定すると重点管理の意義がなくなってしまう可能性がありますので、注意が必要です。

 CCPで実施する危害の防止方法には、以下のようなものがあります。

  • 添加物の使用により、病原菌の増殖を防止する。  
  • 加熱により病原菌、ウイルスなどを殺菌する。
  • 異物混入を、自動選別機(金属探知機など)や手作業により排除する。
  • 購買品の納品書や表示確認
  • アレルギー物質等の製品表示

CCPは、製品や製造プロセスに固有のものですので、原材料の組成、梱包、製造方法、使用装置、工場レイアウトなどが変化すれば、CCPも変化します。危害分析において、CCPには特定されなかった危害の可能性のある工程は、「一般的衛生管理」の仕組みで管理することになります。

第10回 3.HACCPシステムとその適用に関する指針(つづき)

(8)「手順8」管理基準の設定

 重要管理点CCPを決定したら、それぞれのCCPに対して管理基準(許容限界、Critical Limit)を設定します。管理基準として使用されるパラメータには、温度、時間、水分レベル、pH、有効塩素などの計測値、または、外観や手触りのような人の感覚(官能検査)があります。
管理基準として設定するためには、製造工程中に、その基準が守られていることが確認でき、基準を逸脱した場合には、速やかに適切な処置を行えるものでなければなりません。たとえば、食品中の病原菌の有無そのものを管理基準としてしまうと、検査には数日間を要するのが普通ですので、管理基準からの逸脱を適切なタイミングで監視することができません。もし病原菌の有無が、加熱した製品の内部温度と保持時間に影響されることがわかっていれば、製品の大きさ、全体の加熱温度、加熱時間を管理基準にすることができるでしょう。
なお、管理基準を設定するためには、解析や実験の結果、過去の経験を含む統計データなど、客観的な裏付けとなるデータがなければなりません。

第11回 3.HACCPシステムとその適用に関する指針(つづき)

(9)「手順9」各CCPの監視システムの確立

 各CCPの管理基準を設定したら、これが守られているかどうかを監視(モニタリング)しなければなりません。管理基準を逸脱した場合には、正常に処理できなかった製品の修正措置(再加熱や廃棄など)が必要になりますが、どの範囲の製品が対象になるかは、正確な監視記録がなければわかりません。できるだけ連続的に、かつ正確な監視を行うことによって、管理基準からの逸脱がいつ発生したかを特定することができます。
 各CCPの監視手順では、次の4項目を明確にしておくことが必要です。

  • 何を監視するか:冷蔵庫の温度、pH、蒸煮温度、原料ロットの証明書など
  • どのように監視するか:計測機器の使用、人の感覚による官能検査、表示や文書の確認など
  • 監視の頻度は:連続チャート記録、一定時間ごとの測定、バッチ/ロット測定など
  • 誰が監視するか:監視の担当者、責任者(HACCPプランにも明記)

 監視担当者は、その製造ラインの作業者、機械装置の運転者などが該当する場合が多いと思われますが、この担当者は、異常事態の発生と管理基準からの逸脱を直ちに責任者に報告できることも必要です。

第12回 3.HACCPシステムとその適用に関する指針(つづき)

(10)「手順10」修正措置手順の確立

 各CCPの監視において、管理基準からの逸脱が発見された場合、あるいは逸脱が予想される場合には、これを正常な状態に戻すための修正措置をとらなければなりません。「手順10」の修正措置には、大きく分けて次の2つがあります。

  • 基準からの逸脱があった工程、設備、作業を正常な管理状態に戻す。さらに、逸脱の原因を調査し、その原因を除去して再発を防止する。
  • 逸脱の影響を受けた(あるいは影響を受けた可能性のある)製品を確保し、誤ってそのまま出荷されないように区別する。次に、その製品の処分を決定し実施する。

 修正措置は、異常が発生してからその都度対応を決めるのではなく、HACCPプランとして管理計画を作成する段階で、対応の手順、判断の責任者などを事前に決めておくことが必要です。また、逸脱の発見が早いほど、できれば逸脱が起こる前に異常が発見できれば、その後の修正措置がとりやすくなり、不合格品の発生量も小さくなります。このためには、「手順9」の適切な監視システムの確立と、その正確な実施がたいへん重要になります。

第13回 3.HACCPシステムとその適用に関する指針(つづき)

(11)「手順11」検証手順の確立

 HACCPシステムでは、決められた手順をそのとおり実施するだけでなく、これが有効に機能していることを確認する検証(Verification)という活動を行わなければなりません。検証は、HACCPシステムを支える重要な活動ですから、これが適切に実施されていなければ、HACCPを成功させることはできません。検証活動には、次のような要素があります。

  • 目標を定めたサンプリング、試験検査
    たとえば、原料受入れをCCPとし、納品書の記載データを管理基準としている場合、サンプリングによって、実際の原材料品を検査します。
  • 製品の微生物検査
    HACCPプランが適切であることを確認するため、中間製品、最終製品サンプルの微生物検査を実施します。
  • 監視機器、測定機器の校正、校正記録のチェック
  • 内部監査の実施
  • HACCPプランの見直し
    危害の予測、CCPの決定、管理基準設定の根拠などを含めて、HACCPプランの適切性を、必要に応じて見直します。特に,原材料、工程、加工方法、設備などに変更があった場合には、よく検討する必要があります。

第14回 3.HACCPシステムとその適用に関する指針(つづき)

