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5)チーム経営責任者に必要な7つの能力
「人的資本経営」の時代に活躍が期待される「チーム経営責任者(TMO)」には、どのような能力が求められるのでしょうか。それを総称して「チーム経営力」と呼び、7つの能力に分解して説明できます。これらは、人的資本との関わり方に応じて分類できます。

・ チームの人的資本を伸ばす能力
① キャリア支援力
ポジション中心の組織内キャリアではなく、人的資本に注目した「個人のキャリア形成」を支援する能力です。
② 強み発見力
メンバーの弱点ではなく、本人も気づいていない強みに目を向け、それを引き出して活用する能力です。

・ チームの人的資本を活用する能力
③ 仕事アサイン力
メンバーに画一的に関わるのではなく、それぞれの強みに合わせた個別アプローチによって業務を割り振る能力です。
④ チームビルディング力
メンバーが力を発揮しやすい環境・関係性を構築し、成果を生み出すチームづくりを行う能力です。

・ チームに人的資本を投入する能力
⑤ 人材獲得力
人材は受け身で与えられるものではなく、管理職自らが主体的に獲得していくという考え方に基づいた能力です。
⑥ オンボーディング力
新しく加わったメンバーを従来のチームに無理に当てはめるのではなく、その人の強みを活かして組織をつくっていく力です。

・ チームの人的資本と経営戦略をつなぐ能力
⑦ 全体俯瞰力
自分のチームだけを近視眼的に見るのではなく、会社全体の経営戦略と自チームの状況を迅速に把握する能力です。

<TMOの目的は「人的資本の最大化」>
上記の能力を用いてTMOが目指すべきものは、大きく3つあります。

  • チームに与えられた業務目標を達成すること
  • メンバーの成長を支援すること
  • チームを絶えず変革し続けること

従来の管理職も、目の前の業績を追求しながら将来の人材育成に取り組むことが求められていました。しかし、人材育成は短期的に成果が見えにくいため、これまでの管理職は「与えられた人材でどうにか業務目標を達成する」ために時間や業務をやり繰りすることに偏る傾向がありました。一方、人的資本の時代における人材育成は、数値化できる要素が増えたことで、将来だけでなく「現在の業績」にも直結しやすくなっています。
若いメンバーは、もはや上司の一方的な指示だけでは動きません。金銭的インセンティブやポジションだけで動機づけることも難しくなっています。メンバーの意欲を引き出し、パフォーマンスを高めるには、成長に寄り添う姿勢が不可欠です。つまり、「人的資本の最大化」が人的資本時代のマネジメントの中心にあり、管理職にとっては、メンバーを育て、チームを活性化し続けることがこれまで以上に重要となっています。

4.人的資本の観点でキャリアを支援する力 <キャリア支援力>
1)大きく変わるキャリアのあり方

人的資本経営の時代において、チーム経営責任者には、メンバーのキャリアを支援する能力と、それを支えるスキルが求められます。
この30年間で、日本型雇用システムは大きく変化しました。会社に任せておけばよかった「お任せ型のキャリア」から、個人が主体的に考えて構築する「自律型のキャリア」へと移行しています。
かつて、上司と部下の関係で一般的だったのは、暗黙の社内ルールや上司自身の経験を伝える「ティーチング」でした。しかし、人的資本経営が重視される現在では、メンバー自身がキャリアプランを描き、その実現に向けて進んでいくことを支援する 「コーチング」 が求められます。

2)ベースとなる「プロティアン・キャリア」の考え方
これからの新しいキャリア観として押さえておきたいのが、「プロティアン・キャリア」です。
プロティアン・キャリアでは、「個人としてのアイデンティティ」と、時代の変化に対応する「変化対応力」の組み合わせが重要視されます。
キャリアは“結果”ではなく、個々人が継続的な経験を重ねながら能力を蓄積していく「過程」として捉える点が大きな特徴です。

3)川下り型のアプローチを尊重する
TMOが身につけるべきキャリア支援力の第一のスキルは、川下り型アプローチを尊重することです。
「川下り型」とは、大まかな方向性を持ちながらも、明確なゴールや目標に過度に固執せず、どのような状況に置かれても、自分の価値観を軸に目の前の仕事に真摯に取り組んでいく姿勢を指します。
このアプローチにおいて重要なのは、メンバーが働くうえで大切にしている価値観を把握する事とどのような状態のときに充実感(心理的成功)を感じるのかを確認する事です。
これらを理解することで、メンバーが主体的にキャリアを築く土台が整います。

4)メンバーのマーケットバリューを意識して関わる
マーケットバリューとは、人材市場での価値であり、「キャリア資本」と言い換えられます。
「プロティアン・キャリア」の中心概念であり、以下の3つの資本から構成されます。

  • ビジネス資本(専門性・スキル)
  • 社会関係資本(人脈・ネットワーク)
  • 経済資本(資格・実績など)

メンバーのマーケットバリューを高めることは、短期的には部署のパフォーマンス向上につながり、中長期的にもTMO自身のマネジメント力向上に資するものです。具体的には、自社の業界や部署で必要とされる専門スキルの可視化・共有し、人脈の拡大や汎用的スキル習得のサポートといった関わりが重要です。

5)キャリアに対する自発性を引き出す
キャリア支援とは、役職や職種というポジションの話ではなく、「現状」と「目指したい姿」とのギャップを本人が埋めていく過程をサポートすることです。
プロティアン・キャリアにおける「目指したい姿」とは、心理的成功(働く中で得られる幸福感や充実感) を指します。重要なのは、本人が「こうありたい」と心から思える目標を設定できるよう支援することです。自発性が引き出されてこそ、キャリアへの取り組みは持続します。

