ISO情報

経営者への7つの問いかけと12の推奨行動(その1) | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■経営者への7つの問いかけと12の推奨行動

~何を、目指すのか。~
行動指針1:存在意義に基づき、実現したい未来価値を構想・定義し、価値創造戦略をつくり、社内外に発信する経営者は、自社のミッションを実現した時の社会像(未来価値:ビジョン)を設定し、その実現を推進する主体が具体的なアクションを取れるよう、方向性を示すことが重要。そのため、経営者は、実現したい未来価値の領域や価値創造への資源配分方針、部門間や社内外連携の考え方を価値創造戦略として策定することが望ましい。さらに、経営者は、これらを社内外に発信することで、社内のみに固執することの無い、柔軟な推進体制の構築を促すことも求められる。変わらずに価値し続ける価値を見直すことが重要。

<企業が陥りやすい「あるある課題」>
・経営ビジョンや自社の目指すべき社会像を策定したものの、実現したい未来価値の具体度が低く、自社との関係が見えにくい社会善に留まっている。
・策定したビジョン等が抽象的で、価値創造のゴール、活動領域、自社らしさや差別化要素が定まっておらず、具体的なアクションが想起できない。
・実現したい未来価値や戦略が現場社員や外部企業には伝わっておらず、思いを共にして活動できる社内外のパートナーが見つからない。

<課題克服のための具体アクション>
・不確実性への備えを行うため、未来洞察やシナリオ・プランニング等の手法も活用して、超長期の実現したい未来像に関する議論を、経営トップのイニシアチブの下、多層的に行う。
・「自社だからこそ」目指す意味を、経営トップが自ら語れるような未来価値を構想・定義する。
・価値創造活動の実行チームがゴールと活動内容を設定する際に指針となるような価値創造戦略をつくる。
・社内外のイベントやコミュニケーション媒体を通じて、経営者が自社の描く未来価値と価値創造戦略についてコミュニケーションを取り続ける。

<企業の挑戦事例>
【花王株式会社】
自社だからこそ目指す、中長期かつ具体的な未来価値を設定し、社内・外に周知

・自社の中長期的なR&D戦略の方向性として、圧倒的な強みの源泉技術である「精密界面制御」を中核と位置づけた上で、12の大テーマを羅針盤として提示している。一部は他企業とも共有。メール1本、電話1本で呼ばれてつながる関係でなく、理念を共有することで、協業が進む。
・また、既存事業の境界領域、現事業領域視点では到達できないが今後めざすべき分野を具体的に挙げ、社内イノベーターが自身のテーマの現ポジションと今後の展開方向性について考えることができている。
・オープンイノベーションに取り組み始めて30年になる。作る人、売る人を一気に巻き込む仕掛けとして、2018年11月、技術イノベーションをオープンにする発表会を開催。従来の新商品開発のタイミングで新技術を発表する形ではなく、新技術を先に公開した。スピードが鈍いと追いつかれるし、その日までに動かなければならないという社内プレッシャーをかけながら、社外連携を加速させている。
・発見しただけ、見つけただけのイノベーションではなく、社会に実装したというイノベーションをいかに実現するかが目指すところ。社長は、「ある程度の母数を作って泳がせる」ことが重要と考え、細かい成果は黙認、いい成果はとにかく褒める。

【トヨタ自動車株式会社】
2050年までの未来シナリオを構想・更新し、これを社内外と共有して、価値創造を共創

・価値観が多様化し、より不確実な世の中になっていく中、時代のトレンドや世代の特徴という軸だけでは新しいコンセプトが生み出しにくくなっているとの認識の下、未来の兆しを集めてそこからヒントを得るために、トヨタ自動車未来プロジェクト室は、表参道オフィスの壁一面に、様々な社会変化のシナリオを記したカードを2050年までの時間軸の中で年表化している。
・単発のビジョンづくりではなく、変化の兆しに着目し、「未来」を更新し続けることにより、未来の姿が創造され、これが発想を刺激する装置となっている。この年表は社内外にオープンし、仲間作りを進めながら様々な未来の可能性を幅広く取り込む活動を展開。
・ここ最近は、未来年表を策定している他の組織体とのコミュニティ形成も開始。異業種、国の組織などとも連国の組織などとも連携を加速させ、不確実性への備えやイノベーションの種の収集を、業種横断的なネットワークを構築することにより、チャレンジしている。

