ISO情報

地球環境の観測技術 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■地球環境の観測技術の開発と継続的観測

(地球観測等の推進)
気候変動の状況等を把握するため、世界中で様々な地球観測が実施されている。気候変動問題の解決に向けた全世界的な取組を一層効果的なものとするためには、国際的な連携により、観測データ及び科学的知見への各国・機関へのアクセスを容易にするシステムが重要である。「全球地球観測システム(GEOSS)」は、このような複数のシステムから構成される国際的なシステムであり、その構築を推進する国際的な枠組みとして、地球観測に関する政府間会合(GEO)が設立され、2022年(令和4年)3月時点で253の国及び国際機関等が参加している。我が国はGEOの執行委員国の1つとして主導的な役割を果たしている。環境省は、環境研究総合推進費における戦略的研究課題の1つとして、我が国の気候変動適応を支援する影響予測・適応評価に関する最新の科学的情報の創出を目的とする「気候変動影響予測・適応評価の総合的研究(S-18)」を実施している。これらの戦略的研究をはじめとして、気候変動及びその影響の観測・監視並びに予測・評価及びその対策に関する研究を環境研究総合推進費等により総合的に推進している。

(人工衛星等による観測)
宇宙航空研究開発機構は、気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)、水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)等の運用及び先進光学衛星(ALOS-3)や先進レーダ衛星(ALOS-4)等の研究開発などを行い、人工衛星を活用した地球観測の推進に取り組んでいる。環境省は、気候変動とその影響の解明に役立てるため、関係府省庁及び国内外の関係機関と連携して、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)や「いぶき2号」(GOSAT-2)による全球の二酸化炭素及びメタン等の観測技術の開発及び観測に加え、航空機・船舶・地上からの観測を継続的に実施している。

GOSATは、気候変動対策の一層の推進に貢献することを目指して、二酸化炭素及びメタンの全球の濃度分布、月別及び地域別の排出・吸収量の推定を実現するとともに、平成21年の観測開始から二酸化炭素及びメタンの濃度がそれぞれ季節変動を経ながら年々上昇し続けている傾向を明らかにするなどの成果を上げている。また、人間活動により発生した温室効果ガスの排出源と排出量を特定できる可能性を示した。後継機であるGOSAT-2はGOSATの観測対象である二酸化炭素やメタンの観測精度を高めるとともに、新たに一酸化炭素を観測対象として追加した。二酸化炭素は、工業活動や燃料消費等の人間活動だけでなく、森林や生物の活動によっても排出されている。一方、一酸化炭素は、人間の活動から排出されるものの、森林や生物活動からは排出されない(自然火災を除く。)。

二酸化炭素と一酸化炭素を組み合わせて観測して解析することにより、「人為起源」の二酸化炭素の排出量の推定を目指している。GOSAT-2は、平成30年10月に打ち上げられ、GOSATのミッションである全球の温室効果ガス濃度の観測を継承するほか、人為起源排出源の特定と排出量推計精度を向上するための新たな機能により、各国のパリ協定に基づく排出量報告の透明性向上への貢献を目指している。なお、令和元年度から水循環観測と温室効果ガス観測のミッションの継続と観測能力の更なる強化を目指してGCOM-Wの後継センサ高性能マイクロ波放射計3(AMSR3)とGOSAT-2の後継センサ温室効果ガス観測センサ3型(TANSO-3)を相乗り搭載する「温室効果ガス・水循環観測技術衛星」(GOSAT-GW)の開発を進めている。また、パリ協定に基づく世界各国が実施する気候変動対策の透明性向上に貢献するために、GOSATシリーズの観測データによる排出量推計技術等の国際標準化に向けた海外での検証と展開を推進している。

環境省では、平成30年度より、モンゴル国政府の協力の下で本技術の高度化に取組み、GOSAT観測データから推計した二酸化炭素の排出量が、統計データ等からモンゴル国が算出した排出量の算定値と概ね一致するまで技術を高めることに成功した。さらに、令和3年度よりモンゴル国以外の各国への展開を推進している。

