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ISO審査員、キャリアコンサルタントの皆さん方に有用な情報をお伝えしています。
4)質問13:キャリアの方向性が見えなくなってきました
仕事を覚えていく時期は、日々自分の成長を実感しやすく、キャリアについて迷うことはあまりありません。
しかし、仕事に慣れてくると「自分はどこに向かっているのだろうか」と、方向性が見えなくなる時期が訪れます。
そのようなときに必要なのが、「キャリアの戦略設計」です。今後どのようなキャリア資本を蓄積していくのかを意識し、自分のキャリアを中長期的な視点でデザインしていくことが重要になります。
仕事に慣れてきたという自覚がある場合、実は「さらなる変化」が必要なサインでもあります。
物足りなさを感じるのは、自分のスキルとチャレンジのバランスが崩れ、目の前の仕事に没頭できなくなっているからです。スキルに対してチャレンジの水準が低いと、集中力が続かず、「物足りない」「つまらない」と感じやすくなります。
プロティアン・キャリアを形成していくためには、スキルを高めながらキャリア資本を蓄積し、意図的にチャレンジを繰り返していくことが欠かせません。
キャリア資本は、同じことを続けているだけでは微増にとどまり、働く環境や役割、生活環境を変えることで大きく増加するという特徴があります。
キャリア戦略のポイント(2つ)
① 時間軸を持って考えること
キャリア資本は一朝一夕に蓄積できるものではありません。1年後、3年後、5年後を見据え、「どのようなキャリア資本を蓄積していくのか」という時間軸を意識することが重要です。
② 資本の掛け算を意識すること
自分が持っている知識・スキル・人とのつながりを軸に活動領域を広げていくことで、ビジネス資本や社会関係資本を増やすことができます。その結果、ビジネス資本と社会関係資本の掛け算によって、経済資本が蓄積されていくのです。
5)質問14:キャリア戦略を練らなかったら、将来どうなりますか?
もしキャリア戦略を意識せず、長年同じ業務・同じメンバーの中で働き続けていると、仕事がマンネリ化しやすくなります。その結果、キャリアが広がりにくくなり、将来の選択肢や収入の伸びも限定されてしまう可能性があります。
不確実性の高い時代だからこそ、自分自身や大切な人の人生を守り、より豊かにしていくためには、自ら未来を描く「キャリア戦略」が大切になります。
キャリア形成のカギとなるのは、「ビジネス資本(スキル・専門性・経験)」と「社会関係資本(人脈・信頼・つながり)」の蓄積です。
これらを意識的に積み上げていかないと、社会や環境の変化によって、キャリアがいわば「赤字化」してしまう可能性があります。
「キャリアの赤字化」とは
- 収入より支出が多い
- 市場価値が十分に高まっていない
- スキルが不足している
- 仕事の負荷と収入が見合っていない
といった状態を指します。その結果、キャリア資本の蓄積が進まず、心理的な満足度も下がり、自分のキャリアに納得できない状態になってしまいます。
キャリアを黒字化させる5つの方法
- 1.副業
- 2.転職
- 3.キャリア蓄積(スキル・経験の強化)
- 4.キャリア計画(将来設計)
- 5.キャリア投資(学習・資格・人脈づくりなど)
副業や転職はすぐに行動に移せない場合もあるかもしれません。しかし、キャリア計画やキャリア蓄積、キャリア投資は、今日からでも始めることができます。複数の選択肢に挑戦することで、キャリアの可能性は着実に広がります。
キャリア開発の基本5ステップ
- 1)現状を把握する
- 2)目標を設定する
- 3)適度な負荷を与える
- 4)徐々に強度を高める
- 5)日常的に習慣化する
小さな一歩でも、継続することで大きな差になります。
自分の未来を主体的に描き、少しずつ行動を積み重ねていきましょう。
4.「プロティアン」への変身
1)質問15:副業をはじめたい。でも本業に支障が出るのが心配です。
「副業を始めると、本業のパフォーマンスが落ちてしまうのではないか」という不安は、多くの人が感じる「キャリアブレーキ」です。このブレーキを外すためには、発想の転換が必要です。本業に支障が出るかどうかを心配するのではなく、「支障が出ないためには、何をすればよいか」と問いを立て直すことがポイントです。
その答えは、多くの場合、本業の生産性を高めることに行きつきます。業務改善やタスクマネジメントを行い、本業の効率を上げることで、副業に充てる時間を生み出すことができます。副業によって本業がおろそかになるという不安は、これまでの経験からくる思い込みに過ぎない場合もあります。
ここでは、生産性を高めるための3つのワークアウトを紹介します。
① 「やりたくないリスト」を作る
まず、紙に「やりたくないこと」を3つ書き出します。