<ISO56002における該当箇所と解説>
【4】組織の状況
【5】リーダーシップ
【6】計画
ISO56002では、各組織を取り巻く内外の個別の状況をよく分析した上で、組織として生み出したい価値の方向性を特定しながら、価値実現を行っていくための戦略を構築し、方針や具体的な計画を設定することの重要性を強調している。

~なぜ、取り組むのか。~
行動指針2:自社の理念・歴史を振り返り、差し迫る危機と未来を見据え、自社の存在意義を問い直す
これまでの成功体験による成長・存続が見通せない不確実な世の中において自社が存在し続けるためには、自社の方針を検討・判断する時に、常に立ち戻ることの出来る”ブレ”ない存在意義を持つ必要がある。さらに、存在意義に基づき、将来起こり得る外部環境変化を踏まえ、自社が将来も変わらずに提供し続ける価値を見直すことが重要。

<企業が陥りやすい「あるある課題」>
・存在意義を見直しているが、自社のアイデンティティが明確になっていない。(例:新しい価値の創造、社会貢献という内容にとどまる。)
・自社内で将来の事業環境や自社にとっての危機を調査・検討してはいるが、存在意義と結びつけて経営方針にまで落とし込めていない。

<課題克服のための具体アクション>
・自社の創業の歴史を紐解くことで時代を超えた自社のDNAやコアコンピタンスを明確にし、見える化する。
・危機や未来を社内だけでなく、社外取締役や株主、有識者といった第三者の視点・支援も取り入れながら、長期視点で起こり得る世の中の潮流を洞察し、時代を超えた自社のDNAに基づき、将来(例えば20-30年後)に亘って事業活動を続ける上で重視する提供価値(ミッション)を規定する。

<企業の挑戦事例>
【オムロン株式会社】
企業理念の達成を事業の実施判断基準とした経営とSINIC理論1による社会に対する先進的な提案

・「企業は社会の公器である」の考えに基づいて創業者が制定した社憲を企業理念へと発展させ、時代に合わせて進化させてきた。その実践を通じ、社会的課題の解決や人々の生活の向上に貢献することで、企業価値の向上を図っている。独自のSINIC理論を経営の羅針盤として、未来を見据えたバックキャスト型の価値創造を実践。
・2018年4月、イノベーション創出力を向上するためのプラットフォームとしてイノベーション推進本部を立ち上げ、近未来デザインから戦略策定、事業検証までを一気通貫で実施。現場の担当者が案件を自由に持ち込み、プラットフォームの予算で新しいことに挑戦できる。その実施判断基準はどれだけ企業理念を達成できるかという点を重視。
・プラットフォームを活用することで、社内横断的な価値創造活動が加速。さらに、社外との連携も強化しつつ、既存事業に含まれない領域の社会課題への取り組みも行いやすくなった。IoTで社会課題に向き合っている企業や自治体など幅広いパートナーと連携し、課題解決に向け、事業開発を行っている。

<ISO56002における該当箇所と解説>
【4】組織の状況
【5】リーダーシップ
【6】計画
ISO56002では、イノベーション活動とは生み出したい価値に関する意図に基づき結果を生み出す活動であると考えている。価値を生み出す分野や意図は各組織の組織内部や顧客や利害関係者からの期待値などの個別状況をよく踏まえた上で、決めていくものとしている。

~誰が、取り組むのか。~
行動指針3:経営者自らが、戦略に基づき、情熱のある役員と社員を抜擢し、常に、守護神として現場を鼓舞し、活動を推進する
価値創造活動には、短期的な事業上の成果を期待することは出来ない。また、成果を出すことに固執するあまり、尖った事業アイデアが“無難な”アイデアに落とし込まれることも避けるべきである。このため、当該活動には“既存事業の基準で評価される人材”が適任とは限らず、推進主体の価値創造に対する情熱と経験値が重要な要素となる。さらに、このような価値創造活動の特性により、既存部門からの理解を得られにくいことも考慮する必要がある。経営者は、価値創造活動の特徴を理解し、自社の価値創造戦略に基づいた適切な人材を抜擢すると共に、彼らの守護神として、活動の奨励や価値創造活動の正当性を社内外に発信することが重要。

