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3)4L理論をベースにコンディションをチェックする
多くの人がお金に悩んでいる。実際、キャリア形成の大きな障壁の一つとなっているのが、お金に関する悩みである。
これまでの多くのキャリア理論では、お金に悩みを抱えている人に対しても、「あなたの強みは何ですか」「あなたには何ができますか」といった、やや間接的な問いかけが中心であった。
そこで参考になるのが、サニー・ハンセン教授が提唱した「4L理論」である。ハンセン教授は、家庭における役割から社会における役割まで、人生におけるさまざまな役割を包括的に捉える「ライフキャリア」という考え方を提唱した。
ライフキャリアをより良く形成していくためには、人生を構成する複数の要素をバランスよく組み合わせていくことが重要である。4L理論では、その要素を「仕事(Labor)」「学習(Learning)」「余暇(Leisure)」「愛情(Love)」の4つに整理している。それぞれの頭文字を取って「4L」と呼ばれている。
そこで、自分自身の現在のキャリア・コンディションを確認するために、4Lのそれぞれについて、1~5の5段階で自己評価してみる。
4Lコンディションチェック
| 要素 | コンディション(最低1 ~ 最高5) |
|---|---|
| ① 仕事(Labor) | 1 2 3 4 5 |
| ② 学習(Learning) | 1 2 3 4 5 |
| ③ 余暇(Leisure) | 1 2 3 4 5 |
| ④ 愛情(Love) | 1 2 3 4 5 |
(出典:本書P94)
このチェックによって、現在の自分のライフキャリアにおいて、どの領域が充実していて、どの領域に課題があるのかを客観的に見つめることができる。
特に、お金の悩みを抱えることで、自信や行動する意欲を失ってしまうことには注意が必要である。もし、お金に関する不安が日々の生活やキャリア形成に影響を及ぼしているのであれば、その悩みを少しでも軽くする方法を考えることが不可欠である。
お金の悩みを軽減する一つの有効な方法は、日頃から「しなやかに、たくましく稼ぐ力」を身につけることである。
目の前の生活や現在の環境に何らかの不満や不安があるのであれば、自分の生き方や働き方を見直し、必要に応じて変えていくことが求められる。
何も変えなければ、基本的に今の状態から抜け出すことはできない。状況が悪化することはあっても、自然に好転することを期待するのは難しい。お金は自然に湧いてくるものではないからこそ、自ら「稼ぎ方のスイッチ」を入れることが重要になる。
これまでは、組織のために働くことで、毎月、決められた給料を受け取ることができた。そのため、自らの力でどのように働き、どのように収入を生み出すかということは、必ずしも大きな問題として意識されてこなかった。
しかし、これまで当然のように得られていた収入が、社会環境や組織などの外的要因によって得られなくなることもある。一つの組織にキャリアを預け、収入源を一つに依存することが、いかにリスクを伴うものであるかが、改めて明らかになったといえる。
だからこそ、キャリアとお金のつながりを棚上げすることなく、自分自身のキャリアをどのように築き、どのように収入につなげていくのかを考える必要がある。そして、個人と組織が依存するだけではない、より良い関係性をつくり出していくことが求められている。
4)稼ぎ方ポートフォリオを作成する
性別や年齢にかかわらず、精神的にも、身体的にも、経済的にも良好な状態で、自分らしい人生を全うするためには、私たちは「稼ぎ続ける力」を身につける必要がある。
コロナ禍に、アルバイトができなくなった学生から相談を受けた際、筆者は次のような取り組みをアドバイスした。
①悩みの悪循環から、問題解決型の思考へシフトする。
②実際に行動するために何ができるのかを徹底的に考え、市場分析を行う。
③新たな挑戦の結果について、実際に収入を増やすことができたのかを自ら振り返る。
この取り組みから得られるエッセンスは、社会人にとっても少なくない。
そこで提案したいのが、「稼ぎ方ポートフォリオ」の作成である。これは、自分がどのような方法で収入を得るのかを可視化し、本業、副業、自己投資などのバランスをどのようにデザインするかを考えるものである。
稼ぎ方ポートフォリオ
| 職種 | 求められるスキル | かかる時間 | 収入 |
|---|---|---|---|
(出典:本書P102)
① 生活デザインにフィットした「稼ぎ」
「年収1,000万円を稼ぎたい」「平均年収くらいは稼ぎたい」という発想だけで、目標とする収入を決めるのは適切ではない。大切なのは、「どのような暮らしをしたいのか」「人生において何を大切にしたいのか」を明確にすることである。まず、自分自身が望む生活デザインをイメージする。そして、その生活を実現するためには、どれくらいの収入が必要なのかを考える。つまり、「いくら稼ぐか」から考えるのではなく、「どのように生きたいか」から逆算して、必要な「稼ぎ」を設計するのである。
② 「肩書」ではなく「キャリア資本」で働く
世の中には、「肩書」があふれている。「肩書」は、組織におけるヒエラルヒーを明確にし、役割や責任の所在を分かりやすくするうえでは便利な仕組みである。
しかし、組織を離れたとき、その肩書そのものが自分の価値として評価されるとは限らない。
そこで、視点を変え、「肩書」ではなく「キャリア資本」で働くという意識を持つことが重要になる。
「キャリア資本」とは、組織内で与えられた肩書や役職ではなく、これまでの経験や知識、スキル、実績、人脈など、自分自身に蓄積されたキャリア上の資産である。
組織内の肩書に依存するのではなく、「この仕事を通じて、自分にはどのようなキャリア資本が蓄積されているのか」と考えることで、日々の仕事に対する見方も変わってくる。
③ 「キャリア資本」の蓄積と転換を「ビジネス資本」で設計する
キャリアは、単なる運によって形成されるものではない。日々の仕事や学習、経験を通じて「キャリア資本」を蓄積し、それを市場において評価される価値へと転換していくことが重要である。
そのためには、まず「どのようなキャリア資本を蓄積するのか」を明確にし、そのうえで、それをどのように経済資本へと転換できるのかについて、市場分析を行う必要がある。
「キャリア資本」は、単なる自己満足ではなく、第三者の視点から見た「自分自身の価値」として捉えることが重要である。
つまり、いつでも「経済資本」に転換できるような「ビジネス資本」を、日頃から意識して蓄積しておくことが不可欠となる。
この視点を持つと、組織で働く日々の業務も、単に与えられた仕事をこなすだけではなく、「自分のキャリア資本を蓄積する機会」として捉えられるようになる。
日々の業務における専門性をできるだけ磨き、高めることで、ビジネス資本が蓄積され、それが将来的な経済資本としての価値につながっていく。
どのようなビジネス資本を、中長期的に蓄積していくのかを計画し、実行していくことが大切である。
「稼ぎ方」とは、単に目の前の収入を増やすことではない。
中長期的な視点から、自分の「キャリア資本」を蓄積し、それを「ビジネス資本」へ、さらに「経済資本」へと転換していくために、日々の行動を明確にしていくことである。
5)「稼ぎ抜く生き方」とは
ここまで、「稼ぐこと」そのものに対する意識改革について考えてきた。
ここからは、稼ぐことを、いかに自分のやりたいことや望む生き方に結びつけていくのかを考えていく。
まず、「稼ぎ方」と「稼ぎ抜く生き方」の違いを整理しておきたい。
「稼ぎ方」とは、収入を得るための具体的な方法やテクニックを指す。一方、「稼ぎ抜く生き方」とは、主体的にキャリアを形成していく過程において、お金の稼ぎ方も自らデザインしていく生き方である。ここで重要なのは、お金が人生のすべてではないということである。
単にお金を稼ぐことだけを目的とするのではなく、仕事や活動そのものに意味や価値を見出すことが大切になる。「お金をもらう」という受け身の働き方から、「自らお金を稼ぐ」という主体的な生き方・働き方へとトランスフォームすることが重要なのである。
「稼ぎ方」が金銭的な報酬を生み出すための技術だとすれば、「稼ぎ抜く生き方」は、自分らしい人生を豊かにするための思想として捉えることができる。
「稼ぎ抜く生き方」を実践することで、お金に対する悩みの悪循環から抜け出すきっかけをつくることができる。工夫や心がけ次第で、自分の人生を少しずつ好転させていくことも可能になる。
筆者自身も、「稼ぎ抜く生き方」を実践している。定年や引退をゴールとは考えていない。生涯現役で働き続け、働くことを通じて社会にインパクトを与え続けることに、大きなやりがいを感じている。
自ら主体的に「稼ぎ抜く生き方」を貫くことで、組織に自分のキャリアを預け、目の前の業務をこなすだけでは得られない喜びや充実感を味わうことができる。
人は、いつでも、どこからでも変わることができる。もちろん、無理に変わる必要はない。しかし、もし現状に不安や違和感を感じているのであれば、他責にするのではなく、自ら一歩を踏み出してみることである。そうすれば、これまでとは違った風景が見えてくるはずである。
「稼ぎ抜く生き方」とは、単に収入を増やすための方法ではない。自分らしく働き、やりがいや幸せを感じながら人生を歩んでいくために、自らの背中を押してくれる生き方なのである。
これまでの日本では、終身雇用や年功賃金という日本型雇用制度に守られ、一つの組織の中でキャリアの階段を上っていくことが成功のモデルとされてきた。
しかし、組織内でのキャリアに対する憧れや固執は、次第に一世代前の価値観になりつつある。
これからは、「自分で働きがいや生きがいを感じながら生きたい」「自分らしく働くことを大切にしたい」という価値観が、ますます重要になっていく。
実際に、副業、複業、ギグワーク、フリーランスなど、働き方の選択肢は多様化している。
だからこそ、一つの組織や一つの肩書に自分の人生を委ねるのではなく、自分の価値観に合った働き方と稼ぎ方を、自らデザインしていくことが求められている。
6)「雇われ続ける働き方」から「稼ぎ抜く生き方」へ
転換期においては、認識を変え、行動を変えていくことが必要である。つまり、「雇われ続ける働き方」から「稼ぎ抜く生き方」へと、キャリアに対する認識を転換するのである。
一つの組織に自分のキャリアを預け、雇われ続けることに何の疑問も感じないとしたら、それは一つの「黄色信号」と考えたほうがよい。
私たちは、組織の中の人材になるために生まれてきたわけではない。自分自身の人生をより豊かに生きるために、組織や仕事を活用するという発想が必要である。
しかし、この「変身」は簡単ではない。長年、一つの組織で働いてきた経験や価値観が、知らず知らずのうちに足かせとなり、新しい働き方への転換を難しくしているからである。
そこで、「稼ぎ抜く生き方」について、よくある誤解を整理しておきたい。
①「稼ぎ抜く生き方」とは、退職してフリーランスになることである
これは誤解である。
フリーランスになって自ら仕事を獲得し、収入を得ることは、「稼ぎ抜く生き方」の一つの選択肢に過ぎない。
会社員として働きながら副業や複業に取り組むこともできる。組織の中で専門性を高めながら、社外でも通用するキャリア資本を蓄積することもできる。
重要なのは、雇用形態を変えることではなく、自分のキャリアと収入を主体的にデザインすることである。
②「稼ぎ抜く生き方」とは、金持ち主義である
これも誤解である。
自分自身の働き方をデザインし、思い描く生活を実現するためには、組織に雇われて必要な収入を得るだけでは、必ずしも十分とはいえない。
大切なのは、経済的な安定だけではない。自分らしい働き方を実現し、心理的な幸福感や充実感を感じながら生きていくことも重要である。
「いくら稼ぐか」だけではなく、「何のために稼ぐのか」「どのような人生を送りたいのか」を考えることが、「稼ぎ抜く生き方」の本質である。
③「稼ぎ抜く生き方」とは、目の前の仕事をがむしゃらにこなすことである
これもまた誤解である。
「稼ぎ抜く」という言葉には、目先の収入だけではなく、長期的な視点で自分のキャリアを形成していくという意味が込められている。
目の前の仕事に一生懸命取り組むことはもちろん大切である。しかし、その仕事が自分の未来を見据えたキャリアプランにつながっているのか、そこでどのようなキャリア資本を蓄積できるのかを考えることが重要になる。
目の前の仕事を「こなす」のではなく、未来の自分をつくるために、今の仕事をどう活用するのか。そこを判断の軸にする必要がある。
出典:
田中研之輔(著)(2022) 「今すぐ転職を考えていない人のための キャリア戦略」 ディスカヴァー・トゥエンティワン
(以上)
(つづく)吉末直樹
