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ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール(第33回)

平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第33回

2.3 日本式TQCの主要概念、手法

石川馨は、朝香鐡一・石川馨・山口襄監修「新版品質管理便覧」(1988年、日本規格協会)の中で次のように述べている。

  • 「新しい品質管理とは経営の一つの思想革命である。新しい品質管理を全社的に実行すれば、企業の体質改善ができる。産業が進歩し、文化のレベルがあがれば、品質管理はますます重要になってくる。製品やサービスを売っているかぎり、その品質管理は永久に行うべきものである。品質管理の基本原則は、どんな産業でも、第1次、第3次産業でも全く同じように適用できる。」

また、その著書「TQCとは何か、日本的品質管理」(1981、日科技連)の中で、日本式TQCの特徴を次のように整理している。

「1968年12月、第7回の品質管理シンポジュームにおいて、日本のQCの特徴(欧米との違い)として、次の6項目に整理した。

  • ① 全員参加の品質管理
  • ② 品質管理の教育・訓練
  • ③ QCサークル活動
  • ④ QC診断
  • ⑤ 統計的方法の活用
  • ⑥ 全国的品質管理推進活動

この6項目は、日本の品質管理の長所であるけれど、同時に欠点にもなっている。その欠点をカバーしながら、長所を伸ばしていこう、というのがわれわれの立場である。」

以下、この日本式TQCの特徴を①~⑥に沿って振り返ってみたい。

2.3.1 全員参加の品質管理

この全員参加の品質管理は、日本が1960~1980年の間に品質管理を企業の中に浸透させていったときに、日本的風土の中で次第に広まっていった概念である。PDCAに基づく管理、方針管理、機能別管理等を企業の中で実践しようとすると、必然的に企業の構成員全員が品質管理活動に参加しないと最終的なアウトプットが出ない。 

この全員とは正しく組織の全員であり、具体的にいうと社長、役員、部課長、スタッフ、監督者、作業者などである。品質管理は、全社全員で進めていくべきものであって、品質管理部門とか、品質管理担当者と称するものだけがやるものではない。これにはトップマネジメント、とくに社長の熱意と推進力、リーダーシップが絶対に必要である。

(1)PDCAサークル

日本では、QCを「品質管理」と訳したが、本来は「質管理」であったろう(石川馨)。製品を作る製造業以外のサービス業には、販売の質、営業の質、事務の質等のいわゆる仕事の質がいろいろあるからである。しかし、すべての「質管理」に共通のものは「管理」であり、この管理を日本式TQCでは、PDCAであると理解して推進をしてきた。

19世紀後半には既に欧米にPDS(Plan , Do ,See )という言葉があり(F.W Taylor;1856~1915のコンセプトとの説もあるがはっきりしない)、管理はこのP-計画して、D-実施して、S-結果をみる、という手順が論理的かつ適切であるといわれてきた。TQCでは、このSeeをCheckとActionに分けた。すなわち、単に結果をみるだけでなく、チェックをし、対策を取る、としたのである。1950年に来日したデミングは、品質管理活動を図(略)のように車輪に例えた。

管理活動はこのPDCAの車輪を効率よく回して、前に進んでいく。前に進む時間と距離は、このサークルの一回当たりの回転時間と、何回このサークルを回したかで決まる。

1)Plan

  • 何かの活動を行うには、まず適切な計画が必要である。適切ということは目的と目標が明確になっていることをいう。しかし、場合によっては最初から最適な計画を期待できない。したがって、ある程度のところで見切りをつけて次の実行に入っていく。
  • 石川馨は、このPlanを①目的・目標を決める ②目的を達成する方法を決める、の2つに分けて説明している。

2)Do

  • 計画に沿って実行する。状況によっては、実行するに際して教育、訓練が必要になるかもしれない。また、実施手順の決まっているものがあれば、それに準じて行うことが求められるし、必要に応じて記録もとらなければならない。
  • 石川馨は、このDoを①教育・訓練する ②仕事を実施する、の2つに分けて説明している。

