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2000年版対応 ISO 9000品質マニュアルの作り方(第7回)

平林良人「2000年版対応 ISO 9000品質マニュアルの作り方」アーカイブ 第7回

◆このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「2000年版対応ISO9000品質マニュアルの作り方」です。

2.6 品質マニュアルへの記述内容
ISO 9001:2000規格の要求事項は,具体的にどのように品質マニュアルに記述すればよいのかを考えてみよう。

  • (1)「4.1 一般要求事項」への対応
  • 4.1項の冒頭に「組織は,この規格の要求事項に従って,品質マネジメントシステムを確立し,文書化し,実施し,かつ,維持すること。また,その品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善すること」とある。これは,以降の各条項の要求事項が,QMSのあるプロセスの実行を求めているのに対して,組織全体の品質マネジメントシステムを「……確立し,文書化し,実施し,かつ,維持すること」を求めているものである。
  • たとえば,「6.4作業環境」というQMSのプロセスには「……を明確にし,運営管理すること」とあるが,品質マネジメントシステムとしては,単に明確にして運営管理することだけではなく,維持することも求めている,という解釈である.規格は,「…この規格の要求事項に従って」維持していく,すなわち現時点で行われていることだけではなく,将来にわたって構築がし続けられる仕組みを求めているのである.しかもその仕組みは,品質マネジメントシステムを継続的に改善していくものであることを求めている。
  • 表2.5に,各条項に出てくる代表的な要求の言葉をあげるが,品質マニュアルの各条項冒頭に「将来にわたってシステムの構築を維持し続けるやり方」を記述することが望ましい。
  • 単に「品質マネジメントシステムを維持する」と記述してもあまり意味がない.品質マニュアルに「品質マネジメントシステムを維持する」やり方を記述して初めて意味をもつ。よく見られる事例としては,「当社は,内部監査とマネジメントレビューを活用して,品質マネジメントシステムを維持し,継続的に改善する」というようなものである。
  • 表2.5 ISO 9001:2000規格の各条項に出てくる要求の言葉