(12)「手順12」文書・記録の保管体制の確立容

 HACCPシステムの確立には、HACCPプラン、管理手順書などの文書、またCCP監視記録などの記録が必要です。文書や記録がないということは、なにも管理していないのと同じことです。HACCPシステムで必要となる文書には、次のようなものがあります。

  • HACCPプラン、その作成根拠となる資料、データなど
  • HACCPチーム責任者、メンバーの構成、その適切性の根拠となる資料
  • CCP監視、修正措置の手順書
  • 検証の手順書
  • 記録は、管理基準が守られていること、逸脱が生じた場合でも適切な処置がとられていることの証拠となります。記録には、次のようなものがあります。

  • CCP監視の記録、監視測定機器の校正記録
  • 修正措置の実施記録
  • 検証活動の記録

 このほか、HACCPシステムの基礎となる一般的な衛生管理に関する手順書、各項目の実施、点検などの記録も必要です。
これらの文書や記録には、正しく管理された状態であることが求められます。すなわち、規定の手順にしたがって作成され、責任者によって確認、承認されていなければなりません。管理台帳を作成して、作成や改訂の履歴を明確にしておくことも必要でしょう。


これで、Codexの「HACCPシステムとその適用に関する指針」の解説を終了します。2005年9月に発行が予定されている“ISO 22000”(食品安全マネジメントシステムの国際規格)は、これまで解説してきました“HACCPの12手順”が基礎になっていますので、まずは“HACCPによる衛生管理の考え方”を十分に理解しておくことをお勧めいたします。


第15回 4. 食品安全ハザード

 食品安全マネジメントシステム(FSMS)では、食品安全ハザードを適切に管理することを主要目的としたシステム構築を求めています。
 食品安全ハザードはISO22000規格では、「健康への悪影響をもたらす可能性がある、食品の生物的、化学的又は物理的物質又はその状態」と定義されており、一般的に、「生物的ハザード」、「化学的ハザード」、「物理的ハザード」の3種に分類されます。
 生物的ハザードとしては、病原菌(病原細菌)やウイルスなど、化学的ハザードとしては、毒キノコやフグ毒などの自然毒、有害な食品添加物、残留農薬など、物理的ハザードとしては、食肉体内に残った注射針、食品加工工程で混入する刃物の破片や機械部品などがあげられます。
 この中でも食中毒の原因としてもっとも多いのは、生物的ハザードです。厚生労働省発表の食中毒発生状況の統計を見ますと、2004年度については、食中毒患者数28,175名のうち、細菌、ウイルスが原因である患者数は25,615名にのぼり、全体の約9割を占めています。

病因物質別 食虫毒発生状況(2004年度)
病因物質  事件 患者 死者
細菌                サルモネラ属菌 225 3,788 2
ブドウ球菌 55 1,298
ボツリヌス菌
腸炎ビブリオ 205 2,773
腸管出血性大腸菌 18 70
その他の病原大腸菌 27 869
ウエルシュ菌 28 1,283
セレウス菌 25 397
エルシニア・エンテロコリチカ 1 40
カンピロバクター・ジェジュニ/コリ 558 2,485
 ナグビブリオ  -  -  -
 コレラ菌   -   -   -
 赤痢菌  1  14  -
 チフス菌  -  -  -
 パラチフスA菌  -  -  -
 その他の細菌 9  61  -
 ウイルス   ノロウイルス  277  12,537  -
 その他のウイルス  -  -  -
 化学物質  化学物質  12  299  -
 自然毒   植物性自然毒  99  354  1
 動物性自然毒  52  79  2
 その他   5  8  -
 不明   69  1,820  
 総 数   1,666  28,175  5

※厚生労働省統計表データベースシステムより

このことから、食品安全を確保する上で、生物的ハザードの管理の重要性とともに、FSMS審査員、FSMS構築担当者(食品安全チーム等)にとって生物的ハザードの知識が不可欠であることがわかります。
(次回は、病原菌について解説致します。)

第16回 5.生物的ハザード ― 病原菌 ―

 前回で述べたとおり、食中毒による事故原因のうち、生物的ハザードである病原細菌によるものがもっとも多いです。
 病原細菌に対してどのような管理が必要か判断する上で、それぞれの病原細菌の性質を理解しておく必要があります。以下、2つの分類について解説します。

(1)芽胞形成菌と非形成菌

 細菌によっては、植物の種子のように芽胞を作るものがあり、芽胞形成菌と呼ばれています。細菌が芽胞を形成すると耐熱性を増し、一般に100℃以下の温度では殺菌できなくなります。缶詰でレトルト殺菌を行うのは、この芽胞を死滅させるためです。耐熱菌として注意しなければならない芽胞形成菌は、バチルス属とクロストリジウム属の2種です。

芽胞形成菌

  • セレウス菌 <バチルス属>
  • ボツリヌス菌、ウエルシュ菌 <クロストリジウム属>
(2)感染型と毒素型

 生きた細菌に汚染された食品を摂取したために、その細菌が体内で増殖して起こす食中毒を感染型と呼びます。この感染型病原菌は、摂取時に多量の生きた菌がいることが必要です。(ただし、腸管出血性大腸菌O-157は例外。)
 この感染型に分類される重要な細菌は、サルモネラ、腸炎ビブリオ、病原大腸菌(O-157含む)、ウエルシュ菌、セレウス菌(下痢型)等です。ウエルシュ菌、セレウス菌は耐熱性があり、加熱済みの食品でも生残ることがあります。
 一方、細菌の中には、増殖時に毒素を生成して、その毒素によって食中毒を起こすものがあり、毒素型(食品内毒素型)と呼ばれます。毒素型菌による食中毒は、食品中に生きた菌がいる必要はなく、毒素があれば食中毒を引き起こします。
 代表的な毒素型菌は、ボツリヌス菌、黄色ブドウ球菌です。ボツリヌス菌の生成する毒素(ボツリヌス毒素)には耐熱性はないが、黄色ブドウ球菌による毒素(エンテロトキシン)は耐熱性があり、加熱しても毒性が残ります。なお、セレウス菌による食中毒には“下痢型”と“嘔吐型”があるが、嘔吐型は毒素によるものと考えられています。

