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ISO 45001:2018 労働安全衛生マネジメントシステム規格の発行の意義 その4

株式会社テクノファ
取締役会長 平林良人
ISO/PC 283 日本代表

4.OH&SMSのあるべき姿

 組織には目的、性質、製品、規模、所在などから派生する独自の経営の仕組みがある。組織はその目的を達成するためにいろいろな体制、方法、手法などを経験的に採用しており、一つのマネジメントシステムを構築、運用している。

 人が多く集まると、そこには自然と分業が成り立ち、それを管理する業務が必要になってくる。組織の目的を、例えば“事業収益”及び“社会貢献”などに置くと、その目的を効果的に達成するための方法、例えば製品開発と品質管理、労働安全衛生管理とかのツール、手段などが整備されてくる。組織を人間の体に例えると、頭脳の仕事と手足の仕事とに分かれていくが、同じ作業を行う人が多くなると、一つのチームになり、やがて係、課となっていく。組織の発展に伴って、機能の分化と人の管理の両面から徐々に組織の体制が作られていくわけである。

 方針、目標及びその目標を達成するためのプロセスが確立されても、実際には機能していない組織が多い。組織の頭と手足がばらばらになっている組織が多く、頭と手足のバランスがとれていないのである。頭で命令したとおりに手足が動くには、いくつかの仕掛けが必要である。まず、神経が伝わっていないといけないし。血液、筋肉がなければいけないし、血液、筋肉を継続的に活動されるためのエネルギーも必要である。このような体の例えを組織に当てはめてみると、トップから組織の末端まで経営者の指示が行き渡らないといけないし、課、部には必要十分な資源があり、それらが適切にコントロールされないといけない。

 要するに経営者の方針、考えていることが、組織の部署の資源によって適切に展開され、実現されていかなければならない。

 更に重要なことは、一度実現したことをいつも最新化し、かつ実際に実行されている状態を維持することである。方針、目標及びその目標を達成するためには、いろいろな工夫が必要になり、この工夫、仕掛けを総合してシステムと呼んでいい。

 このような経営のマネジメントシステムにOH&Sマネジメントシステムを導入しようとする次のようなことが必要になる。

  • ① OH&Sマネジメントシステムの要求事項を理解する。
  • ② 組織の機能を理解する。
  • ③ OH&Sマネジメントシステムの要求事項を組織の機能(部署)のどこへ入れるのか決定する。
  • ④ 組織の部署はOH&Sマネジメントシステムの要求事項をプロセスと統合する。
  • ⑤ プロセスを確立する(計画する、文書化する)。
  • ⑥ プロセスを実施する。
  • ⑦ プロセスを維持する(実施し続ける)。
  • ⑧ プロセスを改善する。

 日本の組織であれば、労働安全に配慮していない組織は皆無であると思う。問題はその配慮事項がシステムになっているかどうか、ということである。一つ例を上げると、工場の機械にはカバーが掛かっているが、今後ともそのカバーは継続して働く人を保護していくかどうかということである。いまの労働安全衛生担当者Aさんはしっかりした人で、自分の担当している時期は絶対に事故を起こさないという強い信念で仕事を続けている。その成果も出ていて過去5年無事故で過ぎてきている。しかし、ベテランAさんが退職した後。数か月もたたないうちに重大事故が起きてしまった。

 上記のような例はよく聞く。労働安全衛生は実施しているが、労働安全衛生マネジメントシステムは実施していない、という事業所は多い。ISO 45001:2018が発行されたタイミングでもう一度マネジメントシステムの意義と重要性を理解し、無事故の組織を作っていただきたい。

5.JISQ 45100 日本版OH&SMS規格

 ISO 45001が制定されましたが、ISO 45001は国際規格であるが故に、日本において実績のある要求事項はあまり多く入っていない。日本には、上記のように厚生労働省の労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針(以下「厚労省指針」という)に基づく労働安全衛生マネジメントシステムの構築が多くの事業場で実践されて、安全衛生活動に関する日常活動には実績がある。

 国際的に、労働災害防止への活動は、法的規制やガイドラインなどの制定に加え、マネジメントシステムの構築が労働災害の防止に有効であるとしてその活用が進んでいますが、日本に実績のあるツールは開発途上国には適用しずらいもののようである。

 そこで産業界の業界団体有志が中心になって、グローバル標準と整合しかつ日本社会により効果的な労働安全衛生マネジメントシステム構築を目指そうという事になった。国内における労働安全衛生マネジメントシステムの適切な普及と継続的な取組みの推進を通じて労働災害防止の実効性を上げることを目的として、「厚労省指針」にあってISO 45001にないものを追加要求事項を取り入れた規格がISO 45001+アルファ → JISQ45100 と呼ばれるものである。追加要事項には次のようなものがある。

  1. 日常的な安全衛生活動
    • 5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)
    • ヒヤリハット訓練
    • 危険予知訓練 など
  2. リスクアセスメント
  3. 健康確保活動
  4. メンタルヘルス
  5. 手順書

 「ISO 45001に基づく日本独自のOHSMS普及推進会議」は、認証制度の基準規格になることを前提にJISQ45001+アルファ規格の検討を行った。

 図に見るように、JISQ45001とJISQ4510は条文から箇条10まで全く同じ構造、テキストです(間口と奥行きは同じ)。異なるのは、箇条によって追加の要求事項があること(深さ)です。この追加は前述のように厚労省指針にあってJISQ45001に無いプラスのものですので、認証においてはJISQ45001+αを取得すれば、JISQ45001も取得したことになります。

JISQ45001 規格と JISQ4510 規格の関係イメージ図

 なお、「ISO 45001に基づく日本独自のOHSMS普及推進会議」のメンバーは次のとおりである。

    議長:向殿 政男 明治大学名誉教授

  • (一社)日本経済団体連合会
  • 日本労働組合総連合会
  • (一社)日本鉄鋼連盟
  • (一社)日本化学工業協会
  • 中央労働災害防止協会(JISHA)
  • 建設業労働災害防止協会
  • 林業・木材製造業労働災害防止協会
  • 港湾貨物運送事業労働災害防止協会
  • 陸上貨物運送事業労働災害防止協会
  • 厚生労働省
  • 経済産業省
  • (公財)日本適合性認定協会(JAB)
  • 日本マネジメントシステム認証機関協議会(JACB)
  • 審査員研修機関連絡協議会(JATA)
  • (一財)日本規格協会