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品質マニュアルの作り方1994年対応版(第4回)

平林良人「品質マニュアルの作り方1994年対応版」アーカイブ 第4回

このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「品質マニュアルの作り方1994年対応版」全200ページです。
先に1987年版対応の「品質マニュアルの作り方」をお届けしましたが、今回はISO規格の改訂に伴い、全面的に1994年版規格に合わせた内容に更新したアーカイブです。

1.5.3 現実性,実行的
品質マニュアルに記載されている事項は,いうまでもないことだが,実際に実行されており,仕組みとして実在するものでなければならない。いくら仕組みとして優れており立派なものであっても,現実に実施されていないのであれば何の意味もない。実際の審査にあたっても,審査員はこの点に特に注目して審査を進める。すなわち,

  • ① ISO 9000シリーズ規格が求めている要求事項がシステムとして文書化されているか?
  • ② システムとして文書化されている通りに実行されているか(維持されているか)?

の2点が審査員の大きな着眼点である。しかも,この実施している,あるいは維持しているということを証拠として残しておかなければならない。記録文書として保管することが要求されているのである。

  • (1)社内品質システムの再点検
  • 品質マニュアルを編集しようとして,まず最初に実施しなくてはならないことが,既存の品質システムの再点検である。ISO 9000シリーズ規格の該当条項ごとに,現実がどうなっているかチェックしてみる必要がある。
  • 先に触れたことだが,ISO 9000規格の文中には「適切な場合には」とか,「該当する場合」とか,「必要に応じて」とかの語句が数多く出てくる。それぞれの企業のおかれている,それぞれの状況下で,もし「適切な場合には」,もし「該当する場合には」,もし「必要ならば」文書化し,維持していくことが求められているのである。この“もし”の判断は,各々の企業がしなくてはならない。
  • 品質システムを確立し,維持していくために必要なことが品質システムの要求事項であるから,これは採用しなければならないが,現実的に検討して,実行および維持に無理が生じるようであれば,社内編集委員会(後述第3章“品質マニュアルの編集”3.3節)でより踏み込んだ議論をして,その対応を決めていけばよい。
  • このような意味で,品質マニュアルの作成にあたっては,既存の品質システムをよく点検して,できることとできないことを明確にしておくことが大切である。この検討にあたっては「現実性」を第一に,実行的観点から実施することが望ましい。
  • (2)生きた品質マニュアル
  • 企業は,社会的な変化,経済的な変化などによって,頻繁にその組織や人事を変更する。時には,機能を消滅させたり,新しい機能を追加したりする。したがって,品質システムが形骸化し,形だけのものになってしまうこともありうる。これを防止するためには,この変化に対
    応して,品質マニュアルも,常に生きたものにしておかなければならない。
  • そのポイントは次の通りである。
    • 1) 品質方針の設定にあたって,理想のみを掲げずに,現実に実施していること,日頃から折りに触れて社内で議論されていることを取り上げる。
    • 2) 組織変更が実施されたときには,極力スムーズに品質マニュアルの改訂を行い,常にマニュアルが現実と一致しているように管理する。なお,品質マニュアルの改訂をあまり頻繁に実施することは好ましくないので,年数回を目途に,変更内容をある期間プールしておくとよい。
    • 3) 経営者による見直しを必ず実施すること。このことは4.1.3項“マネジメント・レビュー”に規定されており,適切な間隔で実施し,その記録を保管することになっている。これは品質システムの継続的かつ効果的な運営のための最も基本となるところである。
    • 4) 社内に実在する各種標準書類(部門マニュアル,手順書,指示書,図面,データ,ファイルなど)の変更・改訂に合わせて,登録番号が変更になることがある。この場合は,2)項の品質マニュアルの改訂時に,併せて2次,3次,4次文書類との整合性をとることが必要である。
    • 5)4.7項 “顧客支給品の管理”がない場合には,その旨品質マニュアルのなかに明記する。該当する支給品が存在するようになったときに改めて記載すればよい。
    • 6)4.9項 “工程管理”のなかの“特殊工程”について該当する工程がない場合は,その旨を明記する。該当する工程ができたときに改めて記載すればよい。
    • 7)「契約に定められている場合は」という仮定がある次の条項に関しては,社内の現状をよくチェックする。
      • 4.6.4.2 “下請負契約された製品の顧客による検証”
      • “契約に定められている場合,供給者の顧客又は顧客の代理人者は,下請負契約者先及び供給者のもとで,下請負契約された製品が規定要求事項に適合していることを検証する権利を与えられること。……”
      • 4.13.2 “不適合品の内容確認及び処置”
      • “……契約で要求されている場合,規定要求事項に適合しない製品を使用又は修理の提案(4.13.2.b参照)を特別採用として顧客又はその代理人に申請すること。……”
      • 4.15.6 “引渡し”
      • “……契約上要求されている場合,この保護は最終納入先への引渡しまで継続すること。”
      • 4.16 “品質記録の管理”
      • “……契約上の合意がある場合には,品質記録は,合意された期間,顧客又はその代理人が評価するために利用できるようにしておくこと。”
      • 4.19 “付帯サービス”
      • “付帯サービスが規定要求事項である場合,供給者は付帯サービスが規定要求事項を満たすように実行する手順,及びこれを検証し報告する手順を,文書に定め,維持すること。”