代表的な病原菌の特徴
分類 細菌名 芽胞菌耐熱 存在する食品の例
感染型       サルモネラ 食肉、鶏卵、乳・乳製品 等
腸炎ビブリオ 魚介類(刺身) 等
O-157 食肉、野菜 等
ウエルシュ菌 芽胞 食肉、カレー、シチュー 等
セレウス菌(下痢型) 芽胞 食品、乳、魚介類 等
カンピロバクター 鶏肉 等
エルシニア 豚肉、乳 等
毒素型   ボツリヌス菌 芽胞 食肉、魚介類、いずし、缶詰 等
黄色ブドウ球菌 毒素耐熱 食肉、鶏卵、乳製品、おにぎり 等
 セレウス菌(嘔吐型)  芽胞  穀類 等

※ 感染型のウエルシュ菌とセレウス菌(下痢型)は、食品とともに摂取された後、腸管内で毒素を産生し、食中毒の原因となる細菌であることから、生体内毒素型(中間型)として分類する場合があります。
※ 一般的な細菌は75℃以上1分以上の加熱、芽胞形成菌は120℃以上4分以上の加熱で殺菌出来るとされています。
以上

第17回 6.生物的ハザード ― ウイルス、寄生虫 ―

前回は生物的ハザードの中の病原菌(病原細菌)について説明しましたが、生物的ハザードにはその他、ウイルスや寄生虫等があります。
以下、簡単にそれぞれについて説明します。

(1) ウイルス

 ウイルス(0.1μm程度)は細菌(1μm程度)よりも小さく、遺伝子であるDNAまたはRNAと、たんぱく質の外膜だけからなります。細菌のような細胞構造をもたず、他の生物の細胞に侵入して増殖します。食中毒関連では、生食用魚介類や飲料水による感染が多いです。A型肝炎ウイルス、ノロウイルス(旧名称は、小型球形ウイルス;SRSV)等があります。ノロウイルスによる感染は、カキ等の二枚貝が原因であることが多いが、最近では調理従事者などの手を経て二次汚染されたサンドイッチ、弁当などさまざまな非加熱食品が媒介食品となっています。

(2) 寄生虫

 海水魚、淡水魚、豚肉等の生食、また感染動物の糞便によって汚染された野菜や果実の生食によって感染することがあります。肝吸虫、アニキサス、トキソプラズマ等があります。

第18回 7.生物的ハザード ― ノロウイルス情報 ―

ここ2回は生物的ハザードについて説明してきましたが、今回は最近ニュース、新聞でもよく報道され、食品安全においては生物的ハザードとなるノロウイルスについて、その情報が得られるインターネットサイトをご紹介します。感染対策としてはもちろん、組織、審査員の立場として参考として下さい。

第19回 8.化学的ハザード

 今まで3つある食品安全ハザードのうち生物的ハザードについて解説してきましたが、今回は他の2つである「化学的ハザード」と「物理的ハザード」について解説します。

(1)化学的ハザード

化学的ハザードには、

  • 毒キノコやフグ毒等の植物性/動物性自然毒
  • 不許可あるいは過剰の食品添加物
  • 抗生物質やホルモン剤等の動物用医薬品
  • 食品機械等に使用する潤滑油
  • 洗浄剤
  • 殺虫剤
  • 除草剤等の農薬
  • アレルギー物質
  • ヒスタミン(有害アミン)

等があります。

 アレルギー物質については、食品衛生法により、アレルギー物質を含む加工食品・食品添加物(容器包装入り)について、その表示をすることが義務づけられています。(2002年4月)

表示義務のあるもの(特定原材料) 卵、乳、小麦、そば、落花生(計5品目)
表示が奨励されているもの(準特定原材料) あわび、いか、いくら、えび、オレンジ、かに、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン、バナナ(計20品目)

 
*特定加工食品
  特定原材料等が含まれていることがわかる加工食品は、その食品の名称でよい。
 例;マヨネーズ(卵)、パン(小麦)、うどん(小麦)、するめ(いか)、 醤油(大豆)、味噌(大豆)

(2)物理的ハザード

物理的ハザードとなる異物には、健康に直接影響するものと、そうでないものとがあります。
 直接影響するものとしては、食肉体内に残された注射針や散弾の破片、水産物に残ったつり針、金属やその他の異物、食品加工工程で混入する刃物の破片、ガラス片、プラスチック片、機械部品等があります。
 また、直接的な健康被害はほとんどないと考えられる異物には、毛髪や爪片等があります。
 物理的ハザードの管理手段としては、金属検知機、X線検査機等によってこれらの混入を検知し、識別排除することが行われていますが、最初から異物が混入しにくいような加工処理方法、設備機器の工夫が必要です。

第20回 9.食品安全に関する法規制

食品安全マネジメントシステム(FSMS)の構築、又は審査をするに当たり、食品安全法規の知識は必須です。
FSMSについて規定しているISO 22000においても、法規制遵守が求められています。
今回より、食品安全に関わる法規制について解説しますが、まずは、ISO 22000と法規制との関係から始めたいと思います。

