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スタートアップとイノベーション政策 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■スタートアップとイノベーション政策

(価値共創型の新たな産業を創出する基盤となるイノベーション・エコシステムの形成)
社会のニーズを原動力として課題の解決に挑むスタートアップを次々と生み出し、企業、大学、公的研究機関等が多様性を確保しつつ相互に連携して価値を共創する新たな産業基盤が構築された社会を目指している。

①社会ニーズに基づくスタートアップ
(創出・成長の支援)

1.SBIR制度による支援
SBIR制度においては、中小企業等経営強化法(平成11年法律第18号)から科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(平成20年法律第63号)へ根拠規定を移管したことにより、イノベーション政策として省庁横断の取組を強化するとともに、これまでの特定補助金等を指定補助金等、特定新技術補助金等に改めた。特定新技術補助金等については、革新的な研究開発を行う研究開発型スタートアップ等への支出機会の増大を図るため、令和3年度の支出目標額を約537億円に定めた。また、関係8省(総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省)で合計9の指定補助金等を指定し、公募・執行に関する各省庁統一的な運用ルールを定め、技術開発成果の事業化を促進するとともに、日本政策金融公庫による特別利率による融資等の事業化支援措置をスタートアップ企業等に周知し、利用促進を図った。農林水産省は、生物系特定産業技術研究支援センターを通じて、農林水産・食品分野において新たなビジネスを創出するため、令和3年度から技術シーズの創出から開発技術の事業化までを一体的に支援する「スタートアップへの総合的支援」を開始した。

2.大学等発ベンチャーの支援
大学等発ベンチャーの新規創設数は、一時期減少傾向にあったが、近年は回復基調にあり、令和2年度の実績は233件となった。科学技術振興機構は、「大学発新産業創出プログラム(START)」を実施しており、起業前段階から公的資金と民間の事業化ノウハウ等を組み合わせることにより、ポストコロナの社会変革や社会課題解決につながる新規性と社会的インパクトを有する大学等発スタートアップを創出する取組への支援や、スタートアップ・エコシステム拠点都市において、大学・自治体・産業界のリソースを結集し、世界に伍するスタートアップの創出に取り組むエコシステムを構築する取組への支援を実施している。「出資型新事業創出支援プログラム(SUCCESS)」では、科学技術振興機構の研究開発成果を活用するベンチャー企業への出資等を実施することにより、当該企業の事業活動を通じて研究開発成果の実用化を促進している。経済産業省は、新エネルギー・産業技術総合開発機構が令和2年度から実施している「官民による若手研究者発掘支援事業」において、事業化を目指す大学等の若手研究者と企業のマッチングを伴走支援するとともに、企業との共同研究費等の助成をしている。

3.研究開発型スタートアップ支援事業
経済産業省では、新エネルギー・産業技術総合開発機構を通じて、我が国における技術シーズの発掘から事業化までを一体的に支援するため、創業前の起業家支援や、民間ベンチャーキャピタル等と協調した起業後初期の研究開発支援、事業会社と連携した事業化支援等、研究開発型スタートアップの成長フェーズに応じてシームレスに支援する「研究開発型スタートアップ支援事業」を実施している。また、スタートアップ支援を行う9つの政府系機関は、令和2年7月に「スタートアップ・エコシステムの形成に向けた支援に関する協定書」を締結し、スタートアップ支援に関するプラットフォーム(通称Plus(プラス)“Platform for unified support for startups”)を創設している。その活動の一環として、新エネルギー・産業技術総合開発機構において、ワンストップ相談窓口「Plus One(プラスワン)」を運用し、スタートアップへの支援制度に関する情報提供・相談対応等を行った。

②企業のイノベーション活動の促進
経済産業省は、ISO56000シリーズの動向、国内外のイノベーション経営に関する動向を踏まえつつ、施策の検討を行っている。内閣府はオープンでアジャイルなイノベーションの創出に不可欠なオープンソースソフトウエア(OSS)の経営上の重要性の理解促進とOSS活用に対する意識向上のため、企業関係者が集う日本知的財産協会主催の研修会でパネルディスカッションを実施した。

③産学官連携による新たな価値共創の推進
1.国内外の産学官連携活動の現状

(1)大学等における産学官連携活動の実施状況
平成16年4月の国立大学法人化以降、総じて大学等における産学官連携活動は着実に実績を上げている。令和2年度は、民間企業との共同研究による大学等の研究費受入額は約847億円(前年度6.3%増)、このうち1件当たりの受入額が1,000万円以上の共同研究による大学等の研究費受入額は約466億円(前年度13.2%増)、また特許権実施等件数は2万1,056件であり、前年度と比べて着実に増加している(第2-2-3図 大学等における共同研究等の実績)。

(2)技術移転機関(TLO)における活動状況
令和4年1月現在、32のTLOが「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」(平成10年法律第52号)に基づき文部科学省及び経済産業省の承認を受けている。この点、昨今の第4次産業革命への対応とも相まって、大学における研究成果の社会還元を一層進めることが産業技術の向上や新たな事業分野の開拓に資することとなる。こうしたことから、令和元年度より、文部科学省では、「イノベーションマネジメントハブ形成支援事業」を開始し、大学、産業界、TLOのネットワーク強化を図ることを通じて、大学における知的財産の効果的活用や共同研究の構築に資する環境整備を推進している。

