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品質マニュアルの作り方(第22回)

平林良人「品質マニュアルの作り方」(1993年)アーカイブ 第22回

3.1.3 指針・方針
品質システムの全体を思想的に支えているのが,その企業の指針であり,方針である。企業によってその呼び方は異なるが,その企業の大きな方向付けを文章化したものが指針であり,あるいは理念とか,社是,社訓とも呼ばれているものである。また方針は,企業の中長期あるいは単年度の計画を策定する場合に,そのバックボーンとなる考え方を簡略にまとめたものである。
この両者とも,その短い文章の中に,企業の存続する基盤と,目指すべき方向が凝縮されているはずであり,品質方針作成の参考となるものである。この指針・方針について再確認するさいに次のことも同時にチェックするとよい。

  • ① 指針・方針の意図するところはなにか?
  • ② 指針・方針を補強する説明書的なものはないか?
  • ③ 指針・方針は全従業員にどのような形で伝えられているか?
  • ④ 全従業員はどのくらい,指針・方針を知っているか?
  • ⑤ 指針・方針の配布箇所はどこか?(企業の内部・外部)

3.1.4 外注契約書,顧客との契約書
企業が原材料・部品の購入にあたって,または半完成品あるいは完成品の生産,組立委託をするさいには,通常契約書を交わして行う。企業には基本契約書と呼ばれる普遍的,一般的な外注契約書が存在する。ISO 9000シリーズ規格の要求事項のなかには,いくつかの「契約に規定されている場合は」という仮定された条項がある。たとえば次の条項などがそれである。

  • 4.6.4 “購買品の検証”
     “契約に定められている場合,購入者又はその代行者は,立入りによって又は受入れのときに,購買品が規定要求事項に適合していることを検証する権利を与えられる。・・・“
  • 4.13.1 “不適合品の再審及び処置”
     “・・・契約で要求されている場合,規定要求事項に適合しない製品の使用又は補修の提案は,その特別採用について,購入者又はその代理人に報告する。・・・”
  • 4.15.5 “引渡し”
     “・・・契約上要求されている場合には,この保護は納入先への引渡しまで継続する。”
  • 4.16 “品質記録”
     “・・・契約上の合意がある場合には,品質記録は,合意された期間,購入者又はその代行者が評価のために利用できるようにしておく。”
  • 4.19 “付帯サービス”
     “契約に付帯サービスが規定されている場合には,供給者は,付帯サービスを実施し,かつ,付帯サービスが規定要求事項を満たしていることを検証する手順を確立し,維持する。”
    以上,5つの条項には,契約の有無によって品質システムに組み込まなければならない事項が存在するので,よく既存の契約書類を確認しておく必要がある。

3.1.5 図面,データ,資料類
図面は,それに伴うデータ,資料類とともに,設計・技術部門の活動結果が集約された,生産またはサービスの商品を規定する文書類である。その企業が最終的に顧客に販売する部品,製品,サービスがどんなものかを規定するすべての情報がこの図面,データ,資料類には盛り込まれている。したがって,商品を顧客の要求通りに完成させるための最も基本となるべきもので,これが正しくないと,完成した商品に欠陥があるということにつながる可能性をもっている。
顧客とのあいだでは,これらの図面,データ,資料類を抜粋して仕様書という形で相手に提出し,承認してもらってから,正式な生産活動に入るというのが普通である。顧客からの変更依頼があった場合には,もちろんこれら図面類は訂正しなくてはならない。
この変更は初回の生産スタートのときもあれば,1年後の量産中のときもある。ISO 9001規格の4.4項“設計管理”の4.4.6項“設計変更”の規定に沿う文書管理の仕組みを作り上げることが必要とされている。

    品質マニュアルの編集にあたっては,まずこの図面類のチェックをする必要がある。

  • ① 企業内に図面と呼ばれるどんな種類のものがあるか?
  • ② 図面(それに伴うデータ,資料類)を管理する主管部門はどこか?
  • ③ 図面の原紙はどこに保管されているか?
  • ④ 図面の配布箇所はどこか?
  • ⑤ 変更管理はどうなっているか?
  • ⑥ 廃棄基準,保管基準はどうなっているか?
  • ⑦ 図番のつけ方と登録方式はどうなっているか?
  • ⑧ 現在,社内にどれくらいの数の図面があるのか(廃却されずに生きている数)?
  • 以上のような項目をチェックしてみるとよい。あるいは表3.4(省略)に示したようなチェック表を作成して,保有している数量を把握する手もある。

3.1.6 ソフトウェア
最近は,文書類がコンピュータの中に書き込まれ,これが原紙の代わりをつとめることが多い。もちろん,商品の一部を構成するソフトウェアなどは,コンピュータ上のファイルにしか記録されていない。補助的に紙に印刷してあっても,主役はあくまでコンピュータ・ファイルである。設計も最近ではCADの活用は当たり前になってきており,従来の図面の原紙を保管するというイメージは払拭しなくてはならない。
しかし,こうした文書,図面類,またソフトウェアのコンピュータ化(文書の場合はワープロ化とでもいおうか)に伴って,品質システムの面からはいくつかのチェックが必要となってきている。

  • ① 社内のソフトウェア管理はどこがやっているのか?
  • ② ソフトウェアのバックアップはとってあるか? またその基準はあるか?
  • ③ 社内のコンピュータ・ファイルにはどれくらいの情報量(文書,図面)が蓄積しているのか?
  • ④ コンピュータ・ファイルの改廃の基準はあるか?
  • ⑤ 記録媒体(メディア)の標準化は進めているか(磁気ドラム,磁気テープ,ハードディスク,5インチ,3.5インチフロッピーディスクなど)?