ISO審査員キャリアコンサルタントの皆さん方に有用な情報をお伝えしています。

7)質問7:「令和に主流となるのは、どのような働き方ですか?」
「昭和」「平成」「令和」という3つの時代を軸に、働き方やキャリア観がどのように変化してきたのかを整理してみましょう。
令和に入ってから、私たちは2つの歴史的なターニングポイントに直面しています。
① 日本型雇用の転換(終身雇用の終焉)
1つ目は、終身雇用制度の限界が明確になったことです。いわゆる「日本型雇用ショック」とも言える出来事が起こりました。トヨタ自動車の豊田章男社長は、日本自動車工業会の会長会見において「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と発言しました。また、当時の経団連会長であった故・中西宏明氏も、「終身雇用制度は制度疲労を起こしている」と述べました。
一方で国は、70歳までの雇用確保を企業の努力義務とする方針を打ち出しました。
企業側は終身雇用を維持する体力がないとしながら、社会的には「できるだけ長く働き、納税者として社会に貢献すること」が求められているのです。
このような状況を踏まえると、企業に依存せずに生き抜く力を、自ら考え、備えていく必要があるということが分かります。
② 働く「時間」と「空間」の制約が緩和
2つ目は、新型コロナウイルスの影響によってテレワークが急速に普及し、働く「時間」と「場所」の制約が大きく緩和されたことです。会社やオフィスに縛られずに働く経験を通して、「キャリアの主導権は会社ではなく自分自身にある」という意識が、多くのビジネスパーソンの中に芽生えたのではないでしょうか。

時代ごとの働き方の変化
昭和:組織の時代

昭和は高度経済成長期を背景に、終身雇用・年功序列といった日本型雇用制度が確立した時代です。
人々は組織の一員として働き、昇進や昇格といった「組織内キャリア」を積み重ねることが重視されていました。
平成:個人の時代
平成に入ると働き方は多様化し、転職によって複数の組織を行き来する人や、フリーランスとして働く人が増えました。「バウンダレス・キャリア」や、本業と並行して別のキャリアを築く「パラレル・キャリア」といった考え方が注目され始めたのもこの時代です。
令和:行為者の時代
令和は、平成の「個人の時代」からさらに進んだ「行為者の時代」です。行為者とは、組織との関係を保ちながらも、自らの意思でキャリアを開発していく人を指します。組織と距離を取るのではなく、関係性をマネジメントしながら、緩やかにつながり続ける働き方です。

令和は「OR」ではなく「AND」の時代
平成では、

  • 組織に残るか
  • 独立・転職するか

といった 「OR思考」 が主流でした。
一方、令和では、

  • 会社員として働きながら副業をする
  • 複数の本業に取り組む「複業」を行う

といった 「AND思考」 が広がっています。「会社員でありながら個人事業主としても働く」「本業を続けながら、新たな挑戦を始める」こうした柔軟な働き方こそが、令和における主流のキャリア形成と言えるでしょう。

8)質問8:「自由にキャリアを作れるのは、学歴や才能のある人だけではないのですか?」
昭和の時代には、「新卒で大企業に入社すれば一生安泰」「キャリアは学歴や才能によって決まり、二極化する」「キャリア形成は一部のエリートだけが考えるもの」といった価値観が一般的でした。
しかし現在では、大企業であっても10年後の存続が保証されているわけではありません。「学歴」や「才能」だけに依存したキャリア形成では、変化の激しい時代を生き抜くことは難しくなっています。
では、これからの時代において、キャリア形成で最も重要なものは何でしょうか。
それは、学歴や才能ではなく、「持続的な行動」であると考えられます。ここで言う「持続的な行動」とは、知識やスキル、人とのつながりをアップデートし続けながら、自分自身でキャリアを開発していく行動を、絶え間なく継続していくことです。たとえ学歴や才能に恵まれ、大企業に入社したとしても、この「持続的な行動」が伴わなければ、キャリアの差は次第に広がっていきます。自分の時間を何に投資し、どのような行動を取るのかを戦略的に考え、日々自分をマネジメントしていくことが重要なのです。

キャリア形成は自分を守る「セーフティーネット」
主体的なキャリア形成は、人生100年時代における「セーフティーネット」と言えます。
「会社員であっても会社に依存しないキャリア」を築くことは、将来の不確実性から自分自身を守ることにつながります。

