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研究DX | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■研究環境整備に関する施策の強化

(研究DXの推進)
新型コロナウイルス感染症を契機として、社会全体のデジタル化とともに、研究活動のデジタル・トランスフォーメーション(研究DX)の流れが加速しています。より付加価値の高い研究成果を創出するため、研究DXについて、ソフト・ハードの両面から取り組む必要があります。ソフト面として、研究プロセスで生まれるデータを戦略的に収集・共有・活用するとともに、ハード面として、研究施設・設備のリモート化・スマート化、さらに、次世代デジタルインフラの整備などに取り組んでいます。

(研究データの戦略的な収集・共有・活用)
ビッグデータ等の多様なデータの収集や分析が容易となる中、計算機を活用したシミュレーションやAIを活用したデータ駆動型研究(研究者が人力で特定した仮説を検証する従来の手法(仮説駆動型研究)とは異なり、大量のデータから自動的・統計的に仮説を生成し、解析・検証することで真理の探究を進める研究手法)が拡大しています。また、研究データを公開・共有することで、より付加価値の高い研究成果の創出を目指すオープンサイエンスの動きが世界的に活発になっています。こうした流れの中、我が国においてインパクトの高い研究成果を創出していくため、国立情報学研究所の研究データ基盤システム(NII Research Data Cloud)を研究データの管理・利活用の中核的なプラットフォームと位置付け、公的資金から生み出された研究データを戦略的に収集し、幅広く検索可能とする体制の構築を進めています。また、各研究分野においては、それぞれの分野の特性を生かしながら、高品質な研究データの収集と、戦略性を持ったデータ共有のためのデータプラットフォームの構築、人材の育成・確保に取り組み、さらに、1 Science Information NETworkデータを効果的に活用した、先導的なAI・データ駆動型研究開発を推進しています。

(研究施設・設備のリモート化・スマート化)
距離や時間に縛られずに研究活動を遂行できるよう、大型共用施設から研究室までのあらゆる研究現場において、研究活動のリモート化、ロボット導入による実験の自動化、豊富な実験データに裏付けられた仮想空間での仮想実験などを実現するスマートラボ等の取組を推進しています。

(次世代デジタルインフラの整備)
全国的な研究DXを支えるインフラとして、SINETの構築を進めています。SINETは、日本全国の大学、研究機関などにおける教育研究活動を支える学術情報基盤として、国立情報学研究所が運用している、超高速・大容量の情報ネットワークです。教育研究に携わる数多くの人々のコミュニティ形成を支援し、大容量データを含む多岐にわたる学術情報の流通促進を図るため、47都道府県の950以上の大学や研究機関、さらには米国、欧州、アジアの各地域との超高速ネットワーク網を形成しています。これにより、遠く離れた国内外の研究機関との共同研究が可能となり、データ収集・共有などが実現し、研究開発の効率化と活性化に寄与しています。令和4年4月より、従来のSINET5を発展させたSINET6の運用が開始されています。SINET6では、接続速度が、従来の100Gbps(Giga bits per second)から世界最高水準の400Gbpsに増強されるとともに、国際回線の増強等が実現されています。また、AI・データ駆動型研究開発を支えるため、令和3年11月のスパコンランキングにおいて4部門で4期連続世界1位を獲得したスパコン「富岳」をはじめとした高性能・大規模な計算資源の整備・運営と、それらを徹底活用した更なる成果創出の加速に取り組んでいます。

