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4.職場環境とマネジメント(2)業務キャッチアップ型とメンバー配置型
1)業務キャッチアップ型
業務キャッチアップ型は、管理職就任の前後で業務内容が大きく変化するなど、業務の非連続性が大きい一方で、メンバー構成は比較的同質的であるという特徴を持つ。そのため、個別対応やフォローがそれほど多く発生しない場合もあり、新しい業務を理解しキャッチアップすることが優先されやすい。結果として、業務理解やスキル習得に多くの労力や時間を費やすことになりやすい職場環境である。
<Dさん(33歳・男性)の場合>
Dさんは、業務の効率化を重視し、目的達成のための最短ルートを導き出すことに長けている人物である。新任管理職に就任する以前から、若手メンバーを束ねるチームリーダーとして活躍していた。
しかし、今回は他部署からの異動であったため、新しい業務についてはほぼゼロに近い状態からのスタートとなり、当初は戸惑うこともあった。
管理職となって最も大きく変化したのは、担当する業務の範囲が広がったことである。チームメンバーと向き合う時間も増え、人のマネジメントと事業のマネジメントという二つの側面で成果を出すことの難しさを実感するようになった。
一方で、業務に習熟していないことは必ずしも弱点とはならず、未経験であるからこそ新しい視点を持てるという価値の転換も生まれた。さらに、相談した直属の上司が前向きに支援してくれたこともあり、業務改善に対する意識が高まり、行動にも変化が見られるようになった。
2)メンバー配慮型
メンバー配慮型は、業務内容に大きな変化がないなど業務の非連続性は小さい一方で、メンバー構成が多様であるという特徴を持つ。そのため、個別の配慮や対応に時間を費やすことが多くなりやすい職場環境である。
<Eさん(35歳・男性)の場合>
Eさんは35歳の男性社員で、物腰が柔らかく協調性が高い、他者への思いやりに満ちた人物である。現在の部署の上司が他部署へ異動したことに伴い昇格したため、部署や業務内容には大きな変化は生じていない。
メンバーは、若手の男性社員1名、年下の女性社員1名、同期で育休明けの時短勤務の女性社員1名、育休明けの時短勤務の年上の女性社員1名の計4名である。
勤務時間の調整や急な休暇への対応など、個人ごとの事情に応じた配慮が必要となる場面が多く、Eさんは管理職としての自覚や役割をより意識するようになった。
突発的な休暇取得が発生した際には、Eさんが自らメンバーの業務を代行することも多かった。その結果、多くの業務を抱え込むことになり、業務が滞ることも少なからず生じ、自信を失うこともあった。
しかし、会社の人事施策の一つである管理職サーベイ(360度評価)のフィードバックを受けたことで、これまでのやり方を見直す必要性を再認識した。すべての業務を抱え込もうとするマネジメントスタイルには限界があることに気づき、メンバーに仕事を任せることを積極的に進めるようになった。
5.新任管理職のキャリア支援
1)4類型に基づく新任管理職の役割転換
メンバーの多様性の多寡と業務の非連続性の多寡という二つの軸から、新任管理職が就任時に直面する職場環境や状況を分類すると、「高負荷型」「低負荷型」「業務キャッチアップ型」「メンバー配慮型」の4類型に整理できる。本節では、各類型の特徴や共通点、そして相違点について考察する。
① 高負荷型の考察
高負荷型は、一見すると対処すべき課題が多く、新任管理職にとって適応の難易度が高い状況であるといえる。一般的には、こうした負荷を軽減することが直接的な解決や状況改善につながると考えられる。しかし一方で、負荷が高い状況だからこそ、既存の役割の見直しや新たな役割転換の契機が生まれる可能性もある。
特に、これまで慣れ親しんできた仕事の進め方や成果の出し方の一部を手放すためには、困難や逆境の経験が重要な意味を持つと考えられる。立教大学の元山年弘教授が「管理職への移行における諸問題」で指摘しているように、新任管理職は、不安や孤独感、憂鬱といった心理的抵抗や障害に直面しやすい。そのため、こうした心理的負担を緩和するための周囲からの支援やサポートも重要であるといえる。