6)経験学習サイクルで手応えをつかんでもらう
「経験学習サイクル」は人材育成において非常に重要な概念です。
ケース・ウェスタン・リザーブ大学のデービッド・コルブ教授が提唱した「経験学習論」に基づき、次の4ステップから構成されます。

  • 具体的な経験
  • 内省的な考察
  • 抽象的な概念化
  • 積極的な実践

任された仕事をただルーティン的にこなすだけでは成長は生まれません。「なぜこの仕事をするのか」「どう工夫できるのか」と問い、内省することで、仕事の意味や改善点が見えてきます。これによりパフォーマンスは確実に高まります。
TMOは、メンバーがこの学習サイクルを回せるよう、適切なタイミングで適切な問いかけを行う事が求められます。

5.本人も気づいていない強みを見出して活かす力 <強み発見力>
1)人は強みより弱みに目が向きがち

経営学の泰斗ドラッカーは「強みを大事にすることが最も重要だ」と述べています。また、人的資本経営において重要指標であるエンゲージメントは、「自分の強みを発揮して仕事ができている時」に向上することが知られています。つまり、各自が自分の強みを把握し、それを最大限に発揮できる状態をつくることが不可欠です。
しかし、多くのメンバーは自分の強みを十分に理解していません。だからこそ、チームリーダーであるTMOが強みを見出し、言語化してあげることが重要になります。

2)日頃からメンバーに興味・関心を向ける
1on1で部下の話が頭に入ってこないことはないでしょうか。その原因の一つは「この人はこういうタイプだ」という思い込みです。固定観念そのものは悪いわけではありませんが、それに気づかず接すると正しい観察ができなくなります。日頃からフラットな目線でメンバーを見ることが大切です。「自分とは違う強みを持っている」「チームに貢献してもらいたい」という視点を持つと、自然と興味・関心が高まります。

3)強みを具体的に分析する
TMOに求められるのは、印象だけで判断するのではなく、「強みを具体的に分析すること」です。
たとえば、Aさんが難易度の高い業務を成功させた場合、「なぜできたのか」「成功の要因は何か」を本人や周囲にヒアリングし、事実を掘り下げます。その結果、自分から関係者を巻き込み味方にしたという行動が見えれば、
「先を見てリスクを読み取る力」
「積極的に人を巻き込む力」
「コミュニケーション力による味方づくり」など、強みを具体的に定義できます。
また、弱みから強みを探す方法も有効です。強みと弱みは表裏一体であり、大胆に行動できる強みは、細部の抜け漏れという弱みにつながるかもしれません。状況によっては、強みが弱みになり、弱みが強みになることもあります。

4)客観的データを活用する
強みを見つける際には、数字などの「客観的データ」を活用することも重要です。
人間は感情の影響を受けやすく、どれだけフラットに見ているつもりでも、バイアスは避けられません。
「自分は色眼鏡で見ているかもしれない」と意識しつつ、個人の特性や能力を可視化したデータを併用することで、より正確に強みを把握できます。

5)強みが生きる環境を探す
強み発見力のもう一つのポイントは、「今のチーム環境を前提にしない」ことです。
ある組織では弱みと扱われていた特徴が、別の組織では強みとして活きることは珍しくありません。
メンバーが今のチームだけで判断されるのではなく、「別の環境ならどう活躍できるか」を想像する視点が必要です。
企業全体で見た時、メンバーが現在のチームで力を発揮できない場合でも、別のチームで能力を発揮できるのであれば、企業にとっては大きなメリットになります。

6.強みに応じて仕事をカスタマイズする力 <仕事アサイン力>
1)社会変化とともに広がる人材の多様性

ビジネスの現場では、多様な人材を抱えることが組織の生産性や創造性の源泉となり、競争力と成長力を高める要因であると考えられています。
チームの人材や働き方が多様化することをプラスに捉え、多様な視点やアイデアから新たな商品・サービスを生み出し、既存の業務フローやルールを見直して生産性を向上させることが期待できます。
TMOがまず取り組むべきは、「チームでどのような関係をつくりたいのか」をメンバーと合意することです。
そのうえで、各メンバーに期待する役割を明確に伝え、チームの関係性について議論し、一緒に方向性を定めていきます。
また、企業の経営状況や事業環境は大きく変化しているため、チームとしても柔軟な対応が求められます。
そのためにも、日頃から「どのようなチーム関係を築きたいか」「メンバーは将来どうなりたいのか」について話し合い、相互理解を深めておくことが重要です。

2)ストレッチな仕事を見極める
人材育成の分野には「70・20・10の法則」があります。
70%:経験(実務経験)
20%:薫陶(周囲からのアドバイス)
10%:研修(学習やトレーニング)
この法則が示すとおり、人材育成で最も影響が大きいのは「経験」です。つまり、どのような仕事をアサインするかが極めて重要になります。TMOが考えるべきは、「本人の強みを発揮しながら、ギリギリできるかどうかのレベルの仕事」を見極めることです。
このような仕事は本人に適度な負荷(ストレッチ)を与え、成長を促す効果があります。

以上

出典:
上林 周平 (著、編集)、 田中 研之輔 (監修)(2022) 「人的資本の活かしかた」 アスコム

吉末直樹(つづく)