ISO情報

私とマネジメントシステムそしてISO(その27)

第27回

OHSAS (労働安全衛生規格を作成しようとする国際組織)団体は、BSI(英国規格協会)が幹事組織となり、正式会員は国の標準化団体、準会員は研修機関・認証機関ということで発足しました。BSIはISO規格にならなかった草案を国際的なものすることを目的にしていましたので、広く世界的に会員募集を行いましたので、テクノファには準会員にならないかという誘いがありました。当時日本で準会員になった組織は高圧ガス保安協会、中央労働災害防止協会、テクノファの3組織でした。日本の正式会員は、日本規格協会でした。
BSIは将来OHSAS規格をISO規格にするという戦略を持っていましたので、コンソーシアム規格(任意団体の作った規格)といえども、ISO規格の作成手順に準じてOHSAS18001と云う規格を作りました。国際規格はどんなプロセスで制定されるのかを以下に説明します。

◆ 国際規格制定までの道のり

国際規格の文書は次のステップで作られることになっています。

    • WD(作業原案、Working Draft)
    • CD(委員会原案、Committee Draft)
    • DIS(国際規格原案、Draft International Standard)
    • FDIS(最終国際規格原案、Final DIS)

以上の4ステップは、段階ごとに規格作成の業務手続が決められています。国際規格発行までの審議期間は、3年から5年というのが平均的で、新しい国際規格の作成が提案されて、各々の審議段階を経て国際規格が発行されるのに5年以上掛けてはいけない後ということになっています。
WDおよびCDの文書は、各TC/SCの幹事国(議長を出している国)で管理され、DIS以上の文書はISO中央事務局で管理され、この結果はISOテクニカルレポートとして発行されることになっています。
通常は、CD段階でメンバーのコンセンサスがほぼ固まるため、CD段階までに意見を反映しておくことが重要となります。DISおよびFDISの段階では、各国投票の最終的な段階に入るので、この段階で内容を覆すことは難しくなります。DIS、FDIS段階での投票では、TC(専門委員会、Technical Committee)のPメンバーの3分の2以上が賛成し、かつ、反対が投票総数の4分の1以下である場合に成立するというルールです。
このため、世界の主要国、例えば日本と米国の2カ国が反対しても、開発途上国に仲間を作らないと投票で負けてしまうということになります。逆にどうしても反対したい場合には、共通意識をもつ他のメンバーに個別に働きかけて反対投票を依頼することになります。以上のように国際規格も結局はいかに仲間を作るかにかかっているといえますが、本来は技術的に説得力ある理由に基づいて意見を反映させることが重要です。
国際規格作成の会議に連続して数回以上にわたりISO会議に出席した日本の委員から、時々、「民主主義というものが何であるかがよくわかった」という話を聞きます。コンセンサスに多くの時間をかけて国際規格を作るプロセスを指したものですが、日本人にとって時としてじれったいこともあります。まさに、民主主義で言われる「Speed of action is never the absolute goal of the democracy」です。しかし、前回お話ししたように、ISOの世界でも声の大きい人はやはり得をするようです。

◆ 新たなISO発行物

現在、ISO規格の発行数は20000以上に上っていますが、1990年代に入ってから、多くの分野で技術開発のスピードが、国際/地域/国家/団体/企業という伝統的なヒエラルキーによる作成スピードを越え始めました。このため、1998年、ISOは、従来の国際規格と技術報告書(Technical Report)の発行に加えて、迅速な規格作成を行うため新しい3種類の出版物の発行を始めました。

    • Pメンバーの2/3の賛成が必要なTS(Technical Specification)
    • Pメンバーの過半数の賛成が必要なPAS(Publicly Available Specification)
    • オープン・ワークショップでの成果であるITA(Industry Technical Agreement)

以上の3種類の出版物です。
これにより、規格作成途中の段階でISOという公的な出版物として迅速に発行することが出来るようになり、開発スピードの早い技術分野については有効な手段となっています。しかしながら、これらの出版物はコンセンサスを確保した国際規格ではなく、あくまでも中間ステップの方策で、競争状態にある複数の技術について複数のものが出来る場合もあります。ただし、3年毎に見直しが必要で、2回目の見直し時には、廃止又は国際規格とするという付帯事項が付けられています。

◆ ISOの著作権

ISOが発行する国際規格を初めとする出版物には、すべて著作権があり、翻訳又は複製等は禁止されています。このため、ISO規格の全部又は一部を複写、翻訳、出版物として発行・販売する場合には、ISOに対して許可と著作権使用料等の支払いが必要です。これは、国際規格原案(DIS)やCD-ROMなどの電子媒体にも同様に適用されます。日本では、著作権についての問題意識が薄いのでこの点については注意が必要です。
(つづく)