②低負荷型の考察
低負荷型は、業務に連続性があり、メンバーの均質性も比較的高く、個別対応がそれほど求められないため、文字どおり比較的負荷が軽い状況であるといえる。他の3類型と比較すると、逆境や限界、頓挫といった大きな転換点とみなされる出来事は確認されておらず、それに紐づくような大きな変化も見られなかった。
この結果は、新任管理職の役割転換においては、本人がこれまでの仕事の進め方を見つめ直す契機となるような、重要な出来事の発生が一定の役割を果たしている可能性を示唆している。
また、低負荷型の事例においても、形式的には役割が変化しているものの、本人の意識や行動に劇的な変化が見られないことに対し、漠然とした不安や疑問を抱く様子が確認された。場合によっては、管理職としての適性に自信が持てないといった心境が吐露される場面も見られた。
③業務キャッチアップ型の考察
業務キャッチアップ型の事例では、業務内容を把握し習得していく過程の中で、メンバーとのコミュニケーションが形成されていく。ただし、業務に関するメンバーの意見について、新任管理職が前例主義的であり、現状の改善や変化を生み出しにくいものが多いと感じる場合もある。
一方で、業務経験が相対的に少ないことは、前例に縛られない柔軟な判断を可能にするという点で利点となり得る。このことは、組織改善に向けた意識や行動の転換の契機となる可能性を示唆している。
しかしながら、業務キャッチアップ型では、業務知識や技術に関するメンバーとの力量差により、新任管理職が萎縮や遠慮を感じやすく、管理職としての権限を活用することに尻込みする傾向も見られる。
野中郁次郎氏が提唱した「ミドル・アップダウン・マネジメント」の概念によれば、日本企業の競争優位性には中間管理職の活動が大きく寄与しているとされる。この概念は、「ミドルダウン」と「ミドルアップ」という二つの機能から構成されている。前者は経営層の戦略や目標を一般社員に理解できる形で翻訳し伝達する役割を担い、後者は現場の情報や知見を上位層へ伝達する役割を果たす。このような双方向のダイナミックな活動が、組織内部における知識創造や価値創出を支えてきたといえる。
この観点から見ると、新任管理職が消極的な姿勢にとどまることは、企業の競争力にとって制約要因となる可能性もある。そのため、業務を完全にキャッチアップしていない段階であっても、「まずできることから着手する」という姿勢で管理職としての役割を果たすことが重要である。同時に、その実践を支えるために、上司や職場が適切に支援する環境を整備していくことが求められているといえる。
④メンバー配慮型の考察
メンバー配慮型の事例では、管理職就任の前後において業務の連続性が高く、非管理職時代に高い評価を受けてきたことから、業務遂行に対する一定の自負が見られる。
一方で、メンバーよりも業務に精通しているがゆえに、担当者から管理職への役割転換は必ずしも円滑には進まず、担当者時代の成果の出し方を手放せない傾向が見られる。その結果、業務の抱え込みによる過負荷状態に陥ったり、管理職サーベイのフィードバックにおいてメンバーの反発が顕在化したりするケースも確認された。こうした頓挫の経験が、仕事の進め方や関わり方を見直す契機となっていると考えられる。
メンバー配慮型において役割転換が困難となる背景としては、主に二つの要因が考えられる。
第一に、「組織のフラット化」による影響である。管理職就任前の準備期間が短縮される中で、人に仕事を任せる経験が十分に積まれておらず、結果として自己対処が優先されやすい状況が生じている。一方で、メンバーの視点からは、自分たちが十分に信頼されていないという不信感につながる可能性もある。
第二に、「管理職のプレイヤー化」の影響である。管理職がマネジメント業務に加え、実務担当者としての役割も担うことで、業務の分担が進まず、結果として役割転換が一層難しくなっていると考えられる。
