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7)仕事は自ら創り出す
「仕事は与えられるものではなく、自ら創り出すものだ」という考え方は、筆者が大切にしている価値観の一つである。
筆者は、アメリカにいた時代に日雇い労働を経験した。その後、大学教員として働き、現在は企業の顧問などとして仕事をしている。
一見すると、それぞれまったく異なる仕事に見える。しかし、筆者にとっては、それぞれが分断された仕事ではなく、一つの連続した「働く世界」の経験としてつながっている。
働くとは、生きることである。組織にぶら下がり、与えられた仕事をこなすことだけが「働く」ということではない。
自分の経験や能力を活かし、自ら仕事を創り出していく。その姿勢こそが、これからの時代に求められる働き方ではないだろうか。
こうした気づきは、現在の筆者の生き方にもつながっている。
特に、日雇い労働者との交流を通じて得た仕事観は、現在のビジネスパーソンにとっても多くの示唆を与えてくれると考えている。
日雇い労働者は、仕事を自ら獲得し、その日の収入を得るために行動しなければならない。そこには、組織にキャリアを預け、与えられた仕事を続けるビジネスパーソンとは異なる、主体性やしなやかさがある。
もちろん、両者を単純に比較することはできない。しかし、組織の中で長く働くことが当たり前になっているビジネスパーソンだからこそ、日雇い労働者の働き方から学べることがある。
仕事を「与えられるもの」と考えるのではなく、「自ら創り出すもの」と捉える。
その視点を持つことで、私たちは組織に依存するだけではない、より主体的でしなやかな働き方を見つけることができるのである。
8)セルフアントレプレナーとして生きる
ここからは、さらに一歩踏み込み、自ら行動変容を起こしていこう。
まず、自分自身に問いかけてみてほしい。
「自ら何らかの価値を提供し、その対価としてお金を受け取った経験はあるだろうか」
セルフアントレプレナーとして生きる第一歩は、自分の経験や能力を活かして、実際に価値を生み出し、その対価を得る経験をしてみることである。
そのための方法として、次の4つが考えられる。
①「休眠資産」を売買する
まずは、メルカリなどを活用して、自宅に眠っている不要な物を売ってみる。
「何が売れるのか」「いくらなら売れるのか」「どのようなタイミングなら売れるのか」を自分で考え、実際に売買を経験する。
小さな金額であっても、自らの行動によって価値を生み出し、収入を得る経験は、「自ら稼ぐ」という意識を育てる第一歩になる。
②「作ったもの」を売る
次のステップは、自分で作ったものを販売することである。
自分で商品やサービスをつくり出せる人は、BASEなどのオンラインサービスを活用して販売することもできる。一方、組織内のキャリアに長く依存している人は、「自分には売れるものを何も作れない」と感じるかもしれない。しかし、これは自分の価値を見直すきっかけにもなる。組織の中では、会社のブランドや仕組み、同僚との協働などに支えられて仕事をしているため、組織を離れたときに初めて、「自分はどのような価値を提供できるのか」に気づくことがある。
③「スキル」を売る
これまでの仕事を通じて培ってきたスキルを使って、「稼ぐ」ことにも挑戦してみる。
現在では、クラウドワークスなど、個人のスキルを仕事につなげるさまざまなプラットフォームが存在している。
文章を書く、資料を作成する、デザインする、相談に乗る、専門的な知識を教えるなど、自分では当たり前だと思っている経験やスキルが、誰かにとっては価値になることがある。
④ 自分の強みを伸ばす
①~③の経験を踏まえ、これまで組織の中で培ってきた経験やスキルを掛け合わせ、自分にしか提供できないオリジナルの価値を創り出していく。
これまでの経験、知識、スキル、人脈など、自分自身が蓄積してきた「キャリア資本」をベースに、「稼ぎ抜く生き方」をスタートさせるのである。
ここで重要なのは、いきなり会社を辞めることではない。
むしろ、組織に「雇われ続けながら」、稼ぎ抜く生き方の練習を積み重ねていくことが重要である。
小さな売買から始め、次に自分が作ったものを売り、さらに自分のスキルを売る。そして、そこで得た経験を組み合わせながら、自分ならではの価値をつくっていく。
こうした練習を積み重ねながら、「雇われ続ける働き方」から「稼ぎ抜く生き方」へのキャリアトランスフォームを、計画的に実行していくのである。
「稼ぎ抜く生き方」は、突然始めるものではない。今の仕事を続けながら、小さく始め、経験を積み重ね、少しずつ自分の力で稼ぐ領域を広げていくことが、その第一歩となる。
9)仕事をセルフマネジメントする
キャリア形成期には、目の前に訪れたチャンスに全力で取り組むことが大切である。仕事で成果を上げることでキャリア資本が蓄積され、周囲からの信頼も高まっていく。
成果を出し続けると、次から次へと仕事の声がかかるようになる。社会的な活動においても、実績を積み重ねることで、新たなプロジェクトに次々とアサインされるようになる。
しかし、舞い込んでくる仕事をすべて引き受けてしまうと、オーバーワークに陥る危険がある。仕事をセルフマネジメントするためには、「何を引き受け、何を断るのか」を自ら判断することが重要である。
オーバーワークを避けなければならない理由として、次の3点が挙げられる。
①目の前の仕事のクオリティが低下する