ISO 22000では、下記条項で法規制に関する記述があります。

  • 5.1 b) 経営者のコミットメント
  • 5.2 b) 食品安全方針
  • 5.6.1 外部コミュニケーション
  • 5.6.2 h) 内部コミュニケーション
  • 7.2.2 PRP
  • 7.2.3 PRP
  • 7.3.3.1 原料、材料及び製品に接触する材料
  • 7.3.3.2 最終製品の特性
  • 7.3.5.2 工程の段階及び管理手段の記述
  • 7.4.2.3 許容水準の決定
  • 7.9 トレーサビリティシステム

 ISO 22000では直接的にある特定の法規制を遵守することは要求していなく、“法令・規制要求事項を、確実に満たすことのできるマネジメントの仕組みがある”ことを求めています。
 FSMS審査では、法規制や業界等の規制事項に関して、直接的に適合の合否を審査することはありません。審査で確認することが必要になるのは、組織が遵守すべき法規制やその他の規制要求事項をどのように入手しているか、それらをどのように最新化しているか、さらには対応が必要な製品設計や製造工程に対して、必要な情報が伝達され、確実に遵守できる仕組みができているかどうかです。
 遵守するべき法規制が規格で特定されていないということは、ISO 22000に基づくFSMSの仕組みを構築する際、組織自らが遵守する必要がある法規制は何かを判断し、決めることになります。
 このことから、組織のFSMSの運用・管理に携わる担当者、及び組織の判断が適切かどうかを審査するFSMS審査員に法規制知識が備わっていることの重要性が理解できると思います。

 次回は、日本における食品安全法規の中の、飲食によって生ずる危害の発生を防止するための法律である「食品衛生法」について解説します。

第21回 10.食品衛生法の体系

 今回は、「食品衛生法」の具体的内容に入る前に、食品衛生法の体系について簡単に説明します。食品衛生法は、消費者保護を基本とした包括的な食品の安全確保のための法律として2003年7月1日施行された「食品安全基本法」をはじめとして、以下のような体系となっています。

食品安全マネジメントシステム 食品衛生法の体系

 また、法規制の分類について理解することは、その法規制の位置づけを把握するうえでの助けとなりますので、以下も参考としてください。

法律 国会の議決を経て成立する法
政令 内閣が制定する命令(○○施行令)
省令 各省大臣が発する命令(○○施行規則)
告示 公の機関がある事項を公式に広く一般に知らせる行為
通達 各大臣、各委員会・各庁の長が所管の諸機関や職員に伝達する形式の一種(法令の解釈や運用方針に関するものなど)
条例 地方公共団体が制定する法規

第22回 11.食品安全基本法

 食品安全基本法は、近年の食品安全、不透明な流通経路、不正表示問題等の表面化を背景として、2003年5月に制定されました。以降、この食品安全基本法に基づいて食品安全に関わる関連法が検討され、必要な改正が行われることとなりました。
 食品安全基本法の概要は以下の通りです。

食品安全マネジメントシステム 食品安全基本法

食品安全委員会ホームページより 

 また、食品安全基本法(第22条)に基づき、内閣府に「食品安全委員会」が設置されました(2003年7月1日)。食品安全委員会は、規制や指導等の“リスク管理”を行う行政機関から独立して、科学的知見に基づいて、客観的かつ中立・公正に“リスク評価(健康影響評価)”を行う機関です。食品安全委員会は7名の委員で構成され、その下に専門調査会が設置されています。専門調査会には、企画、リスクコミュニケーション、緊急時対応、さらに危害要因ごとの13の評価チームがあります。

第23回 12.食品衛生法

 国内で製造される食品については、1947年に公布された「食品衛生法」に基づいて、有害・有毒な食品の販売の禁止、規格基準に適合しない食品の販売禁止、違反のおそれがある食品の検査・収去、食中毒原因施設の営業停止等の規制が行われています。都道府県等の食品衛生監視員(都道府県衛生部、保健所)が、その監視や指導を行っています。
 1995年に制定された「総合衛生管理製造過程承認制度」は、この「食品衛生法」を改正して導入されたものです。
 なお、この法律は、BSE(牛海綿状脳症)問題や偽装表示問題等を契機とする食品安全に対する不安や不信感の高まりを受け、行政や事業者の責務を明確にし、消費者を含むリスクコミュニケーション手法を取入れた、大幅な改正が行われています。(2003年5月)

1.目的 食品衛生法の概要

 食品の安全性確保のための規制や措置、衛生上の危害発生の防止、国民の健康の保護(2003年5月30日改正公布)

2.責務

(1)国・地方自治体の責務

  • 情報の収集・提供、体制の整備、国際連携等

(2)食品事業者の責務

  • 安全確保、自主検査、記録作成・保存、危害発生時の措置等
3.対象
  • 食品、食品添加物、器具、容器包装等
4.規制内容

(1)食品・食品添加物

  • 有害食品(腐敗、有毒・有害、病原微生物、異物混入等)等の販売、製造、輸入等の禁止
  • 規格基準違反品の販売、製造、輸入の禁止
  • 表示

(2)器具、容器包装

  • 食品と同じ規制
5.規制方法

(1)国内監視

  • 食品監視・検査(立入検査を含む)、営業の許可

(2)輸入食品監視

  • 輸入食品の届出・検査
6.行政強制
  • 営業許可の取り消し、営業の停止
  • 法律違反食品の廃棄処分
  • 改善命令

第24回 13.食品衛生法(つづき)

