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品質マニュアルの作り方(第23回)

平林良人「品質マニュアルの作り方」(1993年)アーカイブ 第23回

3.2 品質マニュアル完成までのステップ

品質マニュアルの編集は全社的な仕事の見直しにもつながるものであり,したがって当然のことながら,一貫したトップ・ポリシーに基づいて推進しなくてはならない。
まず経営トップが取り組みへの決意を明確にし,次のステップとして品質マニュアルの編集へと進むことになる。

  • ① 社長によるISO 9000シリーズ審査登録取得のための活動計画の発表
  • ② 計画推進のための母体組織の明確化(推進責任者の明確化)
  • ③ 推進母体による全体計画の策定
  • ④ 推進母体による準備活動の推進
  •  ④-1 推進担当者の選出
  •  ④-2 社内の教育・訓陳の推進
  •  ④-3 ISO 9000シリーズ規格要求事項と現状の差のチェック
  • ⑤ 品質マニュアル編集委員会の設置

3.2.1 社長のISO 9000シリーズ審査登録取得計画

審査登録を取得する動機(目的,理由)を全社に明確にしなければならない。企業のトップである社長がこれを明確にして,活動をスタートさせることが大切である。その動機によって,以降に展開しなければならない活動の選択が異なってくるし,審査登録機関の決定という重要な選択さえ,これによって左右されてくるからである。
大きく分けてこの動機(目的,理由)は次の2つになると思われる。

  • 1)ビジネス上の直接的な動機:欧州などへの輸出に際して顧客からISO 9000シリーズ規格の取得の有無を問題にされた。公共団体によっては,審査登録されていない企業からは購入しないというところさえある。あるいは,直接,審査登録の有無を取引の条件にはされていなくても,世界的な潮流として取得しておくほうがビジネス上有利と判断したからという企業もあろう。いずれにせよ,輸出をビジネスの主体としている企業である。
  • 2)品質システムの強化のために:従来いわゆるTQC,全社的品質管理を推進してきたが, それを補完して,なお一段と強固な品質システムにしていくための手段として取り上げる。 したがって全く新しいシステムの導入ではないので,従来からのシステムとの融合を工夫する必要がある。日本が国際的な環境の中で孤立しないためには,世界の主流を形成しつつあるものは貧欲に吸収していかなければならない,という考え方である。体質改善のための活動であり,輸出に頼っていない企業に多い。
    では,このような動機の違いは,ISO 9000シリーズ規格審査登録取得活動にどのような影響を与えるであろうか。本質的には全く同じことを推進していくのだが,表面的には次のような違いが出てくる。

    • ① 審査登録機関の選択(日本の審査登録機関か外国の機関か)
    • ② 品質マニュアルの編集(どの程度,従来の品質システムを取り込むか)
    • ③ 維持活動の推進

    いずれにせよ,この動機(目的,理由)をしっかり見定めて,社長としての推進への決意を社内にオープンにすることが最初のステップである。

3.2.2 計画推進母体の決定

計画を推進する母体となる組織を決めなければならない。通常は品質保証部門が調査,準備をしてから社長に答申し,審査登録取得の計画をスタートさせるというケースが多く,既にこの段階では,品質保証部門が推進母体と,実質的に決まっていることが多い。したがって,推進責任者は品質保証部長あるいは課長ということになってくる。
ここで付言すれば,品質保証部長は,先に触れた審査登録取得の動機(目的,理由)をさらに深く検討する必要がある。たとえば,次のようなことである。

  • 1)審査登録機関の選択
    審査登録機関を外国系にするか日本系にするかは,今後の日本における審査登録機関のあり方,外国との相互認証の進み方によって影響を受けるので,一概にはいえない面もあるが,あえていえば次のようになろう。
    輸出企業でなるべく早く登録証が欲しい場合は外国の審査登録機関がよいかもしれない。 特に欧州への輸出の場合は,英国のNACCB の認定ロゴが欧州域内で効力があるため, 英国系審査登録機関が何かと有利であろう。
    企業の体質改善のために取り上げるという場合は逆に,日本の審査登録機関を活用するほうがよいかもしれない。日本の審査登録機関であれば,TQC活動や改善活動,QCサークル活動など,従来日本企業が進めてきた品質向上活動を熟知しているからである。
  • 2)品質マニュアルの編集
    ISO 9000シリーズ規格の要求事項は,維持活動に重点がおかれている。しかし,日本の企業が進めてきたTQC活動の多くの部分は向上活動であり,改善活動である。もし,審査登録取得の動機が体質改善であれば,この部分の活動をより強化することが望ましい。条項4.14“是正処置”や4.20“統計的手法”の記述のなかに,従来から行ってきた業務改善活動やQCサークル活動を取り込んでいくのである。
  • 3)維持活動の推進
    計画推進母体として全体計画を策定するときに,この維持活動の推進が大きな意味をもってくる。ISO 9000シリーズ規格審査登録取得の動機によっても推進活動の中身が変わってくるであろうが,一度制定したシステムをきちんと維持していくという意味では基本が変わるものではない。