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まちづくり分野のデジタル化施策 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■まちづくり分野のデジタル化施策

(1)現状と今後の方向性
都市や地域が様々な人々のライフスタイルや価値観を包摂しながら多様な選択肢を提供するとともに、人々の多様性が相互に作用して新たな価値を生み出すためのプラットフォームとしての役割を果たしていくためには、デジタル化によりこれまでのプロセスの効率化や利便性向上等を図るのみならず、従来のまちづくりの仕組みそのものを変革し、新たな価値創出や課題解決を実現すること、つまりデジタル・トランスフォーメーションが必要である。このような中、2022年度に国土交通省で取りまとめた「まちづくりのデジタル・トランスフォーメーション実現ビジョン」では、インターネットやIoT、AI、デジタルツイン等の活用により、まちづくりに関する空間的、時間的、関係的制約を解放し、従来の仕組みを変革していくことで、豊かな生活、多様な暮らし方・働き方を支える「人間中心のまちづくり」の実現に向けて取り組むこととしている。このビジョンに基づき、「持続可能な都市経営」、「Well-beingの向上」、「機動的で柔軟な都市」といった都市の新しい価値の実現を目指していく。具体的には、デジタル技術を用いた都市空間再編、エリアマネジメントの高度化、データを活用したオープンイノベーション創出、デジタル・インフラである3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU」を推進していく。

(2)今後の施策展開
① 市民生活等の向上に向けたスマートシティの取組み
スマートシティは、市民(利用者)中心主義、ビジョン・課題フォーカス、分野間・都市間連携を重視する基本原則に基づき、新技術や官民各種のデータを活用した市民一人ひとりに寄り添ったサービスの提供や、各種分野におけるマネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化等により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、新たな価値を創出し続ける持続可能な都市や地域である。政府においても、新技術や各種データ活用をまちづくりに取り入れたスマートシティをSociety5.0、ひいてはSDGsの達成の切り札として推進している。国土交通省では、先進的な都市サービスの実装化に向けて取り組む実証事業の支援を行い、これらから得られた知見を盛り込んだスマートシティ・ガイドブックの普及展開等を図っており、今後とも、内閣府、総務省、経済産業省と連携してスマートシティを推進していく。

(具体例紹介)
・街の価値の向上に向けたスマートシティの取組み(大手町・丸の内・有楽町地区)
大手町・丸の内・有楽町地区(以下、同地区)は、日本経済を牽引する東京都心のビジネスエリアであり、日本の国際競争力を牽引していくためにも、先進的なスマートシティ化を推進している地区である。区域面積は約120haで超高層ビルが軒を連ねるため建物延床面積は約880ha(建設予定含む)、建物棟数は103棟(建設予定含む)となっている。世界でも有数の業務地区(CBD)であり、就業人口は約28万人、約4,300社が拠点を構えている。同地区では「Smart&Walkable」のコンセプトの下に、ロボットやモビリティが歩行者やくつろぐ人々を支援し共存するリ・デザインの都市像のあり方を検証するため、2022年度には完全遠隔監視・操作型自動搬送ロボットを活用した実証実験を実施した。公道を含む指定ルートを巡回しながら、特定の販売地点に停止し、無人でカプセルトイや飲料などを販売し、活用方策や実装に向けた課題整理を行った。フレキシブルな販売形態を試験的に実施することで、将来の実装形態に向けた知見を蓄積するとともに、都市OSとロボットの位置情報を連携し、ロボットのリアルタイム走行情報をエリア回遊マップアプリ「Oh MY Map!」で情報発信し、利用者の利便性向上についての検証も行った。今後について、同地区は、リアルタイムにデータを利活用することで、まちの創造性、快適性、効率性をさらに向上させ、同地区の価値を高めることを目指していくこととしている。

② 3D都市モデルの活用等によるまちづくりの高度化に向けた取組み(Project PLATEAU)
Project PLATEAU(プラトー)は、スマートシティをはじめとしたまちづくりデジタル・トランスフォーメーションのデジタル・インフラとなる3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化を推進する国土交通省のプロジェクトである。これまで、2022年度に創設した地方公共団体への支援制度の活用等により、全国約130都市(2023年3月末現在)の3D都市モデルを整備するとともに、これをオープンデータとして公開することで、官民の幅広い主体による共創のもとで、多様な分野におけるオープンイノベーションを促進した。また、国によるベストプラクティスの創出のため、防災・防犯、都市計画・まちづくり、環境・エネルギー、モビリティ、地域活性化・観光・コンテンツといった様々な分野で100件程度のユースケースを開発した。加えて、さらなるオープンイノベーションの創出に向け、データ利用環境の改善(SDK開発等)、チュートリアルの充実、ハッカソン・ピッチイベントの開催等を実施した。2023年度は、「実証から実装へ」をプロジェクトコンセプトに掲げ、3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化のエコシステムを構築するための施策を展開していく。今後、2027年度までに500都市の整備を中長期方針として掲げ、3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化の一層の推進に向け、取組みを加速させていく。

