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多様なエネルギー源の研究開発 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■多様なエネルギー源の活用等のための研究開発・実証等の推進

政府は、令和3年10月にエネルギー基本計画を閣議決定した。その中で、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、「産業・業務・家庭・運輸・電力部門のあらゆる経済活動に共通して、様々なイノベーションに挑戦・具現化し、新たな脱炭素技術の社会実装を進めていくことが求められる」としており、技術開発・イノベーションの重要性について明記している。また、2050年カーボンニュートラルの実現を目指す中であっても、安全の確保を大前提に、安定的で安価なエネルギー供給を確保していくことが重要であり、そのため、再エネ、原子力、水素、CCUSなどあらゆる選択肢を追求していくこととしている。

(太陽光発電に係る技術)
経済産業省は、薄型軽量のため設置制約を克服できるペロブスカイト太陽電池等の革新的な新構造太陽電池の実用化へ向けた要素技術、太陽光発電システム全体の効率向上を図るための周辺機器高機能化や維持管理技術、低コストリサイクル技術の開発を行っている。科学技術振興機構は、「戦略的創造研究推進事業先端的低炭素化技術開発(ALCA)」及び「未来社会創造事業『地球規模課題である低炭素社会の実現』領域」において、温室効果ガス削減に大きな可能性を有し、かつ従来技術の延長線上にない革新的技術の研究開発を競争的環境下で推進しており、その中で革新的な太陽光利用に係る研究開発を推進している。

(浮体式洋上風力発電に係る技術)
経済産業省は、浮体式洋上風力発電システムの導入拡大に向け、福島県沖における複数基による実証事業を行い、浮体式特有の安全性・信頼性・経済性を検証した。また、浮体式洋上風力発電システム技術の確立を目指した北九州市沖での新技術を活用した実証事業等を進めている。環境省は、我が国で初となる2MW(メガワット)浮体式洋上風力発電機の開発・実証を行い、関連技術等を確立した。本技術開発・実証の成果として、平成28年より国内初の洋上風力発電の商用運転が開始されており、風車周辺に新たな漁場が形成されるなどの副次効果も生じている。また、浮体式洋上風力発電の本格的な普及拡大に向け、低炭素化・高効率化する新たな施工手法等の確立を目指す取組を行った。

令和3年度は、前年度に引き続き脱炭素化ビジネスが促進されるよう、新たに浮体式洋上風力発電の早期普及に貢献するための情報の整理や、地域が浮体式洋上風力発電によるエネルギーの地産地消を目指すに当たって必要な各種調査、当該地域における事業性・二酸化炭素削減効果の見通しなどの検討を行った。国土交通省は、浮体式洋上風力発電施設のコスト低減に向けて、平成30年度より安全性を確保しつつ浮体構造や設置方法の簡素化等を実現するための設計・安全評価手法を検討しているところ、令和3年度は遠隔検査及びモニタリングについて実態調査や実現可能性の検討を行った。

(地熱発電に係る技術開発)
経済産業省は、地熱発電について、資源探査の段階における高いリスクやコスト、発電段階における運転の効率化や出力の安定化といった課題を解決するため、探査精度と掘削速度を向上する技術開発や、開発・運転を効率化、出力を安定化する技術開発を行っている。また、発電能力が高く開発が期待されている次世代の地熱発電(超臨界地熱発電)に関する詳細事前検討を行っている。

(高効率石炭火力発電及び二酸化炭素の分離回収・有効利用技術開発)
経済産業省は、脱炭素化を見据えた次世代の高効率石炭火力発電技術である石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)等の技術開発を実施している。また、火力発電から発生する二酸化炭素の効率的な分離回収・有効利用(CCU/カーボンリサイクル)技術の開発を行っている。

(その他)
経済産業省は、国内製油所のグリーン化に向けて、重質油の組成を分子レベルで解明し反応シミュレーションモデル等を組み合わせたペトロリオミクス技術を活用して、重質油等の成分と反応性を事前に評価することにより、二次装置の稼働を適切に組み合わせ、製油所装置群の非効率な操業を抑制し、二酸化炭素排出量の削減に寄与する革新的な石油精製技術の開発等を進めている。

