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科学技術の国際展開 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■科学技術の国際展開の戦略的推進に向けた具体策

(科学技術の国際展開の戦略的推進)
国際頭脳循環や国際共同研究といった科学技術の国際展開を推進することで、様々な可能性が広がります。日本から海外へ、そして海外から日本へ、研究者が国境を越えて協力し合えるように、様々な施策を推進しています。

(国際頭脳循環(アウトバウンド)―研究者の派遣―)
米国等では、海外からの学生・若手研究者が、ポスドクやRA(リサーチ・アシスタント)・TA(ティーチング・アシスタント)などとして、研究者(PI)に雇用される形で、給与を得ながら研究や博士号学位取得などの活動を行っています。このような状況に対応して、国際流動を促進するために、日本で従来行われているフェローシップ型(奨学金型)の中長期の海外派遣に加え、渡航先で給与を得ながら研究・学位取得を行う移籍型の「国際頭脳循環に参入する若手研究者の新たな流動モード」を促進します。

(国際頭脳循環(インバウンド)―研究者の受入れ―)
世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)により形成された国際的な研究拠点は、世界的にも高い評価を得ており、国内の先行事例として、大学内外にその経験を水平展開させることが期待されています。各拠点の取組の分析を通じて得られた、以下の「WPI拠点の国際化成功に共通的な5つのポイント」は、国際化を進めようとする大学や国立研究開発法人等の拠点にとって、どれも重要な取組であるといえます。これらのポイントを水平展開の基盤とすることで、大学や国立研究開発法人等の拠点における更なる国際化の取組を促します。

(WPI拠点の国際化成功に共通的な5つのポイント)
・英語による対応が可能な事務体制の整備
・一定数の外国人研究者の受け入れ(クリティカルミニマムの達成)
・研究現場のことを理解した“研究者出身”の事務部門長の配置
・学内各種制度の柔軟な運用を可能とするガバナンス体制の構築
・英語による生活・研究環境に係る情報提供等を含めた支援

(国際共同研究の推進)
科学技術力の強い相手国との国際共同研究は、研究者にとって有益な研究協力となり、大きな外交的効果も期待されます。例えば、EUの研究開発支援枠組みであるホライズン・ヨーロッパにおいて、7年間・955億ユーロの予算の大部分が3か国以上の国際共同公募による国際共同研究予算に充てられるなど、活発な国際共同研究が大規模に行われています。こうした海外との連携を一層強化していくため、国や資金配分機関、研究チーム同士の協力に基づき、各種研究開発事業において国際共同研究を強力に推進することが重要です。平成30年頃より、戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)のような国内向け研究プログラムにおいて国際共同研究を実施してきましたが、この取組を引き続き他事業でも進め、トップレベルの研究者との国際共同研究を推進します。また、令和3年度には科研費に「国際先導研究」を創設し、国際共同研究の強力な推進を図っています。

(国際連携教育課程制度(ジョイント・ディグリー)の推進)
平成26年度に創設された国際連携教育課程制度(ジョイント・ディグリー)は、我が国の大学と外国の大学が連携して単一の共同の教育プログラムを開設し、学生が修了した際には、連携する当該複数の大学が共同で単一の学位を授与するものであり、これまでに、国内12大学26プログラムで実施されています。学生等が大学学部・大学院段階から国際的な素養を身に着けるためには、この制度の一層の活用を進めることが重要です。大学等の更なる参画を促すため、令和4年8月から、国際連携教育課程制度の設置認可要件の緩和、収容定員制限の撤廃、国内他大学等の参画(最低修得単位数の引き下げ)など、教育研究の質を担保しつつ、制度を改めることとなっています。

(博士課程学生支援における国際化への貢献)
第6期基本計画や「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」(令和2年1月総合科学技術・イノベーション会議)などを踏まえ、生活費相当額を受給する博士後期課程学生を倍増するなど経済的支援を抜本的に拡充するとともに、リサーチアシスタント(RA)の処遇改善に向けたガイドラインの策定などの取組を進めてきました。こうした博士課程学生への支援が、日本の優秀な博士後期課程学生の海外研鑽機会の充実や、海外留学生が学位取得・研究を行う上での日本の魅力の向上など、我が国の研究環境の国際化にも寄与することを期待しています。

