ISO審査員及びキャリアコンサルタントの方に有用な情報をお伝えします。

1.はじめに
本書は、法政大学教授・田中研之輔氏、電通の子会社である「ニューホライズンコレクティブ」の共同代表を務める山口裕二氏、野澤友宏氏による共著である。
企業現場において、ビジネスパーソンからしばしば聞かれるのが、「このままで本当にいいのだろうか」という問いである。ミドルシニア層の多くは、これまでの仕事や役割に充実感を覚えながらも、心のどこかで新たなスタートへの憧れや、これまでの生き方を少しずつ変えていきたいという思いを抱いている。同時に、変化への不安や、長年築いてきた安定を手放すことへの恐れも感じているのが実情であろう。
本書は、こうしたミドルシニア期のキャリアに関する悩みをまず受け止め、その内省を通じて自己理解を深め、変化を恐れずに新たな一歩を踏み出すための気づきを得られるよう支援することを目的としている。
本書では、ミドルシニア期からキャリア開拓に取り組む人々を「ライフプレナー」と呼ぶ。「ライフプレナー」とは、人生(ライフ)と起業家(アントレプレナー)を掛け合わせた造語であり、多様な人々との関わりの中で主体的に「出番」を創出し、自らの人生を切り拓いていく人を指す。
ライフプレナーとは、長い人生の中で活力と生産性を維持しながら、必要に応じて自らを変化させ続ける存在である。従来、キャリア開発は主として個人の成長の観点から捉えられてきたが、ライフプレナーは、個人の成長に加えて、組織や社会との関係性の中での成長も重視する点に特徴がある。
ライフプレナーとともに創り出したい未来とは、年齢にかかわらず誰もが、第一に中長期的なキャリア戦略を通じて生涯にわたり成長し続けること、第二に個人と組織をつなぐ共創を通じて、関わる人々や組織の持続的成長を実現していくことである。

2.ミドルシニアのキャリア状態
1)本当に必要なもの

30代から60代を対象とした働き方や生き方に関する情報は、書店やインターネット上にあふれている状況である。不足を意識させることで不安をあおり、危機感を募らせ、ミドルシニアを追い立てている側面があるといえる。
では、ミドルシニアに本当に必要なものは何か。不足しているものに目を向けるのではなく、これまでの経験を通じて一人ひとりの内にある豊かな可能性に気づくことのほうが重要である。長年にわたり培ってきた経験や知見、スキルや専門性といった価値を自らが実感し、それを社会のニーズに対応させながら発揮していくことが求められているのである。

2)学ばないシニア
企業の人事担当者が抱える悩みの多くは、「中高年が学ばない」という点にある。しかし、それは学ぶ意欲や能力が欠如しているためではない。多くの中高年は、組織内でマネジメントとしての責務を担い多忙であるため、目の前の業務を犠牲にしてまで学習に時間を割くことが難しい状況にあるのである。

3)これまでのキャリアとこれからのキャリア
昭和から令和にかけて、日本社会におけるキャリア観は大きく変化してきた。
昭和時代においては、キャリアは企業や官庁といった組織によって定義され、個人の働き方は組織内での成長と安定を前提としていた。終身雇用制度と年功序列型賃金体系が確立されており、キャリアとは主に組織内キャリアを指すものであった。
平成時代においては、「組織内キャリア+組織外キャリア」という概念が普及した。個人は一つの企業にとどまらず、転職やフリーランスといった多様なキャリア選択を行うようになった。特定の企業や業界に依存せず、自らのスキルを活かして柔軟に働くことが重視されるようになったのである。
令和時代に入ると、テクノロジーの進化やグローバル化の進展により、キャリアの在り方はさらに変化した。個人が自らの価値観に基づいて柔軟にキャリアを形成する「ニューキャリア」の時代に突入している。組織や業界にとらわれるのではなく、自己の能力を最大限に活かしながら適応力を高めることが重視される。加えて、オンラインビジネスやリモートワーク、パラレルキャリア(複業)といった多様な働き方が広がる中で、自らのスキルや経験を基に新たな価値を創出する能力が求められている。
今後のキャリア形成においては、スキルの継続的なアップデート、ネットワークの活用、自己の価値観の明確化、そして柔軟性の保持が重要である。プロフェッショナルコミュニティに参画し、情報共有や協働関係を構築することが、キャリア発展に寄与する。
また、組織と個人が共存し、相互に成長し合う環境を整備することが今後の重要な課題である。個人が自己の価値を高めると同時に、組織も変革を遂げることで、より良いキャリア形成が実現される。このような視点を持ち、変化に対応する柔軟な思考を備えることが、新たな時代に求められる能力である。