(地上・海洋観測等)
近年、北極域の海氷の減少、世界的な海水温の上昇や海洋酸性化の進行、プラスチックごみによる海洋の汚染など、海洋環境が急速に変化している。海洋環境の変化を理解し、海洋や海洋資源の保全・持続可能な利用、地球環境変動の解明を実現するため、海洋研究開発機構は、漂流フロート、係留ブイや船舶による観測等を組み合わせ、統合的な海洋の観測網の構築を推進している。海洋研究開発機構と気象庁は、文部科学省等の関係機関と連携し、世界の海洋内部の詳細な変化を把握し、気候変動予測の精度向上につなげる高度海洋監視システム(アルゴ計画)に参画している。アルゴ計画は、アルゴフロートを全世界の海洋に展開することによって、常時全海洋を観測するシステムを構築するものである。

文部科学省は、地球環境変動を顕著に捉えることが可能な南極地域及び北極域における研究諸分野の調査・観測等を推進している。「南極地域観測事業」では、南極地域観測第Ⅸ期6か年計画(平成28年度~令和3年度)に基づき、南極地域における調査・観測等を実施している。北極域は、様々なメカニズムにより温暖化が最も顕著に進行している場所として知られている。一方で、夏季海氷融解により、我が国を含め様々な利用可能性が期待されている。これら全球的な気候変動への対応や北極域の持続的利用への貢献の両面において、基盤となる科学的知見の充実は不可欠である。このため、令和2年度より北極域研究推進プロジェクト(ArCS)の後継事業として「北極域研究加速プロジェクト(ArCSⅡ)」を実施している。

持続可能な社会の実現を目的として、北極の急激な環境変化が我が国を含む人間社会に与える影響を評価し、研究成果の社会実装を目指すとともに、北極における国際的なルール形成のための法政策的な対応の基礎となる科学的知見を国内外のステークホルダーに提供するため、国際共同研究等の取組を実施している。また、ArCSⅡの下、令和3年度(2021年度)は、海洋地球研究船「みらい」により、特に劇的な環境変化の最中にある太平洋側北極海の観測を実施した。さらに、令和3年度は、観測空白域となっている海氷域の観測が可能な観測・研究プラットフォームである北極域研究船の建造を開始した。気象庁は、大気や海洋の温室効果ガス、エアロゾルや地上放射、オゾン層・紫外線の観測や解析を実施しているほか、船舶、アルゴフロートや衛星等による様々な観測データを収集・分析し、地球環境に関連した海洋変動の現状と今後の見通し等を「海洋の健康診断表」として取りまとめ、情報発信を行っている。また、温室効果ガスの状況を把握するため、国内の3観測地点及び南極昭和基地において大気中の温室効果ガスの観測を行っているほか、海洋気象観測船による北西太平洋の洋上大気や海水中の温室効果ガスの観測及び航空機による上空の温室効果ガスの観測を行っている。これらを含めた地球温暖化に関する観測データは解析結果と共に公開している。さらに、国内の3観測地点及び南極昭和基地でオゾン層・紫外線の観測を行っている。

(リッチなデータが質の高い研究成果創出の第一歩!)
~極域における観測と成果~
今回の白書では、イノベーションの事例が多数紹介されていますが、イノベーションを生み出すような研究の第一歩の多くは、正確な実験や観測・計測を行ってデータを取ることです。データが正確で多い、つまり「リッチ」であるほど、論文や数理モデルの質が高まると言えるでしょう。そのデータを取るためには、実験室などで実験を行うこともあれば、野外などいわゆるフィールドに出ての観測・計測もあります。ここでは、容易にアクセスしがたい過酷な自然環境下にある両極域での観測とその成果の一例を紹介します。