 前回の食品衛生法(以下、法)の説明のなかで触れた「総合衛生管理製造過程承認制度」について今回は説明します。

 「総合衛生管理製造過程」とは、法第13条において、“製造または加工の方法及びその衛生管理の方法につき食品衛生上の危害の発生を防止するための措置が総合的に講じられた製造または加工の過程”と定義されています。これは、HACCPシステムによる衛生管理、及びその前提となる施設・設備、作業面での衛生管理を行うことにより、総合的に衛生が管理された食品の製造または加工工程を意味しています。

 総合衛生管理製造過程の承認とは、HACCPシステムの考え方に基づいて、各企業が自ら設定した個別の食品の製造、加工、衛生管理の方法について、厚生労働大臣が基準への適合を承認するものです。この承認を受けたものは、法第11条の製造、加工基準によらない製造加工が可能となります。承認制度は3年の有効期間が設けられ、承認の継続には、3年毎に更新を受ける必要があります。

「総合衛生管理製造過程承認制度」 実施要領の概要
  1. 目的
    「食品衛生法」に規定する総合衛生管理製造過程を経て製造し、または加工することについての承認について、厚生労働省及び都道府県等が行う事務、営業者が行う申請手続等を定めている
  2. 要旨
    • (1) 営業者は、食品衛生法施行規則、または乳及び乳製品の成分規格等に関する省令に規定する申請書に、資料を添えて申請する
    • (2) 厚生労働省は、提出された書類を確認し、営業者が作成した総合衛生管理製造過程の食品の製造または加工の方法及びその衛生管理の方法が、基準に適合していることを確認した場合には、営業者に承認した旨を通知する
    • (3) 厚生労働省及び都道府県等は、承認に係る総合衛生管理製造過程が確実に実施されていることを確認する
    • (4) 厚生労働省及び都道府県等は、営業者が承認に係る総合衛生管理製造過程の食品の製造または加工及びその衛生管理を確実に実施するための技術的、専門的な支援を行う
    • (5) 営業者は、総合衛生管理製造過程の食品の製造または加工及びその衛生管理を確実に実施するため、HACCPシステムに係る教育訓練を受け、その知識の習得に努める
  3. 以下、下記の項目について規定がある。

  4. 総合衛生管理製造過程に関する評価検討会
  5. 承認基準
  6. 申請書作成時の留意事項
  7. 承認の申請手続等
  8. 審査
  9. 承認
  10. 承認後の事務
  11. 変更申請に係る申請手続等
  12. 講習会の受講等
  13. その他

第25回 14.獣蓄肉、食鳥の法規制

 食品を規制する法令には、厚生労働省管轄の法規制と農林水産省管轄の法規制があります。前回まで説明してきました「食品衛生法」は、厚生労働省管轄の法規制に当たります。その他、厚生労働省管轄の法規制として、食肉に関する以下のものがあります。

(1)獣畜肉

「と畜場法」によって、食用に供する獣畜の処理が規制されています。


「と畜場法」の概要

  1. 原則として、と畜場以外での獣畜のと殺・解体の禁止
  2. と畜検査員の行う検査を経た獣畜以外のと殺の禁止
  3. と殺後、と畜検査員の行う検査を経た獣畜以外の解体の禁止
  4. 検査の結果、獣畜が疾病にかかり食用に供することができないと認めたとき、または、病毒を伝染させるおそれがあると認めたとき、と殺・解体の禁止、と畜場内の消毒、肉等の廃棄等の命令(都道府県知事)
  5. “O-157”による食中毒の防止に関連して、と畜場等の衛生管理や構造設備の基準を強化する観点から、と畜場法施行規則を改正(1996年12月)

(2)食鳥

 「食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律」によって、食鳥処理の事業について規制が行われています。また、食鳥肉の微生物汚染防止対策として、食鳥処理場に対してHACCP方式による衛生管理の導入が進められています。


「食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律」の概要

  1. 食鳥処理業者に対する食鳥処理に従事する者を監督する食鳥処理衛生管理者の設置義務
  2. 食鳥検査員の行う検査を経た食鳥以外のと殺の禁止
  3. と殺後食鳥検査員の行う検査(脱羽後検査)を経た食鳥以外の内臓摘出の禁止
  4. 内臓、及び食鳥中抜きとたいの体壁内側面の検査(内臓摘出検査)の義務
  5. 食鳥検査に合格しなかった食鳥、食鳥とたい等の消毒、廃棄等の措置義務(食鳥処理業者)
  6. 食鳥が疾病にかかり、食用に供することができないと認めるとき、または病毒を伝染させるおそれがあると認めるとき、と殺・羽毛の除去・内臓摘出の禁止、食鳥処理場内の消毒、食鳥・とたい等の廃棄等の命令(都道府県知事)

次回は、農林水産省管轄に係る法規制について説明します。

第26回 15.農林物資の規格、品質表示

 前回までは、食品を規制する法令のうち、厚生労働省管轄の法規制について見てきましたが、今回は農林水産省管轄の法規制について紹介します。

農林物資の規格、品質表示

「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」(JAS法)において、対象となる農林物資の品目が指定され、日本農林規格(JAS規格)が制定されています。農林物資とは、酒類、医薬品等を除く以下のもので、この中の政令で定められたものが規格の対象となっています。

