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「パフォーマンスの改善」(第8回)

平林良人「パフォーマンスの改善」(2000年)アーカイブ 第8回

適応性のあるシステムとしての組織

我々の枠組みは、組織が適応性のあるシステムとして行動するという前提に基づきます。組織は、変換プロセスを持つシステム①として、様々な資源というインプット②を、製品とサービスというアウトプット③に変えてゆきます。組織はアウトプットを受手側のシステム、即ち市場④に提供し、その株主⑤に、株や配当の形で資産価値を提供します。組織はそれ自身の内部基準及びフィードバック⑥によって導かれ、最終的には市場からのフィードバック⑦によって動かされます。競合相手⑧も同様の資源を活用し、市場に製品とサービスを供給しています。ここに表される事業全体のシナリオは、社会環境、経済環境、政治環境⑨の中で展開されます。組織の内部を見ると、インプットを製品とサービスに変える様々な機能やサブシステム⑩に気付きます。これらの内部の機能又は部門は、全体組織と同じシステム特性を持っています。最終的に組織は、内部と外部のフィードバックを理解し、反応する管理機構としてマネジメント機能⑪を持っており、その結果、組織は外部環境とのバランスを保つことができます。フィードバックの知的な活用は「学習する組織」(Senge、1990年)の中心命題です。
システムの枠組みを示すために、架空の会社Computec社を調べてみましょう。図2.5に示されるようにComputec社は、ソフトウェア開発及びシステムエンジニアリング会社①です。Computec社は資本、人材、技術と材料②を利用して、システムコンサルティングサービス、顧客向けソフトウェア開発とソフトウェアパッケージを含む製品③を作ります。Computec社は、宇宙開発企業やその他の産業と個人からなる市場④にその製品とサービスを提供しております。また、株主⑤に資産価値を提供します。会社はその製品の識別、各種報告及び最終製品であるパッケージ等の、正確さ及び効率をチェックするための様々な内部機構⑥を持っています。顧客は追加ビジネス、苦情、問い合わせ及びサービス要請を通してComputec社にフィードバック⑦を提供します。競合相手⑧はComputec社の市場に製品とサービスを提供するソフトウェアとシステムエンジニアリングの会社です。Computec社はアメリカの経済環境、社会環境及び政治環境⑨という状況下でその事業を行います。会社の中ではマーケティング部門、製品開発部門及び業務部門のような部門⑩が会社へのインプットをアウトプットに変換する内部供給者及び内部顧客としての役目を果たします。マネジメントチーム⑪は戦略を策定し、内部及び外部のフィードバックをモニターし、目標を策定し、パフォーマンスを追跡し、資源を割り当てます。

このシステム的な見方により、すべての組織を投影できると確信しています。独占企業及び行政機関のシステムにおいても、異なった形態の「競合相手」⑧を含め全てを含有しています。市場は変わり、製品・サービスもいろいろと変わりますが、システムの要素は同じままです。実際、我々が組織(それがまだ事業を行っていると仮定して)の将来に関して、確実に言うことができる唯一のことは、依然として組織は図2.4に示すモデルの全ての構成要素を持ったシステムとして運用されているであろうということです。事業の進化の可能性については、典型的な「アメリカの製造業」メーカーAmerican Can社から発展した、多様な金融サービス会社Primerica社によって劇的に例証されています。

変化に適応することの現実

Primerica社の変容は、組織に適用されるシステム理論の基本要素である適応することを例示しています。プロセスを持つシステム(組織)は、その環境、特にその受入側のシステム(市場)に適応することができなくなれば、存続できなくなります。組織はその外部環境とのバランスを求めます。
つい最近までは、適応は緊急課題ではありませんでした。組織は燃料価格や資本コストなどの重要なインプットの著しい変化に適応してきました。これら重要要素の大きな混乱に伴い、組織は著しい調整を行う必要がありました。しかし、何ヶ月又は恐らく1年後には、バランスを取り戻していました。歴史的には、劇的な混乱の発生タイミングは、次の変化が起こる前に組織が適応する時間的余裕を与えていました。
今日、変化はより根本的で、より頻繁で、時間的に容赦のないものになっています。資本とか天然資源のような重大なインプットの散発的な変化に加え、収入とか利益を激しく脅かすような避けようのない未曾有の変化が、受入側のシステム(市場)に起こっています。その変化の主要な次元は、外国との新しい形での競合、及び規制緩和された国内経済からの新しい形での競合の出現です。市場は不安定になり、売手寡占状態と長年続いた売手市場は終焉を向えました。顧客は、今までと異なる製品・サービス、より良い品質とより低価格を要求し、それらを手にし始めており、このような変化が次々と起こっています。