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私とマネジメントシステムそしてISO(その30)

第30回

前回 システムの中にシステムがあるのはおかしいと述べました。もし、そのような状態を表現したいのであれば、システムの中にサブシステムがあると言うべきだとも述べました。確かに多くのマネジメントシステムが組織に溢れることになれば、組織に混乱を与えることになるばかりだと思いましたが、システム・オブ・システムという考えもあることを知りました。
組織には創業以来作り上げてきた組織固有のマネジメントシステムがありますが、そのシステムにISOマネジメントシステムが入り込むという構図をどう理解するのか、もう少し考察してみたいと思います。

私たちの周りにはいろいろな工業製品があります。製品の良い、悪いは製品を構成している部品の良い、悪いだけで決まるわけではありません。それぞれの部品がうまく配置され調和して動くかが重要です。例えば、自動車の場合、エンジン、ブレーキ、アクセル、タイヤなどがうまく連携して動くことが自動車としての価値を決めます。

◆ システム・オブ・システム

ここからはマネジメントシステムの話ではなくシステムの話です。マネジメントシステムとシステムとはどう違うのかというと、当然システムの方が広範な概念です。
システムを構築するための方策を「システムアプローチ」と呼ぶとすれば、システムを構成している要素の構築は「プロセスアプローチ」であろうと思います。この2つのアプローチは2015年まではISO9000の「品質マネジメントの原則8つ」のうち2つに掲げられていました。

組織のマネジメントシステムを構成する要素は、品質以外に、ざーっと、次のようなものが上られます。

  • 環境マネジメントシステム
  • 労働安全衛生マネジメントシステム
  • 情報セキュリティマネジメントシステム
  • エネルギー管理マネジメントシステム
  • 事業継続マネジメントシステム
  • 文書管理マネジメントシステム
  • 設備管理マネジメントシステム
  • 財産(アセット)管理マネジメントシステム
  • CSR(SDGs)マネジメントシステム

システムを構成している要素の構築、運用の実践は「プロセスアプローチ」の考え方で行い、それらを一つの形にまとめ上げるのは「システムアプローチ」の考え方で行うとよいと思いますが、「プロセスアプローチ」と「システムアプローチ」両者の考えを連携させながら活動を行うことで、はじめてシステム・オブ・システムの組織マネジメントシステムが作り上げられると思います。

◆ 自動車のシステム・オブ・システム

システム・オブ・システムの考え方は、自動車において実践されていますが、「プロセスアプローチ」に当たるものは「要素技術」と呼ばれ、「システムアプローチ」に該当するものは「システム技術」と呼ばれます。現代の自動車には50前後ものコンピュータが搭載されていますが、そのソフトウエアのプログラムは2,000万行にも上るそうです。自動車に限らず私たちの周りにはこのようなシステム・オブ・システムの例が多くあります。

システム・オブ・システムの定義を確かめておきたいと思いますが、早稲田大学木村英紀教授によると「それぞれ独自の機能を持つシステムが連携して作られた高次のシステム」をシステム・オブ・システムと呼ぶそうです。
木村教授によると、「日本の産業界は積極的にシステムを作るということをしてこなかった」そうですが、ここ数年はっきりと傾向が変わってきたと言います。

◆ モジュール化

システム化の手法の代表が「モジュール化」です。機能要素を機能ごとにブロックに分け、その中身の詳細を知らなくてもお互いのつなぎ方を明確にすれば全体を使えるようになります。組織のマネジメントシステムで言えば、企画、設計、生産、経営、サービス、流通など様々な分野をモジュール化して効果的に結び付ければ優れたシステムが出来上がるという発想になります。

工業製品では、伸縮可能なモジュールを自由に組み合わせられれば、どんな製品でも顧客の好みに応じた注文生産を迅速にできるようになるということです。いわゆる「再構成可能な生産システム」です。そうなれば産業構造だけでなく、人々の生活も大きく変わります。
そのためにはモジュールが標準化され、モジュール相互をつなぐインターフェースの使い勝手がよくなければならないとされます。
従来、日本では「匠の技」に高い価値をおいてきましたように、我が国は要素技術大国です。戦後の日本の産業界を振り返りますと、狭い分野に特化した「尖がった技術・技能」を磨き上げる「要素技術者」が、広い視野から技術を評価し全体思考を重んじる「システム技術者」よりも尊敬を受ける風土が日本にはありました。

◆ 日本の進む道

これからは、日本が強い要素技術をシステム化に結び付ける「要素の強さが生きるシステム」を作り出すことが大切とされています。これをマネジメントシステムに置き換えて考えますと、一つひとつの経営要素である、品質、環境、情報歩セキュリティ、労働安全衛生、財務などのマネジメントシステムを磨き上げて、それぞれのマネジメントを一つのものに結び付ける「システムアプローチ」が大変に重要であるということになります。このさいに結び付けることで重要になるのが人です。それぞれのマネジメントシステムに関与する人が媒体になって組織全体のマネジメントシステムを強固なものにするという考えが必要になります。

今回は、組織のマネジメントシステムは一つであり、その中に品質、環境、情報セキュリティ、労働安全衛生、財務などのマネジメントシステムを入れ込んで統合するという考え方に対して、「システム・オブ・システム」というシステム製品の考え方も参考にするとよいという話をいたしました。
(つづく)