2)メンバーの多様性への新任管理職の対応
新任管理職が、メンバーの多様性にどのように対応するかについて、多様性の高い職場における「高負荷型」と「メンバー配慮型」の事例をもとに検討する。
全体的な傾向として、管理職就任時には、まずメンバーの表層的ダイバーシティ(年齢、性別、雇用形態、勤務時間など)を把握し、物理的な配慮の必要性を検討する。その後、業務を進める中で、表面的には共通する属性を持つメンバーであっても、業務のアサインや仕事を任せた際の反応の違いに戸惑う場面が生じる。これを契機として、深層的ダイバーシティへの関心が高まっていく。
深層的ダイバーシティには、仕事に対する価値観の違いや、管理職への就任意欲の差などが含まれる。これらの違いに直面することで、メンバー1人ひとりが異なる価値観を持っていることへの理解が深まる。
こうした個々の違いを活かした組織運営を実現するためには、メンバーとの対話が重要である。その具体的な手段として、1on1面談の実施が挙げられる。さらに、対話を通じてメンバーのモチベーションや得意・不得意を把握することで、それぞれの特性に応じた業務アサインが可能になることが示唆される。
3)新任管理職のキャリア開発支援
新任管理職への支援としては、主に以下が挙げられる。
- ① 直属の上司からのアドバイス
- ② 同部署の同僚によるインフォーマルな支援
- ③ メンバーからのフィードバックや管理職サーベイ
- ④ 管理職向け研修や書籍による知識のインプット
- ⑤ 「斜め上」の上位役職者(部長など)からのアドバイス
本書においても、直属の上司による支援の有効性は確認された。一方で、直属ではない上位役職者が果たす役割の大きさも明らかとなった。その理由の一つとして、これらの上位役職者は人事評価を直接行う立場にないため、利害関係が比較的希薄である点が挙げられる。
「斜め上」の上位役職者は、直属の上司と比べて接触頻度が低く、「弱い紐帯」と位置づけられる。しかし、この「弱い紐帯」であるがゆえに、評価やネガティブな反応を過度に気にすることなく、安心して相談や助言を受けることができる。また、その後の行動においても、特定の期待や義務に過度に縛られにくいという利点がある。こうした特性は、新任管理職のエンパワーメントに寄与すると考えられる。
他方で、「斜め上」の上位役職者との関係は自然には構築しにくいという制約もある。そのため、人事施策として、上位役職者によるメンター制度の導入など、他部署の上位役職者との関係性を構築する機会を設けることが、新任管理職支援において重要である。
本章に至るまでの質的調査では、新任管理職のトランジションについて、8名を対象としたインタビュー調査をもとに分析・考察を行った。
第一の意義は、新任管理職の職場環境を「高負荷型」「メンバー配慮型」「業務キャッチアップ型」「低負荷型」の4類型に分類した点である。
第二の意義は、新任管理職が職場の多様性にどのように対処していくかについて、経験的に明らかにした点である。新任管理職は就任当初、メンバーの表層的ダイバーシティを把握し、勤務時間や雇用形態などへの配慮の必要性を検討する。その後、業務の進展に伴い、個々人の深層的ダイバーシティにも着目するようになる。特に、表層的ダイバーシティへの配慮だけでは不十分であると自覚することが、重要なターニングポイントとなる。
第三の意義は、新任管理職に対するキャリア支援において、直属の上司だけでなく「斜め上」の上位役職者が重要な役割を果たすことを示した点である。
第四の意義は、新任管理職のトランジションを、職場環境および時系列の視点から捉えたうえで、支援のあり方を構想する必要性を指摘した点である。
このプロセスは単線的・不可逆的なものではなく、複線的で往還を伴うものである。この意味で「トランジション」は、マネージャーとプレイヤーの役割の行き来や、現在と過去の相互作用といった要素を含む動的なプロセスとして捉えられる。
出典:
田中研之輔氏、岩月 優氏 (2025) 「グロースマネジャー: 新任管理職のキャリア開発」 千倉書房
吉末直樹
以上