複数の仕事を抱えすぎると、一つひとつの仕事に十分な時間とエネルギーを投入できなくなり、結果として仕事の質が低下する。
②周囲に負担をかける
仕事を抱えすぎることで、進捗管理や情報共有が遅れ、結果として同僚や関係者に余計な負担をかけることになる。
③心身のコンディションを崩す
自分のキャパシティを超えた仕事を抱え続けると、疲労が蓄積し、身体的・精神的なコンディションを崩す原因となる。
だからこそ、仕事の量だけを見るのではなく、自分自身の身体的・精神的なキャパシティや、その時々のコンディションを把握したうえで、仕事をマネジメントしていくことが大切である。
仕事を依頼されたときには、「せっかく声をかけてもらったのだから、引き受けなければならない」と考えるのではなく、「今の自分に、この仕事を十分な質でやり遂げる余力があるか」を考える。
仕事を断ることは、必ずしも後ろ向きな行動ではない。むしろ、自分のキャパシティを把握し、引き受けた仕事に責任を持つための重要なセルフマネジメントなのである。
キャリア資本を蓄積するために働く。しかし、そのキャリア資本を長期にわたって活かすためにも、自分自身をマネジメントすることが必要なのである。
10)好きなことで稼ぐために必要な3つの方法
「我慢しながら給料をもらい続ける人生」と、「好きなことをしながら必要な分を稼ぎ、悠々自適に暮らす人生」。理想をいえば後者であり、現実には前者を選ばざるを得ない人も少なくない。
しかし、「好きなことで稼ぐ」ことは、決して簡単ではない。
たとえば、絵を描くことが好きで、毎日絵を描き続け、スケッチブックが何十冊にもなったとする。その経験は、もはや単なる趣味ではない。継続して培った経験や技術そのものが「キャリア資本」となり、結果として収入につながることもある。
好きなことを通じて収入を得ることは、決して悪いことではない。ただし、「好きなことだけで稼ぐ」という背水の陣の戦略には注意が必要である。
好きなことを長く続けながら、それを仕事や収入につなげていくためには、次の3つの方法が考えられる。
① 好きを嫌いにならない「ハイブリッド・ワークスタイル」
一つの仕事だけで生活を支えるのではなく、給料を得ながら、好きなことでも一定の収入を得るという「合わせ技」である。副業や複業も、このスタイルの一つといえる。
ここで重要になるのが、仕事全体に対して、それぞれの仕事にどの程度の時間や労力を配分するかという「エフォート率」である。
エフォート率を意識することで、自分の時間や労力をどこに配分するのかをコントロールしやすくなる。現在の仕事に費やすエフォート率を適切に調整できれば、その分、好きなことや将来につながる活動に時間と労力を振り向けることができる。
大切なのは、好きなことを仕事にすることで、いつの間にか「好きだったこと」が「嫌いなこと」に変わってしまわないようにすることである。
② キャリア・エフォート・マネジメント
現在の働き方を見つめ直し、自分のキャリアにどこへ、どれだけの時間とエネルギーを投入するのかをマネジメントすることが重要である。
そのためには、中長期的なキャリア戦略を考える必要がある。
たとえば筆者は、現在、大学の兼任講師の仕事をあえて引き受けていない。それは、現在の自分にとって、大学業務によって得られる「キャリア資本」が、必ずしも必要ではないと判断しているからである。
一方で、現在は企業顧問の仕事に4割程度のエフォート率でコミットし、それ以外の時間の2割程度を「未来への投資」に振り向けている。
このように、現在の仕事をただ続けるのではなく、「この仕事からどのようなキャリア資本を得られるのか」「将来の自分にとって必要な仕事なのか」という視点から、エフォート率を考えることが重要である。
好きなことをしながら、それが結果として収入につながる状態は、心理的な幸福度も高めてくれる。
稼ぐことは、単なる金銭的な報酬ではなく、自分が提供した価値に対する社会からの評価の集積でもある。
「稼ぐために好きなことを頑張る」のではない。好きなことに取り組み続け、そこに価値を生み出していくことで、結果として稼ぎがついてくるという順序が理想なのである。
③ 現在の消費ではなく「未来への投資」を考える
目の前の消費によって得られる満足は、一時的なものである。一方、未来への投資によって得られる満足は、将来の可能性を広げ、より持続的なものになる。
好きなことを、どのように仕事につなげていくのか。それは、単なる思いつきで決めてはいけない。
「どのような価値を提供できるのか」
「その価値を、誰が必要としているのか」
「どのようにすれば、その価値が社会から認められるのか」
「そのために、どのような経験やスキルへの投資が必要なのか」
こうしたことを一つひとつ考え、具体的なプランに落とし込んでいくことが重要である。
キャリア開発において、自分のことを最もよく理解しているのは、これまでの経験を積み重ねてきた自分自身である。
だからこそ、これまでの自分を振り返り、これからの自分はどうありたいのかを見つめ直すことが、好きなことをキャリアにつなげる出発点になる。
「好きなことを仕事にする」のではなく、好きなことを通じてキャリア資本を蓄積し、その価値を社会に提供することで、結果として稼げる状態をつくる。
これが、「好きなことで稼ぐ」ための現実的なアプローチなのである。
出典:
田中研之輔(著)(2022) 「今すぐ転職を考えていない人のための キャリア戦略」 ディスカヴァー・トゥエンティワン
(以上)
(つづく)吉末直樹
