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「パフォーマンスの改善」(第75回)

平林良人「パフォーマンスの改善」(2000年)アーカイブ 第75回

教育訓練と人材能力開発ニーズの決定

我々の基本的な仮定は、HRDがパフォーマンス改善の範疇にあるということです。HRDの全ての教育活動の計画、実施に関し問うべき質問は、この活動がビジネスのパフォーマンスにどのように影響するかということです。
HRDは、教育訓練ニーズをリアクティブ(教育訓練要求に対応して)とプロアクティブ(教育訓練を通じて組織のニーズを満たす計画の結果として)の、2つの方法で見出すことができます。3レベルのアプローチは、両方の状況における教育訓練ニーズを特定する手助けをすることができます。

教育訓練要求への対応。教育訓練要求に対応する時、HRDの専門家は教育訓練要求者がたぶん徹底的な分析をしていないこと、及びたぶんパフォーマンス改善教育としての教育訓練の限界を知らないことを理解しなければなりません。彼らが知っていることは、痛みを感じるということだけです。HRDニーズアナリストの第一の目的は、要求されたパフォーマンスの内容を理解することでなければなりません。その理解を通じてのみ、教育訓練が必要か、もしそうだとすれば、その教育訓練が満たすべき具体的な目標を決めることができます。
図15.2のセクションAが示すように、教育訓練要求への理想的な対応は「外から内へ」というプロセスに従います。それは組織レベルで始まって、プロセスレベルを通じて業務レベルに移ります。政治的要因でHRDアナリストは、時々、組織レベルから始めることができないことがあります。これらの情況の下では、我々はセクションBに表示される少し劣るが(依然としてパフォーマンスベース)である「内から外へ」のプロセスを勧めます。
理想的なニーズ分析プロセスは、教育訓練要求の背後にある真の問題を見出す可能性、及び、教育訓練によって満たされないパフォーマンスニーズを掘り出す可能性がより高くなります。しかしながら、それはHRD機能に通常期待される範囲を越えているので、より大きなリスクを伴います。また、より手間がかかる傾向もあります。「必要な時に」アプローチは、反カルチャー的でも、時間集約型でもありませんが、最も重要な組織のニーズを対象としない可能性があります。どんな開発も進める前にアナリストが教育訓練のニーズを検証しますが、彼又は彼女は、教育訓練要求者によって特定された人達が最も大きいパフォーマンス改善の機会を示すという仮定に捉われてしまいます。
理想的なプロセスを示すために、教育訓練要求を調べてみましょう。Sharon Pfeiffer、(第9章で部分的に脚色された紹介した会社)Property Casualty社(PCI)の運用部門担当副社長は、HRD担当の取締役Stephen Willabyに、現役の請求受付窓口のための広範囲な教育訓練プログラムを要求しました。彼女は請求代理人の教育訓練が今年度の彼女の高い優先事項であり、運用上の予算から資金を提供すると彼に言います。
もしもStephenが副社長の要求が教育訓練ニーズ分析を行う引き金であるとみなすならば、彼はたぶん次の3つの手法の1つを用いるでしょう:

教育訓練ニーズ調査。そこでは窓口担当者と彼らのマネージャーが、請求受付の業務をするのに必要なスキルと知識を特定するように依頼されます。
力量調査。そこでは窓口担当と請求マネージャーのグループが、効果的な請求受付に必要な一般的な力量(分析、計算、並びに書面及び口頭のコミュニケーション)を特定するように依頼されます。
タスク分析。そこでは効果的な請求受付担当が、仕事をしている間に彼らが実施するタスクのリストを提供します。

これらの3つのアプローチのどれもが、ニーズ分析をしないプログラム開発より適切といえます。それらは実情報を集め、すぐに、かつ費用をかけずに実施することができ、そしてStephenのリスクは大きくありません。しかしながらこれらの方法論は、それらのいずれもが請求受付業務が存在する理由である、組織、プロセス及び業務のアウトプットに直接連動されていないという著しい弱点を持っています。知識、スキル、能力及びタスクは、請求受付担当が産み出すことをPCI社が期待する結果へのインプットの全てです。
Stephenが請求受付に対して導入レベルの教育訓練を開発するように頼まれているならば、これらの3つの手法がパフォーマンスのアウトプットに焦点を当てていないことにより、誤った方向に導かれるしょう。しかしながらこの状況で彼のインプットの焦点は、方向を誤るより悪いのです。それはよくても無駄で、最悪の場合、危険をもたらします。副社長が現役の請求代理人のためにコースを要求したので、我々は、彼女が現在のパフォーマンスを改善したがっていると仮定できます。これら3つのニーズの分析手法の結果として作られるコース又はカリキュラムは、その要求を出させた真のパフォーマンスニーズを対象とするかもしれませんが、しかしこの教育訓練は、満足に実施されている請求受付業務の各部を担う多くの材料の海に水没してしまいませんか?請求受付に対するどんな種類の教育訓練が、Sharonの関心を引く解決策ですか?請求受付業務が、対象とされるべきものですか?真のパフォーマンスニーズは何ですか?Stephenが図15.2のセクションAで概説される理想的なアプローチを取るなら、彼は次のことをするでしょう: