ISO審査員及びキャリアコンサルタントの方に有用な情報をお伝えします。

9)万華鏡キャリア理論
万華鏡キャリア理論は、2002年にアーサー・R・メイナードおよびスーザン・P・メイナードによって提唱された、キャリア選択における個人の多様性と柔軟性を重視する理論である。本理論はキャリアを万華鏡にたとえ、個人の価値観や優先順位の変化に応じて、キャリアの形も変化していくという考え方を示している。
本理論では、個人の価値観や状況がキャリア選択に与える影響に着目し、人がキャリアを通じて満たそうとする三つの主要要素、すなわち「真実性(自己の本質性)」「バランス」「挑戦」に焦点を当てている。
また、キャリアと生活のバランスを重視し、個人が年齢やライフステージに応じて柔軟にキャリアを再設計していくための指針を提供する点に特徴がある。
特にミドルシニア期という人生の節目においては、自身の価値観や人生の意味を再評価し、より充実したキャリアを構築することが求められる。このような局面において、万華鏡キャリア理論は自己の本質に基づいた意思決定を支える有効なフレームワークとなる。
したがって、ミドルシニア期以降のキャリア開拓においては、本理論を活用することで、より主体的かつ意義のあるキャリア選択が可能となるのである。

①「真実性」を重視したキャリア開拓
「真実性」とは、個人の内面的な価値観が外面的な行動や所属組織の価値観と一致している状態を指し、自らの価値観や信念に忠実であることを意味する。
ミドルシニア期に入ると、長年のキャリア経験や人生経験を通じて、自己の本質や自分にとって本当に重要なことが明確になってくる。この時期においては、キャリアにおいて「何を実現したいのか」「どのように働きたいのか」を改めて見つめ直すことが重要である。
具体的には、第一に自己の価値観の再確認を行うことである。これまでのキャリアや人生経験を振り返り、自分が大切にしてきた価値観を明確にする必要がある。
第二に、過去の経験からの学びを再確認することである。成功体験や失敗体験を通じて、自分にとって何が意味のある成果であったのかを整理し、今後のキャリア設計に活かしていくことが求められる。
第三に、自己のこれからの生き方に即したキャリア選択を行うことである。企業や組織のパーパスや方針に依存するのではなく、自身の価値観や信念に基づき、どのような働き方を選択するのか、どの分野で活動するのかを主体的に検討する必要がある。

②「バランス」を考慮したキャリア開拓
ミドルシニア期は、仕事のみならず、家族、健康、趣味など、生活全体のバランスが重視されるライフステージである。
万華鏡キャリア理論における「バランス」とは、仕事と仕事以外の領域における多様な要請(家族、友人、高齢の家族への配慮、個人的関心など)の間で、調和を保とうとする状態を指すものである。すなわち、キャリアだけでなく、家庭生活やプライベート、自己成長といった複数の役割のバランスを図ることが重要となる。
ミドルシニア期以降においては、キャリアのみに過度にエネルギーを注ぐのではなく、生活全体の充実を意識した時間配分が求められる。こうしたバランスを意識したキャリア開拓こそが、長期的な満足感と持続可能な働き方を実現する基盤となるのである。

③「挑戦」を通じたキャリア開拓
「挑戦」とは、個人が刺激的な仕事やキャリアの発展を求め、新たな経験を積み、成長機会を通じてキャリアを豊かにしていく要素である。
ミドルシニア期においても、新たな挑戦を取り入れることで、意欲や充実感を持続させることが可能である。年齢を重ねた後も、新しい分野への挑戦やスキルの習得、自己成長を志向する姿勢は、キャリア開拓において極めて重要である。
また、テクノロジーの進展や市場環境の変化に対応するためには、デジタルスキルやリーダーシップスキルの習得が不可欠である。これにより、変化の激しい環境においても競争力を維持することが可能となる。
さらに、ミドルシニア期における異業種や新たな分野への挑戦は、大きな転機であると同時に、キャリア開拓の重要な原動力となる。これまでに培った専門性を活かしつつ、新たな領域での活動を模索し、成長機会を積極的に求めることが有効である。
加えて、新たな成長機会を創出するためには、自己啓発への継続的な取り組みも重要である。リーダーシップの強化やメンタルの向上、ネットワーキングの拡充などは、自己成長を促し、キャリアの充実度を一層高める要因となる。