2.大学等の産学官連携体制の整備
政府は、我が国の大学・国立研究開発法人と外国企業との共同研究等の産学官連携体制に関し、安全保障貿易管理等に配慮した外国企業との連携に係るガイドラインの検討を開始した。文部科学省及び経済産業省は、企業から大学・国立研究開発法人等への投資を今後10年間で3倍に増やすことを目指す政府目標を踏まえ、産業界から見た、大学・国立研究開発法人が産学官連携機能を強化する上での課題とそれに対する処方箋を取りまとめた

「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」を平成28年11月に策定した。さらに、当該ガイドラインの実効性を向上させるために大学等におけるボトルネックの解消に向けた処方箋と新たに産業界/企業における課題と処方箋を体系化した追補版を令和2年6月に取りまとめ、具体的な取組手法を整理したFAQを令和4年3月に公表し、その普及に努めている。また、平成30年度から「オープンイノベーション機構の整備」を開始し、企業の事業戦略に深く関わる大型共同研究(競争領域に重点)を集中的にマネジメントする体制の整備を通じて、大型共同研究の推進により民間投資の促進を図っている。また、令和元年7月、文部科学省、一般社団法人日本経済団体連合会及び経済産業省と共同で「大学ファクトブック2019」を公表し、産学官連携活動に関する大学の取組の「見える化」を進めた。令和4年3月に最新のデータを基に内容を更新した「大学ファクトブック2022」を取りまとめた。農林水産省は、産学連携支援事業により、全国に農林水産・食品産業分野を専門とする産学連携コーディネーターを配置し、ニーズの収集・把握、シーズの収集・提供を行うとともに、産学官のマッチング支援や研究開発資金の紹介・取得支援、商品化・事業化支援等を実施している。

3.産学官の共同研究開発の強化
科学技術振興機構は、大学等の研究成果の実用化促進のため、多様な技術シーズの掘り起こしや、先端的基礎研究成果を持つ研究者の企業探索段階から、中核技術の構築や実用化開発の推進等を通じた企業への技術移転まで、ハンズオン支援を実施する「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)」や、国から出資された資金等により、大学等の研究成果を用いて企業が行う開発リスクを伴う大規模な事業化開発を支援する「産学共同実用化開発事業(NexTEP)」を実施している。経済産業省は、新エネルギー・産業技術総合開発機構が令和2年度から実施している「官民による若手研究者発掘支援事業」において、事業化を目指す大学等の若手研究者と企業のマッチングを伴走支援するとともに、企業との共同研究費等の助成を通して、若手研究者の支援と大学への民間投資額の3倍増を目指して支援している。総務省は、情報通信研究機構が構築・運営しているNICT総合テストベッドにより、産学官連携によるIoTや新世代ネットワーク等の技術実証・社会実証を推進している。農林水産省は、農林水産関連の研究機関を相互に接続する農林水産省研究ネットワーク(MAFFIN)を構築・運営しており、令和3年度現在で72機関が接続している。MAFFINはフィリピンと接続しており、海外との研究情報流通の一翼を担っている。

4.産学官協働の「場」の構築
科学技術によるイノベーションを効率的にかつ迅速に進めていくためには、産学官が協働し、取り組むための「場」を構築することが必要である。科学技術振興機構においては、下記の(1)から(3)の事業について、令和元年度より「共創の場形成支援」として大括り化し、一体的に推進している。

(1)知と人材が集積するイノベーション・エコシステムの形成
科学技術振興機構は、ウィズ/ポストコロナ時代を見据えつつ、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に基づく未来のありたい社会像の実現に向けた、バックキャスト型の研究開発を行う産学官共創拠点の形成を支援するため、令和2年度から「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」を実施しており、令和3年度は35拠点の研究開発を推進している。

(2)革新的イノベーション創出拠点の形成科学技術振興機構では平成25年度から「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」を実施しており、全18拠点で革新的イノベーションを産学連携で実現するための研究開発を推進している。

(3)オープンイノベーションを加速する産学共創プラットフォームの形成
科学技術振興機構は、平成28年度より「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)」を実施しており、民間企業とのマッチングファンドにより、複数企業から成るコンソーシアム型の連携による非競争領域における大型共同研究と博士課程学生等の人材育成、大学の産学連携システム改革等とを一体的に推進することにより、「組織」対「組織」による本格的産学連携を実現し、我が国のオープンイノベーションの本格的駆動を図っている。

4)産業技術総合研究所により技術シーズの発掘及び研究開発プログラムの発掘及び研究開発プロジェクトの推進
産業技術総合研究所は、産業技術に関する産業界や社会からの多様なニーズを捉えながら、技術シーズの発掘や研究開発プロジェクトの推進を行っている。具体的な取組としては、オープンイノベーションハブとしての「TIA」の活動を推進するとともに、共創の場の形成の一環として16の技術研究組合に参画している(令和4年3月31日現在)。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書