<企業が陥りやすい「あるある課題」>
・役員と社員を配置する際、新規事業に関するコンピテンシーを確認せず、既存事業のエース級人材を選んでいる。経営トップが自らの目で、価値創造活動に対する役員・社員の熱意を確認していない。
・価値創造活動報告に対し、すぐに、「儲かるのか?」、「3年で黒字化するのか」、「全てのリスクはつぶしたか?」と聞いてしまっている。
・経営トップがイノベーション創発のイニシアチブは取った形になっているが、実際は、選定した役員・社員に価値創造活動を任せ、自分の時間を割いていない。

<課題克服のための具体アクション>
・経営者自らが役員、社員とのコミュニケーションを取り、情熱を確認し、見極め、抜擢する。
・価値創造活動の経営者への報告・フィードバックで「聞くこと/聞かないこと」を決める。
・経営者が時間を確保し、現場に足を運び、生の状況を把握し、役員と社員に自らの言葉で情熱と戦略を伝える。

<企業の挑戦事例>
【SOMPOホールディングス】
デジタルトランスフォーメーションのため社外から役員を招聘するとともにイノベーションに取り組みやすい環境を整備

・経営陣がデジタルディスラプションに強い危機感を抱いており、中期事業計画においてもデジタル戦略は柱の1つであると明記。外からビジネスモデルが壊されるくらいなら自分たちで壊しに行く、変革を自ら仕掛けるため、2016年、デジタルトランスフォーメーションを推進する「デジタル戦略部」を立ち上げ、責任者は社外から招聘した役員を配置した。
・責任者に一定の裁量を与えることでデジタルトランスフォーメーションに取組みやすい環境を作っている。
・東京の拠点を「ニーズラボ」、シリコンバレー・イスラエルの海外拠点を「シーズラボ」と位置づけ、自社の今後の成長に必要なデジタル技術やビジネスモデルの「種」の発掘に取り組んでいる。
・デジタル活用に関する予算はPOCまでをデジタル戦略部、その後の本番化はグループ内の事業会社が負担。このため、すぐに利益のでないもの、リスクの高いものに挑戦しやすい。企画段階から既存の事業部を巻き込むことで、ウォーターフォール型から、アジャイル開発やデザイン思考のモデルへ変化を促している。

【日東電工株式会社】
技術ファンドを通じて、社員の挑戦を促進

・変革しなければ生き残れないという強い危機意識があった。2017年、日東電工の今後100年を見据えたスピーディな変革を実現するために全社技術部門の中に新規事業創出部を設置。次の柱となる事業を生み出すこと、事業のトランスフォーメーションを行うことを目指し、CTOが自社の次なる事業に向けた重要技術のコンセプトをつくりあげ、それらを実現するための「重要技術プロジェクト」を立ち上げ、部門横断的にプロジェクトメンバーを抜擢している。
・CTO自身が一定の金額範囲内の決裁権限を有する「技術ファンド」を設け、本業を持つ社員が、新たな事業検討にチャレンジする機会を提供している。この取組では、申請した社員がしっかりとシナリオを描けて取り組めるのであれば、たとえその時点の成功確率が低くともCTOの判断で、スピーディにgoサインを出し、仮説検証のサイクルを早くまわすようにしている。

<ISO56002における該当箇所と解説>
【5】リーダーシップ
ISO56002では、経営者の役割の重要性について詳述している。経営者が方向を示すのみでは不十分で、イノベーション・マネジメントシステムの有効性を、全階層のリーダーも巻き込みながら、組織文化や支援体制の構築も含めて行うこと上での留意事項を詳述している。

(つづく)Y.H

(出典)
経済産業省 イノベーション100委員会
日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針~イノベーション・マネジメントシステムのガイダンス規格(ISO56002)を踏まえた手引書~
日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針