4)ミドルシニアのキャリア課題
キャリア形成には、「ファーストキャリア形成期」「ミドルキャリア形成期」「シニアキャリア形成期」という3つの主要なフェーズが存在する。それぞれの段階には固有の課題があり、本節では各段階で生じる「停滞」の要因とその影響に焦点を当てる。
①「ファーストキャリア形成期」における課題:不透明なキャリア展望
本フェーズは主に若手社員が属する段階であり、就業初期に直面する課題を指す。「不透明なキャリア展望」とは、キャリアパスや将来的な成長の見通しを描きにくい状況を意味する。近年では、終身雇用制度の揺らぎや成果主義への移行に伴い、従来の「勤続すれば昇進する」という明確なキャリアパスが弱まっていることが、この課題の背景にある。
その結果、多くの若手社員は、自身がどのように成長し、どのようなスキルを身につければ将来にわたり活躍できるのかを見通せない状況に置かれている。このような不透明性は、モチベーションの低下や早期離職につながる可能性があり、組織にとっても大きな損失となる。
この課題への対応としては、メンター制度の導入やキャリアプランニング支援の充実、具体的なスキル開発機会の提供などが求められる。

②ミドルキャリア形成期における課題:組織内キャリア依存
本フェーズは主に中堅社員が属する段階であり、この時期における代表的な課題が「組織内キャリア依存」である。これは、キャリア形成が組織の枠内に閉じてしまい、自己成長やキャリア開発の機会が限定されやすい状況を指す。組織内で一定の地位や役割を得た後、新たな挑戦やスキル開発に踏み出さず、現状にとどまる傾向が見られる点が特徴である。
20代・30代で組織に入社し、長年にわたり役職やスキルを積み重ねてきたビジネスパーソンは、40代に差しかかる頃から「組織内キャリア依存」に陥りやすくなる。このような状態においては、転職や独立、新たなスキルの習得といったキャリア転換に対して心理的なハードルが高まる。
この課題の背景には、組織内での昇進や評価を過度に重視する文化や、スキルの継続的なアップデートの不足による自己市場価値の低下がある。日本企業においては、年功序列の影響も依然として存在し、ミドルキャリア期の社員が現状維持にとどまりやすい構造となっている。
この課題への対応としては、組織外での学びや経験を積極的に促進することが重要である。例えば、副業や社外研修プログラムへの参加を奨励することで、社員が組織内外において新たな価値を創出できる環境を整備する必要がある。

③シニアキャリア形成期における課題:キャリア失墜とモチベーション低下
本フェーズに属する社員が直面する主な課題は、「キャリアの失墜とモチベーションの低下」である。この段階では、定年や役職定年といったキャリアの終盤が視野に入る中で、これまで積み上げてきたキャリアが失われる感覚や、働く意欲の低下が顕在化しやすい。
日本のように年功序列を重視する文化においては、役職を失うことが自己の価値や社会的地位の喪失として受け止められる場合がある。また、若い世代との価値観の違いや関係性の変化により、職場での居場所を見失い、孤立感を抱くケースも少なくない。こうした要因は、モチベーションの低下や早期退職につながり、企業にとっては貴重な経験や知識を有する人材の喪失を招くリスクとなる。
この課題への対応としては、シニア社員が組織内外で活躍できる機会を提供することが重要である。例えば、メンターとして若手育成に関与する、社内外のプロジェクトに参画する、新たなスキル習得のための研修に参加するなど、多様なキャリアの選択肢を提示することが求められる。これにより、働く意欲の維持・向上を図ることが可能となる。

キャリア形成は個人の問題であると同時に、組織や社会全体に関わる課題である。企業にとっては、社員がどの段階においても成長し続けられる機会を提供することが、持続的な成長に不可欠である。
各ステージにおけるキャリア形成の課題を明確にすることは、個人と組織が協働し、キャリアの停滞を乗り越えるための出発点を示すものである。