「キャリア」とは、生きることそのもの
キャリアとは、これまでの結果だけを指すものではありません。過去を振り返り(結果)、現在を客観的に分析し、未来を構想するための羅針盤でもあります。キャリアは、生涯をかけた壮大なプロジェクトです。
自分を客観的に評価し、内省と自問を重ねながら、組織の内外で何ができるのかを主体的に考え、行動していくことが求められます。学び続け、自らの生き方を再構築していく力こそが、「自律的キャリア」であり、「プロティアン・キャリア」なのです。

9)質問9:「プロティアン・キャリア」を実践するための最初の一歩は?
まずは、「プロティアン・キャリア診断」をやってみましょう。大切なのは、今の自分のキャリアの状態を客観的に知ることです。

プロティアン・キャリア診断
以下の項目について、当てはまるものに○、当てはまらないものに×をつけてください。

  1. 1.毎日、新聞を読んでいる
  2. 2.月に2冊以上、本を読んでいる
  3. 3.語学や資格など、スキルアップのための学習を続けている
  4. 4.テクノロジーの変化に関心がある
  5. 5.国内の社会の動きに関心がある
  6. 6.海外の社会の動きに関心がある
  7. 7.仕事に限らず、新しいことに挑戦している
  8. 8.現状の問題から目を背けずに向き合っている
  9. 9.問題に直面すると、解決に向けて行動している
  10. 10.決めたことを計画的に実行している
  11. 11.途中で投げ出さず、最後までやりきっている
  12. 12.日頃から複数のプロジェクトに関わっている
  13. 13.定期的に参加している(社外の)コミュニティがある
  14. 14.健康を意識し、定期的に運動している
  15. 15.生活の質を高め、心の支えになる友人がいる

○の合計数:__個  (出典:本書P95)

診断結果

  • 12個以上:プロティアン人材
    日頃から主体的にキャリアをつくり、環境や社会の変化にも柔軟に対応できています。
  • 4~11個:セミ・プロティアン人材
    キャリア形成は始まっていますが、変化への対応力はまだ伸ばせる段階です。
  • 3個以下:ノン・プロティアン人材
    現状維持に力が向きがちで、変化への対応力が弱くなっている可能性があります。

これらの項目は、どれも日常生活の中で少しずつ実践できることばかりです。チェックがつかなかった項目を意識して行動に取り入れていくことで、誰でも「プロティアン人材」に近づいていくことができます。
大切なのは、時間をかけて少しずつ行動を変えていくこと。一つひとつの行動の差は小さくても、その積み重ねが1年後、5年後、10年後の自分の未来を大きく変えていきます。

3.「自律的キャリア」への移行
1)質問10:「キャリア資本」とは何ですか?

「キャリア資本」とは、過去や現在の経験だけを指すものではありません。これから先、どのような経験を積んでいくかという「未来」も含めた概念です。
キャリア資本とは、生涯を通して学び続けることで蓄積されていく知識・スキル・ネットワーク・経済的資源などの総体を指します。成功体験だけでなく、挑戦の過程で経験した失敗や試行錯誤もすべてがキャリア資本として蓄えられていきます。

キャリア資本は、次の3つで構成されます。
① ビジネス資本
キャリア形成を通じて身につく、知識・スキル・立ち居振る舞いなど、個人の身体や思考に刻まれた資本です。
語学力、プログラミング力、資格などのスキルも含まれます。
ビジネス資本は、主に次の3要素から構成されます。

  • ビジネス・リテラシー
    ビジネスに関する知識や理解力、論理的思考力など、ビジネスシーンで必要となる基礎力
  • ビジネス・アダプタビリティ
    社会やテクノロジーの変化に関心を持ち、環境の変化に柔軟に対応する適応力
  • ビジネス・プロダクティビティ
    課題から目を背けず、解決に向けて行動を起こす実行力

② 社会関係資本
個人同士のつながりから生まれる社会的ネットワークのことです。
勤務先の人間関係だけでなく、社外活動、地域活動、趣味のコミュニティなど、「組織外活動」を通じて形成されるネットワークも社会関係資本に含まれます。

③ 経済資本
金銭、資産、財産、株式、不動産などの経済的な資源を指します。

プロティアン・キャリアとキャリア資本
プロティアン・キャリア(一般社団法人プロティアン・キャリア協会 公式サイト)」は、これら3つのキャリア資本をバランスよく蓄積していくことで形成されます。
どれか一つに偏るのではなく、相互に補完し合いながら育てていくことが重要です。