1.5.4 具体性,具象的
品質マニュアルはISO 9000シリーズ規格の要求事項にそって編集されるものだが,その要求事項は抽象的に表現されている場合が多い。その抽象的な規格に準じて社内の品質マニュアルを編集してしまうと,出来上がった品質マニュアルも抽象的なものになってしまう。全産業を対象とした規格と,ある特定の製品またはサービスを対象とする企業の規格(品質マニュアル)では,自ずから規格内に規定する具体性は異なってくる。企業内の規格の方が,より具体的でなければならないことは当然のことである。
【具体的な要求事項】
品質マニュアルのなかに特に具体的に記述しなければならないものは次の通りである。

  • 1)品質方針の制定
    • 4.1.1 “品質方針”
    • “執行責任を持つ供給側の経営者は,品質方針を定め,文書にすること。……”
  • 2)組織図と主だった経営管理者(社長以下,部門長,課長)の責任,権限の記述
    • 4.1.2.1 “責任及び権限”
    • “品質に影響する業務を管理し,実行し,検証するすべての人々,特に次の事項に関して組織上の自由及び権限を必要とする人々の責任,権限及び相互関係を明確にし,文書化すること。……”
  • 3)管理責任者の指名
    • 4.1.2.3 “管理責任者”
    • “執行責任を持つ供給側の経営者は,自己の組織内の管理者の中から責任者を選任し,他の責任と関係なく,……”
  • 4)文書化した品質システムの制定
    • 1.2.1 “一般”
    • “供給者は,製品が規定要求事項に適合することを確実にするための手段として品質システムを確立し,文書化し,維持すること。……”
  • 5)設計の審査
    • 4.4.6 “デザイン・レビュー(設計審査)”
    • “設計の適切な段階において,設計結果の正式かつ文書による審査を計画し,実施すること。……”
  • 6)文書およびデータの管理
    • 4.5.1 “一般”
    • “供給者は,この規格の要求事項に関連するすべての文書及びデータを管理する手順を文書に定め,維持すること……”
  • 7)装置類の校正
    • 4.11.1 “一般”
    • “供給者は,製品が規定要求事項に適合していることを実証するために,供給者が使用する検査,測定及び試験装置(試験用ソフトウェアを含む)を管理し,校正し,維持する手順を文書に定め,維持すること。……”
  • 8)改善活動
    • 4.14 “是正処置及び予防処置”
    • 4.14.1 “一般”
    • “供給者は,是正処置及び予防処置を実施するための手順を文書に定め,維持すること。”
  • 9)品質記録保管期間の明示
    • 4.16 “品質記録の管理”
    • “供給者は,品質記録の識別,収集,見出し付け,利用,ファイリング,保管,維持及び廃棄のための手順を文書に定め,維持すること。……”
  • 10) 内部品質監査
    • 4.17 “内部品質監査”
    • “供給者は,品質活動及び関連する結果が計画された通りになっているか否かを検証するため,及び品質システムの有効性を判定するために,内部品質監査を計画し実施するための手順を文書に定め,維持すること。”
  • 11)従業員教育訓練計画
    • 4.18 “教育・訓練”
    • “供給者は,品質に影響する活動に従事するすべての要員に必要な教育・訓練を明確にする手順を文吉に定め,維持するとともに,教育・訓練を行うこと。……”
  • 12)統計的手法の応用
    • 4.20.1 “必要性の明確化”
    • “供給者は,品質工程能力及び製品特性を設定し,管理し,検証するために,統計的    手法が必要か否かを明確にすること。…… ”
    • 以上,12点について,品質マニュアル編集上,特に具体的に記述すべき要点を掲げたが,以下の10項目について,特に重点を掲げないが,できるだけ具体的に品質マニュアルのなかに記述しなければならない(詳しくは第2章“ISO 9000シリーズ規格の解釈”を参照)。
    • 4.3 “契約内容の確認”
    • 4.6 “購買”
    • 4.7 “顧客支給品の管理”
    • 4.8 “製品の識別及びトレーサビリティ”
    • 4.9 “工程管理”
    • 4.10 “検査・試験”
    • 4.12 “検査・試験の状態”
    • 4.13 “不適合品の管理”
    • 4.15 “取扱い,保管,包装,保存及び引渡し”
    • 4.19 “付帯サービス”