5)キャリア停滞に直面するそれぞれの状況
ミドルシニア期に直面するキャリア停滞は、多くのビジネスパーソンにとって重要な課題であり、年齢や経験に伴う環境の変化や期待の高まりに影響される心理的苦悩の一形態である。
この年代におけるキャリアプラトー(キャリアの停滞)には、責任の増大、組織内での役割変化、健康面の問題、さらには将来への不安などが複合的に影響している。
以下に、ミドルシニア期のビジネスパーソンが直面するキャリアプラトーの典型的な事例を示す。
事例1:チームメンバーとの価値観の違いから生じる疎外感
Aさん(48歳)は、大手企業の中間管理職であり、長年の勤続と実績が評価され、リーダーとしての責任を担っている。近年、チームには20代から30代の若手社員が増え、世代間の価値観の違いが顕在化してきた。Aさんは、彼らの新しい働き方や価値観に共感しきれず、そのギャップが徐々にストレスとなっている。
チーム会議において、若手社員が「ワークライフバランスを重視し、定時退社を目指したい」と提案した。これに対し、Aさんは、長時間労働こそが会社への忠誠心や責任感の表れであるという従来の価値観から、無意識のうちに否定的な姿勢を示した。この対応により、若手社員の間には「古い価値観を押し付けられている」という不満が生じ、職場の雰囲気が悪化した。
その結果、Aさんは若手社員から距離を置かれていると感じ、自身の役割や存在価値に疑問を抱くようになった。「自分はこの職場で必要とされていないのではないか」という思いが強まり、キャリアプラトーの状態が深刻化していったのである。
事例2:昇進に伴う責任とプレッシャー
Bさん(52歳)は、念願であった役員ポストに昇進した。家族や同僚から祝福され、表面的には順調に見えていたが、内面では大きな不安を抱えていた。
これまで中間管理職として現場運営を担ってきたBさんにとって、役員としての意思決定には大きなリスクが伴う。経営会議では常に難しい判断を求められ、失敗が許されない状況が続いた。あるプロジェクトにおいて、Bさんが最終判断を下した施策が想定以上に不調となり、数千万円規模の損失を招いた。この結果、経営陣からの厳しい指摘や外部からの批判を受け、Bさんは自らの能力に疑念を抱くようになった。
「自分はこのポジションにふさわしくないのではないか」という自己否定感が強まり、仕事への意欲も低下し、出社すること自体に苦痛を感じるようになった。昇進による名誉と重圧の間で揺れ動くこのような状況も、ミドルシニア期に特有のキャリアプラトーの一因であるといえる。

事例3:健康問題から生じる将来不安
Cさん(47歳)は、20年以上にわたり営業職として現場で活躍してきた。しかし、ここ数年で体力の衰えを感じるようになり、仕事への影響が徐々に顕在化している。長時間の外回りや出張が重なると身体がついていかず、疲労が蓄積し回復しにくい状態が続いている。
ある日、出張先で倒れ病院に搬送されたCさんは、医師から過労による体調不良と診断された。これを契機に、自身の健康状態や働き方について真剣に見直すようになった。「今後も体力的に営業職を続けられるのか」という不安が強まり、将来への見通しに対する不確実性が増していった。
その結果、「自分の存在価値が見出せない」という感覚にとらわれるようになり、キャリアプラトーの状態が顕在化した。体力の低下とそれに伴うキャリアの見通しの不透明さは、ミドルシニア期における重要な課題の一つである。

6)キャリア・コンディション診断を把握する
社会のニーズに対応しながら価値を発揮していくためには、まず現在の自分の状態を正しく把握することが欠かせません。
人生の中盤に特徴的なキャリア・コンディション(心身の健康度、満足度、バランスなど)を把握するため、本診断では20項目の設問と5段階の評価尺度を設定しています。
回答方法
各設問について、以下の5段階で自己評価を行ってください。
・1(全くそう思わない)
・2(あまりそう思わない)
・3(どちらともいえない)
・4(ややそう思う)
・5(非常にそう思う)

人生の中盤に特徴的なキャリア・コンディション

出典:
田中研之輔 (著), 山口裕二 (著), 野澤友宏 (著) (2025) 「これからのキャリア開拓」 中央経済社

(つづく) 吉末直樹

以上