(研究機器の共用)
研究設備・機器の共用推進に向けたガイドライン
大学や研究機関等における研究設備・機器は、あらゆる学術研究活動及び科学技術・イノベーション活動の原動力となる重要な資源であり、科学技術が広く社会に貢献する上で必要なものです。また、我が国の研究力強化、研究環境の改善には研究設備・機器の持続的な整備と、それらの運営の要として専門性を有する人材の持続的な確保・資質向上を図ることが不可欠であり、研究設備・機器とそれを支える人材は、多くの研究者とともにあればこそ、その能力が最大限に発揮されます。しかしながら、現状では、必ずしも潤沢な研究資金を持たない若手研究者などが、必要な研究設備・機器にアクセスできず、自由に研究を進められない実態があります。また、厳しい予算により研究設備・機器の新規導入や更新が困難な状況にもあります。高額な設備や基盤的経費で購入した設備については共用の取組が一定程度進展している一方、いまだに特定の研究室等に限って専用されている研究設備・機器も多い状況です。全ての研究者が、いつでも必要な知識や研究資源にアクセスでき、研究活動に支障を生じないようにするためには、研究設備・機器を戦略的・計画的に整備・更新し、かつ、それを支える人材とともに効果的・効率的な運用を行うことが重要です。特定の研究室等の限られた利用を前提としている研究設備・機器について、機関内の幅広い利用を可能とするとともに、機関の裁量によって機関外の第三者の利用も可能とする仕組みを構築し、経営戦略に基づく研究設備・機器の共用を含む戦略的なマネジメントを促進するために、令和4年3月、「研究設備・機器の共用推進に向けたガイドライン」が策定されました。本ガイドラインでは、以下の考え方が示されています。

(共用を進める機関としての意義やメリット)
〇多くの研究設備・機器が特定の研究室において管理・運用されている状況では、それぞれの機器の管理を各研究室の研究者が行うケースも多く、それにより研究時間が一定程度割かれる状況があります。共用化によって組織的な管理や体系的な保守・運用が可能となるため、研究者の研究時間の捻出につながります。

〇研究設備・機器を機関内外に共用することは、他分野の研究者との新たな共同研究の推進につながります。また、外部との共用は、産業界や地域・社会との共創を図る上でのハブとしての機能を果たすとともに、利用料金という形での外部資金獲得にもつながります。

(共用システムの構成のポイント)
〇多くの研究設備・機器が特定の研究室において管理・運用されている状況では、それぞれの機器の管理を各研究室の研究者が行うケースも多く、それにより研究時間が一定程度割かれる状況があります。共用化によって組織的な管理や体系的な保守・運用が可能となるため、研究者の研究時間の捻出につながります。

〇研究設備・機器を機関内外に共用することは、他分野の研究者との新たな共同研究の推進につながります。また、外部との共用は、産業界や地域・社会との共創を図る上でのハブとしての機能を果たすとともに、利用料金という形での外部資金獲得にもつながります。

(共用システムの構成のポイント)
〇各機関が研究成果を最大化するためには、機関が有する研究設備・機器の最大限の活用が不可欠です。研究設備・機器を重要な経営資源と捉え、機関の経営戦略において、研究設備・機器を、それを支える人材とともに戦略的に活用するための、経営マインドの改革が求められます。

〇研究設備・機器の活用に向けて、研究設備・機器とそれを支える人材を一体と捉えた運用を実現するための、共用システム改革が求められます。役員、研究者、技術職員、事務職員、URA等の多様なプロフェッショナルが連携して共用推進に協働する「チーム共用」を推進し、機関全体の研究設備・機器マネジメントを担う「統括部局」を確立することが重要です。

〇研究設備・機器における様々な現状を分析し、経営戦略を踏まえた戦略的設備整備・運用計画の策定が重要です。設備の状況や利用実績、今後必要となる機器の利用ニーズ、運用のための財源などを把握・分析し、どのような研究設備・機器を整備・更新するか、廃棄・リユースするかなどを戦略的に判断することで、現在の資源の有効活用のみならず、将来の資源の有効活用につなげ、限りある資源の好循環を生み出すことが可能となります。

〇技術職員は、研究設備・機器の維持管理に関して高度で専門的な知識や技術を持ち、研究者とともに課題解決を担う重要なパートナーです。共用化により研究設備・機器を集約的に運用することで、特定の設備の管理にのみ関わるのではなく、横断的に活躍の場を広げ、技術職員がその能力や専門性を最大限生かすとともに、技能の向上を図ることが可能となります。

〇利用料金について見直すことも重要です。研究力強化の観点から必要としている研究者が利用できる料金設定がある一方で、運用の自立化の観点から研究設備・機器の維持管理費や運用に伴う消耗品費、支援に関する技術料などを適切に利用料金に設定することも考えられます。利用料金の設定にあたっては、必ずしも利益を上げる(儲ける)ことが目的ではなく、各機関における研究設備・機器の運営を、より持続的に維持・発展させていくにあたって必要なものとしてとらえることが重要です。