<農林物資>

  • 1)飲食料品、油脂
  • 2)農産物、林産物、畜産物、水産物、並びにこれらを原料または材料として製造、加工した物資

 JAS規格の一部には、食品の安全性に影響する品質基準が取込まれており、格付を受けたJAS製品については“独立行政法人 農林水産消費安全技術センター”が流通製品の買上検査を実施して、品質チェックを行っています。

 また“有機農産物”、及び“有機農産物加工食品”については、従来から曖昧な表示が行われていたが、国際取引に関するWTOの協定もあり、国による認証制度が必要になりました。1999年、JAS法改正により「有機食品の検査認証制度」が導入され、この制度に基づく製品への表示が行われることとなりました。2001年4月から施行されています。


「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」(JAS法)の概要

  1. 目的
    • 日本農林規格(JAS規格)の制定、普及により、農林物資の品質の改善、生産の合理化、取引の単純公正化 及び使用または消費の合理化を図る。
    • 農林物資の品質に関する適正な表示を行い、一般消費者の選択に資する。
  2. 主な内容
    (1)JAS規格の制定
    (2)JAS規格による格付

    • ①登録認定機関により認定を受けた製造業者等による格付
      • 登録認定機関から認定を受けた製造業者等は、製造、加工等する農林物資について、日本農林規格による格付を行い、格付をしたことを示す表示(JASマーク)を付することができる。
      • 有機農産物等もこの仕組みにより格付され、有機JASマークが付される。

    (3)飲料・食品の品質表示

    • ①農林水産大臣は、一般消費者向けのすべての飲料・食品について品質表示基準を制定し、製造業者または販売業者に対しては、表示を義務付ける。

      <品質表示基準の例>

      • 生鮮食品
        すべての生鮮食品につき、一般名称、原産地の表示を義務づけ。(2000年7月1日~)
      • 加工食品
        すべての加工食品につき、一般名称、原材料名、賞味期限等の表示を義務づけ。(2001年4月1日~)
      • 遺伝子組換え食品
        遺伝子組換え食品につき、組換えられたDNA、またはこれによって生じたタンパク質が存在するものについて、遺伝子組換え農産物を使用している旨の表示を義務づけ。(2001年4月1日~)
    • ②表示義務に違反した製造業者等に対する処置
      • 表示を行うべき旨の指示
      • 措置を執るべき旨の命令
      • 罰則の適用(個人は1年以下の懲役または100万円以下の罰金、法人は1億円以下の罰金)

    (4)JAS規格は5年ごとに見直す。見直しではCodex規格等を考慮する。


第27回 16.農畜産物、原材料等の規制

 今まで、加工食品を規制する法令である、「食品衛生法」や「JAS法」について説明してきましたが、今回より、生産段階での安全対策について定めた法令について取り上げます。
 まず、農畜産物、原材料等の規制の基本施策・方針を定めた「食料・農業・農村基本法」について説明します。

(1)基本施策・方針

 昭和36年に制定された「農業基本法」に基づく戦後の農政を抜本的に改革するものとして、平成11年7月16日に「食料・農業・農村基本法」が制定されました。「農業基本法」が農業面について規定されていたのに対し、「食料・農業・農村基本法」は食料の安定供給確保、農村振興という農村面についても規定されており、国民生活の向上と経済の健全発展を図ることを目的としています。


「食料・農業・農村基本法」の概要

  1. 趣旨
     近年の我が国経済社会及び食料・農業・農村をめぐる情勢の大きな変化に対応するため、昭和36年に制定された現行の農業基本法に代わる新たな基本法を制定し、食料、農業及び農村の各分野にわたる施策の基本理念とその基本方向を明らかにする。
  2. 概要

    (1)基本理念
    食料、農業及び農村の施策に関する基本的な理念を規定。
    ①食料の安定供給の確保
    ②多面的機能の発揮
    ③農業の持続的な発展
    ④農村の振興

    (2)基本計画
    基本理念に即した諸施策の実施を担保するため、施策についての基本的方針、食料自給率の目標、総合的かつ計画的に講ずべき施策等を明示した基本計画を政府が策定する旨を規定。同計画は、諸情勢の変化を勘案し、施策効果に関する評価を踏まえ、おおむね5年ごとに変更。

    (3)基本的施策
    ①食料の安定供給の確保に関する施策
     食料消費に関する施策の充実、食品産業の健全な発展、輸出入対策、不測時における食料安全保障、国際協力等
    ②農業の持続的な発展に関する施策
     望ましい農業構造の確立、専ら農業を営む者等による農業経営の展開、農地の確保及び有効利用、農業生産基盤の整備、人材育成・確保、技術の開発・普及、価格政策と経営安定、災害対策、自然循環機能の維持増進、農業資材対策等
    ③農村の振興に関する施策
     農村の総合的な振興、中山間地域等の振興、都市農業の振興等

    (4)年次報告及び審議会
    ①政府が食料・農業・農村政策についての年次報告を作成。
    ②食料・農業・農村政策について調査審議を行う審議会を設置。


第28回 16.農畜産物、原材料等の規制(つづき)

 前回に引き続き、生産段階での安全対策について定めた法令について説明します。
 今回は、「農薬」と「飼料」に係わる法令についてです。

 ※前回との継続のため、(2)から始まる。

(2)農薬

 残留農薬の量が一定量を超えると、人の健康に害を及ぼすことになるため、わが国では農薬取締法と食品衛生法にて農薬に関する規制がなされています。
 農薬取締法では、農薬の製造者及び輸入者は、農林水産大臣の登録を受けなければその農薬を販売することができません。登録に当たっては、環境大臣が農産物中に残留する農薬量として定める登録保留基準や食品衛生法に基づく残留農薬基準等への適合が求められます。
 また、登録された農薬は、農薬の安全かつ適正な使用を確保するため、その使用時期及び使用方法等について農薬使用基準が定められています。
 食品衛生法では、農薬等の成分である物質ごとに残留基準を設定して規制しています(残留農薬基準)。2006年5月29日からは、残留基準が設定されていない場合でも、一定量(0.01ppm)を超えた残留が認められた食品について、その販売を禁止する「ポジティブリスト制度」が施行されています。