特に重要なのは、「ビジネス資本」を軸にしながら、社会関係資本と経済資本を並行して高めていくことです。
これまで「組織内キャリア」を中心に形成してきた人が、「自律的キャリア」へ移行するためには、社外に目を向ける視点が欠かせません。一つの組織の中にキャリアを閉じ込めるのではなく、職場以外のネットワークに関わりながら、意識的に社会関係資本を形成していきましょう。

2)質問11:キャリア資本の蓄積に役立つ「本の選び方」と「読書法」を教えてください。
本の選び方

読書習慣がなく、「何を読めばよいかわからない」という場合は、まず売れている本を選びましょう。
「今月のベストセラー」を読むことは、「今、社会が何に関心を持っているのか」を知ることと同じです。
プロティアン・キャリアにおいて大切なのは、未知の世界を楽しむ力です。
あえて自分の興味・関心から離れたジャンルの書棚を眺め、未知の領域の中からアンテナに引っかかる一冊を探してみてください。自分の専門外・関心外にあるトレンドを俯瞰することで感性が刺激されます。
そうした読書から、仕事に活かせるアイデアが生まれることもありますし、未知の世界に踏み出している自分自身にワクワクする感覚を得ることもできます。

読み方
本は「読んで終わり」にしてしまうと、知識は定着しません。まず、その本の要点を整理して書き出すことを意識しましょう。次に、「もし著者に直接会えるとしたら、どのような感想を伝えるか?」を考えながらコメントをまとめてみてください。「著者に伝える」という前提を置くことで、インプットの焦点が明確になります。
また、その本がベストセラーであれば、なぜ売れているのかを分析してみましょう。
売れている理由について自分なりの仮説を立てることは、社会の変化や人々の関心を敏感に捉えるための思考トレーニングになります。
読書は、最初から最後まで丁寧に読み込む必要はありません。大切なのは、「社会の関心事」と「未知の世界」を発見し、自分のリテラシーを高めることです。
これまでになかった視点を獲得するために、さまざまなジャンルの本を多読・乱読していきましょう。

効果
読書は、好奇心の芽を刺激してくれる重要な情報源です。自分自身の経験だけに頼ってキャリアを形成するのではなく、外部からの情報を上手に取り入れながら、自らをアップデートしていくこと——それこそが読書の醍醐味です。

3)質問12:人と自分を比較してしまいます。
プロティアン・キャリアを実践するうえで、人と自分を比較する必要はありません。
大切なのは、ビジネスパーソンとしての自分自身のアイデンティティを確立し、「他人との比較」を手放すことです。
人と比べるのではなく、基準にしてほしいのは、「自分がどこまで変化し、成長できるか」 という視点です。
もし比較対象を置くとするなら、それは「過去の自分」です。自分を基準に考える習慣が身につくと、未知の領域にチャレンジするときや、壁にぶつかったときでも、前に進み続けるタフさが養われます。

人の活躍や出世を目にしたとき、それを妬みや羨望の感情だけで捉える必要はありません。それらを自分の経験の一部として受け取り、自身のキャリア形成の参考にしましょう。
自分と他人を「対立する存在」として見るのではなく、連続する存在として認識することが大切です。具体的には、その人の行動や考え方を積極的にまねることです。憧れで終わらせるのではなく、自分を成長させるための「模倣の対象」として捉えるのです。この方法は、人との比較に悩んだときだけでなく、「自分を変えたいが、何から始めてよいかわからない」という場面でも有効です。
お手本にしたい人が見つかったら、すべてを真似する必要はありません。10%でも「ここだけは取り入れたい」というエッセンスを吸収しましょう。
なぜその人に憧れを抱くのか、どの部分をうらやましいと感じているのかを丁寧に観察し、それを日常の行動の中に少しずつ取り入れていくのです。

最初からオリジナリティを目指す必要はありません。憧れの人をまねることは、戦略的なキャリア形成の一つの方法です。憧れや羨望といった感情をうまく活用し、「まねる力」を身につけることで、人は継続的に、そして無限に成長し続けることができるのです。       (以上)

出典:
田中研之輔氏(2022) 「キャリアの悩みを解決する13のシンプルな方法 キャリア・ワークアウト」 日経BP

吉末直樹(つづく)