(ナノテクノロジー・材料科学技術分野における取組)
ナノテクノロジーは、ナノ(10億分の1)メートルのオーダーで原子・分子を操作・制御する基盤技術であり、ナノサイズ特有の物質特性等を利用した新しい機能の発現により、科学技術の新たな領域を切り拓くとともに、幅広い産業の技術革新を先導するものです。「ナノテクノロジープラットフォーム事業」(平成24年度~令和3年度)では、このナノテクノロジーに関する最先端設備を有する大学等研究機関による全国的な共用体制を構築することで、産学の多様な利用者に、最先端設備の利用機会と高度な技術支援を提供してきました。本事業は、ナノテクノロジー・材料分野の研究開発に欠かせない研究基盤を形成し、特に大型の研究設備を自ら導入することが難しい大学等の若手研究者や民間企業へ貢献してきました。また、習熟スキルに応じた職能名称付与制度や表彰制度等を通じ、大学等研究機関で共用を支える技術支援人材の育成や、事業参画機関と利用企業との共同研究による技術開発を通じた産学官連携等の促進にも貢献しています。また、令和3年度からは、「ナノテクノロジープラットフォーム事業」で構築した全国的な設備共用体制を基盤として、新たに「マテリアル先端リサーチインフラ(ARIM1)」を開始しています。本事業では、最先端装置の全国的共用、高度専門技術者による技術支援に加え、装置利用に伴い創出されるマテリアルデータを、研究者が利活用しやすいよう構造化し、全国に提供する取組を進めています。さらに、マテリアルデータを創出する本事業に加え、データの統合・管理を行う「NIMSデータ中核拠点」、データの利活用により革新的な材料創生を目指す「データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト」が三位一体となった「マテリアルDXプラットフォーム」の構築に取り組んでいます。全国の先端共用設備から創出されるマテリアルデータについて、全国的な利活用を可能とすることで、データ駆動型研究の全国的な推進に取り組んでいます。

(大型研究施設の整備)
科学技術活動全般を支える最先端の大型研究施設は、その整備・運用に多額の費用が必要ですが、基礎研究から産業技術の開発まで、幅広い分野の研究開発に活用されることで、その価値が最大限に発揮され、世界最高水準の研究開発成果の創出が期待されるものです。このため、大型研究施設の戦略的な整備やその共用の促進を、国が率先して行っていくことが必要不可欠です。ここでは、そのような大型研究施設の中でも、現在、整備が進んでいる次世代放射光施設(仮称)について説明します。

(次世代放射光施設(軟X線向け高輝度3GeV級放射光源))
次世代放射光施設は、軽元素(水素やヘリウムなど原子量の小さい元素)を感度良く観察できる高輝度な軟X線(X線のうち、エネルギーの低い、波長の長い部分)を用いて、物質の構造解析だけでなく、物質の機能に影響を与える電子状態を可視化できる“巨大な顕微鏡”です。21世紀に入り、海外で、次世代型の放射光施設が相次いで建設されましたが、我が国には、軟X線領域での放射光施設は多くはなく、大きな性能差が生じています。次世代放射光施設は、この性能差を一気に逆転するものであり、我が国の研究開発の国際競争力を強化するものです。本施設は、「官民地域パートナーシップ」という新しい仕組み(量子科学技術研究開発機構、(一財)光科学イノベーションセンター、宮城県、仙台市、東北大学及び(一社)東北経済連合会が参画)によって、令和5年度の完成を目指して、整備が進められています。この施設により、今まで難しかったナノの領域の物質の機能解明が可能になります。その成果は、小型軽量・高出力で長寿命の電池材料の開発、高い変換効率を示す次世代太陽電池、省電力なパワーデバイスの開発、環境に優しいスマート材料の開発などの技術的ブレークスルーをもたらし、脱炭素社会の実現など、日本が直面する社会課題の解決に貢献します。

(放射光とは)
放射光とは、ほぼ光速で直進する電子が、その進行方向を磁石によって変えられた際に発生する光のこと。その光は非常に明るく、レーザーのように指向性が高く(光の方向や性質がそろっている)、ナノレベルの構造や機能等を可視化することが可能となる。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書