(原子力に関する研究開発)
(1)原子力利用に係る安全性・核セキュリティ向上技術
経済産業省は、「原子力の安全性向上に資する技術開発事業」により、東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の事故で得られた教訓を踏まえ、原子力発電所の包括的なリスク評価手法の高度化等、更なる安全対策高度化に資する技術開発及び基盤整備を行っている。また、我が国は、国際原子力機関(IAEA)、米国等と協力し、核不拡散及び核セキュリティに関する技術開発や人材育成における国際協力を先導している。

日本原子力研究開発機構は「核不拡散・核セキュリティ総合支援センター」を設立し、核不拡散及び核セキュリティに関する研修等を行うとともに、IAEAとの核セキュリティ分野における人材育成に係る取決めに基づき、研修カリキュラムの共同開発、講師の相互派遣、人材育成に関する情報交換等を行っている。また、中性子を利用した核燃料物質の非破壊測定、不法な取引による核物質の起源が特定可能な核鑑識の技術開発等を行うとともに、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)との希ガス観測プロジェクトに基づく幌延及びむつでの観測を通して核実験検知能力の向上に貢献している。

(2)原子力基礎・基盤研究開発
文部科学省は、原子力研究開発・基盤・人材作業部会において、原子力利用の安全性・信頼性・効率性を抜本的に高める新技術等の開発や、産学官の垣根を超えた人材・技術・産業基盤の強化に向けた研究開発・基盤整備・人材育成等の課題について、総合的に検討を行った。この検討結果を踏まえ、「原子力システム研究開発事業」では、原子力イノベーション創出につながる新たな知見の獲得や課題解決を目指し、将来の社会実装に向けて取り組むべき戦略的なテーマを設定し、経済産業省と連携して我が国の原子力技術を支える戦略的な基礎・基盤研究を推進した。日本原子力研究開発機構は、核工学・炉工学、燃料・材料工学、原子力化学、環境・放射線科学、分離変換技術開発、計算科学技術、先端原子力科学等の基礎・基盤研究を行っている。また、発電、水素製造など多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉について、安全性の高度化、原子力利用の多様化に資する研究開発等を推進した。

(3)革新的な原子力技術の開発
原子力は実用段階にある脱炭素化の選択肢であり、安全性等の向上に加え、多様な社会的要請に応える原子力技術のイノベーションを促進することが重要である。経済産業省は令和元年度より「社会的要請に応える革新的な原子力技術開発支援事業」により、民間企業等による安全性・経済性・機動性に優れた原子力技術の開発の支援を開始した。また、日本原子力研究開発機構は、高速実験炉「常陽」の運転再開に向けた準備等を進め、革新的な原子力技術の開発に必要な研究開発基盤の維持・発展を図った。

(4)原子力人材の育成・確保
原子力人材の育成・確保は、原子力分野の基盤を支え、より高度な安全性を追求し、原子力施設の安全確保や古い原子力発電所の廃炉を円滑に進めていく上で重要である。文部科学省は、「国際原子力人材育成イニシアティブ事業」により、産学官の関係機関が連携し、人材育成資源を有効に活用することによる効果的・効率的・戦略的な人材育成の取組を支援している。令和3年度には、これまで各機関の取組を個別に支援していたのに対し、大学や研究機関等の複数機関が連携して一体的に人材育成を行う体制として「未来社会に向けた先進的原子力教育コンソーシアム(ANEC)」を創設した。また、「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業(以下「英知事業」という。)において、日本原子力研究開発機構の「廃炉環境国際共同研究センター」を中心に、東電福島第一原子力発電所の廃止措置現場のニーズを踏まえた人材育成の取組を推進している。また、平成28年12月の原子力関係閣僚会議において、高速増殖原型炉もんじゅを廃止措置する旨の政府方針を決定した際、将来的に「もんじゅ」サイトを活用し、新たな試験研究炉を設置するとしていたところ。平成29年度から設置すべき炉型等の調査委託を実施し、審議会等を通じて検討した結果、中性子ビーム利用を主目的とした試験研究炉を選定し、令和2年から概念設計及び運営の在り方の検討を開始した。経済産業省は、「原子力の安全性向上を担う人材の育成事業委託費」により、東電福島第一原子力発電所の廃止措置や既存原子力発電所の安全確保等のため、原子力施設のメンテナンス等を行う現場技術者や、産業界等における原子力安全に関する人材の育成を支援している。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書