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「パフォーマンスの改善」(第40回)

平林良人「パフォーマンスの改善」(2000年)アーカイブ 第40回

第9章 パフォーマンスの分析及び改善:ケーススタディ

-医療において、健康を取り戻す為には、疾病を調べなければならない。
– Plutarch

製薬産業は多くの良薬を開発しました。例えば、ペニシリンはその効果が実証されている薬品です。しかしおそらく白内障には効き目がないでしょう。また、コーチゾン剤が熱に効くという証はないでしょう。アスピリンは特効薬と呼ばれてきましたが、潰瘍を患っている人には、有害です。残念なことですが、どんなによく効く薬でも、限られた病気だけにしか効かないのです。医師と呼ばれるプロの診断医は、患者の病気にあわせた薬物治療を行うことで収入を得ています。
同様に、その有効性が立証されたパフォーマンスの改善薬が多く存在します。「教育訓練」はそういう薬のひとつの形です。組織の再編成も同様です。マネジメント情報システムもその一つです。報奨金制度も同様その一つです。 問題は、我々の組織の病に合ったこれら(或いはそれ以外の)薬物治療を見つける「医師」は誰かということです。
殆どの場合、組織のパフォーマンス問題を解決し、パフォーマンス改善の機会を活かす専門家は人材開発(HRD)や、情報処理(DP)や、生産工学(IE)などのようなスタッフ部門にいます。いいでしょう。我々は、ラインマネージャーに、考えられる全てのパフォーマンス改善活動に精通している様に望むことはできません。しかしながら、一般的には、スタッフ要員に適切な役割を彫り起こせていないのが現状です。彼らは(彼ら自身も彼らを)特定された解決策の提供者と見られがちです。例えば、人材開発部門のスタッフは教育訓練に関する問題解決法を提供し、情報処理のスタッフはコンピュータシステムに関する問題解決法を提供し、生産工学のスタッフはワークフローの合理化と人間工学的な問題解決法を提供できる人のごとく。
しかしながら、診断医と異なり我々のスタッフは、多くの場合自分の機能(部門)特有の特許医薬品ブランドの提供者であり、彼らが病気を治すと主張します。我々は、すべてのスタッフアナリストとかコンサルタントは、自らの「製品種目」の幅に関係なく、まず診断医であるべきであると信じています。病気に効かないパフォーマンス薬物治療はせいぜいお金の無駄使いでしかありません。最悪の場合、もとの病気よりも重大な副作用を引き起こすことがあります。
理想的には、必要性を感じているラインマネージャーが、診断を行って、包括的な解決策を与えることができるすべてのスタッフ部門の代表を呼び集めることです。しかしながら、一般的に、ラインマネージャーのこの点に関する能力は、病人が専門医者を呼ぶ前に自身の病気を診断する能力以下であることがわかっています。ラインマネージャーは、痛みとかそろそろ改善しなくては、という感じは持っていますし、自分たちが何らかの行動を取る必要があるということはわかります。しかしながら、我々の経験では、ラインマネージャーで、どのようにしてパフォーマンス改善の機会に取り組むべきかを知っている人は稀です。この現実は、解決策の実施前に状況を診断するスタッフの人たちにとって重荷となります。

パフォーマンス診断と改善に関する3レベルのアプローチ

3レベルのパフォーマンス改善プロセスが、スタッフにとって、対応を提案する前に状況を診断するための効果的な方法であることがわかっています。少なくとも、それによって、アナリストは組織ユニットに特有な状況に合うよう解決策を修正することができます。悪くても、万能薬に含まれた解決策が、最優先のニーズに応えていないということを示すかもしれません。

診断を必要とする状況

部分的に物語化していますが、Property Casualty, Inc.(PCI)の事業部門担当の副社長は、手順を分析するアナリストのひとりLarry Monahanに、組織の支払い請求処理代表用に、最新の、より明確で、より包括的な支払い請求処理マニュアルを開発するよう頼みました。
Larryは図9.1に示す3レベルのアプローチの14ステップを使用する予定です。この状況に合わせて各ステップの適用を議論するので、Larryが使えるフォームを提示して行きます。しかしながら、プロセスは、フォーム優先であってはならず、ここに描かれているほど形式的である必要もありません。プロセスの本質は、ステップの順序、各ステップにおいて回答されるべき質問、質問に対して得られる情報の整理、及び、対応と診断のつながりです。

図9.1  3レベルのパフォーマンス改善プロセス(略)