    4.1項
    ・実施すること
    ・運営すること
    4.2.1項
    ・含めること
    4.2.3項
    ・管理すること
    ・確立すること
    4.2.4項
    ・維持すること
    ・検索可能であること
    5.1項
    ・示すこと
    5.4.1項
    ・整合性がとれていること
    5.5.2項
    ・責任及び権限をもつこと
    5.6.1項
    ・レビューすること
    ・行うこと
    6.1項
    ・提供すること
    6.2.1項
    ・力量があること
    6.3項
    ・明確にすること
    7.1項
    ・計画すること
    ・構築すること
    ・整合性がとれていること
    ・様式であること
    7.2.2項
    ・確認すること
    ・修正すること
    7.3.1項
    ・更新すること
    7.3.2項
    ・ないこと
    7.3.3項
    ・受けること
    7.3.6項
    ・完了すること
    7.4.1項
    ・定めること
    ・選定すること
    7.4.3項
    ・明確にすること
    7.5.1項
    ・実行すること
    7.5.2項
    ・実証すること
    7.5.3項
    ・識別すること
    ・記録すること
    7.5.4項
    ・注意を払う事
    7.5.5項
    ・保存すること
    ・適用すること
    7.6項
    ・満たすこと
    ・再確認すること
    8.2.1項
    ・監視すること
    ・決めること
    8.2.2項
    ・策定すること
    ・規定すること
    ・確保すること
    8.2.3項
    ・測定すること
    ・実証するものであること
    ・是正処置をとること
    8.4項
    ・収集すること
    ・分析すること
    8.5.3項
    ・見合うものであること
  • QMSのプロセスの記述についても,表2.5に表現されているような規格の文書をそのまま品質マニュアルに記述してもあまり意味がない。規格の要求をどのようにして具現化し,実際に行うのかを記述することが品質マニュアル作成のポイントである。
  • なお,一般要求事項の最後には,アウトソースしたプロセスについての記述がある。設計・開発,サービスなどの全部または一部をアウトソース,すなわち外部へ依託,発注した時には,そのプロセスの組織としての管理をQMSの中に規定しておくことを求めており,その多くは「7.4購買」で扱うことが多くなると思われる。いずれにしても,最終製品に責任をもつ組織は,開発・設計,製造,サービスなどのすべてをアウトソースしているからといって,即そのプロセスを適用除外することはできない(次項「適用除外」参照)。
  • (2)適用除外
  • 品質マネジメントシステムの適用範囲にはいろいろな表し方がある。まず組織の名称,所在,対象部署・製品などであろう・2000年版規格では,組織の機能に影響しない,かつ組織の責任にならないような要素はマネジメントシステムから除外してもよいとしている。しかし,除外してもよい根拠を品質マニュアルに示さなければならない。以下に適用除外に関する考えを示す。
    1. QMSの適用範囲
      ISO 9001規格そのものの適用範囲とQMSの適用範囲とを混同しないこと。QMSの適用範囲とは,審査登録証に記載されるものである。組織はすべての製品をQMSの適用範囲とする必要はない。しかし,もしすべての製品をQMSの適用範囲としないのであれば,組織は明確に品質マニュアルにその事を記載すること。
    2. ISO 9001規格の適用
      ISO 9001規格の構築を求める組織は,原則的にすべての要求事項に適合させること。
      しかし,組織の性質,製品,実現化プロセスによっては7項の要求事項のどれかを適用できない場合がある。
      その場合,除外しても;
      • ① 組織の能力に影響を与えないこと。
      • ② 顧客要求事項と適用規制要求事項を満足する製品を供給するという責任に影響を与えないこと。
    3. 除外は7項の条項全体に適用するとは限らない.条項の中の要求事項の一つだけを除外するということもあり得る。
    4. 除外のあり得る例
      • ① 7.3項:供給製品の設計・開発に責任がない場合。
      • ② 7.5.3項:しかし,トレーサビリティが要求されなくても,識別は要求される場合がある。トレーサビリティが要求されるのは,特定の製品の場合であろう。
      • ③ 7.5.4項:製品実現プロセスにおいて顧客所有物を使用しない場合。
      • ④ 7.6項:監視,測定機器を使用しない場合.サービス組織などにおいてはあり得る。
    5. 外注,アウトソーシング
      製品実現化の全体的な責任がある場合は,製品の設計・開発,製造プロセスなどがアウトソーシングされているという事実だけでは,除外する十分な理由にはならない。組織は,それらのプロセスがISO 9001規格の該当条項要求事項に従って実行されていることを確実にするべく,十分なコントロールを行っていることを実証すること。次のようなものが考えられる。
      • ① 供給者との契約の一部としてのプロセス仕様確認,プロセス妥当性確認。
      • ② 供給者のQMSの要求。
      • ③ 現地における検査,検証。
      • ④ 監査。
    6. 規制に従わなければならない製品の場合,規制が1.2項で除外することを許している以上の除外を認めても,ISO 9001規格への適合は主張できない。
    7. 除外に関する具体的事例
      • ① インターネットから得る情報は,顧客所有物である(除外できない)。
      • ② 製造仕様書,包装仕様書に基づいて製造している組織が7.3項を除外する。規制要求事項には合致しており,品質マニュアルには除外の正当性が書かれている。組織のどのような文書にもその製品に関して設計機能があると思わせるような記述はない(除外できる)。
      • ③ 基本設計を実施している(7.3項を適用する)。
      • ④ 詳細設計,計算,製品仕様書を作成している(7.3項を適用する)。
      • ⑤ 製造のみを行っている(7.3項は不適用とする)。
      • ⑥ 設計・製造をしているが,設計は自社内で行っておらず,アウトソーシングしている。外部への発注は「7.4購買」扱いである(7.3項を適用する)。
  • (3)プロセス
  • ISO 9001:2000規格の「4.1 一般要求事項」には,「a)品質マネジメントシステムに必要なプロセス及びそれらの組織への適用を明確にする」という要求事項が出てくる。
  • ここでいう「品質マネジメントシステムに必要なプロセス」とは何であろうか,また,どのくらいの大きさのかたまりであろうか。組織が構築するQMSの「必要なプロセス」は,組織が構築したシステムごとに異なっている。むしろ異なっているべきであるといってもよいかもしれない。組織がQMSを構築する際に,ISO 9001:2000規格が要求している136個のshall要求事項すべてに組織のシステムを適合させなければならない。しかし,136個のShall要求事項のすべてがQMSの「必要なプロセス」に関連しているので,プロセスの明確化にあたっては,どのくらいの大きさ(かたまり)を1つのプロセスとすればよいのかが問題になる。
  • 次のような考え方も1つの例である。
    • ① 組織で決めたある大きさの付加価値によって1つのプロセスとする。インプットからアウトプットの間で付加価値に変換するものがプロセスと考えられているので(ISO 9000:2000規格3.4.1項 参考2),この大きさを決めてプロセスを明確化する。
    • ②ISO 9001:2000規格が目次に採用しているかたまり(4.1~8.5項までのインデックスで表されているかたまり)によって1つのプロセスとする。
  • (4)プロセスの順序
  • ISO 9001:2000規格の「4.1 一般要求事項」には,「b)これらのプロセスの順序及び相互関係を明確にする」という要求事項が出てくる。プロセスの順序は,上記で明確にしたプロセスのまさしく順序を記述すればよい。プロセスフローチャートに組織で決めた順序を書けば,プロセスの順序を明確にしたことになるであろう。
  • 次に,例を2つ掲げる(表2.6,表2.7).これらの例は,プロセスとしてISO 9001:2000規格が要求している“インデックスで表されているかたまり”,すなわち条項名の中からポイントとなるものを筆者が採用し,順序をつけたものである。
  • PDCAと目される2つのプロセスが例としてあげられているが,(例2)のPDCAは,(例1)の「12.製品実現」をさらに細かく展開したものである。ISO 9001:2000規格には2つPDCAループがあるといわれているが,これが2つのループ(デュアルループ)である(図2.1)。

