ISO情報

私とマネジメントシステムそしてISO(その23)

第23回

「私とマネジメントシステムそしてISO」の第23回目です。
今回は、トヨタ生産方式のカンバンについて話をします。「国家的品質管理推進活動」の一つとして、日科技連が事務局となる品質月間が毎年11月に開かれますが、この品質月間(1968年頃)でセイコーエプソンが招いたトヨタの大野耐一氏の講演を聞く機会がありました。前回は、カンバンが組立工場のあらゆる無駄を排除しようという発想から生まれたことをお話ししました。

◆トヨタのカンバン方式2

トヨタ生産システムの1つの特徴は、情報を処理、活用する方法にあります。コンピューターのようなディジタルではカバーできない生産管理と生産スケジュールの谷間を、「カンバン」や、車体に付けたカードのようなアナログを活用して埋めています。「カンバン」の第一の機能は、作業指示の情報であって、「何を、いつ、どれだけ、どんな方法で生産し、運搬したら良いか」という情報を出す指示装置と使われています。生産量、時期、方法、順序、運搬量、運搬時期、運搬先、置き場所、運搬具、容器等などは、「カンバン」さえ見れば全て分かるようになっています。今までの企業は、「何を、いつ、どれだけ」といった内容の情報は、仕掛計画表、生産指示書、納入指示書などを帳票の形で現場に流していました。生産方法、運搬先、置場所等の固定した情報は、作業標準書等として現場に渡されていますが、机にしまわれており作業者には中々守ってもらえず、作業不良を作り出す原因の一つとなっていました。トヨタが実現した次のような効果は、「カンバン」によるものであるとの情報は、またたく間に日本の多くの企業に伝わりました。

① 標準作業が徹底出来る。
② 現場の実態に即した指示を出せる。
③ 紙に書かれた標準の氾濫が防げる。

「カンバン」の第二の機能は、必ず現物と共に動くことで、目で見る管理の道具として使うことでした。現物と「カンバン」を必ず一致させておくことで、次のことが可能になりました。

① 余分に生産しない。
② 優先順位に沿った生産ができる。
③ 現場の管理が確実にできる。

「カンバン」には6つルールがありました。

ルール1.後工程へ不良品を送らない。

売れないものの為に、資材・設備・労力を投入することは罪悪である。無駄の最たるもので、企業の目的とする原価低減に反する最大のものである。そこで、不良品が発見されたら二度と製造されないように、全てに優先して再発防止対策を打たねばならない。この不良撲滅の活動を、徹底実施する為に、このルールがある。第1のルールにより、自工程で発生する不良品は必ず発見できる工夫をしなければならない。

㋑不良品を製造した工程こそが不良品の発生を発見できる。
㋺後工程へ送らなければ、ラインは止まり問題は顕在化され、管理・監督者は一致して問題解決の対策をせざるをえなくなる。

ルール2. 後工程が取りに来る。

必要でもない時に、必要以上に物を作り、後工程に供給する事は、色々な面で損失を生み出す事になる。作業者に余分に残業までもやらせてしまう損失、余分な在庫を寝かせてしまう損失、更に無駄になる設備増設、ネック工程の改善対策が遅延してしまう損失、そして最大の損失は、「必要で無い物を作る為に、必要な物が作れない」ことの発生である。不必要なものを作らないために、従来の「後工程に供給する」という考え方を変えて、必要な時期に、必要な量だけ、後工程が前工程に取りに来る「後工程引取り」にしたのがこのルールである。最終工程である車両組立から、最初の工程である材料出庫迄の全ての工程が、必ず必要な時期に、必要な量だけ引き取るということにする。この「引取り」のルールが必要になるが、このルールの徹底が「カンバン」を成功させる。

㋑「カンバン」なしでは引取りできない。
㋺「カンバン」の数以上は引取りしない。
㋩現物に必ず「カンバン」を付ける。

ルール3. 自工程は後工程に引取られた量だけ生産する。

 ㋑「カンバン」の指示以上に生産しない。
 ㋺「カンバン」の出た順序に生産する。

ルール4. 生産の平準化

もしも後工程が決められた時期と量以上に引き取りにくれば、前工程は対応できない。そこで前工程は人や設備に余力を持つこと、在庫を持つことを考えるが、これは決して許されない。後工程では生産の平準化をする責任がある。

ルール5. 微調整の手段を「カンバン」に持たせる。

「カンバン」を採用した場合には、仕掛計画表、運搬計画表等の情報提供は無い。「カンバン」だけが全ての情報となり作業者は「カンバン」だけを頼りに作業する。生産の平準化が特に重要である。もし、或プレス部品は、型段取り開始から加工後後工程へ供給される迄に、4時間掛かるとする。そこで、プレス部品の在庫が、5時間以下になったら、型段取りを開始せよ、という指示が出る様に「カンバン」を設定したとする。所が、後工程の生産が倍増したとすると、5時間の在庫分は、2.5時間で後工程に引き取られてしまうが、プレス工程では部品が出来ていないから、4時間-2.5時間=1.5時間のラインストップ状態となる。

だからといって、この対応にと倍の、10時間分も在庫したならば、生産量が普通の時には、不必要な在庫をいつも余分に持つ事になるので、これはNoである。‘後工程が沢山引き取っていかないかな’と前工程が心配したり、‘今度は早めに仕掛けて下さい’と、「カンバン」以外特別な情報を送ったりしたら現場は混乱する。「カンバン」を運用する場合に、「生産の平準化」がいかに大切、重要であり、そこには微調整の必要性、工夫がある。

ルール6. 工程の安定化、合理化をする

「後工程へ不良品を送らない」という第一のルールの不良の意味を単に不良部品に限定せず、「不良作業にまで」に迄拡大して考えれば、このルール6は理解し易くなる。不良作業とは、作業の標準化、合理化が十分の行われていない為に、作業方法や作業時間に、ムダ・ムラ・ムリが生ずることであり、これが強いては、不良部品の生産に結び付くのである。

以上の6つのルールは、それを実現するのは大変困難であると思います。しかしこの困難な項目を大変な努力で克服してトヨタは「カンバン」に依る原価低減活動を成功されました。

以上