(事例1:南極の氷河減少の仕組みの解明)
南極大陸の東経116度付近に位置するトッテン氷河の流域には、融解した場合に全球の海水面を3~4m上昇させる量に相当する氷床が存在していますが、近年、この地域の氷床の融解が進んでいることが報告されています。過去の観測により、沖合を起源とする暖かい水が氷河の前面に分布することは分かっていましたが、そもそもこの暖かい水がどのように沖合からトッテン氷河の方向へと運ばれるかについてはこれまで不明でした。水産庁漁業調査船「開洋丸」の第10次南極海調査(平成30年12月~平成31年2月)、及び、第61次南極地域観測隊(令和元年11月~令和2年3月)における南極観測船「しらせ」での航海において、トッテン氷河沖合の広域で海洋観測を実施し、水温・塩分・溶存酸素などの鉛直プロファイルデータを取得しました。両航海で得られたデータと、衛星による観測データを統合して解析を行いました。その結果、大陸斜面に沿った水温の分布を見ると、特に暖かい水は複数の巨大な定在渦の東側(南下流域)に分布していました。このことは、これらの定在渦によって沖合の暖かい水が効率的に大陸方向へ運ばれていることを示すものです。

複数の船舶によって広範囲における大規模なデータを取得できたことにより、初めて全体像を明らかにすることができた研究成果であり、周辺海洋による氷河の融解プロセスの包括的な理解につながると期待されます。これは極域での観測や研究成果のほんの一例です。このほかにも例えば皆さんがよく御存じのオゾンホールの発見なども南極地域観測の成果です。観測において質の高いデータを取るためには、極域での観測に耐え得る観測装置の用意や、研究者や機材等の物資の現地への輸送も必要であり、これらは多くの関係者の協力・工夫により実現しています。また、人間社会でもある北極域での活動には、現地に居住する人々の協力も不可欠です。さらに近年、地球科学の分野でもビッグデータを活用したいわゆるデータ駆動型の研究が活発に行われています。このような研究を行うには、取得したデータを活用しやすいように整理して公開することも大変重要です。

(事例2:北極海氷データを活用した多方面への支援)
北極海の夏の海氷面積はおよそこの45年で半減し、2012(平成24)年9月には、海氷面積が過去最小になったことが記録されるなど、北極海は温暖化の影響が最も顕著に現れている地域です。また、2013(平成25)年に公表された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書によれば、早ければ2050(令和32)年ごろに夏の海氷がほとんど消失するという予測もなされています。国立極地研究所では、昭和53年以降、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の衛星から得られたデータを蓄積しており、平成26年からは、「準リアルタイム極域環境監視モニター(VISHOP)」として公開しています。VISHOPは、極域の衛星データをブラウザ上で準リアルタイムに表示する可視化サービスで、極域の状態を素早く配信することを目的に開発されています。衛星から送られてきたデータをもとに、海氷や海水面温度、積雪深、雲の動きのような多くの分野で参照される情報を自動的に可視化しており、Webサイトにアクセスするだけでアニメーションによるダイナミックな動きを参照でき、研究者、気象関連の企業関係者、大学や高校の授業など、広く活用されています。

北極海の海氷面積は、近年、地球温暖化の指標としても重要な役割を果たしています。2009(平成21)年に公表されたIPCCの第4次評価報告書では、北極海の海氷面積が全球予測モデルによる予測を超えて減少していることが明らかになったため、海氷域面積の予測精度を向上させるための全球予測モデルの改良を進めています。国立極地研究所では、地球温暖化によって海氷がどのように変動するかを正確に理解するだけではなく、地球温暖化の全球への影響評価や対応策の検討にも貢献しています。

(スーパーコンピュータ等を活用した気候変動の予測技術等の高度化)
文部科学省は、「統合的気候モデル高度化研究プログラム」において、地球シミュレータ等のスーパーコンピュータを活用し、気候モデル等の開発を通じて気候変動の予測技術等を高度化することによって、気候変動対策に必要となる基盤的情報を創出するための研究開発を実施している。この成果が、2021年(令和3年)8月に公表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第6次評価報告書第1作業部会報告書において、数多く引用されるなど、国際的な貢献も果たしている。また、「地球環境データ統合・解析プラットフォーム事業」において、地球環境データを蓄積・統合解析する「データ統合・解析システム(DIAS)」を活用し、地球環境ビッグデータを利活用した気候変動、防災等の地球規模課題の解決に貢献する研究開発を推進している。

