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デジタル技術による生活サービスの向上 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に国土交通省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■デジタル技術による生活サービスの向上

日本社会においては、分野の垣根を超えたデータ連携を促進しつつ、その基盤を活用したデジタル技術の社会実装を加速化し、これとあわせて、地域経営の仕組みの再構築や交通等の国土基盤の高質化を通じて、デジタルでは代替できないリアルの地域空間における利便性の向上に取り組んでいくことが重要です。スマートシティと言わずとも、デジタル技術を幅広い政策分野で横断して利用する仕組みなどにより、地方圏の市部など人口減少・少子高齢化が進む地域では、持続可能で活力ある地域づくりに向けて、異なる分野での共通の課題に対して、各自が有する資源を融通・共有しあうことで、地域課題を解決できる可能性を広げていくことも重要であると考えます。

香川県三豊市は、人口約6万人弱であり、瀬戸内海に面する日照条件のよい市である。2006年に7つの町が対等合併し、市域が広く中心市街が存在せず、自家用車を中心とした移動に依存している。他の市町と同様に人口減少、少子高齢化や市場規模の縮小などにより、採算性が無くなったサービスが地域から撤退しており、住民生活を支えるサービスが不足し、安心で便利な暮らしが支えられなくなることが懸念されている。
このような中、人口減少時代に即した新たなあり方として、単一のサービスを個別で考えるのではなく、デジタルを活用し、市民、行政、地域企業が連携した新たな「共助」によるサービスで暮らしを支えることとしている。市は、2022年4月より、「ベーシックインフラ構想」を掲げ、地域で既にサービスを提供している事業者などがアイデアを出し合い、人材・設備などをシェアすることで事業運営の効率化を図りつつ、地域住民が豊かに暮らせるサービスを提供する事業実施に取り組むことにより、生活の土台となるサービスの維持を支え、安心・便利な暮らしを支えるべく取組みを進めている。

具体的には、2022年10月より、データ連携基盤の構築に取り組み、これを基盤とした交通、教育、健康、土地の有効活用などの新サービスの実証・実装に取り組んでいる。例えば、市では、中高生の通学や免許返納後の高齢者が利用できる日々の移動手段が少ない中、地域企業等が協力し合い、新たなまちの交通を考えるべく、2022年に複数の地域企業の出資により設立された暮らしの交通㈱がAIオンデマンド交通を運行し、サブスクリプション型のサービスを提供している。これにより、学生の通学など教育面や高齢者の買い物など生活面等が支えられるとともに、父母ヶ浜を中心に増大する観光客(2022年度約50万人)の移動手段としても活用され、地域の活力の面でも支えられている。今後、取得された乗降データなど移動ニーズの他分野への活用、また、各種サービスと交通サービスを掛け合わせた暮らし全般サービスとしてのサブスクリプション化なども視野に取り組んでいる。このほか、市では、例えば移動支援を行った免許返納後の高齢者の健康データを取得・分析し、地域交通が与える健康への影響を検討して施策反映に活かすなど、分野横断したデータの利活用に向けた実証事業を実施している。このような官民が連携した様々な取組みの実施により、2022年には、三豊市への移住者が約300人と香川県内で高松市に次いで多い水準となった。今後も、「健康、教育、脱炭素」を重点として三豊市での暮らしの高質化を図るべく、データを活用しつつ「共助」により、行政の地域課題の解決、民間サービスの創出、市民の利便性向上に向けて持続的に取り組んでいくこととしている。

出典:国土交通省 令和5年版国土交通白書

日本はデジタル化を取り込みつつ、個性あふれる地域を形成し、ワーケションや田園回帰の動きも踏まえ、都市との相互貢献による共生を目指すことが重要であると思います。日本は国土に占める森林面積の割合が高く、特に町村部においては、緑と自然が豊かであるとともに、農山漁村を含め多様な地域が広がっています。豊かな地域資源を活用して、観光業や農林水産業など多様な分野における連携により、交流人口や関係人口の増加を図っていくことが可能です。和歌山県白浜エリアは、真っ白な砂浜のビーチで有名な浜があるリゾート地ですが、このリゾート地で、ホスピタリティや利便性の向上を図るため、顔認証技術の活用に関する実証事業が行われています。あるホテルでは、2019年より、一部の客室で顔認証による施錠システムを導入し、鍵を持たずに身体一つで客室ドアの開閉を可能としています。ホテル内のレストラン・売店等の施設にも顔認証決済を導入し、財布を持たずに手ぶらで食事や買い物をすることを可能としています。

実は顔認証技術は日本を含め各国の入国審査で使われています。私は2023年8月にイギリスへ旅行しましたが、入国ブースに立つと無人カメラが入国者の顔を映し、パスポート顔写真と一致するかどうかをチェックする仕組みが導入されていました。イギリスでは顔認証技術により無人での入国チェックが行われ、入国審査の時間が大幅に短縮されました。従来は、20か所くらいあるブースにいる審査官が、「何のために来たのか」、「どこへ行くのか」、「何日くらい滞在するのか」など2,3の質問を英語でしてきました。慣れないうちは答えがしどろもどろ、発音がよくないため審査官が聞き返してくる、親切な審査官は逆にたどたどしい日本語で質問してくるなど、悲喜こもごもの展開があちこちでなされていました。この入国審査のための時間が今回ほぼ0時間になりました。時々ブースにいる入国者が20m位離れたHelp Deskへ行く姿が見られましたが、たぶんパスポート写真の映りが悪かったのではないかと勝手に想像しています。

正確に数を数えたわけではありませんが、英国にはこれまで(1985年~)30回以上訪問しているのではないかと思います。2018年までは入国時においては、英国人とEU国の人が同じ列、我々日本人を含む海外の人は別の列で、どちらかというと外国人の列(我々)の方が長く、したがって時間がかかり、もう少し早く審査できないのか苦情を言いたい気持ちでした。それが一転して今回の入国では約20分で英国に入ることができました。その理由の一つが我々日本人は英国人と同じ列に並ぶようになったことです。どうしてか理由は知りませんが(たぶんEU離脱のため?)、EUの人達は別の列でした。

このように、白浜のホテルでも顔認証技術により温泉やビーチに出かける際も、鍵や貴重品を持たずに外出できるようになります。置き忘れや置き引きなどを心配せずに、安心してレジャーを楽しむことができ、防犯面においても有益なシステムとして期待されている。今後、このような生体認証を含むデジタル活用により、観光客への利便性の向上とともに、地域住民への利用促進による地域活性化が期待されています。

ところでイギリス旅行に戻りますが、旅行の記録として楽しみであったパスポートへの入国スタンプ、そして出国スタンプが押されなくなりました。これは世界の国すべてなのか、イギリスだけなのかわかりませんが、日本の入出国も原則スタンプなしとなったようです。今回日本出国時に「スタンプつきますか」と聞かれたので「はい」と答えて私のパスポートには日本の入出国スタンプが押されていますが、今までに無い質問で、疑問に思っていました。どうやら、日本も英国にならって原則入出国スタンプ無しとしたようです。ということで、思い出したのが33年前、まだ私が英国に駐在していたころ、英国人部下の一人が「パスポートの多くのページは真っ白だ」と言って見せてくれたことを思い出しました。彼のパスポートには開発途上国のスタンプはありましたが、多くいっているはずの欧州各国のスタンプが一つもありませんでした。これはたぶんEUの中はパスポートコントロールが当時からなかったのだと、今になって思います。

(つづく)Y.H