(PLATEAUと連携した建築・不動産分野の取組み(建築・都市のDXの推進))
少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や災害の激甚化・頻発化等の社会課題への対応に資するため、建築生産や都市開発、不動産分野においても、生産性の向上や質の向上を図ることが求められている。このような中、国土交通省では、建築・都市・不動産分野のデジタル施策である建築BIM、PLATEAU、不動産IDを一体的に推進する「建築・都市のDX」に取り組んでいる。建物内部からエリア・都市スケールレベルまで、シームレスで高精細なデジタルツインを実現するとともに、不動産関係のベース・レジストリの整備を推進することで、都市開発・まちづくりの効率化や、新サービス・新産業の創出、地域政策の高度化に寄与することが期待される。今後、データ相互の連携手法の開発・実証や、幅広い分野におけるユースケースの横展開に取り組んでいく。

③ 新技術の活用等による新サービスの創出・観光まちづくりの取組み
デジタルツインなど3D都市モデルの構築とともに、AR・VR等のデジタルツールの利用環境の整備が進む中、観光における新技術やデータ利活用の促進を図ることが重要である。

(具体例紹介)
・VRを用いた新サービスによる観光の高付加価値化(VRを用いた街歩き体験の高度化、㈱たびまちゲート広島)
㈱たびまちゲート広島は、平和記念公園を巡りながら、被爆前の街並みから現代に至るまでの道のりをVRで体験する「PEACE PARK TOUR VR」を実施している。ツアーは、ガイドとともに約60分かけて平和記念公園などを巡りながら、被爆者の証言や過去の写真等の史実を基に制作した再現VRを、各ポイントで視聴することで、当時にタイムスリップすることができる(日・英の言語選択可)。VR技術を用いることにより、原爆ドームといった現存する被爆建物を見るだけではなく、過去の街並みや被爆当時の様子を体験することで、戦争と平和について考える機会の創出につながることが期待されている。このほか、平和記念公園エリアでは、広島の観光・平和学習に役立つデジタルマップ(デジタル3Dコンテンツ)を公開しており、オンライン上での体験にも寄与している。

④ IoT 技術等の活用による住生活の質の向上に向けた取組み
少子高齢化、介護分野の人材不足等の社会情勢を踏まえ、健康管理の支援や家事負担の軽減・時間短縮など、IoT技術等の活用による住宅や住生活の質の向上が求められている。国土交通省では、子育て世帯・高齢者世帯など幅広い世帯のニーズに応え、健康・介護、子育て支援等に寄与するIoT住宅の実用化に向けて取り組んでいく。

(具体例紹介)
・住宅や住生活の質の向上に資する先進的なサービス(IoT 住宅への支援、国土交通省)
IoT住宅において、消費者・生活者にとってメリットや魅力のある新たな機能やサービスが提供されるとともに、安全かつ安心して活用できるものであることが必要である。また、住宅関連事業者だけにとどまらず、医療・介護・警備・小売りなどの日常生活サービス事業者も含めた多様な業種間で、様々なものとサービスが消費者・生活者本位で結びつけられるものであることが重要である。例えば、高齢者等では、病気の早期発見を可能とすることで、長く健康かつ自立的な生活を送ることを可能とするため、健康状態に関するバイタルデータを自動的に取得し異常の早期発見に役立てる住宅・サービスの実現や、スマートフォンと連動することで、ドアや窓の鍵のかけ忘れの確認ができ、子どもや居住者の安全・安心の確保を可能とする住宅やサービスが考えられる。このほか、スマートメーターやHEMS(Home Energy Management System)などを活用した省エネルギー化・省資源化や、スマートキーを活用した宅配ボックスの設置による再配達率の低減なども先進的なサービスとして期待される。

これらの取組みにより、住生活の質を向上させるとともに、子育て世帯・高齢者世帯など幅広い世帯のニーズに応える住生活関連の新たなビジネス市場の創出・拡大の促進が図られる。国土交通省では、健康・介護、少子化対策等に寄与するIoT技術等を活用した住宅の実用化に向けた課題・効果等の実証を行う事業に対して、支援を実施していく。

(つづく)Y.H

(出典)
国土交通省 令和5年版国土交通白書
令和5年版国土交通白書