④ミドルシニア期からのキャリア開拓を支える3要素
ミドルシニア期からのキャリア開拓においては、前述の「真実性」「バランス」「挑戦」の三要素を適切に組み合わせながら、自分に適した働き方やキャリアゴールを見出すことが重要である。
例えば、新たな分野に挑戦する際には「挑戦」の要素が強く求められるが、その選択が自らの価値観と一致しているか(真実性)を確認するとともに、家庭や生活との調和(バランス)を考慮する必要がある。
ミドルシニア期以降のキャリア開拓は、これまでの経験や価値観を再評価し、自身の本質により近いキャリアを追求するための貴重な機会である。
万華鏡キャリア理論は、単なるキャリア形成の枠組みにとどまらず、自己理解を深め、ライフステージに応じたキャリア選択を行うための指針となるものである。
年齢にかかわらず、自らの価値観を重視し、変化に柔軟に対応しながら成長し続ける姿勢こそが、充実したキャリアと豊かな人生を実現するための鍵となるのである。

10)プロティアン・キャリアと万華鏡キャリア理論の接続
著者は、プロティアン・キャリアと万華鏡キャリア理論を接続することで、現代に適合した新たなキャリア知見を構築することを志向している。
① 自己の多様性を生きる
プロティアン・キャリアの自己主導性に加え、万華鏡キャリア理論が重視する自由やバランスの概念を取り入れることで、キャリア選択の幅は大きく拡張される。
個人は、人生の各フェーズにおいて異なる優先順位を持ち、それに応じたキャリアパスを選択することが可能となる。従来は集団における多様性が重視されてきたが、本アプローチは「個人の内なる多様性」に目を向ける契機を提供するものである。
② ダイナミックなキャリア形成
万華鏡キャリア理論の動的な視点を取り入れることで、プロティアン・キャリアは変化への適応力をさらに高めることができる。
個人は、キャリアの過程において価値観や目標が変化した場合でも、それに応じてキャリアを柔軟に再設計することが可能となる。プロティアン・キャリアは単線型キャリアから複線型キャリアへの転換を示唆してきたが、万華鏡キャリア理論はそこにさらなる柔軟性を付加するものである。すなわち、キャリアはよりしなやかで可変的なものとして捉えられるべきである。
③ 自己効力感の向上
プロティアン・キャリアの自己主導性に、万華鏡キャリア理論の「挑戦」の視点が加わることで、個人の自己効力感は一層高まる。
仕事が個人の価値観と一致し、かつ自由とバランスが保たれることで、仕事に対する満足度やモチベーションが向上する。これまで、長年同一業務に従事することによるキャリアプラトーや組織依存が課題とされてきたが、両理論の接続により、個人は自己主導的かつ真実性とバランスを保ちながら、継続的に挑戦するキャリアを築くことが可能となる。
さらに、組織においてもこの視点を取り入れることで、従業員の心理的充実度を高めると同時に、競争力や生産性の向上につなげることができるのである。

11)キャリア・リテラシーを磨き続ける
テクノロジーの進展や社会環境の変化に伴い、個人が学び続ける姿勢はキャリア開拓において不可欠な要素である。生涯学習は、単なる知識の習得にとどまらず、スキルの更新や新たな環境への適応力を高めるための重要な手段である。キャリア開拓は、多様なキャリア理論と密接に関連している。プロティアン・キャリア理論、キャリア構築理論、バウンダリーレス・キャリア理論、キャリアアンカー、生涯学習などの知見を実践に取り入れることで、自己主導的なキャリアの実現が可能となる。
これらの理論は、個人が主体的にキャリアの方向性を定め、変化する環境に柔軟に対応するためのフレームワークを提供するものである。

4.新しい「出番」を自ら作る
1)ライフシフトプラットフォーム(LSP)とは

これからのキャリア開拓に多くの示唆を与える実践例として、「ライフシフトプラットフォーム(LSP)」を紹介する。ライフシフトプラットフォームは、人生100年時代における新しい働き方を実現するための、ライフプレナー向けコミュニティである。
2021年に株式会社電通を退職した200名以上の人材が第1期生として参画し発足した。その後、多様な企業出身で専門性を有するメンバーが250名以上参加している。
メンバーは、年齢によって活躍の機会を制限されることなく、自立したプロフェッショナルとして中長期的に価値を発揮し続けることを目指している。そのために、「新たな学びの機会」や「仲間・チームづくりの機会」を得ながら、「新たな出番」および「新たな価値発揮」のあり方に挑戦している。
ライフシフトプラットフォームは、長年企業に勤めてきた人材が、自立したライフプランナーとして活躍するための機会を提供するものである。主な特徴は以下の通りである。
・新たな「学び」の機会
・新たな「仲間づくり」の機会
・新たな「出番」につながる機会
ここでいう「出番」とは、ミドルシニア一人ひとりが、自身の中にある価値や経験、知見、強み、スキル、専門性などを、社会のニーズに応じて発揮する機会を指すものである。