気象研究所は、エアロゾルが雲に与える効果、オゾンの変化や炭素循環なども表現できる温暖化予測地球システムモデルを構築し、気候変動に関する10年程度の近未来予測及びIPCCの排出シナリオに基づく長期予測を行っている。また、我が国特有の局地的な現象を表現できる分解能を持った精緻な雲解像地域気候モデルを開発して、領域温暖化予測を行っている。海洋研究開発機構は、大型計算機システムを駆使した最先端の予測モデルやシミュレーション技術の開発により、地球規模の環境変動が我が国に及ぼす影響を把握するとともに、気候変動問題の解決に海洋分野から貢献している。

(コロナ禍が地球環境にもたらした影響を探る)
新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延を抑えるため、2020年(令和2年)は世界各国でロックダウンなどの対策が講じられました。その結果、リーマン・ショック時を超える規模で世界的に社会経済活動が低下し、温室効果ガスや大気汚染物質の排出量も減少しました。この現象に着目して、各物質の「排出量変化」と「大気中濃度の応答」の対応関係や、それらが引き起こす「気候・健康影響」の変化を評価することは、カーボンニュートラルや大気質改善へ向けての今後の政策検討に極めて有効です。

国内では海洋研究開発機構、気象研究所、国立環境研究所等の研究者が集中的に解析を行っています。温暖化を促す二酸化炭素の排出量は、化石燃料消費量の変化から、前年比7%の減少と見積もられましたが、世界規模での大気中濃度は実際には上昇を続けました。コロナ以前の60年間の平均では、毎年の二酸化炭素排出のうち約56%が植生や海洋に吸収され、残りの44%が大気中に蓄積されるとの分配が続いていました(気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書)。これを踏まえると、二酸化炭素排出量が前年比7%の減少となったとしても、大気中への新たな蓄積を大きく抑制するほどの影響ではなかったといえます。このことは、2050年カーボンニュートラルを目指す際に、いかに大きな社会変容が必要であるかを、改めて浮き彫りにしました。

インドや中国では空気中のエアロゾル粒子(PM2.5など)による大気汚染が収まり、青空も戻ったと報告されました。このことは、野外大気汚染による世界の早期死亡者数(約400万人/年)を減少させる効果があったと考えられます。その反面、気候影響の観点では、エアロゾル粒子の主成分である硫酸エアロゾルが持つ、太陽光を跳ね返す「日傘効果」が薄れ、逆に昇温傾向となることも指摘されました。健康を守る観点で大気汚染対策を進めることは必要ですが、副作用として温暖化が促されてしまうため、大気汚染対策とともに、その寄与を打ち消すほどに十分な温暖化物質の削減が求められるといえます。

一方で、大気汚染を引き起こす物質のうち、オゾンやすす(ブラックカーボン、BC)粒子は、削減に成功すれば健康影響と温暖化の両方を和らげる「一石二鳥」の効果をもたらします。オゾンの原料物質である窒素酸化物の人為的な総排出量は、2020年2月中旬までに中国では最大36%減少、2020年4~5月には世界全体で15%以上減少し、オゾンも全球で2%減少したと見積もられました。窒素酸化物の主成分である二酸化窒素濃度については、最新の人工衛星により、世界的な分布の1日ごとの変化や都市ごとの変化を観測することができるようになりました。この衛星による観測結果は、先に述べた排出量減少の推定の根拠となったほか、ロックダウン前後を比べた画像は報道でも多く取り上げられました。季節風により中国から西日本へ飛来するBC粒子濃度をコロナ前後で比較した研究では、平時と比べた2020年の排出減少幅がピーク時でも18%減と比較的小さいことが明らかになりました。ロックダウン時にも排出レベルが維持されたことから、中国での主な排出部門は産業・交通ではなく、家庭であると解釈されました。これにより、効果的な排出削減対象を絞り込むことができたといえます。以上のように、現実の濃度変化を迅速に把握する観測システムを基に、物質ごとに異なる排出量変化幅と気候・健康影響とを結び付けて精度良く評価する仕組みが開発されつつあり、コロナ時期の評価結果を科学的エビデンスとして社会政策に活用していくべきだと考えられます。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書