2.6 プロセスの順序の例(例1)

  1. 経営者のコミットメント(5.1 5.2項)
  2. 品質方針(5.3項)
  3. 品質目標(5.4.1項)
  4. 品質マネジメントシステムの計画(5.4.2項)
  5. 責任及び権限(5.5.1 5.5.2項)
  6. 内部コミュニケーション(5.5.3項)
  7. 資源の提供(6.1項)
  8. 教育・訓練(6.2.1 6.2.2項)
  9. インフラストラクチャー(6.3項)
  10. 文書・記録管理(4.2項)
  11. 作業環境(6.4項)
  12. 製品実現(7項)
  13. 監視及び測定(8.1 8.2.1項)
  14. 内部監査(8.2.2項)
  15. プロセスの監視及び測定(8.2.3項)
  16. データ分析(8.4項)
  17. 継続的改善(8.5.1項)
  18. 是正処置(8.5.2項)
  19. 予防処置(8.5.3項)
  20. マネジメントレビュー(5.6項)

表2.7 プロセスの順序の例(例2)

  1. 製品実現の計画(7.1項)
  2. 営業(7.2.1 7.2.3項)
  3. 契約(7.2.2項)
  4. 設計・開発(7.3項)
  5. 購買(7.4項)
  6. 製造/施工サービス(7.5項)
  7. 監視機器及び測定機器の管理(7.6項)
  8. 検査/検収(8.2.4項)
  9. 不適合製品の管理(8.3項)
  10. 是正処置(8.5.2項)

図2.1 プロセスの概念図