2)人生100年時代、自分の出番は自分でつくる
人生100年時代において、60代、70代、80代に至るまで長く価値を発揮し続けるためには何が必要であろうか。それは、これまでに身に付けてきたスキルや専門性を継続的にアップデートしていくことである。
加えて、それまで培ってきたものとは異なる新たなスキルや専門性を習得することも有効である。一つの専門性に別の専門性を掛け合わせることで強みは一層強化され、個性として際立つ。さらに複数の専門性を組み合わせることで、業界において唯一無二の存在となる可能性が高まる。
また、一つの組織に依存するのではなく、起業家がアントレプレナーシップをもって事業を創造するように、自らの人生に対しても主体的に関わり、自分らしい生き方を切り拓いていく姿勢が求められる。このような在り方を体現する存在が、いわゆるライフプランナーである。
「ライフシフトプラットフォーム」に参加するメンバーを対象に、会社を退職してから3年後に「当初想定していたライフシフトをどの程度達成したか」を尋ねたアンケートでは、50%以上達成したと回答した者が全体の6割弱であった。当初は3年で8割程度の達成を見込んでいたため、想定を下回る結果となった。

3)ライフシフトはじわじわ変化。「Why」から始めよう
華麗な転身を果たした人のプロフィールを見ると、ある職業から一気に別の職業へ移行したように見えることがある。しかし実際には、時間をかけて学びや資格取得を重ね、新たな仕事に軸足を移すまでに試行錯誤を繰り返しながら、ようやく仕事を受注できるようになるというのが実情である。
十分に学び、自己充実感の高い人々を分析すると、ある共通点が見えてくる。成果を上げている人は、「何をするか(What)」や「どのように行うか(How)」を考える前に、「なぜそれを行うのか(Why)」という問いを自らに投げかけている。すなわち、内発的動機を明確にすることから行動を始めているのである。
一方で、「何から始めればよいか」という相談は、「What」や「How」に偏った問いである。「Why」が不在のまま行動すると、試しては「何か違う」と感じたり、失敗したりするたびに、再び「What」や「How」を探し続けることになりやすい。
「Why」が明確であれば、「何を学ぶべきか」「どのように進めるべきか」という次のステップは自ずと見えてくるものである。

4)ライフシフトを成功させる 「Be Do Haveの法則」
ライフシフトを成功させるためのマインドセットとして、「Be・Do・Haveの法則」がある。
人は一般的に、「何かを手に入れたら(Have)、何かを行い(Do)、その結果として理想の状態になれる(Be)」と考えがちである。しかし実際には、まず「どうありたいか(Be)」を明確にすることが重要である。
例えば、「幸せになりたい」と思うのであれば、まず自分自身を幸せな状態に置くことから始める。幸せな気持ちで婚活に取り組めば、その前向きな雰囲気が自然と周囲にも伝わり、良い出会いにつながりやすくなるだろう。
ミドルシニア世代の中には、「何かをしなければならない」と考え、多くのことに手を広げる人も少なくない。しかし、その際に大切なのは「Be」を意識することである。
「誰かの役に立つ存在でありたい」というあり方を持っていれば、自分が当初イメージしていた内容と多少異なっていたとしても、「誰かの役に立っている」という実感があれば、前向きに継続することができる。その結果、周囲から感謝され、信頼や新たな役割、さらには対価を得やすい状態につながっていく。
一方で、就職活動では、「何をするか」「年収1000万円を目指す」といった「Do」や「Have」を起点に考えることが多い。しかし、ミドルシニアのライフシフトにおいては、特に「Be」から考えることが重要である。
まず、「どのような自分でありたいのか」「どのような人生を送りたいのか」という理想の姿を描くことが出発点となる。
5年後、どのような自分でありたいですか。まずは、その姿をできるだけ具体的に思い描いてみることが大切である。そうすることで、自ずと「何をすべきか」が見えてきて、結果として、想像以上の成果や充実感につながっていくだろう。

出典:
田中研之輔 (著), 山口裕二 (著), 野澤友宏 (著) (2025) 「これからのキャリア開拓」 中央経済社

(つづく) 吉末直樹

以上