「農薬取締法」の概要

  1. 登録制度
    • 登録された農薬以外の販売禁止
    • 使用時の安全性等のほか、作物残留等について環境庁長官が定める基準への適合を検査し、安全な使用方法を定めて登録
    • 使用方法、使用上の注意事項等のラベルへの表示義務
  2. 指定農薬制度
    • 作物残留性、土壌残留性、水質汚濁性が著しい農薬の指定、使用規制
  3. 農薬安全使用基準
    • 農薬安全使用基準の作成・公表、安全使用指導に利用(現在、農薬残留、水質汚濁防止等の4種類)
  4. 農薬の取締
    • 国、都道府県に農薬取締職員の配置
    • 製造業者、販売業者、防除業者等への立入検査、報告徴収
    • 不良農薬等の販売禁止等の処分

(3)肥料

肥料については、肥料の品質保全及び生産される農産物の安全性を確保する観点から、「肥料取締法」に基づき、普通肥料の公定規格の設定及び特殊肥料の指定に当たって、含有を許される有害成分の最大量が定められています。


「肥料取締法」の概要

  1. 普通肥料の公定規格の設定及び特殊肥料の指定(品質の保全)
  2. 普通肥料の生産(輸入)の登録(公定規格適合の確認)
  3. 有害な物質を含む肥料等の流通の防止(保証票の添付、譲渡の制限、異物の混入の禁止、虚偽の宣伝の禁止等)
  4. 適正な肥料の製造・流通の確保(販売業務の届出、報告の徴収、事業場、倉庫等への立入検査等)

第29回 16.農畜産物、原材料等の規制(つづき)

引き続き、生産段階での安全対策について定めた法令について説明します。
今回は、「飼料及び飼料添加物」と「動物医薬品」に係わる法令についてです。

※前回との継続のため、(4)から始まる。

(4)飼料及び飼料添加物

 有害な畜産物の生産防止または家畜等への被害を防止する観点から、「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律」に基づき、飼料及び飼料添加物の成分規格、製造基準、使用基準、表示基準等が定められています。特に、飼料添加物のうち抗生物質については肥飼料検査所が検定を行っています。
また、農薬、重金属等の有害物質の畜産物への残留防止を図るため、「飼料の有害物質の指導基準」が定められています。


「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律」の概要

  1. 飼料等の安全性に係る規格・基準の設定(抗菌性物質の配合飼料への添加量等)
  2. 有害な物質を含む飼料等の流通の防止(有害な飼料等の販売禁止、廃棄命令等)
  3. 飼料の品質表示の適正化(表示基準の設定、事業者に対する適正表示の指示等)
  4. 製造工場、販売所等における適正な飼料の製造・流通等の確保(製造業者、販売業者等の届出、報告徴取、立入検査、試料の収去等)

(5)動物医薬品

 動物医薬品については、「食品衛生法」に基づく「食品、添加物等の規格基準」において、抗生物質や抗菌性物質は含有してはならないと規定されているが、残留を未然に防止する観点から、「薬事法」に基づき、医薬品ごとに使用対象動物、用法及び用量、使用禁止期間が定められています。
また、動物医薬品の適正使用の徹底を図るため、「獣医師法」において、抗生物質、合成抗菌剤、ワクチン、ホルモン剤等の投与、処方を行う際には、獣医師の診察が義務づけられています。


「薬事法」の概要

  1. 動物用医薬品等の製造(輸入)の承認及び動物用医薬品等の製造(輸入)業、販売業の許可
  2. 動物用医薬品の再審査、再評価の実施
  3. 動物用医薬品等の性状・品質についての規格・基準の設定、国家検定の実施
  4. 動物用医薬品等の取扱い(貯蔵、陳列、販売、表示等)に関する基準の設定
  5. 動物用医薬品等に関して立入検査等の監督指導
  6. 動物用医薬品の使用についての基準の設定


「獣医師法」の概要

  1. 獣医師でない者の牛、馬、めん羊、山羊、豚、犬、猫、鶏、うずら、オウム等の小鳥の診療業務の禁止
  2. 獣医師が、自ら診療しないで劇毒薬、生物学的製剤、薬事法に基づく要指示医薬品、使用規制対象医薬品(抗生物質、合成抗菌剤等)を投与若しくは処方することの禁止
  3. 獣医師が、動物の診療をした場合における飼育者に対する保健衛生指導の義務

第30回 16.農畜産物、原材料等の規制(つづき)

 引き続き、生産段階での安全対策について定めた法令について説明します。
 今回は、「牛海綿状脳症(BSE)対策」に係わる法令についてです。

※前回との継続のため、(6)から始まる。

(6)牛海綿状脳症(BSE)対策

 平成14年6月14日、「牛海綿状脳症対策特別措置法」が公布され、死亡牛の届出、一頭ごとの固体の識別等が義務づけられるようになりました。(平成14年7月4日施行)


