ISO情報

「パフォーマンスの改善」(第26回)

平林良人「パフォーマンスの改善」(2000年)アーカイブ 第26回

第6章 パフォーマンスの業務/遂行者レベル

-人を含まない、都市とは何ですか?
– William Shakespeare

シェークスピアの「都市」を「組織」に置き替えることができるでしょう。レベル1及び2の活動の結果、恐らくComputec社は、明確な組織及びプロセス目標を持つことができます。その組織構造とそのプロセスフローは論理的で、そして、その組織とプロセスの下位目標、資源及びインタフェースは効果的に運営管理されているかもしれません。しかしながら、それでは不十分です。組織とプロセスレベルのニーズを取り扱うことによって、Computec社は確固としたパフォーマンスの基礎を確立しました。Computec社は、これからその基礎の上に建物を建設する必要があります。その建物は要員のパフォーマンスです。
第4、5章では、効果的なシステムが要員の能力を補うからではなく、効果的でないシステムが要員の潜在的能力を妨げるという理由で、システムに焦点を合わせました。我々は、経験上ほとんどの要員が良い仕事をしたがっているという見解を持っています。しかしながら、優秀な遂行者を悪いシステムに対抗させるならば、ほとんどの場合システムに軍配が上がるでしょう。

業務/遂行者レベルとは何ですか?

業務/遂行者レベルとは、すべてのレベルにおける業務とその業務に仕えている要員(遂行者)を対象としているので、そのように命名されています。このパフォーマンスレベルにおいても、我々が組織とプロセスレベルで取ったのと同じシステム的視点を採用します。我々は、業務と遂行者が全体的なパフォーマンスの脈絡で分析される場合にだけ、パフォーマンス改善が可能になると信じています。要員問題に対しマネージャーが取る典型的な対応の調査によって、システム的視点の必要性が最も良く説明されています。問題を無視するという非常によくある対応は別として、我々がよく見る対応は、以下の通りです。

彼らを訓練する。
彼らを異動させる。
彼らをコーチして、カウンセリングする。
彼らを脅かす。
彼らに懲罰を加える。
彼らの交代要員を見つける。
これらの対応のすべてに共通のテーマは「彼ら」です。各々の処置は、その「彼ら」が壊れている、したがって「彼ら」が矯正される必要があると仮定しています。
悪いバッテリがすべての自動車故障の原因であると仮定するのと、同様に、すべてのパフォーマンス問題の原因は、欠陥がある要員であると仮定するのは不合理です。良い整備士は、バッテリに欠陥があるかもしれないが、それがエンジンシステムの一部であると認識しています。そのシステムの多くの部品が問題の原因を内包しているかもしれません。たとえバッテリが不調であっても、根本的原因はエンジンのほかの場所にあり、バッテリの不調は、他の部品の影響を受けた結果の可能性もあります。同様に、要員は、パフォーマンスに影響を及ぼす多くの要素を持っているヒューマンパフォーマンスシステムの一部の「パフォーマンスエンジン」であると信じます。
組織とプロセスレベルの目標、設計及びマネジメントはヒューマンパフォーマンスに影響するシステムの一部です。ヒューマンパフォーマンスシステムは、要員と彼らを取り巻く直接環境のよりミクロな画像を提供することによって、それらのレベルの上に築かれます。ヒューマンパフォーマンスシステムは図6.1で表示されます。図が示すように、我々の業務/遂行者レベルに対する視点は、組織とプロセスレベルで用いたインプット、プロセス、アウトプット、フィードバックの見方を反映しています。

図6.1 ヒューマンパフォーマンスシステム(略)

要員に活動を起こさせるインプットは、原材料、帳票、責務、顧客の要求などです。また、そのインプットには担当者が活用できる資源及びプロセスレベルへのつながりを表すシステム及び手順を含んでいます。販売員にとってそのインプットとしては、顧客からの問い合わせ、テリトリの配分及び市場調査情報が考えられます。資源インプットには小冊子、プレゼンテーション機器及び製品仕様書を含みます。最後に、販売員は、販売プロセスにおけるステップに従うことが期待されています。
「遂行者」とは、インプットをアウトプットに変換する個人かグループです。販売員、販売のマネージャー、市場調査員及び顧客は皆遂行者です。
「アウトプット」とは、組織とプロセス目標への貢献として遂行者によって作り出されたものです。要員の特色、スキル、知識及び行動はすべて重要なパフォーマンス変数であり、またそれ自体が遂行者の存在の理由となり、アウトプットです。販売員の主要なアウトプットは、彼らがもたらす販売高です。
「考課」とは、遂行者がアウトプットを作り出しながら経験するプラス及びマイナスの結果です。プラスの考課はボーナス、表彰及びより挑戦的な仕事を含みます。マイナスの考課は苦情、懲戒処分及びそれほど面白くない仕事などを含んでいます。考課は、遂行者それぞれ特有の見方によって、プラスか、又はマイナスかが決まります。多くのビジネスをもたらす販売員は、たぶん彼らがプラスの考課と認識するであろう、有利な手当てや表彰受け取るでしょう。ノルマを達成しない販売員は、低収入、望ましくない後方処理業務への配置換え、又は販売実績チャートのほぼ末尾に彼らの名前を見るというマイナスの考課を受けるかもしれません。
「フィードバック」とは遂行者に彼らが何をどれくらいうまくやっているかを伝える情報です。フィードバックは、過失報告、統計的に処理したもの、不良品、口頭又は書面によるコメント、各種調査及び業績評価から生じます。販売員は、顧客(買うか買わないかを決める)と販売マネージャー(販売実績情報を集計する)、そして製品あるいはサービスを製造し、又は配送する要員(販売の質にコメントする)からフィードバックを得ます。
アウトプットの品質はインプット、遂行者、考課及びフィードバックの質の関数です。業務/遂行者レベルでは、5つのヒューマンパフォーマンスシステム要素のそれぞれを系統的に分析し、改善します。我々は、包括的なパフォーマンス改善は、それぞれの要素全てを個々に取り扱うことだけから生じると信じています。