「プロティアン・キャリア」で大切なのは、仕事との向き合い方を見直し、主体的な働き方へとシフトすることです。可能な範囲で「やらなくてもよいこと」「減らせること」を手放していくと、ストレスが軽減し、生産性が向上します。その結果、心の余裕と時間の余裕が生まれ、副業に挑戦する土台が整っていきます。
② 会議の生産性を高める
会議に招集された際には、まず「本当に出席が必要か」を見極めます。もし不要であれば、理由を添えて参加を辞退する選択も一つです。ただし、現実的に難しい場合もあります。その場合は、「会議以上の価値を生み出す」姿勢で参加することが重要です。
次の3点を意識すると、会議の時間を自分の成長に変えることができます。
i)議題について自分なりの見解を持つ
ii)会議の流れを把握し、適切なタイミングで提案する
iii)自分がファシリテーターならどう進めるかを考える
受け身ではなく、主体的に関わることで、会議の拘束時間を学習時間へと転換できます。
③ 時短を意識して生産性を上げる
「この作業は〇分で終わらせる」と時間を区切るだけでも、意識は大きく変わります。
時間を短縮しようとすると、これまで気づかなかった無駄なタスクや不要な工程が見えてくることがあります。
業務プロセスを見直し、試行錯誤を重ねることで、より効率的で主体的な働き方が身についていきます。
副業を始めるために必要なのは、時間そのものよりも、働き方を主体的に設計する力です。
本業の生産性を高めることは、単に副業の時間を作るためだけではなく、自分のキャリアを自分でデザインする第一歩でもあります。「プロティアン」への変身は、日々の小さな行動の見直しから始まるのです。
2)質問16:副業が軌道に乗ったら、それを本業にしたほうがよいですか?
趣味を副業にして、好きなことで収入を得られるようになると、「いっそ本業にしたい」と考える方もいるでしょう。しかし、副業を始めたばかりの段階では、まず本業という「軸」を見失わないことが大切です。
木にたとえて考えてみましょう。地面にしっかりと根を張り、まっすぐ伸びる「幹」が本業です。そこから広がり、生い茂る「枝葉」が副業です。幹がしっかりしているからこそ、枝葉は安心して広がることができます。まずは本業という幹を太く育てながら、副業という枝葉を少しずつ伸ばしていく――そのようなイメージを持つとよいでしょう。
副業で興味のある分野に挑戦し、多様な経験を積むことは、自分ならではのオリジナリティにつながります。そして、その経験が結果的に本業を豊かにすることも少なくありません。
これからの時代は、「AかBか」という二者択一の発想ではなく、「AもBも」という両立の発想が重要です。
「OR」ではなく「AND」の思考で、複数の挑戦を組み合わせながらキャリア資本を蓄積していくことが、しなやかで強いキャリア形成につながります。
3)質問17:社外ネットワークはどう築けばよいですか?
組織にキャリアを委ねるのではなく、主体的にキャリアを築いていくためには、社外ネットワークの形成が欠かせません。
社外とのつながりをおろそかにすると、新しい学びや刺激を得る機会が減り、自分を見つめ直すきっかけも少なくなっていきます。日頃から社外の人と交流を深め、社会関係資本を蓄積していくことが大切です。
ここで参考になるのが、社会学者マーク・グラノヴェッターが提唱した「弱い紐帯の強み」という考え方です。
これは、家族や親しい友人、職場の同僚といった「強い結びつき」よりも、友人の友人や知人などの「弱いつながり」のほうが、新規性の高い有益な情報をもたらしてくれる可能性が高い、という理論です。
つまり、ゆるやかなつながりこそが、新しいチャンスや視点を運んでくれるのです。
社会関係資本は、短期的な成果を求めるものではありません。戦略的かつ長期的な視点で育てていくことが重要です。
現在はオンラインでも多様な学びの機会が広がっていますが、「今の自分に本当に必要な学びなのか」と問い直す姿勢も欠かせません。そして、学びの後には自分なりに咀嚼し、内省する時間を持つことも大切です。
社外ネットワークを築くための3つのポイント
① 名刺交換を目的にしない
名刺の枚数を増やすことを目的にするのではなく、相手がどのような仕事をしているのか、何に関心を持ち、どのようなビジョンを描いているのかを丁寧に聞くことを意識しましょう。相手本位の対話が、信頼関係の第一歩になります。
② できるだけ一人で参加する
知り合いと一緒にいると安心ですが、あえて一人で参加することで、自分を知らない人とのゼロからのコミュニケーションが生まれます。そこにこそ、新しい気づきや出会いがあります。
③ 自分と異なるタイプの人と話す
これまで関わってこなかった分野や価値観を持つ人と交流することで、自分の思考の枠が広がります。
異質な出会いは、自分自身を変えるきっかけにもなります。
社外ネットワークは「今すぐ役に立つ人脈」ではなく、将来の可能性を広げるための土壌です。
ゆるやかで多様なつながりを大切にしながら、長期的に社会関係資本を育てていきましょう。
4)質問18:どうしたらブレない自分を育てられますか?