3)Check

  • 実行した結果をチェックする。計画の時点で、評価項目が決められている場合はそれに沿って確認をすればよい。評価項目、すなわち管理項目は事前に明確になっていることがよい。管理項目が適切に決められていると活動を効率的に進められる。

4)Action

  • チェックした結果から対策を考える。この際留意しなければならないのは、対策はあくまでも計画との差分に対して取ることである。もし、計画を超えて対策をとりたい場合は計画そのものを修正する必要がある。

  
このようにしてPDCAの管理のサークルを回転し続けることによって、計画はさらに適切なものとなり、管理活動が効率よく行われるようになるのである。なお、管理という言葉についてであるが、水野滋はその著書「全社総合品質管理」(1984年、日科技連)で次のようにいっている

  • 「管理という言葉はいろいろな意味をもっている。元来、経営学上の用語では、経営の方針に基づいて実行計画を作り、その計画のもとに作業活動を指揮、指導、監督、統御する活動を管理(management)といい、managementには計画(planning)と統制(control)の2活動分野があるという。この意味からいえばquality controlは、「品質統制」というべきであろう。従来品質管理は製造品質の不良の低減を主要な活動分野としていたが、最近では設計品質の不良の低減に重点が移っており、「源流管理」などといって計画段階を重視している。
  • 普通日本ではmanagementもcontrolも共に「管理」といっている。しかし狭義の管理(統制)は、PDCAにおけるCAの活動を指すものといえよう。PDCAの管理のサークルは、実は現在の問題点とその原因を明らかにする活動、すなわちCから始めるべきで、この意味からCAPDといった方が適切であろう。」
  • なお、PDCAについては、次のように述べている。
  • 「われわれが何事をなす場合にも、まず目的を明らかにして計画をたて、これによって作業を行い、作業の結果を検討して、計画に合っていないならば作業を変更し、計画が不備であれば計画を変更するような修正処置を行う必要がある。これが計画を達成するための活動で、これの全体が「管理」である。このように管理の活動は計画に始まって再び計画に戻るサイクル(循環)で、これを管理のサークル(あるいは管理のサイクル)ということもある。」

なお、PDCAが管理に万能であるかというと、久米均はその著書「品質管理を考える」(1999、日本規格協会)で次のように述べている。

  • 「PDCAのループは科学的認識に基づく改善の基礎であり、これが各種の業務に適用されることにより、仕事は確実になり、改善が進む。PDCAは統計的手法と並んで日本式品質管理の基本である。このため、PDCAのループを回して改善が積み重ねれば究極的に理想の品質に到達するはずであると考えている人がいる。
  • しかし、実際はそうではない 。PDCAは改善をどのように行うかの方法を与えるものであり、PDCAは改善すべきテーマとして何を取り上げるべきであるかを積極的に示すものではない。
  • 一般に事業の機会は組織の外にある。組織の中にあるのはコストである。従来方式のままでコストを下げるだけの経営が立ち行かなくなっている状況で、方針管理でコスト・ダウン活動を展開しても経営はうまくいかない。
  • PDCAのループでうまくいかない第二の理由は経営資源及び時間的制約である。
  • 出発点のレベルが低ければ必要なレベルに到達するには多くの改善が必要であり、そのために経営資源が投下されなければならない。システムが構築されず、改善が積みあがってこない場合は、投下された経営資源による効果も一次的なものになってしまい、結局はレベルアップができないままに多くの年月が経てしまうのである。
  • すべての活動において改善が可能であるが、改善のためには経営資源、時間が必要である。毎日の仕事に押し流されている状況では改善は行われない。このような場合、多くの改善が必要な未完成なベースからPDCAで出発するよりも、改善があまり必要でないシステムを導入して、そこから出発するほうが経営的にははるかに有利である。」