ISO情報

品質マニュアルの作り方(第3回)

平林良人「品質マニュアルの作り方」(1993年)アーカイブ 第3回

1.4 品質マニュアルの定義

それでは品質マニュアルとは具体的にどのようなものをいうのだろうか。品質マニュアルという言葉は,前述のように4.2項“品質システム”に出てくるが,ISO9000 Quality management and quality assurance standards-Guidelines for selection and use“品質管理及び品質保証の規格―選択及び使用の指針’'(JIS Z 9900)の8.3項“実証及び文書化”のなかにも以下の記述がある。
“文書化には,品質マニュアル,品質に関連する手順の記述,品質システムの監査報告書及びその他の品質記録を含めてもよい”
また, ISO9004 Quality management and quality system elements Guidelines “品質管理及び品質システムの要素―指針”(JIS Z 9904)の5.3.2項“品質マニュアル” には以下の記述がある。
5.3.2.1 “品質システムを書き表し,実施するために用いる主要な文書の典型的な形式が,「品質マニュアル」である。”
5.3.2.2 “品質マニュアルの第一の目的は,品質管理システムに関する適切な記述を提供することにあるが,一方,品質管理システムを実施し,維持する上での永続的な参考資料として役立てることにある。”
5.3.2.3 “品質マニュアルの内容の変更,修正,改訂,又は追加を行う方法を確立するとよい。”
5.3.2.4 “比較的大きな会社においては,品質管理システムに関する文書化は,次のものを含み,各種の形式をとることができる。
 a) 全社的品質マニュアル
 b) 事業部別品質マニュアル
 c) 専門的品質マニュアル(例えば,設計,調達,プロジェクト,作業指示書) ほかにも,ISO10011-1の5.1.3項,同じく5.2項,同じく5.4.2項のなかにも品質マニュアルに関する記述があるが省略する。
これらの記述から品質マニュアルを定義づけると,「品質システムを書き表し,実施するために用いる主要な文書の典型的な形式」であり,その目的は「品質システムを実施し,維持するうえでの永続的な参考資料として役立てる」ことである。そのためには「内容の変更,修正, 改訂,または追加を行う方法を確立する」ことがよい。また,品質マニュアルは監査を受ける際の「予備審査の対象となる」ものであり,本審査のさいの「基準となる文書」である。

1.5 品質マニュアルが具備すべき要件

品質マニュアルの具備すべき要件にはどんなものがあるのだろうか。以下, 6項目に分けて簡単に説明する。
1.5.1 完全性,網羅的
品質マニュアルは,その企業の品質システムが準拠する規格(ISO9000シリーズ)の要求にそったものでなければならない。つまりISO9000シリーズ規格の各条項のすべての要求事項を満足させる必要がある。言い換えれば,品質マニュアルには,これら該当規格のすべての条項のすべての要求事項を盛り込む必要があるということである。
ここで特に注意したいことは,各条項を網羅するときに,4.1.1とか4.1.2.1などの小条項の内容にまで十分な検討を加え,品質マニュアルに盛り込むということである。むしろ,この小条項のなかにこそ具体的な要求事項が数多く含まれている。
またISO9000シリーズ規格の特徴として,Where appropriateとかAs appropriateとか,Where specified in the contractとかの,いわゆる仮定した状況下での要求事項がある。ちなみに,ISO9001の4.1項~4.20項のなかでの出現頻度を数えてみると次のようになる。
 Where appropriate         適切な場合        3カ所
 As appropriate           適宜(必要に応じて)   3カ所
 When applicable          該当する場合       2カ所
 Where specified in the contract   契約に規定されている場合 5カ所
文中に出てくるappropriate (適切な)という語は上記以外に10カ所にも及ぶ。これらの “適切な場合” とか“必要に応じて” とか“該当する場合” とかの表現のある場所では,特にその意味するところを具体的に検討し,品質マニュアルから落とさないように,その完全性を確保することが大切である。
さらに品質マニュアルは,ISO9000シリーズ規格の全条項を “該当する場合” には網羅しなくてはならないし,同時に社内の既存システムも網羅していなくてはならない。特に日本においては,各企業でTQC活動に力を入れてきただけに,すでにいろいろな仕組みができている。それらの仕組みはできるだけそのまま取り入れる必要がある。品質マニュアルはISO9000シリーズ規格にそって編集するが,そのなかに従来からのTQC活動の仕組みも入っているように編集していくべきである。
では,TQC活動とISO9000シリーズ規格をどのように関係づけていったらよいのであろうか。筆者は,この関係づけをいかに上手にやるかに,世界の標準規格であるISO9000を, 日本の従来の品質向上活動と融和させ,より完成度の高い規格にしていくためのキーポイントがあると考えている。たとえば,条項4.14“是正処置”や4.20“統計的手法”のなかに日本的TQCの特徴である “改善提案活動”や“QCサークル活動” などを取り込んでいくのもうまいやり方であろう。
したがって品質マニュアルの作成にあたっては,従来から展開されてきた既存の品質システムを上手にとりいれていくことが,より効果的にISO9000シリーズを活用していくことにつながっていくのである。
ISO9000シリーズ規格の審査登録において,このTQCとの融合がその審査結果に影響を与えることはないが,ISO9000シリーズ規格の運用を形骸化させないためにも,筆者は, TQCシステムと融合された品質マニュアルの編集をお勧めしたい。