(大学等における留学生交流・国際交流の推進)
我が国のグローバル化を推進していく上で、大学等の国際化や日本人学生の海外留学及び外国人留学生の受入れを進めていくことは非常に重要となります。我が国では、留学生交流の推進やより質の高い国際流動性を実現するために、取組を進めているところです。国際流動性の質を高めていく上で、大学等の国際化に資するスーパーグローバル大学創成支援事業による大学改革の推進や、質保証を伴った連携・学生交流を戦略的に進める世界展開力強化事業による質の高い教育の実現などに取り組んでいます。また、日本人学生の海外への送り出しについては、「トビタテ!留学JAPAN」キャンペーンに基づき、日本学生支援機構による「海外留学支援制度」や官民協働の「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」といった海外留学の奨学金支援等によって社会総がかりで若者の海外留学を促進しています。新型コロナウイルス感染症の影響により、令和2年(2020年)には日本人学生の留学者が前年比の98.6%減となる1,487名となりましたが、2020年11月から日本学生支援機構による海外留学奨学金の支援再開等を段階的に進めており、引き続き、意欲と能力のある若者たちが留学の機会を得られるよう、海外留学を支援するとともに、若者の海外留学の機運醸成を促進します。さらに、外国人留学生の受入れについては、我が国と自国の架け橋となるような人材を育成するなど、教育のみならず外交上の観点でも重要であり、我が国では、留学の入口から出口まで一貫した支援を行い、受入れを促進してきました。例えば、国費外国人留学生制度では、日本と諸外国との国際交流を図り、相互の友好親善を促進するとともに、諸外国の人材養成に資することを目的として、我が国の大学等への留学を希望する外国人を募集し、選定された者に対して奨学金等を支給しています。本制度によって帰国後に母国の行政官や駐日大使として活躍したり、現地の大学の教員や学長となって我が国の大学との交流を深める人材等が多数輩出されており、我が国と海外との交流深化に貢献しています。一方で、外国人留学生の受入れにも新型コロナウイルス感染症に関する水際対策による入国制限の影響が出ており、外国人留学生の在籍者数はピークだった2019年の5月1日時点の31万2,214名から最新の2021年5月1日時点では24万2,444名となっています。今後は、留学生の受入れを進めつつ、我が国において質の高い教育を受けた優秀な外国人留学生の日本社会への定着度の向上や帰国した外国人留学生の親日派・知日派としての活用及びそのネットワーク強化による諸外国との友好関係の強化等、より出口に着目した受入れの質の視点に転換し、施策を推進します。

(コラム)
AI解析により40回程度の実験で「ネオジム磁石」のラボスケールでの強さ(最大エネルギー積)が解析前後で従来比約1.5倍へ向上

世界の電力消費量の約50%を占めるモーターの効率化・省エネ化のために、電気自動車のモーターなどに使われる「永久磁石」の高性能化に期待が寄せられています。「永久磁石」の1つである強力な「ネオジム磁石」は、スマートフォン等の様々な電子機器や電気自動車などに使われています。物質・材料研究機構では、これまでも「ネオジム磁石」の研究開発を進めてきましたが、その作製プロセス条件は約6,600万通り(物質・材料研究機構での検討による条件数)もあり、従来の実験手法では性能向上に向けた網羅的な探索は不可能でした。そこで、データ駆動型の研究手法を活用し、AI解析により導き出された最適な作製条件に基づいて実験を進めることで、わずか40回程度の実験で「ネオジム磁石」の強さ(最大エネルギー積)を、AI解析を行う前と比較して約1.5倍向上させることに成功しました。本研究の成果は、電気自動車のモーターなどの超省エネ化につながり、カーボンニュートラル実現に貢献することが期待されます。このように、研究DXは、研究活動の単なるデジタル化ではなく、研究手法そのものの変革を目指しており、従来は膨大なパターンの実験を行う必要があった新材料の開発等においても、実験データやAIの活用により、研究開発サイクルの高速化が進みつつあります。また、これらは単なる研究プロセスの効率化にとどまらず、研究開発における材料探索範囲の劇的な拡大や、人の能力を超えた新たな科学的発見・理解につながっていくことが期待されています。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書