「牛海綿状脳症(BSE)対策特別措置法」の概要

  1. 目的
     牛海綿状脳症(BSE)の発生予防、まん延防止のための特別措置を定め、安全な牛肉を安定的に供給する体制を確立し、国民の健康の保護、牛肉の生産から販売、営業等の健全な発展を図る。
  2. 規制の概要
    (1)死亡した牛の届出と検査

    • 24ヶ月齢以上の死亡牛を検察した獣医師(獣医師がいない場合は死体の所有者)は、家畜保健衛生所に届出の義務。
    • 平成15年4月1日から、24ヶ月齢以上の死亡牛は、原則として、家畜伝染病予防法に基づくBSE検査を受けること。

    (2)牛の個体情報の提供等

    • 牛の所有者は、1頭ごとに個体を識別するための耳標をつけ、生年月日、移動履歴等の情報を提供する義務。
    • 飼料を使用する段階において、飼料の購入状況や給与状況を記帳・保存することが望ましい。

    (3)飼料の適切な製造と使用

    • 牛の肉骨粉を原料または材料とする牛用の飼料は、使用,輸入,製造,販売できない。
    • 飼料メーカー等の帳簿記載事項の追加(流通状況等)、記録保存期間が2年から8年に延長。
    • 農林水産大臣や都道府県知事は、飼料メーカー等が保有する有害な飼料の破棄等を命令できる。
    • 都道府県知事は、飼料の使用者に対して、使用状況を検査できる。

    (4)獣医師の診療簿等の保存

    • 獣医師が牛、水牛、鹿、めん羊、山羊の診療、検察を行った場合、診療簿、検察簿について8年間保存の義務に延長。(他の動物の場合は従来どおり3年間)

第31回 16.農畜産物、原材料等の規制(つづき)

今回は、輸入食品の規制について説明します。
輸入食品の規制についても、厚生労働省管轄の規制と農林水産省管轄の規制があります。

厚生労働省管轄の規制

 輸入食品については、厚生労働省検疫所(主要港、空港)の食品衛生監視員により監視が行われています。「食品衛生法」では、輸入業者に対して輸入の届出が義務づけられており、食品衛生監視員は、その届出に関する検査、違反有無のチェックを実施しています。

農林水産省管轄の規制

(1)動物・植物に関する検疫

 農林水産省では、国内への疾病や病害虫の進入を防止する観点から、輸入される動物、植物に関して、「家畜伝染病予防法」、「植物防疫法」及び「水産資源保護法」に基づいて輸入検疫を行っています。


「家畜伝染病予防法」の概要

 国内における家畜の伝染性疾病の予防防疫措置等について規定するとともに、動物及び畜産物の国際流通に起因する家畜の伝染性疾病の伝播の防止のために輸出入検疫制度を設けています。


(2)輸入米麦

 輸入米麦については、「食品衛生法」に基づく厚生労働省の貨物到着時の検査があるが、食糧庁では、輸入業者に対して、積地での安全性検査、船積み時に採取したサンプルの安全性検査を実施させています。

◆輸入米麦の安全性検査

 食糧庁が買入れを行う輸入米麦については、以下の検査があります。

  1. 輸出国の産地倉庫、輸出エレベーター等でサンプルを採取し、これを輸出国の検査機関等において行う安全性検査
  2. 全ての積来船について、船積時にサンプルを採取し、これを国内に空輸し、厚生労働大臣の指定検査機関において行う安全性検査
  3. 貨物の到着時に厚生労働省が「食品衛生法」に基づいて行う検査

(3)その他の輸入食品

 輸入食品の品質確保のため、消費者団体による輸入品の買上げ、表示事項の確認、分析機関による添加物の分析、品質表示基準遵守の調査、輸入業者に対する国内の表示制度の指導等が行われています。

第32回 16.農畜産物、原材料等の規制(つづき)

 今回は、食品に限られた法規制ではありませんが、関わりの大きい「製造物責任法」(PL法、1995年施行)についてです。
 製造物責任法は、製品の安全性に対する消費者意識の高まりを背景に、製品の欠陥により被害が生じた場合の損害賠償責任を規定した法律です。
 この法律により、企業側の製品の安全性に対する認識の向上も必要になっており、苦情への対応や、製品使用上の注意事項等の情報提供が、積極的に行われるようになっています。
 食品関連では、食中毒、異物混入、容器包装関連事故など様々な事柄が対象となり、PL対策のための各種保険も用意されています。


「製造物責任法」(PL法)の概要

  1. 目的
     製造物の欠陥による被害に対する製造業者等の損害賠償責任について定めることにより、被害者の保護を図る
  2. 法律の対象
    • 製造または加工された動産が対象であり、未加工農林畜産物は対象外
    • 損害賠償責任を負う者は、製造物を業として製造、加工または輸入した者のほか、自ら製造業者として製造物にその氏名、商号等の表示をした者等
  3. 製造物責任
     製造業者等は、引渡した製造物の欠陥により他人の生命、身体または財産を侵害したときは、これにより生じた損害を賠償する責任を負う
  4. 免責事由
     製造業者は、次の事項を証明したときは、損害賠償責任を免責される

    • 製造物を引渡したときにおける科学・技術に関する知見によっては、その欠陥を認識することができなかったこと
    • 他の製造物の部品または原材料として使用された製造物の欠陥が、専ら当該他の製造物の製造業者の設計に関する指示によるものであり、かつその欠陥に過失がないこと
  5. 賠償請求期間の制限
     損害賠償の請求権は、被害者が被害及び賠償義務者を知ったときから3年間これを行使しなかったとき、またはその製造業者等が当該製造物を引渡したときから10年を経過したときは消滅する