ブレない自分を育て、目的を見失わずにキャリアや人との交流を深めていくためには、自分が大切にしている世界観を磨き続けることが大切です。周囲の評価や環境の変化に流されるのではなく、「自分は何を大事にして生きていきたいのか」という軸を持つことが、安定したキャリア形成につながります。
ここでは、ブレない自分を育てるための2つの習慣を紹介します。
① ミッションを明確にする「瞑想習慣」
毎日少しの時間でもよいので、「今日、自分は何をしたいのか」「何を成し遂げようとしているのか」を静かに確認する時間を持ちます。大切なのは、他人からの期待や評価ではなく、自分の内側から湧き出るミッションに意識を向けることです。
「今日も自分のミッションを実行する」と意識することで、日々の行動が主体的なものへと変わっていきます。
キャリアを自分で導いていくためには、上司や会社に“やらされている”のではなく、自分で選び取っているという実感を持つことが重要です。
② 未来の構想を積み重ねる「メモ習慣」
もう一つ大切なのが、定期的に「自分のありたい姿」や「成し遂げたいこと」、「どんな人生を送りたいか」を言葉にすることです。
ここで重視するのは、過去の反省ではなく、未来の構想を描くことです。忙しい日々の中でも、未来を言語化し続けることで、目的を見失わずに進むことができます。
毎日メモを重ねていくと、同じような内容を書いていることに気づくでしょう。その「繰り返し現れるテーマ」こそが、自分にとって本当に大切な価値観や行動指針です。それらを一つひとつ実行していくことで、理想の未来へと少しずつ近づいていくことができます。
ブレない自分とは、迷わない人ではありません。迷いながらも、自分の軸に立ち返る習慣を持っている人のことです。日々の小さな内省の積み重ねが、しなやかで強いキャリアの土台をつくっていきます。
5)質問19:副業をするのは本業の会社にとってマイナスですか?
企業の立場から見ると、社員が副業を始めて自律的なキャリアを歩み出すことで、「優秀な人材が組織から離れてしまうのではないか」と不安に感じることもあるでしょう。しかし、それは必ずしも正しい見方とはいえません。これからの時代、社員の主体性を応援できない組織は、むしろ人材から選ばれにくくなります。個人の自律的なキャリア形成を後押しできない企業こそ、優秀な人材の流出という課題に直面する可能性が高いのです。
自律的な人材を育てる3つのメリット
① 組織の生産性が向上する
社員が主体的に働くようになると、一人ひとりの生産性が高まります。その結果、組織全体の成果も自然と向上します。「やらされる仕事」ではなく、「自ら選び取った仕事」になることで、仕事への向き合い方が変わるのです。
② 変化への対応力が高まる
現在、働き方は急速に多様化しています。
- テレワーク
- 時短勤務
- フレックスタイム制
こうした柔軟な制度のもとでも、自律的に働ける人材は、環境の変化にスムーズに適応できます。変化の激しい時代において、自律性は大きな強みになります。
③ 組織の風通しが良くなる
自律的に働く人は、課題発見力や解決力が高く、発想も豊かです。そして、自らのアイデアを積極的に発信します。その結果、意見交換が活発になり、オリジナリティのあるアイデアが生まれやすい環境が整います。新規事業やイノベーションの土壌も育ちやすくなります。
主体的に働く人材が増えることで、組織は活性化します。だからこそ企業は、社員の副業や自律的なキャリア形成を抑制するのではなく、応援する体制へと変化していく必要があります。個人と組織の双方の生産性が高まるとき、企業としての価値もまた大きく向上していくのです。
おわりに
誰かが覚悟を決め、我慢しながら働くことを「当たり前」としてしまう―その風潮を見直さなければ、日本のビジネスシーンは本当の意味で良くなっていきません。
また、過去の経験だけで、自らのキャリアの限界を決めないでください。
組織内で昇進するために、自分の可能性や大切な価値観を犠牲にする必要はありません。思考の癖に気づき、意識的に見直していくことで、組織と個人の関係性をより良いものにしながら、自分らしいキャリアを築いていくことは十分に可能です。
やりがいや生きがいを感じながら働き、生きていくこともできます。
年齢や性別に関係なく、人はいつからでも変わることができます。組織にキャリアを預けきるのではなく、一人ひとりが「キャリアオーナーシップ」を持つこと。それができれば、日々をより豊かな気持ちで過ごせるようになり、仕事にも人間関係にも、自然と好循環が生まれていきます。
「キャリアワークアウト」を実践することで、働くコンディションを整え、モチベーションが持続するサイクルをつくり、最大限のアウトプットを生み出すパフォーマンス力を鍛えていきましょう。
継続こそ、力です。 以上
出典:
田中研之輔氏(2022) 「キャリアの悩みを解決する13のシンプルな方法 キャリア・ワークアウト」 日経BP
吉末直樹(つづく)
